過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。   作:匿名

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#047 真夏の夜に夢を見る

VNIVEARTH(ヴニヴァース)……人気投票!?」

 

 全体会議と称して行われた所属ライバー9人全員が参加するサーバー通話にて、萬屋(よろずや)ぺすとが俺の言葉を復唱した。

 

 大事な連絡、という触れ込みで同じ通話内に集まった彼ら彼女らだが、こうして同じ時間に同じ話を共有することは少し珍しかったりする。

 

 学生と社会人が合わせて9人もいれば、全員のスケジュールを確認して都合の良い日程を決めるのもそこそこの手間がかかるのだ。

 事前に希望日と時間を募集して……と手順を踏むくらいなら、1人ずつ個別に1対1(サシ)で丁寧に説明をした方が手っ取り早い。その上で何でもないことかのようにさりげなく、調子はどうだ悩みはないかとフォローを入れるのが俺としてのいつもの流れ。

 

 事によっては同じ説明を何度も必要とするので、時間はかかるのだけれど、見逃して取り返しのつかないことになるくらいなら俺は時間を費やす方を選ぶ。

 

 特に案件もない現状というのもあって、同じ通話で全員に伝える必要性がそこまでないのだ。

 

「はい。人気投票です。Tvvltterで宣伝をし、外部ツールを使って投票を受け付けます。具体的にはgoggieのアンケート機能を用います」

 

 うん。ここまでの反応は芳しくない。

 へー、ほえー、ふーん、程度。それもそう。人気投票をする、だから何だと言う話である。

 

「これはVNIVEARTHの夏企画の1つですね。配信以外でもリスナーの参加できる催しがないかと模索しまして、私の方から提案させていただきました。

 8月9日には、早い人はもうお盆休みに入ります。その日から、お盆が終わって1週間が経過した25日までを投票期間としまして、上位3名となったライバーは──

 

 ──アクリルキーホルダーが作成されます」

 

 ここでようやく、おお、と感嘆の声が聞こえてくる。感嘆というか感心というか、相槌というか。

 

「グッズ……!? アタシたちのグッズが出来るかもって、こと!? なんかすごい……本当に、VTuberじゃない……!」

 

「ふふふ、私たちはVTuberですよ、萬屋先輩。

 上の順位だけなんですね……私のが出来たらミナちゃん付けてくれるかな

 

「そ、それって買えるやつですか……!? お、推しと自分を並べて付けられる可能性が……♡

 

 萬屋ぺすとが少し興奮したように言い、詩星(うたいぼし)せるりが和やかに笑う。

 黒宮院(こっきゅういん)みやみがなんか呟いたけど、よくわかんない。佐土原(さどはら)恭子(きょうこ)のことならたぶん上位にはならないぞ。

 

「基本的にはBQQTHでの販売となります。アニメショップとかに並ぶわけではありませんので、ご注意を」

 

 少しだけ盛り下がる。VNIVEARTHの規模でグッズが全国流通するわけがない。

 

 BQQTH。plxlvが運営するクリエイター向けの通信販売サービスである。自社の販売システムを持たない以上は、ここを利用するのが一番手っ取り早い。

 

 BURST↑という、購入側が任意で金額を上乗せできる、投げ銭機能だってデフォルトで搭載されている。これが目的でBOOTHを利用するケースも多いだろう。

 

『大喜利企画の順位と別に決めるんですか?』

 

 神海(しんかい)まりもがチャットの方にメッセージを送信する。

 

 普通に喋ってはくれないのね。

 しかし良い質問だ。話を円滑に回す上で助かる。

 

「神海まりも様から質問がありました。大喜利企画の順位じゃ駄目なのか、とのことですが、あれは得点の基準が運営の匙加減になってしまうので、公平性に欠けます。

 リスナーたちが実際に投票をすることで結果を出す。この過程こそ、リスナーにとって体感型コンテンツとしてより印象的なものになり、夏の思い出の1つとして記憶に残るようになるんです」

 

『了解! ( 'ω')و』

 

「ただし。皆様にお伝えしておきたいことがあります。

 この投票は──

 

 ──出来レースです」

 

「ええっ!?」

 

 萬屋ぺすとがまず初めに驚きの声を上げ、他のライバーにもどよめきが広がる。

 

「というのも、おそらく1位は萬屋ぺすと様です」

 

「ええっ??」

 

「普通に考えて、萬屋ぺすと様のリスナーがこぞって投票して1位になるでしょう」

 

「ちょ、ちょっと待って! アア、アタシのリスナーたちが投票してくれるのは想像できるけど、1位は言い過ぎじゃない??」

 

「いえ、1位になりますよ。萬屋ぺすと様のリスナー──感染者の皆様は、VNIVEARTHがVTuber事業を始めた一期生のデビューから今なお追い続けている最古参です。その熱量も、他のVNIVEARTHライバーと比べて飛び抜けています。

 グッズ作成を賭けた投票となれば、彼らはどんな手を使ってでも萬屋ぺすと様を1位にするでしょう」

 

 複垢とか絶対するだろうし。

 

 goggieのアンケートフォームはログインが必須かどうか設定できるけど、不要だとキャッシュ削除で無限に投票できてしまう。

 ログイン必須にしたところで、どうせアカウントを重複して所持することで票数を増やすに決まっている。

 

 だからといって本格的なサイトを利用すると、登録が面倒でライトユーザーが参加できなくなってしまう。

 

 どちらにせよ、IPアドレスで識別するタイプだってVPNとかなんとかで誤魔化せたりするだろうし、変に厳格にすることは最初から諦めて、それっぽい雰囲気さえ出せればそれでいい。

 

 なんなら萬屋ぺすとだけ1億票とかになってもいいぞ。話題になるし。

 

「ネットで簡単にできる投票で秩序を維持するのは難しいですからね。そこで皆様に事前にお伝えしたいことがあります。

 

 アクリルキーホルダーは、全員分を作成します」

 

「「「「ええっ!?」」」」

 

 今度こそ、大きな驚きの声が上がる。

 

「ぜ、全員分……!? 9種類も!? は、箱全体のグッズとか……夢かしら?」

 

「それなら誰かが悲しい思いをしなくてすみますね!」

 

「そ、それって購入制限とかありますか!?」

 

「配信初めて数ヵ月のオレのまでとか、いいんすかね……?」

 

「うちなんてまだデビューしてほんの2週間ですよ!?」

 

 各々が反応を口にすることで、通話が混雑する。何も言わないのは、佐土原恭子、神海まりも。

 そして運営側である、社長と遠藤()

 

 神海まりもはいつも通りとして、佐土原恭子はなんで無言なんだよ。一番よくわからない。

 スケジュールの調整が効かないのも彼女だし、配信も全くしないし。

 

「ですが、全員分を一度に作成はしません。人気投票の上位から、順番に作成していきます。でないと、リスナー投票をする意味がないですからね」

 

 アクリルキーホルダー用に使えるSDキャラを描くのは得意な方だ。

 1週間もあればパス作成込みで9人分を用意することもできなくはない。

 しかし改修デザインがまだ決まっていない一期生のことも考慮すると、先にそちらを済ませないことには着手ができないのだ。

 

 神海まりもと佐土原恭子。この2人は、デザイン案をいくら送っても決めてくれないんだよなぁ。

 

「3人ずつに分けて、3段階に分けて販売……が無難でしょうか。これは最初から公開するのではなく、リスナーの応援があったという経過を経て決定したものとして告知をします」

 

 これが妥当な、角の立たない落としどころだ。

 

「現段階では非公開情報ですので、配信上では言及しないようにお願いします」

 

 ライバーにも非公開にしても良かったが、票数でギクシャクするのも本意ではない。VNIVEARTHは仲良しグループでいいのだ。

 

 競う事での切磋琢磨というのは、この狭い箱でやるようなことではない。身内の慣れ合いはむしろ推奨するところ。

 

 

「そして夏企画として皆様にお話をしていた、個別の配信についてです」

 

 2019年のお盆は、最長で9日間となる。VNIVEARTHにはちょうど9人のライバーがいる。

 

 期間中は夜に1人ずつ、少し特別感のある配信をして貰うことになっている。

 お盆の夜は毎日定時にVNIVEARTHライバーによる目玉企画を行うことで、お祭り感を演出するのだ。

 

「この人気投票企画と合わせて、お盆に予定している1人1回の配信を、投票のためのアピールタイムであると告知します」

 

 感覚としては選挙活動、いや、どちらかというと、バラエティ番組における、サバイバル系の選考オーディションのようなイメージに近いか。

 

 グッズ化を賭けた投票に向けて、各ライバーはリスナーに自己をアピールするチャンスが与えられる──みたいな。

 

「しかし、VNIVEARTHの方針としては、ライバー同士はもちろん、リスナー同士の対立を煽りたくはありません。

 その辺は私が慎重に言葉を選んで告知をしますが、挑戦的な試みに違いはないので、少しでも遺恨が残りそうだと私が判断した段階で、全員分を作ると発表してしまいます」

 

 この対応が運営の英断とされるか、ただ日和っただけとされるかはわからない。

 

 そもそも少しでもリスクを孕むなら最初からやらない方が良いという考えもあるけど、こういった物珍しい企画に挑戦することも箱の成長に繋がると、思いたい。

 

 ……まあ、会社の利益とか、ライバーの数字を少しでも増やしてあげたいとか、考慮することが増えたことによって、諸々を関連付けて立てられた企画である。

 

 言うほど競う空気を出していくわけでもないし、尾を引くような失敗にはならないだろう。

 

 ここで俺はマネージャーとして使っているPCのマイクをミュートにし、別のアカウントが表示されたスマホのミュートを解除。

 声のトーンを少し変え、別のキャラクターへと意識を切り替えた。

 

「ちなみに9日間だと、誰か1人が大喜利企画の時間と被ることになる。金曜の夜だね。

 その枠は俺の番ってことにする話になってる。俺も分類としては運営側の人間だから、主役は他の(みんな)であるべきなんだ」

 

 アカウントと声を元に戻す。

 

「というわけで、大喜利と被る金曜の枠は遠藤で消費しますので──」

 

「ブフッ──!!」

 

 なんだ今の音。

 

 笑って吹き出した音か?

 

 なに笑とんねん。神海まりもっぽいな今の声の感じ。こっちは真面目にやってんだぞ。

 

「自分を犠牲に私たちを立ててくれるエンド様……♡ 頑張りますよぉ……!」

 

「ええ、アタシたちに任せておきなさい!」

 

 なんだっけ、まあいいや。なんか黒宮院みやみの発言でいい感じに一致団結してるみたいだし、話を進めよう。

 

「途中経過の発表については公式Tvvltterでもしますが、波羅劾ざくろ様にもお願いしてもいいですか?」

 

「うちですか!?」

 

「2~3分の簡単なもので結構です。投票数か得票率かはまだ決めていませんが、その時点の上位数名を軽く紹介していただき、他のライバーに一言コメントを貰うという、いつもの情報屋コーナーの出張版です」

 

「わ、わかりましたぁ! うち、精一杯やらせていただきますねっ!」

 

 簡単なのでいいって。

 

 やる気があるのはいいけど、こっちの都合でかける負担だ、適度に手を抜いて気楽にやって欲しい。

 

 夏休みだからと気合を入れて、8月は他にも細かい企画を予定している。

 

 俺は以前、一期生と初めて通話した時に、会社としてライバー活動を強制しないと彼女たちに告げていて、それを遵守するように意識した結果、予定の合わない佐土原恭子だけ関わる企画がほとんどないという問題点があるのだが、本人が無碍にされていると認識してないのであれば、まあ問題はないだろう。

 

 ライバー全員で共有が必要なものを説明していき、全体会議は充実した密度で進行していった。

 

 

 そして最後に、この夏の最重要事項を提案する。

 

「では最後の議題ですが──

 

 ──VNIVEARTH全員で、オフコラボをしませんか?」

 

 これこそ、事務所が新拠点となることで実現に移せるようになる試みだった。

 

「お、お、お、オフコラボ!? オフコラボって、あの!? VTuberがよくやるやつ!?」

「はい。多分それです」

 

「それって!! ミナちゃんも来ますか!?」

「残念ながら彼女は欠席です」

「そうですか……」

 

 露骨に落ち込んでしまう詩星せるり。あとでminaとしてフォローを入れないと。

 

「可能であれば、泊まり込みで配信合宿のようなものを行いたいと思っています」

 

「配信合宿!?」

「お泊り!?」

 

 前者が萬屋ぺすと、後者が黒宮院みやみの反応だ。

 

「はい。ライバーたちがお泊り会をして、夜通し喋ったりゲームをする様子を配信にしたいと思っています。

 夏の夜という特別な空気の中で、ライバーたちが深夜まで騒ぐ様子とリアルタイムで共に過ごす。夏休みの学生にとっても、記憶に残る配信になると思うんです」

 

「そういうの、いいわね……」

 

 萬屋ぺすとがしみじみと言う。

 

「夏休み。親に内緒で夜更かしをして、配信を見る。大人になってからも思い出せる、夢のような時間になっていればいいなと、いうのがイメージです」

 

『真夏の夜の陰夢』

 

 最悪の文章を神海まりもが送ってきたので、無視することにする。

 

「あ、あの~。事務所って、東京ですよねぇ? その、泊まる場所とかって、どうなります~?」

 

 どこか申し訳なさそうに質問したのは黒宮院みやみ。

 

 まあ、そこは気になるだろう。

 それこそが、新拠点を構えることで解決した、このオフコラボを提案するに至ったきっかけ。

 

「事務所と、その近くに生活ができる物件とで2ヵ所あります。片方に男性陣、片方に女性陣とで別れてお泊り会をしませんか、というのが私の提案です」

 

 そう。これから移転する先の新拠点と、たまたま徒歩十数分程度に位置する俺の借りている部屋。

 

 現在使用している事務所は、元々伊能凛が住処にしていた雑居ビルの一角であるため、部屋にトイレはなく、共用スペースまで行くしかなかった。風呂やガスはそもそもついていない。

 

 しかし、8月から使用するマンションタイプの物件であれば、トイレもガスも風呂も備わっている。男女に分かれての合宿というのが、現実的なものになったのだ。

 

「急な話で申し訳ありません。すでに来月の予定を決めてしまった方もいるかと思います。

 皆様の予定を伺わせていただき、できる限り全員に負担のない日程になるよう心がけますので、何卒ご参加をお願いできますと、幸いでございます」

 

 

 ──このような会議が7月下旬に行われた。

 

 そして、俺は1つの決断に迫られることになる。

 

 

   *

 

 お泊り会。オフコラボ。

 

 それが意味することは、当然──

 

 ──俺の正体が、バレてしまうということである。

 

 南條亜紀人と、遠藤。

 

 マネージャーとして丁寧な対応をする男と、破天荒な発言で場を掻き乱す男。

 

 これが同一人物だと露呈してしまったときの弊害というものを、俺は危惧している。

 

 ましてや。

 

 南條亜紀人と、みなしごエンドレス。

 

 こんな頭のおかしい名前を名乗る男に、本来マネージャーにするような真面目な相談ができるわけがないだろう。

 

 精神的に追い詰められている深刻な状況に際して、相談相手として用意されたのがみなしごエンドレスだとかいう変人奇人とあっては、頼りたくても頼れないだろう。

 

 だからこそ。

 

 あえて。

 

 1人にだけ、自ら正体を明かすことで。

 オフコラボ中に正体を隠すための協力者となってもらおうと考えたのだ。

 

 南條亜紀人とみなしごエンドレスが同一人物だと知るのは、今のところ社長である伊能凛のみ。

 

 伊能凛は、配信中において俺を一度たりとも本名で呼ばないという謎の注意力の高さを見せているが、しかしオフコラボの一堂に会する場で、俺の窮地に対して機転を利かせた行動ができるとは思えない。

 

 むしろ俺を見てニヤニヤ笑ってそう。

 

 オフコラボ中に、絶対に遠藤としての俺が必要になるのは、大喜利大会の一度のみだ。

 俺だけ自室か本社で配信を行うことで、その日さえ乗り切ってしまえば、後はもうどうにだってなるのだが、しかしお泊りパートもやるのでは、身バレは避けようがない。

 

 不測の事態によって全員に正体が露呈するようなことになるくらいならば、1人にだけに晒しておくことで、ダメージを最小限に抑えようという算段だ。

 

 というわけで。

 

 

「はぇ~~!!

 

 マネージャーが遠藤先輩だったんですか!!

 

 たまげたなぁ!!」

 

 

 俺が正体を明かしたのは、拳藤(けんどう)正義(せいぎ)である。

 

 ……。

 

 

 最近、不幸にもリスナーに変な語録を教え込まれてしまい。

 なまじコメントの反応が良いせいで、たった数日でこんなのに染まってしまったという、

 

 悲しき男がここにはいた。

 

【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】四期生のデビューにともなって、二次投票の受付を開始します!! 現在公式Tvvltterにて公開されている画像は、制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)

  • 萬屋ぺすと
  • 佐土原恭子
  • 神海まりも
  • 詩星せるり
  • 遠藤
  • 黒宮院みやみ
  • 拳藤正義
  • 波羅劾ざくろ
  • 伊能凛
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