過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。   作:匿名

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#051 萬屋ぺすとのホームランダービー!

「ふんふふ~ん、アタシはVTuber~♪」

 

 身体をゆらゆら揺らしながら、耳をぴこぴこ動かし、にこにこ笑顔を受かべ、るんるん上機嫌で鼻歌を歌うのは、ぺすぺすの姉御──もとい、我らがVNIVEARTH(ヴニヴァース)一期生の萬屋(よろずや)ぺすと。

 

 手癖でモデレーターとしての操作をしながら、俺は彼女の配信を視聴している。

 今回、この配信中ではとある試みが行われることになっていて、俺はモデレーターとしての作業よりも、その反応を確認することに意識を割くつもりでいた。

 

:かわいい

:ぺすの鼻歌助かる

:せるりに教わったんだっけ

:なんか良いことあったの?

 

「良いこと? 良いことなんて、もーありまくりよ。3月からずっと、VTuberとしてやりたかったことがどんどん出来るようになってきていて……アタシは幸せだわ。

 良いこと尽くめとはこのことね」

 

:上機嫌だな

:そりゃそうですよ!

:みんな助かるし

:タカキも頑張ってるし

:俺も頑張らないと!

:詠唱するなw

:何やってんだよ! 団長!

:VNIVEARTH革命でみんな助かってるのは事実

 

 最近は語呂が良いので『VNIVEARTH革命』と呼ばれるようになった、俺によるVNIVEARTHの私物化に近い半乗っ取り事案。

 伊能凛のVTuberデビューとその配信上での問題発言により、前体制がろくでもなかったことへの解像度が増したことで、俺に対する過大評価は更に少しずつ大きくなっている気がする。

 

「そうなのよ。感謝。感謝よ。VNIVEARTHを変えてくれて、今だって裏で頑張ってくれているわ。

 アタシたちのママ、マネージャー、そして遠藤。他にもいるのかもだけど、このチームには感謝をしないといけないわ」

 

:感謝

:一日一回感謝の正拳突き

:社長の鳩尾(みぞおち)に正拳突きしたい

:あのクソ社長がよ

:革命がなかったらどうなってたか

:クズ社長

 

「ア、アンタたち、アタシのために言ってくれるのは嬉しいけど、あんまり社長を悪く言うのも良くないわ」

 

 社長を悪く言う流れを作ったのは他ならぬ俺である。すいません……。

 

「確かにデビュー決まってからの3ヵ月は指示もアドバイスもなしのほとんど丸投げだったけど、でも今は革命チームに給料とか払ってくれてるみたいじゃない?」

 

:それはそうなんだけどさぁ

:チーム全員の給料とかいくらだよ

:ヴニってライバーの収入ないんだろ?

:社長金持ちなのか

:株で稼いでるらしい

 

「お金を稼ぐって大変なのよね……。アタシだって生きていくためには働かないといけなくて、アンタたちも、たぶんそう」

 

:せやで

:学生です

:社畜乙ww

 

 コメントで無職アピールするリスナーってどんなところにもいるように感じるけど、本当に無職なんだろうか。まあ、無職っていうのが少数派、つまり特別感があるし、自分がそうだと主張したくなる心理には当てはまるので、説得力がある。

 

「日中疲れていても……夜は配信をしてアタシもアンタたちも、元気を取り戻す。そうよね!?」

 

:そう!

:もう元気になってきた

:働きたくない

:義務であろうと働きたくないでござる!!

 

「ふふふふ。8月は企画が盛りだくさんなのよ。アンタたちも一緒に楽しんでくれたら嬉しいわね。

 まだみんなに全部言えないのが、もどかしいわ〜」

 

:そんなにあるのか?

:ツンデレ剥がれてみんなって呼んじゃうのこれがもうね

:ぺすが嬉しそうなだけで俺も嬉しいよ

:ウキウキおばさん

:は?

 

「こーらっ。お姉さん、でしょ?」

 

:あっ

:それいい

:なんかエグい好き今の

:でもなんか語録っぽくなかった?

:ジャスパンと一緒にするな

:機嫌が良すぎて怒らないの草

 

「VNIVEARTHの夏はこれからよ……! 四期生もデビューして、ここからが本番!」

 

:楽しみ

:クイズ大会もあるしな

:夢の国に行くぞー!!

:それ以外にもあるってことでしょ!?

:すげぇ、マジのVTuber箱じゃん

 

「そうなのよ。アタシが本当にVTuberに……、ずっとこれ言ってるわねアタシ。ふふふ。

 さて、そろそろゲームを始めようかしら」

 

:えー?

:もっとお話ししたーい

 

「ワガママ言わないの」

 

:ぺすママ

:ママー

:ミルク飲みたいでちゅ♡ 飲ませて♡

 

「それはアタシでもキモイって言っちゃうわ」

 

 ……今日も感染者は元気だ。まる。

 

「また今度にしなさい。アンタたちと喋ってたら雑談だけで1時間終わっちゃうわ。ま、アタシはそれでも、いいんだけどね」

 

:ぺす……!

:やっぱ俺たちにはぺすしかいねぇ!

:萬屋ぺすと最強! 萬屋ぺすと最強!

 

 このコメント見てると、これ冗談じゃなさそうに感じる。どこに行っても厄介がられてそう、感染者。

 

「でも、今日はゲームっ。このゲームを見たら、アンタたちも驚くわよ~。ふっふっふ。何のゲームかわかっちゃうかしらぁ?」

 

:そりゃまあ

:ぺ、ぺす……?

:配信タイトルにも書いてあるしなw

 

【ぺネキ】萬屋ぺすとのホームランダービー!【萬屋ぺすと・VNIVEARTH】

 

:むしろよく遠藤が許可したな

:プニキやんのか!!

:許諾とれたの?

:とれるわけw

:夢の国の黄色い熊やぞ

 

「……あら。別に許諾がないと配信できないわけじゃないのよ。遠藤もマネージャーも、VNIVEARTHの方針としては許諾があるゲームを優先するってだけで、アタシたちライバーが自己責任で勝手にやる分には咎めないって言っていたわ」

 

 まあ。そうなのだ。

 

 結局のところ、俺はライバーに自己責任という名の自由なようで不自由を前提とした枷を付けてしまっている。

 

「運営側の遠藤が主導の箱コラボなんかでは、許諾の無いゲームはやらないそうだけど、アタシたちの活動までは縛り付けようとはしたくないらしいの。

 本当は箱全体にそうして欲しいみたいなんだけど、ガイドライン自体が定まっていない以上はメーカー側も逆に安易に許諾を出しにくいらしくって」

 

:真面目すぎだろ

:それくらいじゃ消されないって

:バレへんバレへん

 

「ふふふ。でもね、あんなにアタシたちライバーの事を考えて、色んなことやってもらっちゃうとね。

 アタシたちも真面目な活動っていうのに協力したいと思っちゃうわよね」

 

 世情と反するのにも関わらず、運営のことを理解してくれようとしてくれるライバーたち。あの神海(しんかい)まりもでさえ、許諾を少し意識した活動をしてくれている。

 

 ありがたい反面、申し訳なさもある。

 

 ライバー側が善意からやってくれていることだし、素直にありがたいと思う気持ちを重視すべきか。

 

「準備はいいかしら、アンタたち! 今日やるのは──このゲームよ!!」

 

 雑談を切り上げた萬屋ぺすとが、配信画面にゲーム画面を表示する。

 

:えっ

:!?

:なんだこれ!?

:どういうこと??

:草

:ぺす!?

:???

:すご

 

 驚きと戸惑いで埋まるコメント欄。

 

 配信画面に表示されたのは、ゲームのタイトル画面らしきもの。

 

 おそらく今回の萬屋ぺすとの配信に集まったリスナー全員が、予測していなかっただろう画面。

 

萬屋ぺすとの

 

ホームランダービー!

 

 

:ペネキじゃんwww

:いや配信タイトル通りとは恐れ入ったw

:マジでペネキなのかwww

:萬屋ぺすとのホームランダービー! (比喩なし)

:これコラ画像?

:コラっていうかパロディ

:ぺす可愛いんじゃ……

:これ書きおろし??

 

 画面上部に表示されるシンプルなタイトルロゴ。

 その下、画面中央に位置する『スタート!』と書かれたボタン。

 右には野球ユニフォーム姿の萬屋ぺすとがバットを携えたイラストが描かれており、左には同じくユニフォームを着た詩星(うたいぼし)せるりがグローブを装着している。

 

 絵柄は拙く、プロのレベルではないと一目でわかるような、手描きの荒い線が多用されたラフレベルのもの。ただ、萬屋ぺすとのことを好きで描いたのだろう努力は感じられる。

 UIも元ネタに準拠しているのでわかりやすい一方で、フォントやロゴデザインなどの作り込みは浅いという、完成品としてのクオリティには遠く及ばない。

 

「ふふふ。まずは早速、始めていくわよー!」

 

 スタートボタンをクリックすると、即座に画面は切り替わり、問答無用でゲームが開始する。

 

 バッターボックスに萬屋ぺすと。

 

 ピッチャーマウンドに詩星せるり。

 

 両者とも、デフォルメされた3等身程度のイラストで表現されており、アニメーションの枚数は少ないが、詩星せるりが投球するモーションをすると、その手からボールが放たれる。

 

 萬屋ぺすとの操作によって画面内の萬屋ぺすとがバットを振り、バットはボールに命中。ボールは少しだけ飛び、詩星せるりを少し超えた位置に落ちる。

 

『ヒット』

 

:プニキじゃんwwwww

:なにこれすご

:公式!?

:いや公式ではないだろ

:作ったの!?

 

「……と、いうわけでね。なんと、リスナーから自作のファンメイドゲームが送られてきたのよ!」

 

:すげぇ

:マジかよ

:有能リスナー

:感染者にはプログラマーもいるのか

:絵もそいつが描いたの?

 

「ええ。実はね、リスナーから公式の連絡先にこのゲームが送られてきたの。マネージャーがチェックをして、問題ないと判断されたから配信で遊ぶことにしたってワケ!」

 

:配信に採用されるんだ

:何それ裏山

:チェックもちゃんとする運営

 

「アタシがゲームになっちゃうだなんて、こんなすごいこともあるのね。ふふふふっ。ああもう、……ちょっと待ってね、……ぐす

 

:また泣いてる

:ぺす……;;

:こんなに大きくなって

:まだぺすは大きくなるぞ!

:がんばえー

 

 感極まって泣いている萬屋ぺすとと、それを一緒になって喜ぶリスナーたち。

 

 この様子を見るのももう何度目かって話なんだけど、俺が配信でやるような天丼ネタと違って茶番とは思わなかった。

 計算尽くでやっているコントと、本人たちの本気が籠もった努力の成果。この違いを実感する。

 

「ふふふふふっ。それじゃあ、やっていくわよ!」

 

『ストライク』

 

:ぺす……;;

:すげぇ、絵が地味に味があるなこれ

:へっぴり腰すぎだろww

:ぺすが運動音痴なのは解釈一致

:せるりの投げ方がきれいすぎるのなんなのw

:イラスト、下手なのが逆に上手いな

 

『ホームラン

 登録者 +500人』

 

:おお

:草

:距離じゃなくて登録者が出るんだw

:500人も増えるとかw

 

 こうして始まった萬屋ぺすとのホームランダービー! は、シンプルを通り越してただ簡素な内容でありながら、その某プニキをパロディ元とした親しみやすさと、萬屋ぺすとのトーク、そして上手いとは言い難い彼女のゲームスキルもあって、1時間の配信枠にちょうど良く収まる。

 

 

 ……。

 

 ファンメイドのゲームということで感動もしていたところ悪いが──

 

 ──このゲームは俺が作ったものである。

 

 本職のプログラマーではない俺が、見様見真似と、適当に調べてなんとかそれっぽくでっちあげたのがこのゲーム。

 画像素材もあって見栄えは良いため、一見はちゃんとしているように見えるが、ゲーム内で起こっていることは非常に単純だ。

 

 アニメーションの再生、ボールを拡大しながら移動する、タイミングに合わせてクリックする。

 

 それだけ。バットを振る位置、ボールとの当たり具合、変化球、キャラクターセレクト、そういうのは一切無い、簡易的なもの。

 

 おそらくというか確実に、プログラムも無駄や変な使い方だらけで汚いという、本職の人が中身を見たらきっと顔を顰めるようなものになっているのだろう。

 

 実際のところ配信上でも、萬屋ぺすとが遊んでるから盛り上がっているだけ、のような反応が散見される。

 

 ──それが、今回の狙いである。

 

 自分が作った方がすごい。

 

 こんなのでも遊んでもらえる。

 

 そう思ったリスナーが、じゃあ俺もやるぞと萬屋ぺすとのミニゲームを作る空気になれば大成功。

 

 そしてこの萬屋ぺすとのホームランダービー! は、数日後にソースコードを公開する予定になっている。

 作者の技術力不足という名目でギブアップ。『他の感染者に後は任せた!』と託す形だ。

 

 更に翌日、俺が作者とは別人のフリをして少しだけ改良したものを公開する。

 

 これによって、ペネキは有志の手によって魔改造されていくようになる、というのが俺の思い描いている理想図である。

 

 そこまで全てが順調に上手く行くものだとも思っていないが、もしこれが本職のプログラマーの手に渡るようなことがあったり、面白がって改良が重ねられていったことで、元ネタ並みにクオリティを向上させることができたなら。

 

 8月末には、『VNIVEARTH甲子園』と称してVNIVEARTHライバー全員でスコアアタック大会を開く、というのも視野に入れている。

 

 イラストも、俺自身はあえて雛形としての、意識的にクオリティを下げたものしか用意していない。

 最悪自分で有志ヅラしてクオリティを上げたものを提供するけど、できるならリスナー側でイラスト描きが出てくるように仕向けたい。

 

 VNIVEARTHは初期から何でもかんでも俺が用意しすぎたせいで、リスナーが制作に関わって一緒に盛り上げるという一体感には欠けている。

 

 それを人為的にだが補完しようというのが、今回の試みである。

 

 ファンメイドと聞かされている萬屋ぺすとには悪いと思わない気持ちもなくはないが、俺自身が萬屋ぺすとを応援したいと思っている、つまりは彼女のファンには当てはまるので、偽りはない。

 

 火種こそ俺の自演から始まるものではあるが、これも一夏をかけたリスナー参加型の企画と言えるだろう。

 

 ──VNIVEARTH甲子園。

 

 許諾を理由に、某野球育成ゲームによる箱コラボをしにくくしてしまっているVNIVEARTHとしては、是非ともこのペネキで実現したいものだ。

 

 

   *

 

「今日の配信はここまでね」

 

:やーだー!!

:夏の特番3時間スペシャルやれ!

:いかないで;;

 

「夏の特番……ふふ。そういうのも、この夏はあるのかもね!?」

 

:マジ!?

:えっ、未発表の企画がそういうやつなのか?

:ぺす……!!

:あのVNIVEARTHがこんなちゃんとした箱に

:それn回目

:いや8月楽しみなんだが

 

「じゃあアンタたち、アタシの配信はこれで終わりだけど、この後ある遠藤の配信にも行くのよ!」

 

:は?

:遠藤さぁ

:台無しだよ

 

「そう言わないの。ホラ、アタシの新モデルの改良会議、最後の決定する大事なやつなんでしょ」

 

:そうだった!!

:遠藤ナイス!

:でも遅過ぎだろ

:遠藤仕事しろ!!!

 

 

 そんな誘導をしてもらって。

 

 萬屋ぺすとの配信が終了し、それから大して間を空けることもなく、俺の配信が始まる。

 

 普段の俺の配信の視聴者数に大体50人くらい上乗せされた同時接続数。

 

 つまり彼女の配信からスライドしてここに来たのが50、と考えるのは早計で、俺と萬屋ぺすとの両方を見るリスナーがいればその分の数字は不明瞭、軽く見積もって100人くらいが継続していそうな印象だ。

 

 劣悪だった萬屋ぺすとの初期モデル。

 その改修案の募集は、これまでの俺や萬屋ぺすとの配信内やTvvltterで、事あるごとにちまちまと随時受け付けていたのだが、今回で決定案をまとめて実際に制作するというフェイズに移る。

 

 ……俺の予定よりも遙かに待たせてしまっている分、気合を入れて制作に臨みたい。

 

「ようこそ。俺の名前はみなしごエンドレス。このVNIVEARTHの『王』になる男だ」

 

:そういうのいいから

:もう王みたいなもんだろ

:ぺすの改案はよ

 

 感染者はいつもどおりみたいだ。

 

 今回は、ここまで出ていた案をまとめるだけの作業。おそらくすぐに完了して、感染者たちはこの配信を去る。そしていつもの登録者数に対して少し物足りないリスナー数の中で、いつもの他愛のない雑談を行うことになるのだろう。

 

 少し寂しいというか、お前ら現金だなとかちょっと思わなくもないけど、こういう餌をばらまいて得た登録者数だ。

 自業自得だし、減ってからの数がつまり、俺の本来の視聴者数。それが俺の身の丈に合った数字なのだ。

 

「じゃあまず髪型についてだね。ツインテール、もっと長く、細く、って話だったけど、これは感染者の総意でよかったかな?」

 

:良し!

:同じツインテのせるりと差別化だよな

:せるりのはツーサイドアップな

 

 うーん、俺との案出しで用語やら判断基準を教えたせいでなんか言い回しが妙に達者だ。

 

「前髪はインテークの方が支持が多かったんだっけ?」

 

:そう!

:インテークって?

:ググレカス

:カチューシャ付けてるキャラにありがちなやつ

 

「ただでさえ猫耳とツインテールでカイリキーみたいになってるのに、じゃあ敢えて、いっそのこともっと凹凸を足すかって話だったね」

 

:カイリキーw

:獣人のツインテをそんな風に冒涜する奴初めて見たわ

:俺もあの時はキレちゃったね

 

「ごめんて。で、インテークは採用で良さそうかな。大体もう感染者内で意見は固まってるんだよね。

 じゃあ最大の問題だけど──

 

 ──肩、出す?」

 

 そう、これが一番賛否の分かれた項目。

 というのも、俺が提唱した情報が、感染者の意見を分断しているのだった。

 

:出す!

:出さない!!

:ノースリーブ一択だろカス

(わき)が見えた方がいい

:駄目だ。ぺすはそんな痴女じゃない

:普段から見えないことに意味がある

 

 ──常に腋が見えてるのって、なんか汚くない?

 

 俺が投げ込んだ爆弾である。

 

 確かに腋とは(へき)。フェチである。でもさ、漫画や雑誌の表紙などで堂々と晒してるのよくあるけど、あれはなんか……違うんじゃないか?

 

 萬屋ぺすとの腋が見たいとうるさいリスナーについ、常に見えてると下品なだけなのだと俺は力説してしまったのだった。

 

 あんまりこういう、既存のものを批判する発言は避けた方が良いというのが、俺の配信における持論だ。

 そしてこれは俺のキャラデザにおける価値観がつい出てしまったという、持論と持論が衝突して零れ出てしまった失言と言える。

 

「やっぱり賛否が分かれるよね。同じように、服の胸部分に穴をあけて胸の谷間を見せるかって議題もあるよ。

 へそ出しと、生足。タイツかニーハイかショートソックス。どれも魅力がある」

 

:出すに決まってるだろ!!

:出さねーよハゲ

:ペすは清純派なんだよ!!!!

:脇も胸もへそも足も全部出せよ

:全部は意味不明w

:マイクロビキニにするんだよ

:肩と胸の谷間は欲しい

:谷間は解釈違いなんだわ

:なんか、ぺっすん貧乳派いるよね

:下乳こそが至高だと言ってる

 

 ……俺、この一晩でこいつらまとめあげなきゃいけないのかよ。

 

 今回で決定、ということで、意見の対立や新たな希望も多くなったこの萬屋ぺすと改修案会議。

 俺が絵も描けると公言したせいで、じゃあ描いてみてよ並べて見て比べたい、が横行するため、結局のところ配信は2時間近くまで延長された。

 

 俺はVNIVEARTHの社員だから明日の仕事に響くとかねーだろ、というのがリスナーの認識。萬屋ぺすと本人にはしないような、配信延長要求がまかり通ってしまう。

 

 

「──というわけで、あくまで萬屋ぺすとは清純派路線、アイドル衣装を基盤としたカジノのディーラー風のかっこいい系衣装。ショートソックスで、動きやすい系のブーツ。

 前髪はインテーク仕様、ツインテールは細ロング。アホ毛は無し。

 

 こういうのでいいかな?」

 

 俺はその場で描いたラフを提示する。

 

:いや上手いww

:これが……ぺす??

:今のぺすもかなり直してたのにまだ良くなるんだ

:お前イラストレーターだろw

:※エンジニアです

:ペネキの絵と比較して明らかに上手い

:社長も遠藤作だし、みなちゃんとも張り合えるだろ

 

 いやペネキも俺が敢えて下手に描いたやつだし、どれも俺だ。

 

 配信の終了間際に、俺はしれっと大きな情報を残して退散する。

 

「ちなみに、今日の萬屋ぺすとの配信で使用した『萬屋ぺすとのホームランダービー!』。作者の許可を得た上で、VNIVEARTHのホームページで公開されてるから、(みんな)も遊んでみてね。

 ブラウザゲーだから登録とかダウンロードは一切いらない。配信に使うのもオッケー。商業配信でも可って明記してるから、配信者の人でも自由に遊んでね」

 

:マジか

:遊んでやるよ

:許諾しっかりしてるの草

:利用規約ww

:これせるりファンも大歓喜だろ

:ピッチャーせるりだったな

 

 ゲームの作成は、Unityかブラウザゲーの2択だった。

 

 Unityは俺にとってはなんか敷居が高く見えたし、htmlとJavaScriptのブラウザゲーの方がまだとっつきやすく、そして遊びやすいのでこちらを俺は作ることにした。

 

 遊びやすさというのは、つまり口コミでの広がりやすさである。

 これでペネキによって萬屋ぺすとの知名度が挙がることに繋がれば御の字だ。

 

 配信を終えて。

 

 これにより俺はようやく、萬屋ぺすとのガチLive2Dの作成に取り掛かることができるようになったのだった。

 残念ながら、作業時間の都合でもう8月の間には間に合わないことが確定している。せめて9月には形にして、配信で彼女とリスナーと喜ぶ様子を拝みたい。

 

 そしてこの日、VNIVEARTHの公式サイトは感染者が押し寄せたことで激重となり、貧弱なレンタルサーバーを使用していることもあって、最終的にサーバーが落ちた。

 

 なお、最速で配信に使用したのは神海まりも。

 俺の配信が終了して枠が消える前にはプレイを開始していて、サーバーが落ちるよりも先に萬屋ぺすとのスコアを超えていた。

 

【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】四期生のデビューにともなって、二次投票の受付を開始します!! 現在公式Tvvltterにて公開されている画像は、制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)

  • 萬屋ぺすと
  • 佐土原恭子
  • 神海まりも
  • 詩星せるり
  • 遠藤
  • 黒宮院みやみ
  • 拳藤正義
  • 波羅劾ざくろ
  • 伊能凛
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