過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。   作:匿名

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#052 同じものを見ている

 よし。

 

 VNIVEARTH公式サイトの更新を済ませ、変更内容が正しく反映されているのを確認した俺は、なんとなく、実際にそう呟いてみる。

 

「よし」

 

 指差し確認は実際に有用なものだとは言うけれど、何を見てヨシと言ったんですかとただのギャグになりかねないようになってしまったのはとあるネットミームが原因であって、灰色の猫を多くの人が思い浮かべるはずだ。

 

 ヨシ。

 

 ネットミームというのは基本的に使い勝手が良いものが多く、日常的にことあるごとに擦られていくもので、特にSNSなんかでは画像付きで用いられる。

 その知名度が広まる規模と速度というのは尋常でなく、宣伝効果として見ればその恩恵は計り知れない。

 

 VNIVEARTH関連で狙って生み出すことが出来るならば、それに越したことはないんだけれど──これを意図的に生み出すことは、難しい。

 

 ネットミームには、ある程度の尖った個性的な目新しさと、わかりやすい面白おかしさ、それらを絶妙な塩梅で兼ね備えることがまず必要だ。

 その上で、様々な状況で使用できる汎用性、あるいはアレンジしやすい応用性を持つ。

 

 ミームとして広がるためには、それが上手い具合に伝わっていく運の要素も関わってくるし、何よりその発信自体が効率よく拡散されるための下地がなくてはいけない。

 下地というのも、程よく馴れ合いのある状態でないと勢いづくほどには擦られないし、しかし外から見て煙たがられるようなきつい内輪ノリだと、ただの寒い連中扱いで終わってしまう。

 

 未来の知識があったところで、将来的に流行するものをなりふり構わず無暗にパクるのも気が引けるし、例え未来のミームを使ったところで、ミームになるまでの下地がないので意味はないだろう。

 

 自力で生み出せないならば、ミームという小さな祭りにちょっと参加する程度の身の程を弁えた感覚で、少しだけおこぼれに預かることを目論むのが良いだろう。

 あまり露骨に便乗しまくるのも、節操無しだのと反感を買いかねないのだ。

 

 まあ要するに、萬屋ぺすとが変なポーズでヨシしてるパロディ画像でも作ろうだとかくだらないことを考えつつ。

 

 俺が行っていた公式サイトの更新というのも、その萬屋ぺすとに関するもの、すなわち『萬屋ぺすとのホームランダービー!』だった。

 

 このペネキが配信で使用されたのが日曜日のこと。

 

 火曜日に作者本人として、俺の技量じゃこれ以上は無理ですあとは誰か頼んますだとか割と本音を添えてソースコードを公開した。

 水曜日には別の有志を装って気持ち程度にほんのりと微改善し、新たにソースコードを公開。

 

 そして本日木曜日。公式として、その微改善版を承諾を得て公式サイトに反映した、というのが現段階の進行である。

 

 ここまでは予定調和。

 

 後は本物の有志たちがどれだけ改造をしていってくれるかにかかっている。

 

 思い描いている最善の結果としては、萬屋ぺすとのリスナーである感染者たちや、面白がった本職プログラマーが改造をしていき、元ネタに肉薄するレベルまで向上することだが、そう都合よくいくわけもないだろう。

 

 今後、俺以外の手で改造がされるようであれば、頃合いを見計らって、今月末までに高い完成度になってたらペネキを使った『VNIVEARTH甲子園』企画をやりたいなあ、とかぼやく程度。

 

 権利関係はVNIVEARTHが所有するため、ボランティアになることはしっかりと明記しないといけない。

 まあ俺の力で作成されるわけじゃないんだから、その辺の奴が勝手にソースコード丸パクリで自作ソフトとして販売することだけはできないような文面の規約にさえなっていればいい。

 

 強いて言えば、あまりにも元ネタに寄せすぎると怒られる可能性が出るので、その辺を注意喚起するくらいか。

 

 萬屋ぺすとのホームランダービープロジェクト、あるいはVNIVEARTH甲子園プロジェクトについては、俺が行う大きな工程はこれでひとまず終わりだ。

 

 あとはリスナーに委ねる。どうにかなれ。

 

「ねえ、亜紀人」

 

 そんな他力本願な俺に声をかけてくるのはこの男、VNIVEARTH社長、伊能凛。

 

「亜紀人は、プログラムはできないのかい?」

 

「できませんよ」

 

「でもこのゲームは2日で作ったじゃないか」

 

「これは、それっぽいものをでっちあげただけです。必要なものを調べて応用して、ただ形だけを整えてそれらしきものに見せかけただけ。これ以上のものを作るとなると、俺の今の生活じゃ時間が足りません」

 

「時間があればできるのかい?」

 

「時間があれば──無限に時間があればできないこともないですけど、それでもプログラミングは専門外なので、難しいですね。馴染みがなさ過ぎるせいで意欲的になれませんし、その分効率も落ちるので、現実的ではないです」

 

「……意外だね」

 

 伊能凛は、不思議そうに言う。

 

「キミはなんでもできるものだと思っていたよ」

 

 あたりまえのように無茶を言うな。

 

「俺にだってできないことはあります。むしろできないことだらけです」

 

 プログラミングがそうだ。Live2Dを動かすためのソフト、この時代にはまだ存在しない、VTubeStudioに代わる自社ソフトが自分で作れたらどれだけ良かっただろう。

 今あるソフトだけで阿保みたいに時間をかけて挙動を設定して、そのモデル以外には応用が利かないだとかいう馬鹿みたいことになるのも回避できたはずだ。

 

 このままでは、新衣装ごとに同じような気の遠くなるような調整を最初からしなくてはいけない。

 

 新衣装のことを考える前に萬屋ぺすとの改修モデルを作ることが、クリエイターとして俺が次にやるべき仕事だ。

 

 加えて、明日は大喜利大会企画の第1回がある。ライバーとして、あるいはマネージャーとして企画管理をするために進行の見直しをするのも優先事項。

 

 あとは。

 

 今夜は黒宮院みやみの配信枠で、軽い企画があるため、それも見届けたい。

 

 ……。

 

 やることがたくさんある。

 

 俺は今、充実している。この喜びは、大事にしなくちゃいけない。

 

「……社長、今日は会社に泊まってもいいですか?」

 

「──!! ああ、勿論さ。夕食はどうする? 食べに行くかい? 出前でも取るかい? そういえばポテチを切らしていたね、買いに行こう。キミは厚切りの方が好きなんだったか──」

 

 毎回お泊り会気分なのなんなの。

 

 今の事務所はシャワーも付いていることもあって、泊まるという選択肢が取りやすくなってしまった。

 

 このために、新事務所をここにしたんじゃないかと勘繰るのも何度目だろう。

 

 機材も会社に持ち込んでいるものの方が配信用なのもあってスペックが高いし、家に帰らないメリットもそれなりにあるのが憎い。

 

 

   *

 

「……もう、始めちゃってもいいですかね?」

 

「は~い、こっちはオッケーでぇす♡」

 

「じゃあいきますよ……せーの」

 

「「せる×みやコラボ!!」」

 

 完璧に揃った声。

 

 ちょっとだけ舞台裏が聞こえてくる遊び心を入れてから、可愛らしくそして賑やかなタイトルコールでこの配信は幕を開けた。

 

「今日も配信に来てくれてありがとう! はじめましての人はこれからよろしく、お願いいたしますっ!

 VNIVEARTHの歌唱担当、二期生・詩星(うたいぼし)せるりです!

 

 そして~?」

 

「はぁ~い♡ 皆様の御耳(おみみ)の恋人、夢の世界までお供いたします。

 VNIVEARTHのガチ恋担当、三期生・黒宮院(こっきゅういん)みやみです~♡」

 

「今日は私たちの初コラボを、お届けします!!」

 

「わ~~!!」

 

【せるみやコラボ】先輩と初コラボです♡【詩星せるり・黒宮院みやみ・VNIVEARTH】

 

:なんかぬるっと始まった

:息ぴったりで草

:ちょっと挨拶違うね

:ガチ恋担当ってなんだよ

:ついにコラボしてしまうのか

:この時がきたか

:来てしまったね……

:先輩からの圧をすごい感じるw

:上下関係www

 

 安定した導入の配信内では、配信開始時間の少し前から待機していたリスナーたちが思い思いにコメントをしている。

 

 ここは黒宮院みやみのチャンネル。だが話の主導権を握っているのは詩星せるりだし、配信枠の名前も詩星せるりが先。

 初コラボは、登録者数も少ない後輩の枠で行うというのがVNIVEARTHのなんとなくの通例だ。その中でこの設定や運びというのは、ツッコミどころを用意してコメントを誘発するためのちょっとした遊び心である。

 

 ちなみにタイトルコールは録音したもの。

 ラグとかを考慮すると、声を揃えるというのは現実的ではない。声が揃わないことを敢えてネタとするのもありだが、このタイトルコールでは逆に綺麗に揃えるのもそれはそれで効果的に作用するんじゃないかと考えてのことだ。

 

:なぜか今までコラボがなかった2人

:あれれ? おかしいなぁ

 

 コメントの内容にも記されているように、この2人の間には意図していなかったとある属性が生まれており、数日前に予告されたその段階から、ついにコラボしてしまうのか──という謎の注目がこの配信には向けられていた。

 

「ふふふ~♡ 初めてのコラボですねぇ、詩星先輩♡」

 

「はい! 実はそうなんです、私詩星せるりとこちら黒宮院みやみさん、この2人だけでコラボするのは今日が初めてなんです」

 

:やっとか

:待ってた

:初コラボ!?

:なんでやろなぁ

:えー、みゃみデビューから2ヵ月です

:いやまさかね……

 

「なんででしょうね~。コメントの皆様がなんだか物騒な雰囲気……♡」

 

「心当たりはありませんよね。不思議なことも、あるものです」

 

「皆様を少しお待たせをしてしまったみたいですがぁ、今日はVNIVEARTHの二期生! 詩星せるり先輩の胸を借りて、配信をお届けしますよぉ♡」

 

「先輩ですか……。私にちゃんと先輩らしいことができるでしょうか、ちょっと不安。

 黒宮院さんはデビューした時にはもう、私がなにかを教えたりすることのできないくらいレベルの高い初配信をしていましたよね、むむむ……」

 

「そんなことないですよ~。マネージャーさんにも色々なことを教えて貰ったりして、自分なりに頑張ってみただけですぅ……♡」

 

:ゴゴゴゴ……

:溢れ出る因縁

:お前のような後輩がいるか

:遠藤の弟子だぞ

:名前ネタねw

:つまり宿敵の弟子

 

 いや普通に会話してるだけなんだけど。

 

 コメント側が勝手に、2人を対立を煽るようなコメントをしている。

 

 これは想定していたことではないのだけれど、リスナー視点で把握できる要素が関連付けられたことで、噂というか憶測というか風潮というか、なぜか勝手に2人の関係性が語られるという面白い状況が生まれていた。

 

 (いわ)く──

 

 ──詩星せるりと黒宮院みやみは、不仲である。

 

 黒宮院みやみがデビューした6月8日から本日8月8日まで、事実丸2ヵ月もの期間、一対一(サシ)でのコラボがなかったというこの2人。

 三期生コラボ+遠藤で行われたコンプラ配信にてゲスト参加したことを初めに、複数人での箱コラボは何度もあったものの、先輩後輩の仲という構図以外に発展することがないままでいた。

 

 安易にゲームに頼らないという、中小箱にしては珍しい箱だとされるVNIVEARTH。

 

 これは単に許諾への拘りが起因しているだけなんだけど、それはさておくとして、VNIVEARTHの定番ムーヴとして箱内コラボ企画というのは盛んに行われており、箱の運営としても推奨している。

 

 VTuberというのはそもそも、コラボによってライバー同士の掛け合いが発生することで、そのキャラクターを様々なシチュエーションで深堀りしていく、というのが醍醐味である。

 重視すべきはキャラクター性の発展、拡張。それを未来の知識によって理屈で把握した上で、打算で展開を誘導することも含めて意図的に運用しているのがVNIVEARTH──というか俺の戦略だ。

 

 配信者本人に全ての意図を説明してしまうと、計算によって動いているという下心、つまりはリスナー観点ではそれが嫌悪感として映ってしまう可能性があるので、こういった工作はリスナーに伝わらないようにしなければいけない。

 

 あくまで俺が運営として、双方へ遠回しな助言(ヒント)をして誘導するというやり方を介することで、完璧すぎずに、それでいて見どころをしっかり押さえた配信にする。

 もちろん、配信中も俺自身がサクラとしてコメントすることで補佐することもしばしば。

 

 配信のハイライトとしてこちらが誘導しているのだから、コラボによるわちゃわちゃがこの箱の特色だというのは、リスナーからもなんとなく認識されていくようになる。

 

 そんなこの箱で、いつまでもコラボがない先輩と後輩というのは、箱を語る上で話のネタになる。

 

 黒宮院みやみは二期生の遠藤を旦那呼びするという、同じ箱の先輩男性ライバーに火を点けようとする、文字通り火遊びの持ちネタを行う。

 この時、ポーズだとしても、遠藤を慕う発言をすることから、遠藤のファン側にいるものとする。

 

 詩星せるりは『みなちゃん』という最愛の友人がいる。

 そして(くだん)の遠藤は自身を『みなしごエンドレス』だとかいうとんちきな名前と名乗るというイロモノキャラであるのだが、『みなしご』の『みな』は、『みなちゃん』の『みな』ということで、存在自体が『みなちゃん』を侮辱するものだと敵視する小ネタがある。

 

 詩星せるりと遠藤の一対一コラボがないということもあり、詩星せるりと遠藤は不仲であるというネタの説がある。

 

 そして黒宮院みやみは、四捨五入すればギリギリ遠藤のファンとなる。

 

 つまるところ、

 

 遠藤と不仲の詩星せるり、

 

 遠藤を慕う黒宮院みやみ、

 

 この2人は敵対関係にあるのだ!

 

 というネタである。

 

:遠藤の弟子って?

:初配信が名前ネタだった

:弟子ではないけどな

:黒宮院は遠藤の嫁だもんな

:嫁じゃねーよ!!!!

:遠藤、テメェだけは許せねぇ……

 

 いや俺に飛び火するな。

 

「あ♡ 見てください。今コメントに、私がエンド様の嫁だって書いてありましたよ!」

 

「嫁ですか。ふふふ、お幸せに」

 

:ツッコミ不在

:せるり「あんな奴と……」

:せるり「趣味わる……」

:言ってないww

 

「そういえば、黒宮院さんは知ってましたか?

 遠藤さんには、推しがいるそうですよ」

 

「!?」

 

:おや

:雲行きが……

:推し!?

:せるりの攻撃!

 

「エンド様に、推し……?」

 

「は、はい……。あぁ、でも恋愛感情とかじゃなくて、その、あくまで見守りたいだけの、親心のような──」

 

「親心!? その話、あとで詳しく……!!」

 

 そこで情報が繋がっちゃうのか……。勢いで言うもんじゃなかったな……。

 

「最近はマネージャーと話す機会もあったので、遠藤さんのことも少し伺いました。私にできることならお手伝いしますよ。

 私にも、ミナちゃんというお嫁さんがいますからね。一緒に頑張りましょう!」

 

「はい♡ VNIVEARTH婚活組ですね~♡」

 

:そんな括りなのかよw

:これがV企業勢なのか……?

:みやみ「同性とか非生産的♡」

:せるり「それって思想の否定ですよね」

:ギス……ギス……

:NLvsGL ファイ!!

:社長のBLも忘れるな

:┌(┌^o^)┐ ボクモ マゼテヨ

:エンゲージリングww

 

「うっ、みたくない言葉が……。コメントはしばらく見るの控えますぅ……」

 

「大丈夫ですか? どれどれ……」

 

:お

:見てるかー?

:「みな」しごエンドレス

:┌(┌^o^)┐エンド…タスケテ…

:社長はカス

 

「う、うぅん……私もなんか見たくない言葉が見えました」

 

 タイトルコールが息ぴったりだったり、恋愛要素を取り扱うキャラであったり、同じ流れで凹んだり。

 

 この配信の最後に告知する目玉要素でも、2人の共通点を挙げることになる。

 

 詩星せるりと黒宮院みやみ。

 

 清楚系と濃艶系で相反しているようで、案外この2人には共通点があるのだった。

 

【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】四期生のデビューにともなって、二次投票の受付を開始します!! 現在公式Tvvltterにて公開されている画像は、制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)

  • 萬屋ぺすと
  • 佐土原恭子
  • 神海まりも
  • 詩星せるり
  • 遠藤
  • 黒宮院みやみ
  • 拳藤正義
  • 波羅劾ざくろ
  • 伊能凛
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