過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。   作:匿名

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#055 対立煽りしてくる運営とは

「「「ヴ、VNIVEARTH(ヴニヴァース)、人気投票~!?」」」

 

 わかりやすく間延びした声が重なった。構成するのは3人の女性。

 

 萬屋ぺすと、詩星せるり、黒宮院みやみ。

 

 普段の口調とは明らかに違う、悪く言えば大根役者のようなわざとらしい声色。

 これは茶番ですよーと顔に書いてでもあるかのような一幕だが、それもそのはず、この一連のやり取りは(まさ)しく茶番そのものであり、これから始まるものがコントであることをリスナーに言外に伝え、すんなりと配信を見進めることができるようにと優しく手を引くためのものだ。

 

 挨拶のようなもので、言うなれば、コント開始の合図。

 

:人気投票!?

:わざとらしくて草

:茶番

:な、なんだって~!?(笑)

 

 俺もよくやる手法だし、リスナーもVNIVEARTHあるあるとして理解したコメントをしてくれている。

 

 ちなみに例の如く、声を合わせる場面では録音したものを使用する。オンラインコラボという通信速度のラグがある環境下で、綺麗に声を合わせるというのには少しというかかなり無理がある。

 

 なお、わざと声合わせずにリスナーの笑いを誘うという選択肢もあるので、仕込みの有無は時と場合によりけり。

 

「そうです!」

 

 話題の発起人、この配信のチャンネル主であるVNIVEARTHの情報屋こと波羅劾ざくろが、自慢げに胸を張ったような声で頷いた。

 

:かわいいね

:うちが情報屋なのだ!

:えっへん!

 

 ……なんか滅茶苦茶馬鹿にされているように見えるが、これは彼女への親しみがあってこそのもの。の、はず。

 

 あの未来の波羅劾ざくろの配信じゃこんなコメントなかったな……。

 

 彼女の配信を見る度に毎回思っている気がする。

 

 今回のコラボ配信の参加者はこの4人。配信画面には、VNIVEARTHの一期生、二期生、三期生、四期生、それぞれの代表とも呼べる女性ライバー4人が並んでいる。

 

「うちの情報によりますと、今日、8月10日から8月31日までが集計期間。

 10日~18日までのお盆期間を一次投票としまして、19日から31日までを二次投票。1人2回の投票で、VNIVEARTHの人気ライバーを決める投票があるみたいなんです!」

 

 解説とともに波羅劾ざくろお手製の手書き資料が添付されていくのだが、

 

 号外!

 

 VNIVEARTH人気投票

 

 開催!!!

 

 10~18日

 

 19~31日

 

 1人2回!!

 

 やったぁ!

 

 と1枚につき一言ずつ大きく書かれているだけの、字幕程度の役割しかない大味なものだ。文字は女子女子していて可愛らしい。

 

:情報が増えないw

:この画像いる?

:いる

:かわいいやろがい!

 

 そんな彼女へ、詩星せるりが神妙に頷いてみせる。

 

「ふむふむ。VNIVEARTHの情報屋、その名に恥じぬ仕事。一体そんな情報どこから……?」

 

「VNIVEARTH公式Tvvltterに書いてありました!」

 

「――って、一般に公開されてる情報じゃない!」

 

 ツッコミを入れたのは萬屋ぺすと。

 

 えへへ……とお茶目に情報屋がはにかみながら、公式Tvvltterの呟き画面をそのまま書き写した画像が貼られてオチである。

 

 黒宮院みやみは何をしているか。ふふふ~と空気を和ませるガヤ担当。

 

:情報屋とは

:うーんこれはへっぽこ! w

:ぺすと同じ匂いがする

:ヴニの二大へっぽこライバーだ

:犬と猫でバランスもとれている

:しょぼしょぼわんこなざくろも好きだぞ

:むしろあざといのでは?

 

「……なんかアタシに流れ弾が来ている気がするわ」

 

「ふふふふふ~♡ いいじゃないですかぁ。

 

 ――にゃぁん♡

 

 私も猫耳付けてもらいましょうかねぇ♡」

 

:うお

:おっま

:不意打ちやめろ

:頼むからバイノーラルマイクでやってよ……

 

 黒宮院みやみのリスナーである哭泣員が喜びながら嘆くコメントを連ねていく。

 

 またやってるよと呆れたいところだけど――正直、気持ちがわかる。使っているのは普通のマイクなんだけど、小癪にも地味に息の乗せ方が小慣れてきていてこれが音声作品に使われていたらと考えると、非常にもったいない。

 

「うちはリスナーのみなさんから子犬にされてるんですよね。なんか未熟者って言われてるみたいで……くぅん

 

:かわいい

:かわいい

:せめてBGM消してくれぇ!!

:↑何に使う気だよw

 

「ざくろちゃん可愛い~♡ せるりちゃんはぁ、犬ぅ? それとも、猫ぉ?」

 

「ううーん、猫、ですかねぇ……。ミナちゃんは猫派っぽかったような気がします。配信が終わったら聞いてみます」

 

「ははは……、本当に仲良しね。アタシも昔はそんな親友が……うっ、頭が」

 

「えぇ~♡ 酷いですよ、ぺすとせーんぱい♡ 私たちだってぇ、うーうん、VNIVEARTH女子はみんな親友みたいなものじゃないですかぁ♡」

 

「み、みやみちゃん……!」

 

 ちょっと涙ながらみたいな演技になる萬屋ぺすと。なんだけど、まあコメント欄は割と辛辣だ。

 

:また都合の良いこと言ってら

:尻軽女

:どうせ会う人間全員に同じこと言ってる

:そして遠藤にも……ウッ頭が

 

 アンチっぽいファンコメントやめろ。消すべきコメントか判別するのが難しい。リスナーとのプロレスの一種と見るべきなんだけど、つーかコラボ配信でやるな。

 

:こいつが会話の主導権握るの不快だわ

:それな

:うっぜぇー

 

 ……こういう意見も出る。配信経験者で基礎があって、V活動始めてからなんかわけわかんないくらいコツを掴んでるけど、彼女は三期生。くだらないことかもしれないけど、リスナーはこういう上下関係というか序列を大事にする。

 これは悪習にも分類されることかもしれない、それでもリスナーがそう感じる以上は尊重すべきだし、かく言う俺自身もその感覚は理解できるし、配信に必要な要素としても把握している。

 

「詩星先輩がにゃんちゃんだと、3:1(さんたいいち)になってしまいますねぇ……。いやうちはその、子犬じゃないんですけど」

 

「……にゃんちゃん」

 

「え!? ああぁ忘れてください!!」

 

:にゃんちゃん!?

:この妹系わんこがよォ!!

:いいぞもっとやれ!

 

 京弁子犬の失言? を拾ったのはうちの歌姫。この歌姫、ちょっと面白いことボソッと言うの増えてきたな……。定番化というか、持ちネタというか。配信の中で生まれる変化。

 成長だね……っ、せるりちゃん。

 

「それだとぉ、犬派……ワンちゃんがざくろちゃんだけになっちゃいますね~。

 じゃーあ、私が犬になりましょう♡ わん、わぁん♡

 

「黒宮院先輩……! いやぁ、うちは子犬では……」

 

「いいじゃないですかぁ♡ 子犬ざくろちゃん可愛いですよ~? いっそ私の妹になっちゃいますかぁ♡」

 

「……おねぇですか。ちょっと憧れますね」

 

「ほーら♡ わぁ~ん♡」

 

「わ、わん……」

 

:おや

:まさか、百合!?

:ヴニってそういうのないんだよな意外と

:あら~

:でもみやみだしなぁ

 

 百合――女性ライバー同士の絡みはあった方がいい。これはVTuber初期から通用する属性で、営業だろうがガチだろうが、ないよりあった方がいい。VTuberのリスナーというのは、百合が大好きなのだ。(※偏見)

 

 今回のコミケで頒布されるらしいというVNIVEARTH作品も、おそらくこの4人を初めとした女性陣のものだろうし。忘れてたけど、あとで検索しよう。

 

:この女うぜえーーー!!!!!

 

 批判のコメントが目につく。こういう書き方だと荒らしに近いし目立つから削除するけど、これさっきと同じアカウントだし他のリスナーに伝播されても困るのでアカウント自体をミュートしてしまおうか。

 

「……にゃん」

 

「せるりちゃんまで……」

 

:せるり!?

:乗るなせるり! 戻れ!

:いや乗れ!!

 

 本当、こういう小ボケとか入れる機転、雑談のセンスはあの未来じゃなかったもんなぁ。しみじみ思っていると、その上で詩星せるりは攻めにも転じていくようだ。

 

「萬屋先輩はやらなくていいんですか?」

 

「ア、アタシはやらないわよ……」

 

「え~? いいじゃないですかぁ♡ ぺすと先輩もぉ、やってください♡ ざくろちゃんも、見たいですよね?」

 

「うちもやりましたし……。じゃあ萬屋先輩も……」

 

「リスナーの皆さんはどうです~?」

 

:聴きたい!

:やってくれ!

:信じてるぞぺす

:さぁBGMを消してくれ

:乗れぺす! 立ち止まるな!

 

 そういえば俺が某汎用ヒト型決戦兵器パイロットのネタをしたときにも、事前に仕込みをしていたようなやり取りが萬屋ぺすとと黒宮院みやみの間にはあったな。

 

 裏で行われているチャットでも交流がありそうだし、この2人のコラボ配信でも結構仲良くしている姿が見られる。箱内に歳の差はそんなにないけど、一応2人はVNIVEARTHの社会人女性組だしなぁ。

 

:無理強いすんなクソ女

 

 コメントを視認、即座にアカウント名を確認、さっきと同じ名前、じゃあもうミュートだ。

 ただの荒らしではないのもあって完全に消してしまうのは申し訳ないけど、印象の悪いコメントはない方がいい。心苦しい気持ちがないでもないが、平和が一番だ。

 

 削除。メニューを開いて消し去ってしまおうとして――

 

「ほらぁ♡ (みんな)ぺすと先輩の良い所、見たいですって♡」

 

「しょ、しょうがないわねぇ……。ん、んんっ。

 すぅ――

 

 ――にゃぁお♡

 

 いやすごいノリノリだし。

 

 ちょっとびっくりした。なんか嬉しそうでさえある。

 

:ぺす……!!

:信じてたぞ

:ツンデレかよ

:耳が幸せ

:一生の悔いなし!

:茶番w

 

「んん……、意外と、上手くいかないものね? もっとこう、みやみちゃんがやってた時はゾクゾクする感じあったわよね。なにかコツとかあるのかしら?」

 

「ふふふ~♡ ぺすと先輩も興味あります? 今度コラボ配信で、練習♡ しましょうか♡」

 

「は、恥ずかしいのは無しね……!」

 

:恥じるぺすもまた良き

:マ!?

:そんな夢みたいな配信が来るのかよ

:VTuberじゃんよ

:初期からはこんなのがあるとは想像できなかったぜ

:古参アピうっざ

:いつやるんだ!?

:今日やれ

 

 感染者のコメントで勢いがすごいことになっている。哭泣員に感染者、VNIVEARTHの二大癖つよリスナーだな。あの未来じゃこんなリスナーぐるみの交流は――なんか俺も古参ヅラしてるな。なんか恥ずかしいから控えよう。

 

:なんだ黒宮こいつ良い女だな

 

 うわ。消そうと思ってたアカウントが手の平返したコメントしてる。こいつ感染者かよ。同じ箱のライバーなんだから仲良くしてくれ……。

 

 それはそうと、実際のところ黒宮院みやみはライバーとしてとても良い人材だ。

 

 本人の破天荒なキャラクター性も相まって、他の面子を引っ張っていける立ち回りができる。

 俺の持論による配信技術を伝えたとはいえ詩星せるりはまだ発展途上だし、萬屋ぺすとは実力もあって頼りになるが黒宮院みやみのように強引に周囲を振り回すタイプではない。波羅劾ざくろはまだまだこれから。

 

 強引なキャラクター性を武器に場を回していく。それは俺がライバーとして箱内コラボでやってきた動きだ。彼女に同じことができるというなら、男性ライバーである俺がやるよりは彼女がやった方が良いだろう。

 

 ……これで薬さえやってなければ。

 

 少なくとも今はやってないと信じるとして、この先も、やらなければ。

 

 ――俺の役目も1つ減るんだけど。

 

 

「で。そろそろ話を戻しましょうか。えっと、なんだったかしら、ざくろちゃん?」

 

「あ、はい! VNIVEARTH人気投票です!」

 

 先輩として軌道修正をする。うん、萬屋ぺすとならこっちの配役が頼れる姉御らしい動きだ。箱コラボを行う上でバランスの良い組み合わせ。

 

 話が脱線していく内にいつの間にか消えていた資料が再表示される。

 

『号外!』『VNIVEARTH人気投票』『開催!!!』『10~18日』『19~31日』『1人2回!!』『やったぁ!』

 

:いやいいからw

:このノリVNIVEARTHだなぁ

:だいたい遠藤のせい

:良くない見本だぁ……

:やったぁ! じゃないのよw

 

 そもそもこの配信は、公式Tvvltterで開催を宣伝しただけであんまり目立っていないこの投票企画を改めておさらいするための配信なのだ。

 

「人気投票……公式Tvvltterで告知があったやつですね。先週しれっと」

 

「VNIVEARTHの公式Tvvltterって思ったより影が薄いですからねぇ……。リスナーの皆様はぁ、これ、知ってましたかぁ?」

 

:知ってた!

:早く投票させろ

:知らん

:遠藤がやたら情報を出し渋るやつね

:絶対何かある

:俺たちでペすを優勝させるんだよなァ!?

:今知った

:1人2票は少ない

 

 コメントの3~4割くらいには知らなかったというものが見受けられる。

 

 それもそのはず、現段階でリスナーに公開されている情報は、人気投票が開催されるということと、その投票へ向けたアピールタイム的な配信が1人ずつ行われるという日程が表記されているだけ。

 

 要となるアクリルキーホルダー作成に関してはまだ一切発表していないのだ。

 

 投票に備えて個別の配信企画をするのに、事前投票だけで順位が固まってしまうと何も盛り上がらないから、あえて情報を伏せたままにしている。

 こういう時にすぐ詳細を説明するのが俺なんだけど、今回は個人配信でも少し触れる程度にとどめていた。

 

 つまりここからが、非公開情報を取り扱うという情報屋らしいリーク配信なのだ。

 

「うちの情報だとですね――

 

 ――見事1位に輝いたライバーには、特典としてアクリルキーホルダーが作成されるんです!」

 

「「「な、なんだって~!?」」」

 

:茶番w

:いや初耳だが

:ガチリークで草

:マジ!?

:グッズ化!?

:いやさっきからコントなのよw

 

 流れとしては、まず投票の告知だけを行い、次に1位はアクリルキーホルダーが作られることまでを今日告知。そして後日、紆余曲折あってから全員分作ります! というのが筋書きだ。

 

 今日は8月10日の土曜日。VNIVEARTHライバーによる連日配信が始まり、その配信終了後から投票が可能となるこのタイミングで1位のアクキー作成までを告知する段取りとなっている。

 

 ……なぜか4人の楽しそうな掛け合いで盛り上がっていたけれど、まああまり義務的に告知するよりも有意義な会話だし、むしろその雑談がメインでもいい。告知なんかおまけだ。

 

「使用されるイラストは新規の描き下ろし。2等身、SDイラストでのデザインが予定されています!」

 

「アニメやゲームのグッズとかでもよくあるやつですね」

 

「アクリルキーホルダー。アタシたちのグッズ化……! うぐぐ、グッズ化されたい……というか欲しい。けど1人だけなのね」

 

:ケチくせぇ

:全員作れよ無能運営

:無茶言うなw

 

「大喜利といい、私たちを戦わせようとする企画が続きますね……むむむ? ところでざくろさん。そのキーホルダー用のイラストは誰が描くんですか?」

 

「それはもちろん、うちらのママで──」

 

「負けられない理由ができましたね」

 

:おいw

:さっきまで乗り気じゃなかったのにw

 

 対立煽りしてくる運営とは。と俺も思うけど、なんだかんだリスナーは対立というか対決が好きだ。

 多人数のゲームで陣営に別れての対戦とかには需要があるし、VNIVEARTHもどこかで近しいことはやるべきだろうか……。

 

 でもリスナー同士での対立は避けたいし、慎重に考える必要がある。

 

 さておき。この情報の出し惜しみは、大喜利クイズ大会や某ペネキプロジェクトもあったりと、夏休みの企画が渋滞しているせいでリスナーの意識が分散してしまうのを避けるという意図があった。

 お盆期間をフルで使った9日間の連続配信として、この期間内に投票に関する情報を集中させて一気に盛り上がっていくイメージ。

 

 投票企画に関する情報をまとめる場として、波羅劾ざくろのVNIVEARTH INFORMATIONは今週だけ30分程度のものを3回ほど行ってもらう予定だ。

 

 先月デビューしたばかりの新人ということも考慮して、活躍の機会を増やした意味合いもあるんだけど、でも今のVNIVEARTHの中でフォロワー数は一番多いわけだし、必要なかった気もする。

 

「というわけで、今日から始まる人気投票に合わせて、1日1人VNIVEARTHライバーの配信があります!」

 

「フフフ。トップバッターはアタシ! 今日はこの後、アタシの枠で配信があるから、そっちもぜひ見て頂戴ね!」

 

 数日後にはアクリルキーホルダー作成が全員分になる茶番も挟むわけだけど、どうなるかな。

 

 これに上手くリスナーが乗ってくれるといいんだけど……。

 

 試行錯誤しつつも、予定通りに進んでいく企画たち。その一方で。

 

 

 この次の日。

 

 順風満帆なVNIVEARTHに、とある人物が襲来する──。

 

 

【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】四期生のデビューにともなって、二次投票の受付を開始します!! 現在公式Tvvltterにて公開されている画像は、制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)

  • 萬屋ぺすと
  • 佐土原恭子
  • 神海まりも
  • 詩星せるり
  • 遠藤
  • 黒宮院みやみ
  • 拳藤正義
  • 波羅劾ざくろ
  • 伊能凛
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