過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。   作:匿名

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#058 誰がおじいちゃんだ

 

:どうした

:体調不良とか?

 

 配信が始まる数分前。視聴者が集まるのを待つインターバルであるいわゆる待機画面には、配信主の身を案じるコメントがぽつぽつと流れていた。

 

 決して多くはない。本当に、ぽつ、ぽつと、一桁の視聴者数でコメント欄は1つずつスライドされていく。

 

 チャンネルの登録者数や、多い時の同時接続数などと比べてしまえば数字としては小さいかもしれない。だがそのどれもが思いやりや好意という善性からくるものであり、この悪意が潜むインターネットにおいて貴重な場面だと言えた。

 

:毎日配信しろ

 

 ネタとして無茶を言うリスナーもいる。

 これは親しみからくる軽口であり、こういったものにも温かさのような何かが無機質な文字に宿っているように感じる。

 

:儀式失敗

 

 茶化すようなコメントもある。いやいつもどおりのリスナーのノリだわこれ。

 

 このコメントの流れになっているのにも理由があるのだが、しかし実は少しおかしな話でもあった。

 

「──ようこそ。俺の名前はみなしごエンドレス。このVNIVEARTH(ヴニヴァース)の王になる男だ」

 

:お

:そうだね(笑)

:はいはい

 

 いつもの挨拶を、最近はこれが恒例となってきた呆れたような反応が迎える。

 

 同時接続数は8人。母数が少ないからこそ、これが俺という配信者のファンリスナーの、俺に対する共通認識の空気感だと見ていいだろう。

 

 特に企画があるわけでもないので当たり障りのないことを言うだけなのだが、そこへ1つコメントが目に付く。

 

:昨日なかったから心配した!

 

 最初期からいる古参リスナーのコメントで名前が目を惹いたのもあるが、それこそが待機画面に流れていた気遣う空気の理由でもあったのだ。

 

「あー、ごめんね。特に体調不良とか、トラブルとか、そういうのは一切ないよ」

 

:は?

:良かった

 

「むしろ予定調和というか、これが予定通りというか」

 

:ふざけんな

:人が心配してやったのによぉ!

 

 本日8月14日、水曜日。時刻は18時4分。

 

 俺が月に一度、定時に行う予告無しのゲリラ配信である。

 

 そして十数分程度、今日もよく頑張ったね明日も頑張ろうね、などと中身のないふわふわしたことを言うだけなのだが、この配信にも足を運んでくれるガチ勢とまでは言わないけど強めのリスナーが片手とちょっとの数いてくれることに驚きもする。

 

 しかも今日は14日。

 

 第2水曜日だ。

 

 俺が自己満足で行なっているこの突発的な配信は、第2火曜日というのが通例だった。

 

 俺自身が別段スケジュールとして公言しているものではないのだが、欠かさず同じ間隔、同じ時間に似たようなことをやっていたので、リスナーからはそういうものだと認識がされている。

 

 本当に意味のないものだと受け取る人もいれば。

 

 みなしごの決起集会だとする人もいるし、リスナーの忠誠心を測ってるとかやべーこと言う人もいる。風評被害。

 

 そして何かの黒魔術めいた儀式だとする人もいる。

 儀式失敗、というコメントはこれに起因する。

 

 本来ならば第2火曜である13日にこの配信があるのが暗黙の了解なのだが、それがなかったから心配する声が極小数だが上がってしまい、俺がそれに一切触れなかったこともあって、あろうことか他のVNIVEARTHライバーの配信にコメントするリスナーが現れてしまった。

 

 大袈裟なことはなにもなかったんだけど……。

 

 その配信枠の主である波羅劾(ハラアバキ)ざくろにも『連絡がないのは心配ですね』と話題に取り上げられてしまう。

 

 人気投票へ向けたプレゼン配信中のことである。いや最終的に全員へ副賞が与えられることになる出来レースとはいえ、そんなに自分の枠を犠牲にしなくても……。

 

 リアルタイムで詩星(うたいぼし)せるりに何か聞いてないかと通話が行われる始末。

 何で詩星せるりなんやと思ったが、俺と同じ二期生で同期だからか。

 

『し、仕方ないからせるりちゃんに掛けてもええかなぁ……。ええよね、緊急事態やし緊急事態。わぁせるりちゃん、掛けてしまおか。配信中ですって先にメッセージ送って……いや話したいだけとかそういうのやあらへんよ。でもこういう理由がないとなんか掛けにくいし』

 

 とかなんか色々言っていたが、まあ当然の如く詩星せるりも俺から何も聞いていないし、そこから他ライバーへの状況確認が始まってわちゃわちゃ。

 

 人気投票へ向けた配信ということで、波羅劾ざくろによる自己紹介を兼ねた、波羅劾ざくろらしい配信として行われるはずの配信が予定されていた。

 

 人気投票の途中経過や、改めての説明をするはずだったのだが、そのコンセプトを放り投げてみなしごエンドレス捜索隊というあわやVNIVEARTHライバー全員コラボが始まるところだった。

 

 俺に直接聞けばいいのに、あるいはマネージャーとしての俺に聞けばいいのにとも思ったけれど。

 

 まあ良いプチ話題でもあるし、ライバーだけで解決しようとする姿をリアルタイムでリスナーが見守るというのも体感型コンテンツとしての魅力だな、と思い直すきっかけにもなった。

 

 なんでも俺がすぐに解決するのも味気がない。予定調和が続けばリスナーにも飽きが来るだろう。

 

 何気に、『情報屋』としての調査網だとかそういう話の運びになっていたのは面白いと思ったし。

 

 ちなみに、ライバー達で意図してそうなったのではなくただノリや流れで俺に聞くという選択肢が出てこなかっただけという。

 

 つか俺がモデレーターしてるんだし、その様子を最初から近くで見ていたというのもオチか。

 

 もっと言えば、偶発的にVNIVEARTHライバーが全員集結しそうになったのに社長の名前は一度も出てこなかったというのもオチである。

 

「俺のこの配信が今日なのは、お盆進行だったからだよ」

 

:えー

:適当かよ

 

 いや、まあ。事実なんだけどね。

 

 自己満足。ゆえの。

 

 8月はお盆中になるので、諸々の都合でずれて水曜になっていたはず。

 

「生きていれば色々あるよね。夏だし、暑いし。体調は崩してない? 忙しかったり、疲れることもいっぱいあると思う。

 俺にできることもそんなにないけど、まあ今日はゆっくり休んで明日からも頑張ろうね」

 

:おい

:まとめるな

 

 現在の視聴者数は少し増えて14人。両手の数を超えてしまったか……。

 たぶんだけどほぼ皆勤賞が2〜3人いる気するし。

 

 こんな予告もない短い配信にも来てくれるのはありがたいんだけど、同時にどこか申し訳なさもある。

 

 人柱的な活動をするために生まれたみなしごエンドレスというVTuber。

 みなしごエンドレスに好感を持ってくれて、支持してくれるリスナーを大事にするというのは、本来の人柱という目的の弊害となりかねない。

 

 今来てくれているような14人の視聴者の中にきっといるのだろう、今増えて15人か。

 SNSなんかで、俺がやられ役をすることを良く思わないと呟いたり、俺をやっつけた相手を悪く言ったり。

 

 基本的に俺が悪役として奇行に走って、因果応報として成敗される構図にしてるんだけど、どうしてもファン心理というのは擁護してしまいたくなってしまうものなのだ。

 

 俺が無駄に導線を集めてしまい、分不相応な人気を得てしまったのが失敗だったとも言えるが……。

 

 ヘイト管理には気を配ろう。

 これが茶番であると、これがお約束であるというのをもう少し別の方向で伝わりやすくできないか。

 

「悪かったって」

 

 軽口を交えじゃれるようにしながら、適当に謝りつつ15分ほどが経過。

 

 そろそろこの配信は終わりでいいだろう。

 

 20時からは人気投票へ向けたアピール配信があるし、あまり長くしても不都合があるのだ。

 

 

   *

 

 14日。水曜日。本日のプレゼン配信は神海まりものターンとなるのだが、リスナーもご存知、神海まりもと言えば無言配信ということで狭いVNIVEARTH界隈では良くも悪くも有名である。

 

 彼女らしい配信を1時間となれば、また無言でFPSでもするんだろというのが大方のリスナーからの予想。

 一期生特有のほぼ動かないコピペ低予算モデルの上で、リスナーガン無視でゲームを続け、酷い時には舌打ちと台パンが発生する。

 

(※そういうのが良いと言うちょっと物好きかもしれないリスナーも少しいる。ボロ負けして唸り声を上げたら当たり枠となる)

 

 一般的なVTuberリスナー的にはあまり見どころはないので、前日にあった波羅劾ざくろの配信で付いた勢いは損なわれるかと思われたが、その決めつけは良い意味で裏切られることになった。

 

 驚愕と言ってもいい。

 

 というかこの日はまず俺が驚愕した。

 

 まず昼前。

 

 ──見知らぬ人間の、襲来。

 

 どこぞの業者が来て、VNIVEARTHの事務所にカーペットとソファが搬入された。

 

 ……????

 

 急にちょっとオシャレになった事務所を見て頷く神海まりもと、なんかドヤ顔の伊能凛。

 

 昨日2人で買いに行ったらしい。

 

 いつの間にそんな仲良くなったんだよ。

 

 話を聞いてみれば、働く環境を整えた方が社員も見直すだとか神海まりもが吹き込んだのだとか。

 

 ソファでくつろぎながらLIIVEメッセージで教えてくれた。

 

 俺をダシにソファ買わせたのかよ……。

 

 しかし、

 

『でもこれから他のライバーが来るのに何もないのは…… ٩(・ω・˘)』

 

 とメッセージが来てしまえば、俺に衝撃が走る。

 

 全くその通りで、所属ライバーが9人と集まるというのにも関わらず、椅子がいくつかあるくらいというのは準備不足だ。

 インテリアとしてカーペットすらないのは殺風景だし、これでは気軽に腰を下ろすこともできない。

 ライバーが並んで腰掛けて交流の場ともなるだろうソファくらいはあるべきだ。

 

 いつだか伊能凛に向けて心の中で言った言葉が、ブーメランとなって返ってくる。

 

 椅子くらい用意してから人を呼べ、と──。

 

 折りたたみ椅子で間に合わせようとしていた自分が恥ずかしい。

 

 俺は伊能凛とそう変わらなかった……?

 

 それはそれとして、調子に乗って他にも色々買おうとしていた伊能凛の散財を阻止しつつ。

 

 コーヒーメーカーなんか誰が使うんだよ。俺も社長もコーヒーあんまり飲まないだろ。

 ランニングコストもあるんだぞ。洗う手間もある。

 

 お礼と言うわけではないが、神海まりもへ今日のプレゼン配信に向けて立ち絵モデルを新しくしようと申し出るも、

 

『いらなーい (乂'ω')』

 

 と、いつもの反応。

 

 そして俺もいつものようにラフを量産して押し付けるのだが、いつものように不採用となる──

 

 

 ──それがなんと、そうはならなかったのだ。

 

 

 神海まりもの目の前で紙に適当に描いていると。

 

「それ!」

 

 急に指差してきたし、喋ったし、目が輝いてるし、色んな意味で驚いた。

 そのお眼鏡に適ったラフの内容も、どうせ却下されるからと冗談で描いていたものだったので、もう驚きしかない。

 

 謎に気乗りしたらしく、俺の隣に来て一緒にお絵描きする女子高生。

 まんざらでもない成人男性が、ここにいた。

 

 というか神海まりも、筆跡が配信の時と違うんだけど。明らかに配信の時より綺麗で、なんでも身バレ防止だとか。

 

 それから、動きは最小限だが塗りまではちゃんと進めたモデルを突貫で作成し、夕方には神海まりもver.1.1は実装された。

 

 興味を持った神海まりもは、実際にカメラに写してトラッキングを設定する工程にまで着いてきた。

 東京に来たといえども、1人であちこちをふらつくことはやめて欲しいと条件を付けていることもあって、実は暇だったのかもしれない。

 

 使う本人の顔で設定をするのが一番確実だろうし、急拵えながらも表情の感度は一番良いという謎の状況となった。

 

 

 というわけで。

 

 8月14日、木曜日──

 

 ──神海まりも、その受肉が、

 

 リスナーへの予告もなしに、行われる。

 

 

:えっ

:何これは

:まりも……?

 

 始まった配信は、待機時間という概念がなくすでにゲームを開始している。

 

 許諾という観点では推奨をしていない、別に俺としても禁止はしてないけどVNIVEARTHライバーは気を使ってくれてあまりやらない類のゲームを堂々とやる異端者。

 

 忙しなく動く画面に、これまた忙しなく動くLive2Dモデルが画面端にあった。

 

 ただしLive2Dと言っても一般リスナーは頭に疑問符を浮かべるかもしれない。

 

 VTuberらしい美少女の姿は、画面内に存在しない。

 

 そこにあるのは──

 

 ──緑の、毛玉。

 

 神海まりもがよく使う顔文字のような顔が描かれた、『まりも』のマスコットキャラクターであった。

 画面右端、画面の下を地面としてそこに居る、もしくは置かれているかのように、推定神海まりもは鎮座していた。

 

:えぇ……

:一期生のモデル新調こんなのでいいのかよw

:お前こんなんだったんだな

:そりゃ喋らないわな

 

 そうじゃないけど、そういうことにコメントではされていた。

 

:モソゾーとキッコ口を足して割ったような

:ヌーモ!?

 

 似たような外見のマスコットキャラが意外といるので好き放題言われている。

 

 それら大先輩方と同系統の緑の毛玉に、

 

 ٩('ω')و

 

 の顔が描かれており、なんかヤケクソにその顔文字の手足をつけて両手を掲げている。

 

 つまり、

 

 ୧('ω')୨

 

 である。

 

 トラッキング用のカメラに映る神海まりも当人の顔の向きと同期して顔が傾き、手が無駄にばいんばいんと暴れまわる設定にしてあって、視覚上とても喧しい。

 

:でんでん太鼓みたいで草

:ちゃんと顔も動いてるの笑うわ

 

 神海まりも本人がこれが良いと気に入ったというのがモデル作成に至った理由だが、多少の戦略も少しはあったりする。

 VNIVEARTHには、マスコットキャラクターというものが今も未来もいなかった。そういう要素ではちょうど良かったのかもしれない。

 

 ただし。その画面上に映るものが彼女の全てではなかった。

 

『神海様、全体を映してくれませんか?』

 

 メッセージを送ると、無視された。

 

 今俺はお前の後ろにいるんだぞ。肩を叩くと、渋々OBSを操作してモデルを上にスライド。

 

 すると、まりも玉の下にくっついた少女の立ち絵が現れる。

 謎の緑玉は、少女のキャラクターの頭に貼り付く形で一体化したモデルとなっており、ここまでの配信では、その上部部分だけを配信画面に映していたのだ。

 

 これがまりも本体として俺が勝手に付け足した、VTuberらしい少女キャラクターである。

 

:美少女で草

:寄生されてない?

:下のはほぼ動かないのかよw

 

 基本ジト目で、緑玉と一緒に傾く程度しか動かないが、幸薄そうな美少女キャラクターであることに違いはない。

 これで神海まりもにも、ちゃんとしたガワができたと言える。

 

 VTuberへの評価は外見が7割くらいだ。これでみなしごエンドレスとゲームやら企画やらで対決してフルボッコにしたとしても、今ほどに文句を言われなくなるだろう。

 

 たぶん。

 

 そして、だ。

 

 何よりも驚きだったのは、この日の神海まりもは30分ほどでゲームを中断した。

 驚くべきことに、なんと、メモ帳ソフトを用いてユーザーと交流を始めたのだ。

 

 入力した文字でだが、ここ数日のことをリスナーに語る雑談をしている。

 

『今はお盆で祖父の家に来てる。色んなもの食べさせて来て大変 ٩('ω')و』

 

 祖父……?

 

『茎わかめが意外と気に入った ( 'ω')و 』

 

:おじいちゃんwww

:海藻の共食いやんけ

:わかめと言えば遠藤に無限に食わせてたのが

:そんなこともあったなw

 

『うちのおじいちゃん、手洗え手洗えってうるさくて ('ω')』

 

:ジジイ……

:割といるなそういう老人

:おじいちゃん ٩('ω')و

 

 誰がおじいちゃんだ。

 

 この日、VTuber神海まりもは本当に意味でデビューしたのだと、VNIVEARTHリスナーの間では語られることとなる。

 

 

【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】四期生のデビューにともなって、二次投票の受付を開始します!! 現在公式Tvvltterにて公開されている画像は、制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)

  • 萬屋ぺすと
  • 佐土原恭子
  • 神海まりも
  • 詩星せるり
  • 遠藤
  • 黒宮院みやみ
  • 拳藤正義
  • 波羅劾ざくろ
  • 伊能凛
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