過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。 作:休憩中:たぶん次回7/20
配信開始時よりその前、待機画面から予兆はあっただろう。
佐土原恭子というVTuberは、元々配信に対してこだわりというものがない。夢や憧れといった、熱心な活動をするための目標や信念、動機がそもそも希薄なためだ。
配信回数も、時間も、内容も。彼女にはVTuberとして成功を収めようという野心というものが、ない。
よって佐土原恭子というVTuberを特筆する要素はないし、質も褒められたものではない。
なんとなく雑談をするだけであって、クリエイターやエンターテイナーとしての向上心という概念はないのだろう。
そして俺はVNIVEARTHを不祥事とは縁遠いものにしようと志してはいるが、規律として精力的な活動内容を強制するつもりはないので、無気力な姿勢についてはそれもまた良しとしている。
元々そういう人物だったのか、VNIVEARTH初期の杜撰さに嫌気が差してやる気を失ったのか、心の奥底にある真意は不明だ。
少し話した感じだと、本当になんとなくオーディションに応募しただけ、という説が有力だけど。
長い茶髪、黒い目。モブをテーマにしたのかと思うほどに無難すぎるキャラデザ。
最初期の萬屋ぺすとや神海まりもといった一期生のモデルには、身体のパーツさえも使い回されており、そして動きも少ない。
唯一特徴と言えるのは、とってつけたようなエプロン。だがそれはたった1枚の画像パーツで表現されるハリボテで、身体を隠す面積が多いことによって衣装パーツと作業工程を省略しているようにしか見えない。
質の低いデザインとモデル、計画性のない配信、人気を得ようとしているとは到底思えない活動内容。
ゆえに背景画像もシンプルなフリー素材を表示するのみなのだが、そのはずだったのだが──。
8月15日木曜日、この日の待機画面は違っていた。
:tst
:おや
:ロゴあるやん
:??
佐土原恭子。
これまでの彼女の配信にはなかった、VTuberの配信の配信には大体あるはずの名前ロゴが、やっと実装されたのだ。
それだけではない。
待機中に表示されている背景画像も、今までのフリー素材ではない。
シンプルではあるが、植物をイメージした意匠が添えられた、それっぽいものになっている。
配信が始まると、画面が切り替わる。
それは異常だ。革命だ。
彼女を知るリスナーであればあるほど、配信が進む度に驚くだろう。
佐土原恭子の配信中に、画面が切り替わるだなんて──。
待機画面から一転、表示されたのは室内を写す背景イラスト。
なんと。驚くことなかれ。ちゃんとした背景素材なのだ。
そんな本来ならば当たり前のことが行われたのを大げさに表現するのもここまでだ。
彼女のことをある程度理解している者は勿論、なんかVNIVEARTHにいる娘だよね程度にしか把握していない者でも、驚くべき構図が画面には映っていた。
VTuberのライブ配信。それはつまり配信主であるライバーは画面内にいるのが当然だろう。
配信画面中央、そこには。
──ピンク髪!!
──赤い瞳!!
誰も知らない、何者かが、いた!!
:??
:いや誰?
:マジで誰だよw
:ゲスト?
知名度が低いことによる『誰?』と同じような文面のコメントが飛び交うが、込められた意味はおそらく異なる。
心からの、『誰?』。
──そして、何よりも。
:デッッッッ
:うわ
:でかすぎて草なんだ
:顔よりあるぞ
:えっど
──デカい!
何がとは言い難いが、男性向けVTuberのキャラクターデザインとして重要な一部分が、
とにかく、大きかった。
:つか太くね?
:太い
:太くねぇって!
:いや太いから!!
:誰なの……
なぜか佐土原恭子の配信に映り込んだ、派手なピンク色でやたらと色々でかい、サキュバスと言われても納得できる相貌。
謎の緊張を感じさせるコメント欄を他所に、何事もないかのようにその人物は声を発した。
「皆さんこんばんは。佐土原恭子よ。VNIVEARTHのお花屋さんをしているわ」
:草
:マジでか
:お前佐土原だったんか!?
:性的すぎる
:別人過ぎじゃろ……
:ヴニどうしちゃったんだよw
そう。
配信画面に映っていたのは、変わり果ててしまった佐土原恭子だった。
リスナーの知る佐土原恭子の姿は、どこにもない。
:えっど
:これダメだろ
:露出は少ないからセーフ
:ムチムチ過ぎる
:デブじゃね?
:エプロンを押し上げる表現。相当な癖の持ち主と見た
:鎖骨の下にほくろがあるねぇ
:あえてのジーンズか
ピンクの長髪に、赤い瞳。ニットのセーター。
花屋を名乗る由来であったエプロンは、包まれた身体によってパツパツになっている。
ジーンズもまた同様。肌の露出が少ないことに反して、浮き出る身体のラインが一種のフェティシズムを体現していた。
足の太さ、がキャラクターの魅力として広まり始めたのは、2018頃が一つの区切りだと思う。
現在2019年、これからコロナの巣ごもり需要もあってより浸透する癖であるが、俺は実験的にそれを導入することにしたのだ。
結局、男は胸部が大きい方が好きだ。賛否は勿論あるし、邪道とも取られることもあるだろうが、なんだかんだ大きいのも人気の要素である。
昨日の投票アピール配信では、神海まりものLive2Dモデルが急遽リニューアルされた。
これにより唯一佐土原恭子だけが初期モデルを使うということになってしまい、大喜利コラボでも1人だけが低クオリティのモデルでいることになってしまう。
事態を重く見た俺は、大急ぎで佐土原恭子の新モデルも仮実装することにしたのだった。
事態を重く見た結果、キャラデザも重くしちゃったね、と。
「このモデルは、ついさっきまで調整をしていたらしいわ。まりもさんが新しいモデルになったから、私だけそのままなのも良くないからって」
:へー
:運営乙やで
:あ! 遠藤の作業配信!
:それかぁ
:モデルの調整は遠藤の仕事か
:遠藤ナイスゥ!
そうなのである。
今日の昼過ぎから行われていた作業配信は、集中力を切らし始めた俺が気分転換に行なったものだ。
時々リスナーと会話をしながら、カメラに向かって笑いかける成人男性がそこにはいた。そして画面には彼女のモデルが映っていると。
……。
トラッキングのためである。作業配信中のみなしごエンドレスが動かなかった理由だ。
二期生以降の完成モデルには遠く及ばない仮組みのものではあるが、現在の萬屋ぺすとや神海まりもの使っているものと同じ段階に相当するものを無理矢理でっち上げた。
しかしこのデザインになるまでに、必要な過程を少し飛ばしている。
一期生に新しいモデルをデザインする際には毎回本人にデザイン案を送って了承を得ていた。
だが佐土原恭子の場合、配信をしないから他の人を優先して欲しい、別にリクエストはない、とのことだったので、とりあえず勝手に作ってしまった。
それから試しに使ってくれという形でモデルを送り、不快感はないようだったのでサプライズ的に配信で実用化したのだった。
元はキャラクターとしての個性が少ないデザインだった佐土原恭子。
演じる当人も特に元デザインに愛着があるわけでもなさそうだったので、いっそのことと思いヤケクソで王道(?)な方向に盛りまくってみた。
性欲的に王道、というか。
よりキャッチーなデザインを模索するための、練習とでも言うか。
シンプルイズベストという言葉があるように、元の地味さが良かったという人もいるかもしれない。
それに関しては申し訳ないので、反応を見て戻すかどうかは決めようと思っている。
:胸が揺れとる
:でっっっっ
:某麻雀アニメみたい
:どんどん胸が大きくなってるあれね
:国士無双和了ってたなそういやw
:みなちゃん壊れちゃった……
……あれ。
コメントを見ている俺の内心に冷や汗が垂れる。
このモデルをデザインしているとされる人物が、また性癖の理解者として認識されようとしていた。
黒宮院みやみの黒髪和服で、髪の毛フェチを想起させ。
波羅劾ざくろでピアスばちばちギラギラおねーさんを叩きつけた。
そして──
──淫乱ピンクむちむちのほほんお姉さんをお出しした、と。
名前を借りたとある少女への風評被害が酷い。
VTuberというジャンルが一見の華々しさとは相反してその実、インターネットの欲望とか本来の客層による需要によって下品さと隣り合わせであることが、弊害となる。
:ざくろをデザインしたみなちゃんだぞ
:師匠と呼ばせていただこう
:俺らの同志よ。
:ふっ、おもしれー女
なんか、ごめん……。
え〜……。ちょっと嫌かも。
そうだよな、俺が悪い……。
配信主である佐土原恭子よりもキャラデザのminaに関する話題が少し続いてしまうのだが、佐土原恭子の方もまたマイペースなもので、普通に投票について話し始めるし、普段通りの配信としてマシュマロを読み始める。
「相談が来ていたみたいね。送ってくれた人は来ているのかしら……?」
まあ、モデルを変えて待機時間や画面の切り替えを教えたところで、中身の企画がすぐ充実するわけでもない。
それからのんびりと、マイペースに話をして彼女のターンは静かに終了した。
ちなみに、ファンアートは微増することになる。
黒宮院みやみ:キョーコちゃんが……;;
*
慣れない電車に揺られて、アタシは初めての場所に向かっていた。
期待や昂揚感にちょっと高鳴ってる胸。なんか思ったより乗り換えもないし、もっと早く来ればよかったわね。
駅に着くのを待っていると、他の乗客の声が聞こえてくる。
「この辺たまにSPがいるんだよな」
「知ってるそれ! クソ暑いのにスーツで、お嬢様の護衛してる奴がいるって」
「そ。めちゃくちゃこえーんだって。近づくとありえんくらい睨んでくるとか。絶対アレ系の人じゃん」
へえ、そんなのもいるのね……。気をつけないと。
電車を降りて、現在地を改めて確認。スマホを操作し、メッセージを送る。
『着きました!』
宛先はマネージャー。すぐに返信は返ってきた。
待ち合わせに的にした場所を指定され、そこで合流する。
「お待たせしました。ご足労ありがとうございます」
暑かったでしょう、そう言って、ペットボトルに麦茶と紅茶を差し出される。
実際に会うのは初めてね……。
南條亜紀人。アタシの頼れるマネージャー。
え、若くない……?
ビデオ通話の映像よりはっきりと見える容姿に驚く。
待って、えぇ……。ア、アタシのいくつ下かしらこれ……。声は若々しいと思ってたけど、そんなに変わらないと思ってたのに……。
というかこの真夏でもスーツなのね。普段の印象的に違和感はないけど。
「では、事務所へご案内します」
「ええ。よろしくね」
わ。平然と車道側を歩いてくるし。なんか、すごいわね……。
8月16日金曜日。今日この日、アタシはついに、VNIVEARTHの事務所へ訪れた。
お盆休暇、ようやく親族の付き合いが終わったので、オフコラボの下見として向かうことが出来たのだ。
駅から歩いて十数分。話しながらだったので、あっという間ね。
「ここVNIVEARTH事務所です」
付いたのはマンションの一室。
なんだかドキドキするわ。ここが、VTuberとしてアタシの所属する、事務所……!
手を洗う場所としてまず洗面所を紹介されて、次はいよいよオフィスへ──!
「──神海様、こちら頼まれていたミルクティーです。それからロールケーキと、柿の種、あたりめ。あと茎わかめも入っています」
「ありがと」
み、貢いでる……。
あとでラフ画のやつ更新します。佐土原恭子の容姿は変更されました。
【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】四期生のデビューにともなって、二次投票の受付を開始します!! 現在公式Tvvltterにて公開されている画像は、制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)
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萬屋ぺすと
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佐土原恭子
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神海まりも
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詩星せるり
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遠藤
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黒宮院みやみ
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拳藤正義
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波羅劾ざくろ
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伊能凛