過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。 作:休憩中:たぶん次回7/20
「こちらは
恭しく頭を軽く下げるようにして、手で指し示すように紹介をしたのはアタシたちのマネージャーである南條亜紀人さん。
ダークスーツに白いワイシャツ、グレーのネクタイ。シャツのボタンはきっちり一番上まで留められていて、ネクタイも堅く結ばれている。
少し大袈裟な口調や振る舞いは、
『アンタどこの執事よ……』
と思わず冷ややかなツッコミを入れたくなるようなものだ。事前の通話でそういう人だと知っていたから、そこまで違和感はないんだけど。
紹介されたのは美少女だった。
フリル系の白いブラウスに、黒の……これはジャンパースカート? って言うのかしら。
華やかさとフォーマルを兼ね備えたコーデと、真っ直ぐに伸びた背筋や思慮深そうな表情は、
『って、どこのお嬢様よ!』
と思わずツッコミを入れたくなるようなものだった。
受け取ったビニール袋を机に置くと、流麗に立ち上がる。こちらもなんか大袈裟な動作で、スカートの端を摘んでお辞儀する。いわゆるカーテシーだ。
こっちの娘もノリノリなのね。
「……。
──って、まりもちゃん!?」
思わず驚くアタシ。一方でまりもちゃんはこくりと頷いて見せる。
「ま、まりもちゃん……? え、えぇ……? まりもちゃん??」
この、やたらと端正な顔立ちで、肩まで伸びた艶髪を今にもなびかせそうな、いかにもお嬢様みたいな美少女が、あの神海まりも……?
困惑していると、まりもちゃんがスマホを高速で操作し、アタシの元へ通知は届く。
『まりも٩('ω')وがあなたを「VNオフコ…」に招待しました』
グループ名は『VNオフコラボ現地組』。LIIVEの招待だった。
「……」
「……」
「……」
アタシ、推定まりもちゃん、南條さん。3人揃って少しの無言。
「まりもちゃん、なのね……?」
『YES! ٩('ω')و』
まりもちゃんだわ……。
「ははは。こちら正真正銘、神海まりも様です」
南條さんからのお墨付きまでいただいたところで、まりもちゃんが退室。着替えてくるとのこと。
今のがやりたかっただけみたい。
えぇ……?
「改めまして、突然の企画にご参加いただきありがとうございます。
南條さんはそのままの服装なのね……。
「……あ、一応こちらの椅子でも大丈夫ですよ。ただ私が普段から長い時間座っている椅子ですので、あまり好ましくないかと思いまして」
アタシの視線に何かを察したように説明されたオフィスチェア。そうじゃないし、そんな卑屈にならないでも。
キャスターを転がしてオフィスチェアを引き寄せ、選択肢に追加された。
というか、まりもちゃんがさっきまでそこに座ってたわよね……。
ひとまずソファに腰を下ろすことにする。
「驚いたわ。アタシはてっきり、せるりちゃんか、例の『みなちゃん』なのかと」
「すみません。神海様が一足先に来ていることは内緒にしようということになっていまして、少しの悪戯心だったのです」
マネージャーの話に相槌を打っていく。せるりちゃんは次の日曜日にこちらに来るそうで、みなちゃんについては不参加。彼女はクリエイター専門だし、基本的に在宅での活動だとのこと。
Live2Dモデルのリデザインに関して、アタシとリスナーからの要望をあんなに聞き入れてくれていて、今でも時間をかけて作ってくれている。
できれば直接お礼を言いたかったんだけど、極力表には出てこない人らしいので、南條さんの方から伝えてくれるということでお願いをする。
そうだ。その内せるりちゃんにも会うんだし、どんな人なのか聞いてみようかしら。
話題は予想外から現れた美少女、まりもちゃんに戻る。
「なんというか、仲良しなのね。前から知り合いだったとか?」
「いえ、会話──メッセージのやりとりをするようになったのは私がVNIVEARTHに入社してからのことです。実際に会ったのは、今週に入ってからですか……」
夏休みだというのを良いことに、今週の日曜日からもうここに泊まっているらしい。
高校2年生よね。羨ましいわ。
……?
あれ? まりもちゃんって、おじいちゃんの家にいるとか言ってなかったかしら? 茎わかめの……あっ。
マネージャーと話していると、程なくしてまりもちゃんがドアを開いた。
ややオーバーサイズの半袖Tシャツに、ハーフパンツ。ポニーテールになった髪型が健康的で、一気に休日の学生っぽくなった。
わ、若い……。眩しい……!!
頭の中で、萬屋ぺすとがあまりの眩しさに悶えている。みぎゃー。
まりもちゃんは軽く勢いを付けて南條さんの椅子に座り、椅子がちょっと滑る。「ウッ」と低い声を出しながら南條さんが椅子を受け止める。
南條さんは優しそうに笑っていた。子供好きなのかしら。
兄妹とかじゃないのこれ……?
……。
1人だけ1週間も早く来て、お嬢様ごっこしながら兄妹みたいにじゃれてた、ってこと……?
なんか。
ね。
ずるくない……?
「で、こちらが社長です」
「ひひゃあ!?」
思わず配信中にしか出さないような声が出てしまった。完全に不意打ちじゃない。
いつからいたのだろう。たぶん最初からいた。
南條さんが示す先、部屋の窓際席にはやや髪の長い男性が、呼ばれた通りに社長とかが座ってそうな革製っぽい椅子に座っていた。これまた整った顔立ちの男性。
なんだかボサついた髪と、
この無人島漂流3日目みたいな様相には既視感がある。
そうだ、これは──
「──ラ、Live2Dと同じじゃない!?」
おそらく社長と、マネージャーとを視線が往復する。マネージャーはどこか神妙そうに無言のまま頷いた。
まりもちゃんを見る。まりもちゃんも無言で頷く。わざとらしいような。
さっきから、コントじゃないのよぉ……。
配信でやりなさいよアンタたち。
南條さんが社長に耳打ちをした。普通にこっちまで聞こえる。
「社長、挨拶を」
「やあやあ。よく来たね。ボクがVNIVEARTHの社長、伊能凛だ」
配信そのままのトーンで喋る男がそこにはいた。
これが伊能凛のコスプレイヤーと言われても驚かないし、VTuber伊能凛がこの男のモノマネをしていると言われても納得する。
採用面接の時に少し通話をしたはずだけど、あの時の謎の威厳のような凄みはほとんどなかった。
あれは昨年12月。互いの顔も見えない通話越しに、これからお世話になるかもしれない未知の社長が、傲岸不遜に喋っている――あの時のベールはとっくに消え失せていて、VTuber事業を舐め腐ってリスナーからボコボコにされているダメンズが白目を剥きながら半ば自棄に勢いで喋っているようなイメージしかない。
┌(┌^q^)┐タスケテ エンド…
コメントの顔文字が脳裏に浮かぶ。誰よアンタは。
こう面と向かってみても、文句を言ってやろうという気にはならないわね……。
若気の至り、みたいなもので水に流すのがいいかしら。社長、南條さんと同じく随分と若い。代わりじゃないけど、今はとんでもなく協力して貰えているし。
ちらりとマネージャーを見る。こちらの視線に気づくと、力強く頷いた。
……何が?
まりもちゃんも高校生だし、ア、アタシがこの部屋の平均年齢を一段階は上げているのでは……?
VNIVEARTH社長。伊能凛。なんかやたらと顔はいいし、まりもちゃんといい容姿レベルが高くないかしら。南條さんも清潔感あってかっこいいし、平均値が高い。
「萬屋、ぺすとです……」
楽しみで落ち着かなかったり、緊張したり、驚いたり、落ち込んだり。
なんだか忙しい日だわ……。
*
現状VNIVEARTHにいる人員と顔合わせを済ませた後は、どことなくしょげている萬屋ぺすとを伴ってスタジオ内装を案内する。
案内とは言っても、奥の部屋に防音室があるだとか、機材の数とスペックだとか、その程度だ。
「事前にお伝えしましたとおり、やはりマイクやイヤホン・ヘッドホンは使い慣れたものを持参していただいた方がいいと思います。
ご負担をかけてしまいますが、よろしいですか?」
「はい。それくらいでしたら勿論、こちらもできることはなんでも協力します」
事務所に着いてから時間が経つにつれて段々と素が出てくるというか、萬屋ぺすとのキャラが剥がれてくる。
「な、なんか恥ずかしくなってきて……」
耳を赤くしながら目をぎゅっと瞑る社会人女性がいた。
最初の面接からビデオ通話を導入していた二期生以降と違って、一期生は抵抗があるだろうと互いの顔を映した状態での通話を行ったことはなかった。
誠意を伝えるためにこちらだけが一方的にカメラ映像を映すことが何度かあった程度。
元からこういう人だったのか、VTuberをやっている影響なのかわからないけれど、表情が豊かで可愛らしい人という印象だ。
彼女が本来志望していたという声優業も、声に感情を載せるためには表情にも出して演技するのが普通だろうし、そっちの名残なのかもしれない。
身長は神海まりもよりやや大きいが、流石に俺よりはだいぶ差がある。
カジュアルな無地に半袖トップスとロングパンツ。変に飾らない社会人らしい夏の格好だ。シンプルな腕時計が装飾として映える。
緩い規定のクールビスならこれで出社してそう。
制服のない接客業なら全然いそうだし、今いる面子でオフィスに並んだら間違いなく社員判定になる。
伊能凛はバイトの大学生くらいに見えるだろうし、神海まりもは誰かの親戚が遊び半分で見学に来たってところ。
「一番の問題は寝具についてですね。布団については新品を揃えましたが、すみません、正直女性への配慮に欠けている自覚があります」
「そんなことないわよ。全体打ち合わせでも夏合宿って雰囲気で伝わってるし、学生みたいでいいと思うわ。
むしろ全員分ホテルを用意するとか言われたら、罪悪感で居心地が悪いわよ」
企業としての収入もまだ確立してないんだし、布団だけでもちょっと苦しいくらい。萬屋ぺすとは、普段配信で見せるようなVNIVEARTHの頼れる姉御としてのからっとした表情で言う。
本物のぺす姉だなぁ。
「フフ。会社の黎明期、って感じでいいわよね……」
しみじみと、部屋を眺めながら目を細める横顔。
大手VTuber企業に初期から所属するライバーが、配信内の雑談で時々語るような設立間もない会社にありがちな思い出話。
萬屋ぺすとも、そういった雑談を聞いたことがあるのだろうか。
あの未来でVNIVEARTHの最期まで在籍した彼女は。
そういう話が、できたのだろうか。
答えは、想像に、難くない。
微かに、セミの鳴き声が聞こえる気がする。東京と言っても、全くの都心というわけでもない。
新宿や秋葉原、お台場だの下北沢だのコミケ会場だのに行くにも、乗り換えだなんだと気軽でもない微妙な立地。
少し寂れたマンションの1階が1室。冷房機器によって暑さはないけれど、窓から差す陽だとか、この空気感が示している。
「夏ですね」
「ええ、夏ね」
「学生が終わってしまうと、夏休みも来なくなってしまいますから、特別な感じは薄れてしまいますね」
「なによぉ、ジジ臭いこと言っちゃって」
「毎日がどんどん早くなって、気づいたら時間が経っていて……」
「ちょ、ちょっと!? 急にこっちに刺してこないでちょうだい!?」
ああ、そうじゃない。そうじゃなくて。
冗談半分に震えだす、萬屋ぺすと。
26歳で社会人をしている、仁科桜子さん。24歳で死んで過去に戻って、2年目を過ごす俺とはちょうど同い年の計算になる。
それが伝わることはないし、なにより。
彼女の身の上話も聞いたこともあり、どこか親近感を勝手に抱いている部分もあるんだけど、社会に出て年月を過ごした彼女と、病室に閉じこもっていた俺と同じにしてはいけないだろう。
「夏企画のコンセプトは覚えてますか?」
「ええ、夏の特別な夜、だったわね」
「はい。夏の夜の特別な空気感を、リアルタイムでリスナーと共有する。夏休みを過ごしている学生たちが――
――子供たちが。
大人になってからも思い出せるような、夢のような時間になったら、それが理想です」
「子供、好きなの?」
すぐさま問いかけられて、少々怯む。
「……そう、かもですね」
笑って見せる。
思い浮かべた子供の姿は、1人だけだけど。
「でも、ですね。子供だけじゃないんです。もちろん大人のリスナーにだって楽しんで欲しいですし、全てのリスナーに楽しんでもらえるのが、エンターテイナーとしてのVTuberというものでしょう」
これは綺麗ごと。前置きで。
本題に備えて、俺は息を吸い込んだ。
「――ライバーの
萬屋ぺすとは驚いたような顔をして。
目を細めて、微笑んだ。
「今、『俺』って言ったわね」
「……」
「フフフ。ね、アタシとの通話の時だけ素で話してみない?」
「すみません、忘れてください」
「どうしよっかな~、言いふらしちゃおっかな~」
「萬屋様」
「フフフフフ~」
*
「今日の大喜利配信は、スタジオから参加しますか?」
「ええ。迷惑でなければそうさせてちょうだい」
「何か軽食は摂りますか? 20時からだと少し間が空きますよ」
「大丈夫よ。執事じゃないんだから……」
苦笑。つられて俺も苦笑する。
「では配信の後ですが、社長と神海様と、ここにいる全員でどこかに食べに行きましょうか? それか何か出前でも……」
「え、うーん。それは他の人に悪いかも。VNIVEARTHライバー全員が揃った時の方がいいんじゃない?」
「そうですか……、神海様も喜ぶかと思ったんですけど」
ならば、と最後に提案する。これで断られたらさすがに迷惑だって事だろうし、素直に引き下がろう。
「せっかくですので夏らしいこと、していきません? そうめんくらいしかないんですけど、茹でますよ」
「……いいわね」
今日の夕食は、そうめんに決まった。
【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】四期生のデビューにともなって、二次投票の受付を開始します!! 現在公式Tvvltterにて公開されている画像は、制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)
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萬屋ぺすと
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佐土原恭子
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神海まりも
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詩星せるり
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遠藤
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黒宮院みやみ
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拳藤正義
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波羅劾ざくろ
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伊能凛