過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。 作:匿名@8/8も投稿あったよ
「やあやあ、よく来たね。
お馴染みの時間。になってるといいなぁ……な20時。8月17日土曜日、このVNIVEARTH毎日配信の8日目、8人目は我らが社長、伊能凛であった。
毎日同じ時間に1人ずつ配信するというリレー形式であることから、視聴を習慣的にすることで視聴率の増加、知名度の増加、と目論んできたわけだけど、最終回一歩手前のここにきて満を持して登場するのがVNIVEARTHの炎上柱、あの悪名高い社長、伊能凛である。
悪名(笑)
まぁ彼の番というのも避けられないフェイズなんだけど、この順番での登場が良いか悪いかはわからない。
ぽつ、ぽつ、とあるVNIVEARTHライバーの配信切り抜きに混ざって、社長の失言まとめみたいなのが割と目立つサムネイルで鎮座している。あれがどこまで真に受けられていて、伊能凛=悪と認識されているかは正直掴み切れていない。
悪と見られているから配信に人が集まらないのだと考えることもできるし、普通につまらないから人が集まらないのだとも考えられる。どう見るかだ。
感染者の何人かが過剰に叩いているだけだとも見ることはできる。社員でありライバーだという男が、どちらかというと
しかし動かぬ証拠であるとして、一期生の手抜きすぎたアバターという事実が陳列されている。
:来てやったぞ
:遠藤いる?
:株だけしててどうぞ
:社長の服装じゃねぇよw
視聴数は100を超えたり割ったりを行き来する程度。男だし、あの社長だし……で大幅に減ることも想定範囲だったけど、悲観するほどは少なくない数。
まぁまずまずの視聴数があっても、配信開始の挨拶でリスナーが喜ばないのは珍しいというか痛々しいというか。
:遠藤は?
:相方呼んでほら
「エンドか……。残念ながら、エンドは今日はいない。ボクを置いてさっき出て行ってしまった。事務所内のどこにもいない。この企画では毎日1人ずつ配信してるんだから、今日は1人でやるようにと言われているよ」
今現在、VNIVEARTHのスタジオには伊能凛しかいない。滞在している
:あっそう
:解散
:【悲報】社長、見捨てられる
:┌(┌^o^)┐タスケテクレ エンド…
茶化すコメントが流れ、視聴者数が減る。いやもうちょっと待ってやれよ、薄情すぎないか。
早めに見切った方が良いだろう、俺はサブプランを決行する。しなくてもいいし、しないまま進行できるのならそれがいいと思っていたけど、した方がいいなこれ。
dlscordの共通チャットにメッセージを送信して、ライバー全員に指示を共有する。
「代わりに、今日はエンドから指令を渡されている。ノルマ。ミッション。エンドがボクのために、何をすべきかを記した封書を用意をしてくれた。直筆だ。
ふふふ。エンド、やっぱりキミは頼れる
:??
:マ イ ベ ス ト フ レ ン ド
:だっさ……
:┌(┌^o^)┐?
:社長の1人でやる配信おもんないし
:そうだろうってなんだよ
思わずサクラアカでコメント送っちゃった、そうだろうってなんだよ。いやマジで何。
「まずは封書1。これを今から開封するように言われていてね。ボクも中身がなんなのか知らない。楽しみだね、エンドがボクのために何を残してくれたのか」
:さっさと開けろ
:勿体ぶるな
:お前の腹を開けてやろうか
:こいつら仲良しかよ
さすがに死ねとか殺害予告とかのコメントは規制を入れつつ、社長の動きを待つ。雑談における尺稼ぎは俺の配信心得にもあるけど、このコメントの中で焦らす胆力はどっから来てるんだ。
「ええと……、ふむ、なるほど。これはボクも知っている。見たことがあるよ。……共有フォルダに画像があるらしい。準備が良いねエンドは。今もなんだかんだ見てくれているんだろう。
見ているかいエンド。画像を出すよ」
いちいちこっちに話しかけるなや。せめてリスナーに話しかけろ。……リスナーに話しかけてもすぐ失言するし、それならもうどっちでもいいか。
:社長さぁ
:なんか壊れてきてないか?
:もっと構ってあげて
:遠藤こいつの世話ちゃんとしてるか?
え。謎に見抜いたようなコメントがあってフリーズする。
確かに神海まりもが来てから社長との会話回数は減ってるけど、リスナー的にも俺とのコミュニケーション頻度が減ると社長の調子が悪くなるって認識されてるの?
顔を引きつらせていると、社長が画像を画面に張り付けた。
「エンドからの指示。これだ――」
ドンッ! 画面中央に提示された画像に記された無機質な文字。
始動して8ヵ月半、VNIVEARTH初の試みでもある。
:凸かよ
:何気にヴニでは初か?
:へー
:そう…
恐るべし、箱で初の試みだというのにこの盛り上がらなさである。
この人気投票へ向けたアピール配信は、そのライバーらしさを強調した内容というのを軽いお題として提示している。そのライバーの自己紹介として成り立つような内容を行うことで、改めてこのお盆を通してVNIVEARTHライバーの認知を広げようとしてのものだ。
社長と言えば、遠藤とかいう社員ライバーとの関係性と、その遠藤への謎の信頼からくる失言が特色だ。
俺への信頼からくる失言ってなんだ……?
伊能凛とは、純粋にライバーになりたくてライバーになったわけではない。
明確に配信でやりたいことがあるわけでもないし、配信経験がないからノウハウもないし、リスナーを盛り上げようという気概もないし、性別が女でもない。お世辞にもVTuberに向いているとは言い難い人間だ。
このプレゼン配信についても、何食わぬ顔でどうしようかと当然のように聞いてきた。伊能凛の特に見どころの無い回をトップバッターに起用して実質なかったことにするのも手だったけど、まあ俺にも社長の回としてやってもいい内容がなくもなかったので、プランニングを引き受けることにした。
社長の特徴、自己紹介、彼の持ち味、題材とすべきはとはなんぞやとなったときに、俺は『VNIVEARTHの社長』という属性を前面に出すことを選択した。
凸待ちという、VNIVEARTHライバーが全員参加する企画を以てして、VNIVEARTHの代表としてのバラエティに富んだ画面づくりにする。
これならば、伊能凛がVTuberになろうと思った動機にも近いし、社長という肩書きの印象にもそぐわないだろう。
何よりも、明日への布石でもあったりするんだけど。
:もう読めた
:凸できるほど人望が……あっ(察し)
:誰も来ないやつww
もちろんただの凸待ちにする気はない。すでにそれを察しているようなコメントがあって、リスナーは俺のこともわかってきている。
「凸待ちだ。フフフ。なんだかんだと、こうして、ボクを1人にはしないのがエンドなんだ。キミとの繋がりを感じるよエンド。ボクとキミの友情はエンドレスなんだね」
:あの……
:いやきついっす
:┌(┌^o^)┐
:狙いすぎでは?
:きっしょ
:わりと普段からこんな感じらしい(遠藤の雑談より)
機嫌を良くする伊能凛だけど、察していたリスナーがいたとおり、悪いがそんな簡単に充実した凸待ち配信には移行しない。
あんまり甘やかすと社長に好感触でない一部のリスナーが面白くないだろうし、配信的にもそれなりに山と谷があったほうが面白みがある。
「さて。……凸待ちか。……。それでエンド、ボクは何をすればいいんだ?」
:ちょっと草
:社長さぁ
:自分で考えろよ
:事前の連絡とかしてないんです?
:待つしかない
:凸「待ち」だからな
:遠藤も非情だよw
伊能凛のアバターが、右を見る、左を見る。困っているのが伝わる良い動きだ。この男にそういうテクニックをレクチャーしたことはないので、本当に困っているのかもしれない。
ここで放置するほど俺も悪趣味ではないし、配信がつまらなくなるので補助はするけど。
VNIVEARTHがまた変なことを始めた、つまらんと思ったけどちゃんとVNIVEARTHの配信だ、そんなリアルタイムの感想もSNSに見えた。増減している視聴者数の基準も10人くらい増えているし、この機を逃すのも惜しい。
数分は放置して、俺はLIIVEを使って社長に指示を送る。
「来た……! エンドからの指示だ。次の封書を開ける」
:社長ウキウキで笑う
:甘やかすな遠藤
:これがエンゲージリングですか?
:遠藤「ヴッ」
:みやみ「うっ」
2つ目の封書には『所属ライバーへ連絡の募集を配信上で行う。連絡があるまでいつも通りの配信をやって時間を潰す』とだけ書いてある。いつもどおりにやったらどうなるかは想像できる。
「指示に従おう。まずは募集だ。VNIVEARTHライバーの諸君、連絡をかけてくれ。
そして連絡が来るまで、ボクは普段通りの配信をして時間を潰そう。ボクが普段、配信でしていること。そんなものはないが、普段のボクは手慰みに株をしているね」
:暇つぶしの株で稼いで起業した男
:どんだけ儲け出してんだよ
:元手がでかいだけ説
:そのやりかたを教えろ
「そうだ。そうだね、ボクは以前、キミたちに言われて株のやり方講座を開いたことがあったね」
:あったけど
:56すぞ
:意味ないよあんなの
「仕方ないだろう。上がっているところだから買う、上がりそうだから買う、下がる前に売る。そうとしか言いようがない。他に説明のしようがないのさ」
:終わってる
:はい炎上
:解散
:俺また何かしちゃいました??
この男はこれで一度プチ炎上している。利益出してるっぽいのに、理論とかが特にないと言うのだ。どこか言葉に縛られない天才かのような雰囲気を出しているけれど、それを売りのキャラクターにするにはリスナーの好感度が圧倒的に足りていない。
「まあ、株を買う上で1つだけ参考にしている言葉があるけど、キミ達には秘密にしておこう。ボクだけが知っていればいいことだ」
:ざけんな
:それを言え
この男性というだけで不利な時代に、デビュー前から好感度を下げてこのムーヴはかなり無理があるのだ。ただのスカした男が嫌みを言いながらイキってるだけである。
どこから学んでこうなったか知らないが、伊能凛というVTuberはせっかく初動で得た登録者数を配信を行う度に少しづつ減らしているのだ。
伊能凛の理想は、まあ、ぶち壊そうと思う。ただスカしただけではキャラクターとして面白みはない。俺との仲良し営業もそんなに強い武器ではないのだ。
この男は――もっと汚れるべきなのだ。
盛り上がろうとしないコメント欄はモデレーターとしては楽だけど、このままにするわけにもいかない。次の火薬を投じるメッセージを送る。
:┌(┌^q^)┐ タスケテ エンド… ┌(┌^q^)┐ タスケテ エンド… ┌(┌^q^)┐ タスケテ エンド… ┌(┌^q^)┐ タスケテ エンド… ┌(┌^q^)┐ タスケテ エンド… ┌(┌^q^)┐ タスケテ エンド… ┌(┌^q^)┐ タスケテ エンド…
:酷い弾幕だ
:コピペ荒らしは遠藤が嫌がるよ
:ネタだし怒らないと思う
「キミたち、静かに。エンドからの指令だ」
静かにってなんだよ。ツッコミどころのある発言だと思ったので、
:静かにする意味ってなんだよww
「……事務所のデスク、引き出しにエンドから贈り物があるらしい。行ってくるよ」
:行ってこい
:戻ってくるな
:これ何の配信?
足音が遠ざかり、近づいてくる。戻ってきた伊能凛は、ザラザラという音をマイクに乗せた。
:クソASMRやめろ
:ASMRで草
:┌(┌^o^)┐ エンド、耳かきをしよう
:導入にありそうなのやめろww
「なるほど。これもボクの記憶にあるものだ。そして何より、キミとの友情でもあるね」
どこかドヤ顔で言っているのが目に浮かぶが、しかし俺は額に皴を寄せる。
「MAX END。エンド。キミも洒落ているね」
:MAXエンド!?
:これカップ麺の音かよ
:懐かしい
2018年の10月とかに流行った、あの黒いパッケージの激辛と称されたカップ麺である。辛さとしてはかなり強いので、配信者のリアクションを楽しむためのツールとして多用された。
販売時期的にそろそろ店頭から見なくなってきたけど、俺は配信用に5個ほど貯蔵している。後継としてもっと辛いのが出て話題になったのは2020年頃だったか、数ヵ月ほど類似品が手に入りにくくなる。
こういう時に使うために、ストックしておく価値がある。
「MAX、
で、エンド。これを……どうするんだい?」
聞かれたので、ここであえてコメント欄に書きこむ。
みなしごエンドレス:食え
他リスナーにも見えるようにして、無情に言い放つ。すると他ライバーが見えるところに現れたことで、コメントが湧き立つ。
:草
:食えwww
:MAX ENDを!?
:鬼畜w
リアクション芸として流行ったのも記憶に新しいだろう。半年以上前になってくるともう懐かしいになってきているかもだし、見飽きた光景、やり尽くされたネタではある。
しかしそれは、食べたらどうなるかリスナーもすでにわかっているということ。
伊能凛は、普通に配信をするとヘイトを買ってくる。ついさっきの株のやり方にふれただけでもああだ。ヘイトを買っているからこそ、こういった指示を送っておもちゃにするような構図や、痛い目を遭う姿というのが映えるのだ。
悪いが伊能凛、汚れ役になってくれ。
「ああ、コメントか。わかったエンド、お湯を入れてくる。キミたちも待っていてくれ」
:テンポ✕
:グダグダすぎる
:さっきから何の配信だよマジでw
流石にお湯は沸かしておいたので、入れるだけ。だが3分待って、お湯を捨てる必要もある。こういうのは裏で誰かが用意したり、事前に自分で準備しておくものだけど、あえて自分でやらせることで変な配信感を強調するのだ。
:今北3行
:改行できねぇよ
:カップ麺作ってるの待ってる
:凸待ちだよ
「……そうだ、凸待ちだった。……。着信はないね。ライバーに連絡先は教えているんだけれど。
……。3分だ、お湯を捨てて来よう。待機だ」
:社長;;
:いじめられてない?
:誰か作ってやれよw
:遠藤、カップ麺を作りたまえ
:かわいそなのです
作為的に長々とやっていれば、こちらの思惑通りのコメントを書き込むリスナーも出てくる。
――社長が、かわいそう。
そんなストレートな同情は出てこないだろうが、そんなニュアンスの見方ができるようになっていれば成功、この配信の予定通りである。
VNIVEARTH人気投票プレゼン配信、第8回、VNIVEARTH社長、伊能凛。
そのテーマは、凸待ちによってVNIVEARTH社長としてVNIVEARTH全体を総括する。ではなく――
――社長不憫配信、である。
投げやりな指示で、全部を自分でさせられる社長。これは社長に敵対心を持つリスナーの溜飲を下げることを目的として、一期生をサポートしようとしなかった因果応報、という要素を含んでいる。
そんなつもりではある。カップ焼きそばを作る程度なんて自分でやるのが当たり前な気がするけど。……もっと厳しくするべきだったか?
:かき混ぜる音を乗せるな
:マイクから離れて食え
:クチャラーだったら殺すぞ
「では、いただこうか。
ゴホッ!!」
:あーあ
:吹いたか?
:ざまぁw
「これは……、えぇ……?」
みなしごエンドレス:飲み物は水だけで食べきってください
:ひでぇwww
:鬼畜
:せめて牛乳とかヨーグルトをなw
:ざまあみろ
:遠藤ナイスゥ!
:こういう配信をもっとやれ
:ちゃんと食えよww
これは、いつかどうにかしようと思っていた、社長へのヘイトを減らすための配信である。
俺が好き勝手に高めていた社長へのヘイトと、後から本人としてVTuberとしてデビューしてしまった社長。俺のせいで伊能凛は視聴者から悪と認識されていて、何をしようにも文句が書きこまれる。
いや本人の行動も大概なんだけど。デビュー前も、デビュー後も。
ただし、彼は社長で、俺は社員。時給換算で給料以上の働きをしているとは言っても、そもそもの給金を出しているのは彼なのだ。
因果応報、の一言で片付けるのではなく。
俺が始末を付ける必要がある。
スマホの小さい画面の中では、バラエティ番組を見ているノリで『ざまあみろ』みたいなコメントが行き交っている。
無言で焼きそばを啜る音が聞こえてくる。
制裁。そんな2文字でこの状況を表すこともできるだろう。不遇の一期生。彼の無責任な所業は、1人の夢を妨げ、2人の配信者の芽を摘み取った。
特に前者は、夢があった。志があった。
目標があった。熱意があった。希望があった。
これは自業自得。
これは因果応報。
でも。
今の配信画面には、弱い者いじめをしているような印象がある。言葉で何と言おうと、事情が何であろうと、今の絵面が俺の理想とする箱かと問われれば、否である。
だからこそ。
俺は。
身を隠していた風呂場から、外に出た。
――ドンドンドンドンドン!!
「リア凸だぁ!!!」
防音室を叩くようにノックして、勢いよく戸を開け放つ。
「エ、エンド……?」
俺の手にはとあるものがある。
白い器。
調理済み、MAX ENDである。
「邪魔するぜー」
言いながら、わざとらしく焼きそばをかき混ぜる音を立てる。
:えぇ……?
:いや来るんかーい
:邪魔するなら帰ってw
:なんかしてね?
「あぁ~! カップ焼きそばのソの音ォ~!!」
:水素みたいに言うなww
:おもしれー男
:お前も食うのかw
因果応報だとか、自業自得だとか、何かしらの理由や要素があったとしても。
何かを仕掛ける側にもヘイトは生まれる。憎しみは憎しみしか生まない、復讐の連鎖、そういった議論が創作上でも行われるように、永遠に絶えず遺恨が続いてしまう。
因果応報。俺はその言葉を、へイトコントロールのために使う。
「エンド、キミは――」
「――一緒に地獄に行こうぜ、伊能凛」
まあ、激辛焼きそばを食うだけのことだけど。
土曜の20時。200人ほどが見ているライブ配信で、激辛カップ焼きそばを並んで食べる男がそこにはいた。
*
野郎コンビが辛い焼きそばを食べるだけの配信で終わらせるつもりはない。
配信開始から40分が経過した頃、伊能凛のスマホが振動する。
「エ、エンド、着信だ。これは凸待ちというやつでは……」
「社長。食事中です。行儀が悪いですよ」
:草
:厳しいw
:許してやれww
:鬼かw
「一度水を飲んで、口の中を綺麗にしてから出てください。喋ることで機材に焼きそばの油が飛んだらいけませんからね」
「エンド、知っているかい? 水は辛味を拡散す」
「飲んでください」
:ひでぇ
:知っててやってると思う
:エンドも食ってるし飲んでるからね
:共倒れww
:心中
:イッショニ┌(┌^o^)人(^o^┐)┐ジゴクニ
最悪な顔文字があった気がするが、見なかったことにする。
「伊能凛だ……」
「
:ぺす!?
:はあーー!!???
:おい通話切れクソ社長
俺は焼きそばを咀嚼しながら、立ち絵の画像を表示する。VNIVEARTH一期生、伊能凛の被害者代表、萬屋ぺすとである。
「……」
「お疲れ様です……」
「ああ……」
「……」
「……」
「……」
「……」
:無言で草
:やっと凸待ち来たんだぞ
:なんか言えよw
「えぇと、その、配信見てます。というか配信して同時視聴してます……」
:!?
:マジじゃん
:ざけんな見てなかった
:2窓してた俺勝利!
「まあその、頑張ってください……。
あ。あとアンタたち! 社長のことはもうおしまいにしましょ! 昔はアレだったしアタシも悪く言ってたけど、今は別に悪く思ってないの。社員さんが手厚いサポートをしてくれてるんだから!」
:すいやせん
:ぺす…
:はーいママぁ
渋々といったコメントを残していく感染者たち。萬屋ぺすとには事前に予定を伝えて協力して貰っている。彼女も自身の配信で感染者たちを一度は窘めていたが、それでも続ける過激派には現行犯で指摘した方が効果があるだろう。
ガチ説教になってどこかに後を引いたりしないように、話し合ってできるだけ勢いで軽く言う方向に調整したつもりだ。
再び振動する社長のスマホ。今度の相手は、
萬屋ぺすとにはこの配信のタイムスケジュールを伝えていた。それは彼女だけに伝えていたというわけではなく、実はVNIVEARTHライバー全員に共有している情報だ。
伊能凛の配信が奇跡的に盛り上がる、ということがないと確信した俺は、dlscordで全員に合図を出した。それから全員が適当なタイミングで配信を始め、焼きそばを食べる伊能凛の姿をリスナーと同時視聴していたのだ。
そのことをこの配信のコメントに書かかれなかったあたり、各ライバーのリスナーの民度が良く見える。社長を見世物にしてたのを秘匿してただけかもだけど。陰湿。
この影響で視聴者はこちらにも流れ、今では200人と配信内容に見合わぬ数となっていたのだ。
伊能凛の凸待ち配信は『社長、お疲れ様です』くらいしか言われず、これが凸待ちの姿か……、これが社長の姿か……、となりかねない内容で枠を終える。
(※神海まりもに至っては彼女から送られてきた『暴れ狂うまりも.gif』を添付するだけだった)
ただ、これは伊能凛にとっても悪いものではないだろう。
伊能凛がライバーになった理由、伊能凛がVTuber事業を起業した動機というのは、社長としてライバーの配信に現れて「社長だ!」「お疲れ様です!」と言われたかったがためだけなのだから。
それを叶える場所を用意しつつ、俺の目的も果たすための配信。
おもちゃにされ、激辛カップ麺を食べさせられ、所属ライバーたちから塩対応をされる。こういういじられ属性を印象付けて、彼のヘイトを中和する。
この配信は、VNIVEARTHの社長、伊能凛を、面白キャラになんとか魔改造していくための、第一歩である。
「なるほど。フフフ。そうか、これが凸待ちというものか。……エンド?」
そして俺は辛いものが普通に食べられるので、配信映えを度外視して静かに完食。伊能凛を防音室に残して退室。
配信終了の時刻までVNIVEARTHライバー全員でdlscordの通話を行い、社長の応援上映を行うのだった。
「が、がんばれー……」
「頑張ってください」
『₍₍ (ง ˘ω˘ )ว ⁾⁾』
「がんばってくださーいっ」
「しゃちょーがんばえー」
「がんばれ♡ がんばれ♡」
「ファイトでーすッ!!」
「お気張りやすぅ」
【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】四期生のデビューにともなって、二次投票の受付を開始します!! 現在公式Tvvltterにて公開されている画像は、制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)
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萬屋ぺすと
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佐土原恭子
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神海まりも
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詩星せるり
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遠藤
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黒宮院みやみ
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拳藤正義
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波羅劾ざくろ
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伊能凛