過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。   作:匿名

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#065 み、密売人……

:俺たちは何を見せられているんだ?

:野郎の焼きそば完食応援上映

:いらねぇ…

:しゃちょうがんばえー

:遠藤w

:ぷいきゅあがんばえー

:結局また社長ほったらかしで草

 

 空き時間ができたので、切り抜き作成に向けて配信アーカイヴを見返す。80人〜200人と推移した配信規模に対してコメントはかなり活発な方で、アクティブなリスナーが多いと言えるだろう。

 

 身内ノリが強いと捉えることもできるが、2019年のリスナー母数が少ない内に気にすることではないし、そんなことで新規参入が少ないだとかを気にしてはいられない。

 

 逆に身内ノリも何もない無味無臭の配信では、ただ話題にならないだけでエンターテイメントとしては遠ざかってしまうだろう。

 

 VNIVEARTH全体におけるコメントの活発さというのは、意図して狙ったものだ。

 

 俺は一般リスナーを装った切り抜き専用のアカウント『頚椎』として、切り抜き動画を投稿している。

 

 切り抜きの方針として、ライバーとリスナーの掛け合いに重点を置いている。

 ライバー自身の魅力を引き出すというよりは、配信の見どころに対して書き込まれたコメントをピックアップするという側面の方が強い。

 

 ライバーの発言と、コメント。この2つでコントに仕立てているというのが実態だろうか。

 

 まあ本腰を入れて作成するには時間と体力が足りないので、最低限の編集に努めている都合上、立派なクリエイターとして作品を生み出しているわけでもない。

 

 まあ、ただのコラ職人のようなものである。

 

 そんなコラ職人である切り抜き師『頚椎』も、2018年から活動しているということもあって先人という恩恵を得ており、それなりの知名度と再生数があったりする。

 

 頚椎とやらは今となっては、もはや露骨にVNIVEARTHを贔屓する人になっていて、普段は有名箱の未来でバズっていたシーンを狙い撃ちしているのに、VNIVEARTHに限っては全ての配信を網羅しているかのように細かく拾うのだ。

 

 いや実際に網羅しているというのは余談として。

 

 そして俺は、切り抜きに使用するために俺自身もコメントをしている。

 俺のセンスだとか、エンタテイナーとしての素質の問題になってくるが、コントとして成り立つコメントができていればライバーも拾うかもしれないし、俺の切り抜きにも使用される。

 

 純粋なリスナーのコメント、俺の自演(サクラ)コメント、それらをピックアップしてコント仕立てにすることで、楽しそうに盛り上がっていた配信だったと印象づける。

 切り抜きを見たリスナーは、こういうコメントをする場所なのだと認識する。

 

 俺の切り抜きを導線としてライブ配信に訪れたリスナーの中には、自分も面白いことを言ってやろうという気概でコメントを打つようになる人もいて、よりコメントは盛んになっていくのだ。

 

 この流れを形成する立役者が、感染者である。

 最初の内はいくつものアカウントを使って、俺だけで初動に必要な空気を用意しようと思っていたが、元々感染者というコメントのノリがいいリスナーがいたこともあってその手間は省かれた。

 

 面白いことを言って配信者に読まれるために、コメントをする。

 

 これこそが、配信に『参加する』という、俺の思う『同じ時間を共有する体験型コンテンツ』にするための、入り口になるのだと考えている。

 

 コメントを通してライバーとリアルタイムな会話をするために配信に訪れる、というのが本来の形ではあるが、まだこの時代ではその動機は一般的でなく、価値観や偏見によって恥ずかしい行為と色眼鏡で見られるかもしれない。

 そこへ、この別口によるアプローチで間接的に触れさせていく、慣れさせていくというのが理想の効果である。

 

 簡単に言えば、オタクくせーと忌避する心を、知らずの内にVTuber沼へ落としていく。

 

 あれ。……これだと怪しいセミナーか何かじゃないか?

 

 ……。

 

 未来で見た切り抜きがそう作用していたと結論付けての作戦だし、意外と同じように自演誘導していたのかもしれない。俺が思いついたんだから、本当の先人もやっていた可能性はある。

 

 こういった仕組みもあって、こちらからコメントが増えるように働きかけているVNIVEARTHの配信は、同時視聴者数に対してコメントが多い傾向にある。

 

 俺の自演コメントだって、リスナーとしてコメントしているのだから、リスナーのコメントに含まれる。

 一般視聴者よりエンタメ界隈に理解があるだろう人間が、切り抜きを見越して面白くなると思ったことをコメントしているのだから、切り抜きへの採用率は高い。

 

 自演コメント。良いことばかりじゃないか。

 

 悪人みたいなことを考えながら、切り抜きの予定を組んでいく。

 

 そして後日、編集され投稿された切り抜きは、『社長の凸待ち配信にライバー全員が駆け付ける』という、心温まる配信(諸説あり)としてネタ的な意味で話題となる。

 

   *

 

 時刻は午前10時。場所は新幹線の中。空き時間とはつまるところ、移動時間であった。

 

 到着したのは静岡県。山梨県を貫通して行くとはいえ、新幹線だと1時間とかからない。

 

 同じ関東圏よりも移動にかかる時間が短いケースも多く、遠いようで遠くないという、意外な近さを感じさせる。

 

 新幹線を降りてからはバスに乗り、目的地に到着する。

 

 そこは一般民家。

 

 表札に刻まれた文字を改めて確認する。

 

[河井]

 

 

 河井美空──詩星せるりの、実家である。

 

 

 インターフォンを押さねばなるまいが、これがまた緊張する。

 

 俺は詩星せるりを事務所へ案内するためにここに来たのだが、

 

 つまりは、未成年の娘さんを1週間お預かりします、と挨拶をするために来たのだ。

 

 一度通話で、VTuberデビューをするための説得をするために会話をしているが、あの時期は過去に戻った、人生をやり直せる、という高揚感でテンションがおかしかった頃だ。

 

 VNIVEARTH災厄四天王との邂逅も済ませて比較的冷静な今の俺には少し荷が重い。

 

 挨拶用に菓子折りは持った。ちゃんとスーパーならどこでも売ってそうなものではなく、東京っぽいイメージのあるものを選んだ。

 

 着ているスーツはいつもの黒いスーツではない。周囲を威圧する目的ではないのだから、ビジネス用のグレーのスーツだ。

 

 外見というのは大事だ。だからこそ社長を美容院に行かせたのだ。

 俺がここで社長スタイルだったり、あるいはアロハシャツなんかで訪れてしまえば、信用など得られるわけがなかっただろう。

 

 ネクタイは締めているか? よし。

 髪は跳ねていないな? よし。

 

 行くぞ──

 

 

   *

 

 家の前で、南條さんが立ち尽くしている……。

 

 南條さん。南條亜紀人。私が所属するVTuberタレント事務所『VNIVEARTH』の社員で、ライバーのマネジメントをしている人だ。

 

 ミナちゃんファンクラブ(非公式)の会員でもある。

 

 あの、人の家の前にずっといられると恥ずかしいというか……。

 

 パパとママは気づいていないけど、もうすぐ着きますよ、とLIIVEを貰っているから私は見てしまっている。

 

 スーツの上着を整えたり、たぶんインカメでスマホを見ながら髪をいじったり、持っている紙袋を確認したり。

 

 早くインターフォンを押してくれないかな。

 

 誰かに見られて、友達に噂とかされると恥ずかしいし……。

 

 LIIVE送っちゃおっかな。

 

 ……ミナちゃんに相談する口実にしちゃお。

 

『家の前でマネージャーが立ち尽くしてるんだけど、どうすればいいかな?』

 

 送信。あっ、南條さんインターフォン押そうとしてた。

 

 スマホ見てる。

 

 え、既読付いてる。ミナちゃん、もう確認して南條さんに何か送ったの?

 

 早い……。そこまで怒ってるように見えたのかな。私が怒ってると思って南條さんに苦情を。

 

 え、私そんなに怒りっぽくないもん……。ミナちゃんに短気だって思われたかも。

 

 おのれ南條亜紀人……。

 

 とか半分冗談で思ってると、返信がくる。

 

『もう行くと思うよ!』

『すみません! お待たせしました!』

 

 ミナちゃんと南條さんからだ。

 

 

 インターフォンが鳴って、ママが出る。

 

 それから南條さんはパパやママと来客用に使う和室に入っていった。挨拶するとは言ってたけど、3人で個室かぁ。

 

 えっと……がんばってくださーいっ。

 

 詩星せるりとして心の中で応援してみる。

 

 社長の応援セリフとしてミナちゃんに相談して決めたものだ。配信上のキャラとして考えたものを、社長や南條さんへ向けるのはなんか違和感がある。

 

 他のライバーとキャラとしての口調で会話してるから、変なことじゃないんだけど。

 リアルの姿を知ってる人だからかな。他の人にもこれから会うんだけど、平気かな私。

 

 ……。

 

 暇かも。ミナちゃんにLIIVEを送るけど、返事なし。タイミング悪かったかな。

 

 20分くらいして、どこか疲れたような顔の南條さんが出てくる。

 

 なんか罪悪感。私のVTuber活動のためにしてくれてるんだもんね。

 ミナちゃんに短気だって思われたかもしれないのは、水に流そう。

 

 こんなことがあってから、南條さんのエスコートで事務所へ向かう。

 1時間もかからないらしい。それなら、今後も企画で行くことになっても平気かな。

 

 ……ママの南條さんへの呼び方が『亜紀人くん』だったのが、なんか、やだ。

 

   *

 

 つ、疲れた……。なんだこの疲労感。

 

 三者面談(娘抜き母親参戦)とか想定していないぞ。

 

 せめてリビングで話すものだと思ってた。

 

 これがせるりちゃんの家かぁ〜。ここでせるりちゃんは育ったんだね。

 

 とか呑気なことはやってられなかった。

 

 会話内容に関しては、まあなんというか思ったより平和だった。

 

 娘に何かがあったら殺すぞ、くらいの感じかと思っていたけど、意外と好感触でさえある。

 

 河井美空が詩星せるりとしてVTuberを始めるときから、配信者の危険とその対策や、配信を行う上でのルールなんかを話していたのが上手く作用したか。

 

「亜紀人くん、美空のことをよろしくね」

 

 なんて言う河井母の横で、同時に顔を顰めた河井父。

 

 それから父は何も言わなくなったけど、いいんだよな……?

 

 

 バスに乗って、詩星せるりと駅へ向かう。

 

 移動にバスを使うことはあまりないらしく、どこか緊張した様子だった。

 

 せるりちゃんってこんな感じなんだね。

 

 意外?

 

 意外かも。せるりちゃんは清楚で完璧なVTuberだったから、ね……っ!

 

 ふぅん。

 

 ちょっと落ち着かない様子の詩星せるりを気取られないように観察しながら、預かった旅行鞄を持つ。

 

 話すこと、あんまりないなぁ……。

 

 普段はminaとして関わるばかりで、一対一(サシ)で話すことは少ないのに、現実で対面だ。

 

 minaしか知り得ない話題を出さないようにしなくてはいけないのもあって、切り出し方は減る。

 

 バスはすぐに降りるから、まだいい。

 

 問題は、新幹線に乗ってからだ。これから30分以上も隣に座ることになる。

 

 駅に着いたらまず、俺はトイレで黒いスーツに着替えた。上着を替えるだけ。ここからは、詩星せるりを無事に事務所までの送り届けなければいけない。

 

 不思議な顔で見られたが、これも必要経費だ。

 

「喉の調子はいかがですか? 今日の配信では歌うことになります。何か問題があったらすぐに言ってくださいね」

 

 そんな業務上の言葉を最後に、俺は話題に困る。

 

 マネージャー遠藤としての会話をしていないせいで、語りかけるべき話題に困る。

 

 おそらく、詩星せるりはこういう時間をminaとやり取りをして過ごす。

 今までの傾向や、やりとりがあった時間からしてそうだ。

 

 けれど今日はそれをしない。

 

 なぜかと言えば、今日の出発前に、俺がminaとして『今日の移動時間は南條さんとお話してみて』と送ったからだ。

 

 彼女の前で返信をするわけにもいかないからの指示だが、これが俺を苦しめる。

 

 話題を探して悩んでいると、まさか詩星せるりの方から話しかけられることとなる。

 

「ミナちゃんのこと、教えてくれますか」

 

 そうか、その手があったか。俺とあの少女の思い出を語る。

 しかし、病院にいた頃の思い出ということは、つまりは病院にいるということを悟られないように改変する必要があるということだ。

 

 なんだ、なにが話せるんだ。

 

 夏、夏の思い出……。詩星せるりの歌を一緒に聴いただとかを言えるわけがない。

 

 す、スイカ、食べた……。

 

 また悩んでいると、助け舟を出すのはまたもや詩星せるりだった。

 

「そうです、せっかくですから南條さんのことを教えてください」

 

 それなら、まあ。

 

「高校を卒業した後は就職しました」

 

 あれ、何してたっけ。俺にとっては単純に3年前ではない。

 

「ちょっと記憶が……」

 

 苦笑いをしながら言う。あんまり思い出したくないことも思い出しそうで、難しい。

 

「研究所に勤めてました。薬品が身体にあわなくて……」

 

「薬を扱っていたんですか……!?」

 

 いや薬だけどさ……。

 

 え、まさか。

 

 詩星せるり、薬に興味があるのか……!?

 

 これまでminaとしてやり取りをしてきた間にそんな素振りはなかったはず。

 

 それだけは駄目だ。絶対に駄目だ。

 

 懇切丁寧に説明する必要があるかもしれないが、そうと決まったわけではないし、何よりも俺の口から言われたところで効果は薄い。

 

 もし、そうなのであれば。

 

 minaとして、強く否定しないといけない。

 

 まずは、事実の確認だ。今日の配信が終わって、落ち着いたら。探りを入れなくてはいけない。

 

 なんて考えながら、事務所までの道を軽い雑談をしながら歩いていくのだけれど、ここで忘れそうになっていた神海まりもからのおつかいを思い出す。

 

 あの女子高生は、俺が外出する度についでだからとお菓子やアイスを強請るのだ。

 

 今日だって、詩星せるりの迎えに行くと知るやいなや、

 

『例のものを』

 

 とお約束のように言ってくるのだ。

 

 俺もはいはいと了解するのだが、これは甘やかしすぎというやつなのだろうか。

 

 事務所に到着。いつもの流れとして、手洗いうがいを案内する。

 今のうちから習慣づけることで、来たるコロナ禍での自衛をしてもらおうというのが狙いだ。

 

 オフィスに入るとか神海まりもがこちらを見る。はいはい。わかっておるよ。

 

「例の物です」

 

「うむ」

 

 こいつ、新しく来るライバーに力関係を見せつけてるんじゃないだろうな?

 

 

   *

 

 私にはミナちゃんから与えられたミッションがある。

 

 それは、このVNIVEARTHの内外に危険が潜んでいないかライバー目線から確かめるということだ。

 

 借金、漏洩、そして──薬物。

 

 南條さんは言った。

 

 前職で薬品を扱っていた。

 

 記憶が曖昧。

 

 

 南條亜紀人、この男には──

 

 ──薬物を使用していた疑いがあるのだ。

 

 なんか真っ黒なスーツに着替えたし、怪しい……。

 

 そして、だ。

 

 事務所に着くなり、南條さんは私と同じくらいの女性に声を掛けた。

 

「例のモノです」

 

「うむ」

 

 

 み、密売人……。

 

【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】四期生のデビューにともなって、二次投票の受付を開始します!! 現在公式Tvvltterにて公開されている画像は、制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)

  • 萬屋ぺすと
  • 佐土原恭子
  • 神海まりも
  • 詩星せるり
  • 遠藤
  • 黒宮院みやみ
  • 拳藤正義
  • 波羅劾ざくろ
  • 伊能凛
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