過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。   作:匿名

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#067 幻覚とか見えてるタイプのヤバめな

 推しとの対面。

 

 相手が配信者、こちらも配信者。配信者同士となると、今後の活動とか視聴者の目とかの考慮しないといけないことがあったり、相手に変な理想を抱いていると幻滅しちゃうとか、問題が山積みになる。

 

 声がいいなぁ顔がいいなぁで気軽に推すことは簡単でも、実際に会うとなると不安や心配がいくつも浮かんでくる。

 

 もしも、相手が良くない人だったりしたらそのまま襲われてしまうこともあるかもしれない。

 襲われるのも本望と言うならいいかもしれないけど、そこまで想い続けられるほど推し活が進んだことがなかった。

 

 だから。

 

 こんなに推しと密接に関わることになったのは、亜紀人さんが初めてだった。

 

 なんとなく配信していて、なんとなく推して、なんとなく離れる。そんなことをちょっとだけ繰り返している日々の中で、出会った新しい推し。

 

 みなしごエンドレス。遠藤。

 

 最近ちょっと見るようになった女性VTuber、佐土原(さどはら)恭子(きょうこ)──キョーコちゃんの事務所からデビューした新人だ。

 

 奇抜な発言と、謎に高いクオリティで配信を進行する男性VTuberで、一期生からVNIVEARTH(ヴニヴァース)のリスナーをしていたなら嫌でも目に入ってきた有名人。

 

 どう見ても一期生とはかけ離れた完成度のLive2DモデルでデビューしたVNIVEARTHの二期生。その片割れにして、無名の事務所の所属かつあまり主流でない男性ライバーでありながらも流行のゲームなんかで無難に配信を済ませたりしないという、マイナーVTuber界隈に現れた特異点でもある。

 

 VTuberだから顔は見えないけど、だからこそガワと呼ばれるキャラクタービジュアルが重要となる。こういうのは大体みんなかっこよく作るものなので、あとは声が重要だ。

 

 ──好み!

 

 じゃあいつものようになんとなく推し始めて、配信に通い詰めて、コメントをして、コメントを読まれて。

 

 そして自然消滅する。

 

 ……というのが、いつもの流れ。でも違った。

 

 VNIVEARTH三期生、募集のお知らせ。

 

 タイミングよく目にしたそれに、私は応募した。元々やっていた配信活動も鳴かず飛ばずというか、特に跳ねるきっかけもなかったし、このまま続けていても人気ストリーマーとして職になるとは思えないし。

 

 いつまでもフリーターを続けている私だけど、このままでいいのかって気持ちはどこかにあった。

 

 だから、ダメで元々。あわよくば。運が良ければ今のマイブームである、みなしごエンドレス様と同じ事務所に所属できちゃったりして。

 

 で、できちゃった……。

 

 というか面接官が遠藤様だった!!

 

 本人は否定してるけど、その声はどう聞いても遠藤様。みなしごエンドレス様。

 みやみの推し声センサーは誤魔化せませんよぉ。

 

 ──お、推しとお話しちゃった……♡

 

 この一件だけでも、私の推し活は前人未到、新たなステージに突入してしまうんです。

 

 いつも中途半端に推すだけで、どうせいつか飽きるものだと思っていた。

 

 そうはならなかったんです。

 

 意図してない出会い! 推しとお話しちゃった!!

 

 ビデオ通話で互いの顔を見て、本名も知って。な、なんか乙女ゲーのキャラクターみたいな喋り方で、名前を呼んでもらって、この世界のどこを探しても私しか持ってないだろうボイス素材まで手に入れてしまった。

 

 これは……推し続けるしかない!!

 

 遠藤様──じゃない、みなしごエンドレス様──でもない、南條さん──違いますね、亜紀人さん♡ 亜紀人さんの配信を参考にして、VTuberとしての配信を始めた。

 VTuberの配信とはつまり、キャラクターとしての個性に特化した配信。私はとにかく亜紀人さんらしいはっちゃけた配信づくりを心掛けてみた。

 

 以前までの配信よりも、気取らず素直に気分でめちゃくちゃしてるんだけど、これがVTuberの配信として正解だったみたいで、以前の配信者活動よりもたくさんの人が集まるようになった。

 

 配信が、楽しい……!

 

 ガワ、世間的にも高級なVNIVEARTH製のLive2Dのおかげかもしれないけど、私が何も考えずに思うままに好きなことをやっていて、リスナーもそれを楽しんでくれる。

 

 めちゃくちゃやっているはずの配信が、むしろ我慢をしない私本来の姿でいられる場所になっていく。

 

 推し活の更に先──推しに認知され、そしてライバーの設定として恋愛関係となっていく。

 

 推しの邪魔にならないようにするのが求められる本当の推し活とは違うんだろうけど、この一方的に夫婦の設定を生やしてちょっかいをかけるのが、今の私にとっての進展してしまった推しとの関わりなのだ。

 

 もちろん、亜紀人さんが嫌がるのならやめるつもりだったけど、なんか許されたみたい……!

 

 ふふふ♡ そしてこのまま、あわよくばリスナー公認の夫婦ライバーになったりして……♡

 

 ……これはキャラ設定のことだから、いくら進展したって設定止まり、私が勝手に言ってるだけのこと。

 

 もっと欲張っていいのなら、遠藤様──じゃなかった、エンド様の配信活動に直接応援ができるような関係、つまり現実に会って、ご飯を作ったりお世話がしたいなぁ♡ なんて妄想が膨らむんだけど……。

 

 ──オフコラボ!

 

 ──VNIVEARTHライバー全員集合!!

 

 ──連泊!! 一つ屋根の下!!!

 

 ──きゃあ〜〜〜〜〜〜〜!!!!

 

 来てしまった、とんとん拍子。じ、実際に会う機会がこんなに早く……!

 

 バ先に連絡。お盆はシフトいっぱい入れていいので、お盆の次の週にお休み欲しいです。

 

 お盆は繁忙期で忙しいし、みんなも周囲に合わせて休みたいので当然受理!

 

 亜紀人さんとお泊り♡ ご飯作って、お風呂沸かして、洗濯して、か、肩揉んじゃいましょうかぁ♡ なんて。頭の中で理想の生活をしている内にバイトはいつの間にか終わってる。

 

 毎日がキラキラ煌めいて見える。4連勤もなんのその。お客さんにだって幸せスマイル。だってみやみは幸せだもの。

 

 そしてお盆明け!!

 

 事務所の経費にするから新幹線を使ってもいいのだとか、ちょっと悪い気がするけど、移動時間は半分になって亜紀人さんにもすぐに会える。

 

『薫』『早く』『(あい)』『たいです』

 

 自作の亜紀人さんボイスを聞いていれば1時間以上の片道もあっという間に過ぎていき──。

 

 あ、あわわわ……、リアル亜紀人さん……。

 

 ――声良い!

 

 ――顔良い!

 

 

 きゃあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!

 

 な、名前呼ばれて、荷物持ってもらって、車道側歩いてもらって、自転車から庇ってもらって。

 

 気分はお嬢様。

 

 亜紀人さんは私の執事様。

 

 並んでい歩く中で、さ、さりげなぁーく肩を触れさせちゃったりして──

 

 

 きゃあ~~~~〜〜〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!

 

 

 えっ、もう事務所着いちゃったの……?

 

 うそうそ、まだこの時間を続けたかったのに……。

 

 ううん、ダメよみやみ。私は亜紀人さんを支えるの。配信者とマネージャー、エンジニアもしていて忙しい亜紀人さんの助けになるのが、私の使命なんだから。

 

 そして、私は見てしまう。

 

「ありがとパパ」

 

 とてつもなく可愛い若い女の子に、パパと呼ばれる旦那様の姿。

 

 

「誰がパパだ」

 

「ごめん、おじいちゃん……」

 

「誰がジジイだ」

 

 わ、私の執事様が、私以外の誰かに仕えている……。

 

 それもかなり砕けた口調。私との打ち合わせでは見られないような距離の近さがそこにはあった。

 

 わ、若さ……? 若さ、なんですか……?

 

 旦那様が戯れようとしているその相手は、見積もっておそらく十代。女子中高生。

 わ、私だって10年前は中学生で……10年前!?

 

 ああ、勝てない……いえ、いえ! まだです。私が中学生の時、今のように料理ができたか? 今みたいに男の人がわかっていたか? 答えは否。

 

 女子力、女子力で勝つしかない……。

 

 悪足掻きをしようとしても、精神は敗戦状態だった。

 

 もう私は駄目だ。

 

 さよなら儚い妄想。さよなら旦那様。今夜は旦那様の声を聞きながら枕を濡らすのだ。

 

 どこか上の空で旦那様の案内を聞いている。あんなに虜になっていた愛しい旦那様の声が、どこか遠い場所から聞こえてくるようで。

 

 何か言っているがよく聞き取れない。

 

 南條さんが私を『黒宮院(こっきゅういん)様』と呼んでいる。他のライバーの皆さんがいるからでしょう、そんな自然な配慮に踊っていた心も、今では虚しいもの。

 

 これはただの親切心。南條さんの親切心は、誰にでも向けられる。特に、さっきの女の子。

 

 勝てない敵を前にして、私は戦意を喪失してしまった。心は熱を失い、冷え切ってしまった。寒い。温めて旦那様、その旦那様はもういない。

 

 私の推し活はここまでか……。

 

 いつの間にか時間が経っていて、事務所の説明も終わっていた。最後に、南條亜紀人さんは私に何かを差し出してきた。

 

 硬くて小さい、これは……?

 

「私の自宅の合鍵です。黒宮院様にお渡ししておきますね」

 

 あいかぎ……?

 

 ……。

 

 

 わたしのじたく。

 

 

 ……。

 

 

 

 み゛ゃ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 私の心に、熱が戻った。

 

 

   *

 

 改札から出てきた黒宮院みやみを出迎える。

 

「お待ちしておりました、薫様」

 

 飲み物を渡すまでの一連の動作もスムーズに。この護送も5人目で、慣れきったものだ。熟練したと言ってもいい。

 

 どこぞの誰かの影響とは言わないが、格好良く車で運搬するのも選択肢だったと今更ながら思う。

 そっちの方が安全だし、歩かせる労力をかけずに済む。ライバーのことを大事に考えるなら車の方が遥かに良いだろう。

 

 ただ、東京で車を持つのはハードルが高い。ただ車を買うだけではなく、駐車スペースも確保しなければいけないのだ。持ち家があるわけではないのだ、賃貸アパートの一室にしか住居を持たない俺にはいささか難しい話だった。

 

 名前、なんて呼ぼう。とりあえず普段の打ち合わせ通り下の名前でいいか。ライバー名と本名、公衆で呼ぶならどちらがいいとかの話ではない。身バレを考慮するならどちらかを呼ぶならと考えるまでもなく本当ならどっちも呼ばない方がいいのだ。

 

 こういう時に呼ぶ用の名前を決める必要があるのかもしれないな。

 

 黒宮院みやみはどこか熱に浮かされたようで、今回集まって貰ったライバーの中では一番遠くから来てくれている。九州や北海道ではないから極端に遠いわけでははないとはいえ、やはり疲れているのだろう。

 

 なんだか足取りがおぼつかない気もする。守るべき所属タレントだ。無事に事務所へ送り届けなければ。

 

 やはり車か。こういう時にこそ車が必要だ。

 

 改めて黒宮院みやみを見る。黒いワンピースを中心とした服装。全体的に黒い、上品ながら清楚な外見だ。

 

 ふむ。

 

 こうして並んで歩いていて、ふと思う。

 

 真っ黒な2人だから、周囲からは葬式帰りだと見えるんじゃないかと。

 

 タレントの護送中だというのに、我ながら呑気だ。これが中弛み、慣れによる油断だろうか。

 

 事務所に到着。胸を撫で下ろすような思いだ。恒例の手洗い案内に、アルコール消毒液もありますよアピール。

 ……プッシュボトルの頭を撫でてないか? それはペットじゃないぞ。疲れているのだろう、目を細めて眠そうだし。

 

 俺は事前にスーパーで購入した茎わかめを、依頼主である神海(しんかい)まりもに渡す。茎わかめを1日に2回買った男。

 

 なんか小芝居を始めだしたが、悪いが今回ばかりは雑に流させて貰う。

 誰がパパだ。誰がジジイだ。どこかしおらしく、弱々しいが、エセお嬢様がガチお嬢様と対面して打ちひしがれているだけ。

 

 今もなぜかサングラス掛けだしたぞ。ふざけてる。お前に言われて買ってみたけど悪目立ちするからすぐに使うのをやめたやつだぞ。しょうがない奴め。

 

 本当に病人が他にいるのだ。さっさと(みんな)の紹介と案内を済ませて、彼女を早く休ませてあげたい。

 

 社長を紹介してもノーリアクションだった。普通の挨拶がなされただけで、こんなにも興味がなさそうな反応は始めて見た。

 

 ……。

 

 ……まさか、禁断症状?

 

 何がとは言わないが、幻覚とか見えてるタイプのヤバめな薬の……あっ、ごめん、ごめん!

 

 全くもーっ! お兄さんもしつこい、よ!

 あんな未来はお兄さんが防ぐの。何かがあるのはきっとこれから! 今のみんなを疑ってもしょうがないって!

 

 そうだった。そうだよな。ごめん。

 

 気を取り直して、黒宮院みやみに収録部屋を案内。まあ機材関係は手慣れているか。

 

 ほどほどにして、説明を終える。あとは滞在する場所に関してだけど、比較的家が近くて仕事もあるため帰宅することの多い萬屋(よろずや)ぺすとを除けば、黒宮院みやみが年長者となる。

 

 予定では、環境が整ったこの新しい事務所をメインの就寝する場にしてもらおうと考えていたが、ここは人の出入りが多い。となれば、いっそ俺の自宅を女性ライバーたちに完全に明け渡してしまった方がいいだろう。

 

 その時に、一番責任を持つことになるのが年長者の彼女だ。彼女に合鍵を渡してしまい、申し訳ないが管理を任せてしまう。俺が悪いタイミングで訪ねてしまい、トラブルを生むのも不本意だ。

 

「私の自宅の合鍵です。黒宮院様にお渡ししておきますね」

 

「か、かっかっかっ、鍵!? 合鍵!?」

 

「また負担をかけてしまうようですが、任せても大丈夫ですか?」

 

「はい! 大丈夫です!!」

 

 鍵を受け取った黒宮院みやみは何故だか急に元気になっていて、念入りに確認するのだけれど、休む必要もないという。

 

「黒宮院みやみ様──薫様」

 

 これは大事な話だ。配信のような冗談ではないので、ライバー名ではなく本名に呼び直す。

 

「疲れているときや、不調なときは素直に言ってくださいね。薫様が倒れでもしたら、私はどうにかなってしまいます。決して無理だけはしないでください」

 

「ひゃ、ひゃいっ!!」

 

 うーん、なんか顔赤いし、呂律が回ってないし、心配だ。

 

 けれども好調ではあると譲らないので、この後の配信も問題ないだろう。……と思いたい。

 

 

 今日は人気投票のプレゼン配信、最後の日。

 

 詩星(うたいぼし)せるりのカラオケ配信が予定されており、そのゲストとしてVNIVEARTHライバー全員が参加するのだ。

 

 

   *

 

 あ、合鍵……。

 

 亜紀人さん──旦那様は私を信頼してくれている……♡

 

 今はこの後の配信の準備をしている旦那様。ああ、お仕事中のこの横顔も、かっこいい……♡

 

 打ち合わせだとあんまり横からは見えませんからね。待ち合わせの時に見つけられるようにと言って横顔を見させてもらってましたし録画もスクショもしっかり保存してましたが、やっぱり実物が一番解像度が高い。

 

 写真撮っちゃおっかな……いやいやさすがにそれは駄目!

 

 ああ……。凛々しい旦那様。

 

 そうよ、みやみ。今こそお疲れさまです♡ と声を掛けて、お茶を差し入れたり、肩を揉みましょうかと良妻アピールをする時なのだ。

 

 旦那様は防音室のある部屋で一人きり。今が最大のチャンス!

 

 あぁぉ、喉が渇いてる。唇も渇いてるかも。ドキドキしてきた。ちゃんと声出るかな、喋れるかな。

 

「ん、んんっ。あ、亜紀人さん……?」

 

「はい、どうされましたか?」

 

 この部屋には他に誰もいない。私と旦那様の二人きり。よぉし、頑張れみやみ。やれるぞみやみ。

 

 

 いっけー!!!!!!

 

 

 

「作業、お疲れさまです……♡」

 

「ありがとうございます」

 

「……」

 

「……」

 

「ぇと……」

 

「……」

 

「が、頑張ってくださいね……」

 

 

 

 わ、私の意気地なし!!!

 

 

【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】四期生のデビューにともなって、二次投票の受付を開始します!! 現在公式Tvvltterにて公開されている画像は、制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)

  • 萬屋ぺすと
  • 佐土原恭子
  • 神海まりも
  • 詩星せるり
  • 遠藤
  • 黒宮院みやみ
  • 拳藤正義
  • 波羅劾ざくろ
  • 伊能凛
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