過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。   作:匿名

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#073 せるりは見た!

 お盆が明けて1日。連休という幸福は過ぎ去り、世には絶望が降り注いだ。

 社会人と呼ばれる現代の戦士達は憂鬱に包まれながらも、少しずつ元の姿へと戻ろうとしていく。

 

 ……まぁ、VNIVEARTHの人間にとっては他人事なんだけど。

 

 あえてお盆の次の週に集まって行う、配信合宿。

 

 どうせお盆はすでに大手が大型企画で埋めてしまうから、という屈折した思考から行われるものだが、VNIVEARTHのような下位層のVTuber事務所にとっては必要な戦略だ。

 

 だからと言ってお盆の全てを丸ごと捨ててしまうのではなく、人気投票の一環という催事の一部として毎日定時のリレー配信を実施している。

 

 その上で本命となる24時間配信をぶつけるのだ。

 

 で。

 

 VNIVEARTH事務所に集まったライバー9人。内5人が学生で、残りの4人は社会人だ。

 4人は連休を終え、あるべき姿に戻らざるを得ない──ということもなく、2人はVNIVEARTHの社員、1人は有給消化という形で、とてもお盆明けとは思えない日常を送っている。

 

 ただ1人、萬屋ぺすとだけは、

 

『ごめんなさい! 明日は休めなくって〜!』

 

 と言いながら昨晩元気に帰宅していった。

 

 謝ることはないのに。社会人なのだ、望もうと望むまいと、優先は本業である。

 東京在住の彼女は軽いフットワークで自宅とここを行き来するつもりらしい。あと佐土原恭子も帰った。特に用事はないが普通に帰った。次の大喜利の時にはまた来てくれるとのこと。

 

 お盆が明けて、丸1日が経過して。動き出した世の中はVNIVEARTHにも影響を与えてくる。

 

 まず、萬屋ぺすとの収益化が通った。

 

 いやYovitubeの母体は海外企業だし、別に連休とはそこまで関係ないだろうけど、承認のメールが届いていたことを確認したのがさっき。

 

 これを本人に伝えるべきか……。

 

 登録者数が1000を超えた時なんて仕事に手がつかなかったらしいんだよなぁ。どうしたものか。

 

 急いで伝えたところで何があると言うわけでもない。スパチャの類は収益化記念配信で解禁する予定だし、その記念配信も全く準備ができていない。

 

 正直に言うと、こんなに早く承認されるとは思っていなかった。

 

 というのも、承認にかかる時間というのが俺には予想することができず、調べても人によっては1週間程度だったり、長い人は2ヶ月近くだとか、実際にやってみないことには何もわからないというのが結論だったのだ。

 

 収益化が中々通らなかったエピソードなんかはVTuberの配信でもよく目にしていたし、もっとかかるものとばかり。

 

 これなら他のVNIVEARTHライバーも順調に収益化していけるだろう。

 条件をクリア次第、どんどん申請していこう。

 

 ……切り抜きによる拡散を優先したこともあって、再生時間が少し控えめになっている気がしなくもないのは不安要素か。

 

 持ってくれよ、社長の株利益。

 

 具体的な残高は知らん。怖くて聞けない。

 

 さてお盆明け。戦略がどうのと言いつつも、けどやっぱりオフコラボで集まるならお盆中の方が良かったというのが本当のところ。

 

 その弊害が、影響が特定のライバーを襲う。

 

『配信、できない……!? (゚Д゚ )』

 

「平日ですので……。神海様の身バレを警戒するスタンスですと、日中は控えるのが良いかと」

 

 10時過ぎに起きて来て、呑気に黒宮院みやみの作り置きしたおにぎりを貪っていた神海まりも。奴は俺の言葉に唖然としていた。

 

 本当は彼女が起きてくるまで事務所には踏み入らないつもりだったが、そもそも他のライバーたちが集まる日までに寝顔も見ているし今更なので妥協した。

 せめてもの配慮として、神海まりもは防音室がある部屋で寝ている。

 

『配信なしでもいいや』

 

「ログイン情報とかって、リスナーに見られても平気ですか?

 アカウントの関係とか、神海様ほど詳しくないのでよくわかっていないのですが、通知とかそういう……」

 

『(゚Д゚;)』

 

 あ、ダメなんだ。

 

 そんなわけで、おもちゃを取り上げられ急に暇になってしまった神海まりも。せっかく東京に来てこれでは可哀想なので、俺は彼女にミッションを言い渡すことにした。

 

 おつかい。

 

 それも、目的地は秋葉原。

 

 収録を予定していた動画の準備、その買い出しである。半分遊び、というかほぼ遊び。

 

「本当は私も同伴したいのですが……他にもやることがありますので、任せてしまってもいいですか」

 

『平気平気 ('ω')』

 

 本当か……?

 

「大丈夫ですよ。オレがちゃんと見てますんで!」

 

 自信たっぷりに言うのは、拳藤正義。同じく暇そうにしていた彼を護衛に付けることにした。

 

 ボクシング経験者であり、ありえたかもしれないあの未来では討伐実績もある拳藤正義。

 戦闘力なら俺なんか比ではないだろうが、しかし本当に大丈夫だろうか。姉を人質にとられたら神海まりもなんてポイーだろうに……。

 

『イクゾー! ٩('ω')و』

 

『デッデデデッデデデデッ ٩('ω')و』

 

『カーン! ٩('ω')و』

 

 なんかすげぇ機嫌良さそうなメッセージが全体チャットに投稿されている。俺以外も見るチャットだぞこれ。

 

 秋葉原、行きたがってたしなぁ……。

 

 じゃあ、信じてるからな、拳藤正義。さすがに彼自身が女子高生に手を出すことはないと思うけど……。

 神海まりもには、いつでも誰に対しても緊急通報が出来るように言い含める。

 

 俺は移動賃を含めた軍資金を2人に手渡した。

 

 緊急通報の画面を向けられる。なんだ脅しか。脅しには屈しないぞ。これ以上は出さん。

 茶番を終えてから浮かれた足取りで事務所を出ていく神海まりも、それを追いかける拳藤正義。

 

 そして便乗して着いていく波羅劾ざくろ。

 

 なんでも、東京に行くなら買ってきてと母に頼まれたものがあるらしい。彼女もおつかいである。

 途中までは一緒に行くとのこと。大丈夫かなあ。

 

 本当なら、俺が警護を務めるべきだろう。ただ、あまり俺ばかり出しゃばるのも良いことだけではない。

 俺以外のライバー同士の関わりも増やしていった方が、これからのVNIVEARTHのためになる。

 

 というか俺の知らんところでもう社長と2人でソファー見に行ってるんだよな、神海まりも。そこでどういう会話があったのかだけは興味がある。

 

 黒宮院みやみは、一応使うことのあるかもしれないサブ拠点として俺の自宅を案内したところで別行動となった。

 あっちの水道周りなどを把握してから、今夜の夕食も作ってくれるとのことでその足で買い出しに行って事務所に戻るのだとかなんとか。

 ちょうど鍵を預けてあったので、戸締まりごと任せて俺は事務所に戻ってきた。

 

 夕食の材料以外にも、ついでに他にも見るものがあるのでいつ帰ってくるかわからないとのこと。とりあえず領収証はちゃんと提出するようにだけ伝えた。

 

 そうしてつまり、この事務所には1人だけ残ってしまうことになる。

 

 ──詩星せるり。

 

 東京という、身に馴染みのない家から離れた土地で彼女を独りきりにするというのは避けたかった。事務所にいれば安全かもしれないが、彼女自身が後から1人で出かけない保証もない。だからと言って彼女だけを外出禁止のするのもおかしい話だ。

 

 よって、彼女がまりもん一行と一緒に出掛けないならば、俺もそちらへの同行を諦めよう。

 

 詩星せるりのためだ。妖怪まりもんはポイー。

 

 しかし予定もやりたいことも特にないと言うし、気分転換にと少しだけ彼女を連れ出そうと思う。こんな時のため、役立つことがあればと軽く調べておいたことがある。

 

 こうして、俺は詩星せるりを誘って外出することにした。

 

 

 社長は、留守番。

 

 

   *

 

 ──私は、見てしまった。

 

 

 女子高生に1万円札を渡す南條さんの姿を。

 

 

 

   *

 

 事務所で迎える朝は新鮮だ。

 

 配信を通して知っているけれど、素顔は知らなかった人たち。

 知っているようで知らない人がすぐ近くにいて、生活を共にしている。林間学校や修学旅行なんかとは違う、不思議な空間。

 

 神海先輩以外は私の年上で、その神海先輩もVTuberとしては私の先輩。なんだかすごい落ち着いているし、1つ下とは思えない。

 

 私が最年少のようなものだ。

 

 朝ごはんにと、みやみ先輩が全員におにぎりとお味噌汁を作ってくれた。漬物も。

 

 豆腐とほうれん草の味噌汁。味噌汁にほうれん草はあまり聞かないけれど、これが美味しかった。わかめより味が染み込みやすくて、何よりも食べていて健康的な気がする。

 

 おにぎりも、食べやすいように小さめの大きさ。具は明太子のと、鮭フレークのとで2種類。

 海苔なし。表面にちょっとだけごま塩が振ってあってなんだかオシャレ。海苔の匂いって強くて、ラップ越しでも手に海苔の匂いがつくこともあってあんまり好きじゃないんだけど、これがなくて嬉しい。

 

 塩こんぶに漬けたというきゅうりも、程よいしょっぱさで美味しかった。

 浅漬けとかじゃない味なのも新鮮。

 

 萬屋先輩も、今日も休みだったら一緒に食べられたのに。

 

 それから少しして、みんながそれぞれの予定で動き出した。

 お買い物に行くみやみ先輩。おつかいに行く神海先輩、拳藤さん、ざくろちゃん。3人と一緒に行くことも考えたけど、途中で別れるらしいのでやめておいた。私に目的がないと楽しみ方がわからない。

 

 何よりも。私には、この合宿でやるべきことがある。果たすべき使命がある。

 

 そう、ミナちゃんからのミッションだ。

 

 あの邪智暴虐の王、王ではないかも、邪智暴虐のマネージャー、南條亜紀人の野望を突き止めることである。

 

 私がミナちゃんを守るのだ。

 

 そして──

 

 ──私は、目撃する。

 

 神海先輩に、1万円札を渡す南條亜紀人!

 

 残念ながら、写真を撮ることはできなかった。けれど、これは重大な事件だ。

 

 女子高生に現金を貢ぐ成人男性、その決定的瞬間。

 

 まだここに来て2日目。他にも証拠は出てくるのかもしれない。これからも監視を続けないと……。

 

 のんびりしながらスマホでも眺めているのを装いつつ、南條亜紀人を観察する。

 パソコン作業であまり何をしているのかわからない。できればパソコンの中を見たいけど、そこまでは難しいか。

 

 万が一の話。今この時にも、南條さんは黙々と盗撮写真を整理している可能性があるのだ。ほとんどないだろうけど、絶対にないとは言い切れない。

 

 この部屋にも盗聴器が……?

 

 いやまさか。そんなことはさすがにない。現実を見ないと。

 

 ミナちゃんへの報告書の文面や、ミナちゃんとの雑談で使えそうな話題を考えていると、突然南條さんが話しかけてきた。

 

「詩星様は、今日のご予定等はございますか? もしお暇でしたら、気分転換に一緒に出かけるのはいかがでしょう?」

 

 ええ、誘われるなんて思ってなかった。急過ぎてもう驚いてしまって、よくわかってないままとにかく了承した。

 

 事務所を出て、2人並んで歩く。少しラフなワンピース系の服を着た私と、スーツ姿の南條さん。

 ……目立つし、やっぱり昨日なにか服を買っておくべきだったのでは?

 

 社長も拳藤さんも、そして南條さんもルックスが良いので、昨日の服選びは少し盛り上がった。タピオカより盛り上がった。みやみ先輩が乗り気だったのはわかるけど、男の人の服選びでざくろちゃんも結構楽しそうにしていたのは意外だった。

 

 駅に着き、ついに電車に乗って完全に知らない景色へ。

 

 私はどこに連れて行かれるのだろう。

 

 電車を降りてもまだ歩く。時刻は12時半。もうお昼だ。

 ちょっと遅めの朝ごはんを食べたので、お腹は空いていない。けれど、歩いていくのが飲食店の多い道で、お昼ごはんを食べに来た人たちでにぎわっているところを見ると、ちょっと気になってしまう。

 

 南條さんは、なんで私をこんなところに……。

 

 薄暗い道に入っている気がする。

 

 私は緊急通報のために画面を用意した。

 

「着きました」

 

 立ち止まった南條さん。そこにあったのは──

 

 ──未成年が立ち入ることができないはずのお店だった。

 

 私は看板を見た瞬間、迷わずに通報ボタンを押した。

 

   *

 

「警察は勘弁してくださいよ。まぁ、電話をかけただけですし、救急車を呼ばれてしまった時よりよりマシですが」

 

「すいませんでした……」

 

 

 私が連れて来られたのは、居酒屋だった。

 

 何度かコールしてから、応答する警察。何も気付かずに普通に店に入っていく南條さん。

 状況を聞かれて、説明をしようとして南條さんを見れば『2人です』とお店の人に言っているところ。

 

 これ説明してもただのお客さん実況だ……。

 

「すみません、間違えて押しました……。すみませんでした!」

 

 謝って電話を切る。急に謝りだした私に気付いた南條さんが、どうしたのかと聞いてくるので間違えて通報ボタンを押したと素直に報告。

 

 南條さんは、軽く笑って許してくれた。

 同時に苦々しそうに、社長に救急車を呼ばれた話もしてくれた。

 

 気を付けよう……。

 

 席に着き、そこで出されたのはなんと、砂肝だった。

 

 私の好物である。

 

 なんでも、私のために砂肝が美味しい店を探してくれていたらしい。

 お惣菜とかじゃない、料理したばかりの砂肝──じゅるり。い、いや、だって、家でママが作ることもないし、美味しそうだし……。

 

 美味しいし。

 

 お酒は飲まなくても、居酒屋で食べることはできる。枝豆と唐揚げと、適当に摘んで、おしまい。

 

「あの……。もしかして、お昼ご飯一緒に行こうってことだったんですか……?」

 

「そうですね、朝ごはんが遅かったので、少しおやつ程度に……と。すいません、先に言えば良かったですね」

 

 食べながら聞いた話だけど、今朝のお金の受け渡しは企画のために必要なものを買うためのものだったらしい。

 

 神海先輩と拳藤さんが向かったのは秋葉原の、カードショップ。

 中古カードで予算に収まるようにデッキを作って、対戦動画を撮影するのだとか。神海先輩が直接店に行き、使いたいものを自分で選んで買うというおつかいなのだ。

 拳藤さんもカードゲームがある程度わかるので、できそうならば同じ条件でデッキを作ってくる。買ったカードはそのまま2人にプレゼント。

 

 貢いでいたわけではなかったみたい。

 

 なーんだ。

 

 

 

 

 

 ……あれ、それって貢いでいるのと一緒では?

 

【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】四期生のデビューにともなって、二次投票の受付を開始します!! 現在公式Tvvltterにて公開されている画像は、制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)

  • 萬屋ぺすと
  • 佐土原恭子
  • 神海まりも
  • 詩星せるり
  • 遠藤
  • 黒宮院みやみ
  • 拳藤正義
  • 波羅劾ざくろ
  • 伊能凛
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