過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。   作:匿名

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#075 ざくろと幸せ家族計画

「えー、緊急会議を始めます」

 

 つい昨日、事務所にいるライバーたちが暇してそうだったからという理由で軽率に開かれた全体ミーティング。そして今、とある事態を受けて連日となる会議が設けられた。

 

 集まった人数は8人。佐土原恭子のみリモートでの参加だ。

 

 前回と違い、ここにはケーキがない。あるのは自由に摘んでいいよと合宿のために常設されたお菓子たち。その分だけ真面目な空気が漂う。

 

「先に言っておきますと、大した問題ではありません。急に開いたから緊急と冠しているだけで、迅速な対応が必要な事件だとか、深刻な要素は一切ありません」

 

 なぜだか逆に緊張感が満ちた気がする。

 

 真剣さを演出しようとすると緊張感に欠け、緊張感をほぐそうとすると緊張感が満ちる。どういうことだ。

 

「えー、では。心当たりのある方は、いらっしゃいますか?」

 

 俺の問いかけに、ゆっくりと手が挙がった。

 

 潔し、波羅劾ざくろだ。彼女は俯きながら、ぎゅっと目を瞑って悲痛に名乗り出た。

 

「う、うちです! うちがやりました!! 謹慎、解雇、なんでも受け入れます! 責任をとって腹を切りますッ!!」

 

「いやそこまでしなくても……」

 

 そんな大事ではない。ギャグか。コントか。

 

「はい。というわけで、昨日の波羅劾様の配信での発言ですね。リスナーの間でもかなり盛り上がっていたので、他の皆様も知っているかもしれません」

 

「アタシは知ってるわ。というか配信も見てたし、他のみんなもそうじゃないかしら?」

 

「はい、あれですよね」

 

「ふふふ~。皆でリアタイしてましたよぉ。私はぁ、むしろ賛成♡ ですけど♡」

 

 女性陣の中でも発言の多い組が、その場を代弁するように言った。無言で茎わかめを咀嚼するまりもと、男性陣を見るが特に意見はなさそうだ。

 

 合宿中の個人配信の注意事項などについてミーティングを行ったその日、VNIVEARTHは平常運転に則り1人ずつ配信を行った。配信時間が被らないようにしているのは元々なので、音質に微妙な変化があるかもしれないだけで他に特別なことはない。

 

 21時。波羅劾ざくろの配信ターンにて、その事件は起こった。

 

 マネージャー視点、事務所に集まったことで気が引き締まるか、逆に緩むか、どっちに転ぶかが見物ではあったが、その日の変化は特に顕著だった。

 

 

『リスナーのみなさんこんばんわぁ。はらあばきぃの、ざくろですぅ。よろしゅうなぁ』

 

:!?

:何!?

:どうした!?

 

 コッテコテ、ゆっるゆる。微妙に舌っ足らずな京都弁で現れた波羅劾ざくろにリスナーは困惑した。

 

:へんにゃりキターー!!

:ロリ化だって!?

 

 そして歓喜した。

 

 いつもどおりの背景、レイアウト、2Dモデル。普段は真面目な仕事人の標準語を取り繕いつつも、段々と京都弁が漏れ出す様子を楽しむのが波羅劾ざくろの配信の醍醐味の1つ。

 当然、その口調の変貌ぶりにリスナーから質問の連投が行われた。

 

 配信のセオリーに基づき多少焦らしてコメントと戯れてから、ついに真意が明かされる。

 

『実はなぁ。最近お盆やろ? すると親戚の集まりとかで見てしまうんよ。ちょっとわがままな年下の女の子と、面倒見の良い年上のおにいさんが仲良さそうにじゃれあう姿』

 

:?

:どういうことだってばよ

:てぇてぇ?

 

『そう! そうなんです。うちな、思ってしもたんです。いいな、って。うちもなぁ――

 

 ――頼れるおにいちゃん、欲しいなって』

 

:!?

:!!!!!??!?!?!?

:ざくろ!

:俺がいるぞ!!

 

 こんなこと言ってしまえば、男性リスナーは挙って我こそがお兄ちゃんだと諸手を振り集ってしまうだろう。

 

 しかしこれだけなら波羅劾ざくろの妹営業。問題はその後だ。

 

『VNIVEARTHのお父さんとお母さんと言うたらぁ、遠藤先輩と黒宮院先輩やろ? それで、萬屋先輩が長女で、神海先輩が次女。そしたら、うち――

 

 ――末っ子、なれへんかなって』

 

:???

:どういうこと?

:家族ネタね

:末っ子?

 

『いやなぁ、だから、その。うち、ヴニの末っ子になりたいなって……』

 

:えぇ……

:そっちかぁ

:ペットの犬とちゃうんか

 

:お前その見た目で末っ子狙ってんの??

 

 ちょっと恥ずかしそうに言う彼女へ、キレッキレのツッコミが刺さりコメント欄でも異質な存在感を放った。

 

 波羅劾ざくろといえば、鋭い目つき、染めた金髪にばちばちのピアス。舌ピ。へそピ。と、裏社会の情報屋さながらのキャラクター容姿を持っている。

 

 そんな彼女がまさかの末っ子狙いということで、コメント欄では誰がどのポジションかの話し合いが白熱していく。

 

:末っ子はまりもだろ

:見た目的になw

:ぺすは親戚のおばさん感

:↑殺すぞ

:お姉さんダルルォ!?

:せるりは?

:みなちゃんと別の家族

:いやせるりこそ末っ子だろ

:みやみ;;

:遠藤とみやみをくっつけるなって

:お幸せに

黒宮院みやみ:幸せになりまぁす♡

:!?

:やめてくれ……

 

 配信主の発言に関係なく、コメント欄で勝手に論争は膨れ上がり収拾がつかなくなっていく。そして当の本人と言えば、

 

『となると、うちのおにいちゃんは誰になるんやろか……。遠藤先輩、拳藤先輩、社長。誰が良いかなぁ……?』

 

:ざくろ!?

:俺がいるだろ!

:お兄ちゃんだぞ!!

 

『な。どさくさに紛れておにぃって呼んだら、そういうことにできんやろか……?』

 

 

 以上が、事の顛末である。

 

「すみません、うちもこんなことになるとは……」

 

 配信が終わって少しすると、ライバー各々のTvvltterアカウントへ、DMやリプ欄に質問をしだす者さえ現れ秩序は失われていった。

 何が彼らをそこまでさせるのかは理解に難しいが、これはつまりカップリング論争の延長。父と母は誰なのか、良い話題の種になってしまったのだ。

 

 どちらかというとしょうもないことなので、さすがにこれで呼び出されるのも悪いと思い佐土原恭子のみリモートでの参加だ。来たそうにしてる節はあった。

 

「VTuberのリスナーたちは、家族ネタ好きだからね……」

 

 解説するように言う萬屋ぺすと。しみじみとした言い方で、どこか嬉しそうな様子さえある。

 

 某大手の箱でも、家族を意識したユニットはあり記憶に新しい。家族会議を題材としたネタはやりやすいし、リスナー受けも良い。

 

 ――ただし、ガチ恋勢を除く。

 

 やはり火種となるのは、男女の関わり。父と母の夫妻は言わずもがな、兄と妹、姉と弟となってしまえばリスナーは過剰に反応してしまう。

 気持ちはわかる。原理も理解している。だけど、言ってしまえばこれはおままごとなのだから、それくらいは許してくれ……。俺が逆の立場、リスナーだったら……、許さないので妥当かもしれない。

 

「アタシはいいと思うわよ! VNIVEARTHにも、そういうユニットがあっても! アタシはまぁ~? 親戚のお姉さんでもペットの猫でもなんでもいけるわ!」

 

「ミナちゃんと夫婦……。やりましょう」

 

「エンド様とおしどり夫婦ですか。しかたないですねぇ♡ ぜひ♡」

 

「み、みなさん……!」

 

 波羅劾ざくろは涙ぐむ。責められるのを覚悟して断頭台へ向かったところへ、あったけぇ言葉で迎え入れられたのだ。あれ、俺が悪者かこれ?

 

「ちなみに、VNIVEARTH本社の問い合わせメールや、遠藤のDMにもリスナーからのお気持ちが届いております」

 

「うっ」

 

「拳藤様や社長にも。女性陣に近づくな、父と母はせるりとみなちゃんだから男の席はねーぞ、と」

 

「う゛ぅっ」

 

「あと、黒宮院様が悪い影響を与えたんじゃないか、とも」

 

「くぅ~ん♡」

 

 主にその喋り方がね。黒宮院みやみの指導を受けてあの末っ子ボイスになったんじゃないかって、なんか遠藤のDMに指摘が来たよ。

 事務所の監督不行き届きだ、奴を野放しにするな、とか。

 

 まぁ笑い話だ。

 

 申し訳なさそうに縮こまってしまう波羅劾ざくろ。しょんぼりわんこだけを悪者にする空気も本意ではないので、フォローを入れる。

 

「そこまで気にしないでください。苦情なんてよくあることです。最近なんて、事務所の独断でモデルを新調した佐土原恭子様から、コメントの治安が悪くなったと苦情がありました。内外問わずよくあることです。

 彼女のモデル改修を企画した私にも責任があります」

 

「「「え」」」

 

 なんだか急に空気が凍りついた。あれ、墓穴を掘ったか……?

 

「あれを、企画……?」

「その、大きくさせたんですか……?」

「亜紀人さん……?」

「お、男の子ですからね……」

『職権乱用! 欲望の化身! ٩('ω')و』

 

 まずいまずい。俺が燃える。

 

 社長の肩が震えている。笑うな。正義くん? その「触れないのが最善策」みたいに目を逸らすのなんなの。さてはお姉さんにいじられた事あるな?

 

 緊急回避!!

 

「で、本題ですが。これを機に皆様にももっと企画の立案をやりやすいように、再度案内をしようと思い本日は会議を開かせていただきました」

 

「逃げたわね」「逃げましたね」「あら~♡」「ははは……」『敵前逃亡は死あるのみ (⁻^⁻ )』

 

「――まぁ待ってくれ。亜紀人も悪気があったわけじゃないんだ」

 

 ここに来てなぜか出てくる社長。いやこんなところで擁護するなよ。俺がガチで性欲で暴走したみたいになるだろ。

 

 喋らないせいで常識人になるのずるいんだよ。

 

「皆様こうして事務所に集まっていただいたわけですが、しかしせっかく集まったのに日中は何もできないというのも惜しいものです。

 各自の予定で東京観光を楽しんでいただいても良いのですが、事務所としましては企画の撮影に時間を使いたいと思っています」

 

 社長の発言はスルーして話を進める。

 

「言ってましたね、そんなこと」

 

「……わ、忘れてないわよ! オフでやれることを収録だけしておいて、あとから編集して公式チャンネルに動画を投稿するのよね」

 

「はい。どのくらい継続するかはわかりませんが、週1のペースで15分から20分程度の動画を投稿します。これはVNIVEARTHとしての公式な企画動画になりますね。

 まずはお試し。タイトルも未定、コンセプトも未定ですが、これにつきまして、皆様からもアイデアを募りたいと思っています」

 

 事前に用意した資料を配る。A4コピー用紙に印刷された文字、全員に注目して欲しいのは企画の候補例。

 

 ……

 

・うんまい棒の全味食べてみた

・ご当地カップ麺全味食べてみた

・クレープみんなで食べてみた

・配信のお供プレゼン大会

・たこ焼きロシアンルーレット

・グレープジュース品格チェック

 

 ……

 

「食べてばっかりね……」

 

「……!?」

 

 まず、萬屋ぺすとに一刀両断された。本人は資料を見つめたまま何気なく呟いただけだが、正にその通りである。

 

 俺には……他に思いつかない! オフだからこそできること。同じ空間にいるからこそできること、そう考えた時に、一緒に食べることくらいしか出てこなかったのだ。

 

「これだとVNIVEARTHまんぷくチャンネルですね」

 

 詩星せるりが可愛いこと言ってる。配信でもその調子でやってくれ。

 

「すみません、こればかりは私の力不足です。3Dもない現状ですと、運動系はできませんし、広い設備もありません。食べる以外はオンラインでどうにでもなってしまうと思ってしまい……」

 

「確かに、そうですね。声のデータは離れていても送り合えますし、実際に会うからこそとなると……」

 

「お料理……とかですか? あ、これも食べてはりますね。えへへ……」

 

 うーん。一同が頭を悩ませる。俺が言ったせいかもしれないが、やはりすぐには思いつかない。

 

「――でしたらぁ。お化粧とか、どうですかぁ♡」

 

 突如として投げ込まれた光明。和やかな笑顔のまま、黒宮院みやみが斜めに両手を合わせる。どこかお淑やかさを感じさせるポーズだ。

 それは闇の中を光の矢が突き抜けるかのような言葉だった。目から鱗。

 

「お化粧……使い方とか? してあげる、とか? 確かに、学生のせるりちゃんやまりもちゃんに教えてあげるのは良い企画かもね!」

 

「面白そうです! 興味あります!」

 

 賛成票が集まって、黒宮院みやみを讃える女性陣。ただ、水を差すようで悪いがそのコンセプトだと問題がある。

 

「素晴らしいご意見です。ありがとうございます、黒宮院様」

 

「お役に立てて、何よりです♡」

 

 良い笑顔にケチをつけるようで申し訳ない。大事なことなのだ。

 

「少々補足をしますと、化粧の場合は教わる側が固定される形式は避けたいですね。詩星様も神海様も、一応学生であることは伏せておりますし、教える側の面子を固定して教わる側をローテーションさせる方が良いでしょう」

 

「あ、そうよね……。ごめんなさい、またアタシ。年齢は非公開……」

 

 少し重箱を突くような指摘ではある。ついしてしまったが、俺ももう少し冷静に話が進むのを見守るべきだったか。

 

「あ! なら、うちも教えて欲しいです! 末っ子ですからね」

 

「そうですね、この中で化粧が得意でも設定上違和感のない方々を中心に、教える、教え合うという構図が望ましいです。私も早計でした、化粧に不慣れだから、と前置けば詩星様や神海様が生徒側固定でも問題ないですね」

 

 新しく、化粧品の使い方講座という選択肢が生まれた。こういう成果があるから、話し合いはもっと積極的に行いたい。

 突発的に出てきたアイデアなので、企画の運びや内容、VTuberだから実際の化粧風景を映せないので画像素材が必要と、考えることが多いが……化粧に関しては当然詳しくないし、彼女たちに任せてみよう。

 

 minaとして詩星せるりとメッセージのやり取りをする中で、黒宮院みやみが入浴とスキンケアやらで1時間以上洗面所に籠っていると報告を受けている。適役かもしれない。

 なんか他にも調査してくれていることがあるっぽいし、詩星せるりも事務所に協力してくれている。

 

「実際に揉んで検証するって申請すれば、通るか……?」

 

 神海まりもも真剣な顔で何かを呟いている。事務所一丸となっての企画出し。良い傾向だ。

 

「亜紀人。ボクらも企画を――」

「社長は後」

「亜紀人……」

「合宿が終わった後も毎日会うでしょう。後回しです。後からいつでもいくらでも撮れます」

「亜紀人……!」

 

 東京在住の拳藤正義も含めて、男性陣は気軽に収録できる。男同士でできそうなことは別にいくつか考えているし、急ぐことはない。

 

「南條さん南條さん、この『グレープジュース品格チェック』ってなんですか?」

 

「ああ、波羅劾様。それはですね、波羅劾様の好物がぶどうなのをヒントに、果汁10%~100%のグレープジュースを飲み比べて当てられるかを競う企画を……」

 

 

   *

 

 企画会議もそこそこに。息抜きも兼ねて、アタシたちはカラオケに来た。

 

 歌に力を入れているせるりちゃんにアドバイスを貰おうという側面もあるし、単純に事務所の外で女子会をしようという話でもある。

 

 安全確保の名目で同伴しようとしていた南條さんはお留守番。女子会なのよ。

 

 アタシが明日から2日間、木、金と仕事だから、ここでやっておかないとできないという都合もあって、みんなが合わせてくれたのよね。

 部署のスケジュール的にもう休めない。本当なら大喜利のある金曜が休みたかったんだけど……まあ代わりに昨日早退させてもらったし。

 

 企画を収録する時間足りるかしら。帰ってからと、土日の配信してない時間。さーて、忙しくなるわよ〜!

 

「ドリンクバーどうする~? 何が良いか言ってくれればみんなのも取ってくるわよ~」

 

「うちも行きます!」

 

 ざくろちゃんがすぐについて来ようとする。

 一番デビューが遅いから、この子は後輩だからと言って雑用を買って出ようとするところがある。

 

「私も行きます」

 

「萬屋先輩、私も行きます。何がある見てませんでしたし」

 

「そうですね~。じゃあ、みんなで行きましょうかぁ」

 

 結局、5人で行って戻ってくる。こういうところ、みんな几帳面なのよねぇ。

 

「佐土原先輩は来れそうですか?」

 

「今向かっているとのことです。2分前に家を出たそうで。地図は送ったので問題ないと思います」

 

 せるりちゃんの質問に、まりもちゃんが答えた。

 

 女子会をしておこうと決まったのがついさっき。最初は事務所で恭子ちゃんを待つはずだったんだけど、恭子ちゃんの家の方向的にカラオケで合流した方が早いということになった。

 

 カラオケ地味に遠いのよね。事務所の周辺にはスーパーやカラオケがないから、電車に乗って移動しなきゃいけない。スーパーはまだ徒歩圏内かもだけど、カラオケがとにかく近くになかった。

 

「みやみちゃん、ご飯ありがとね。スーパー遠いんでしょ? 今度買い出し手伝うから……。

 あーあ、朝ごはんに作ったっていうおにぎりとほうれん草の味噌汁、アタシも食べたかったわ~。事務所に泊まって直接仕事に行こうかしら」

 

「ふふふ~。お味噌汁はまた作りますよぉ。おにぎりも、萬屋先輩の仕事の時間に合わせて作りましょうか?」

 

 みやみちゃん、なんて良い子……。配信ではなんかすごいけど、普段はやっぱり家庭的で普通の子なのよね……。

 

 ……普通といえば、もう1人いる。

 

「――ね、まりもちゃん……」

 

「どうしましたか?」

 

 どこかゆるふわな雰囲気のお嬢様コーデをした美少女から返事が返ってくる。

 礼儀正しく足を揃え、ジュースを飲む動作も綺麗で優雅。同じ女の私でもちょっと目を奪われる。

 

「配信外だと、普通なのよね……」

 

 とにかく喋らず、無言のままずっとFPSかインディーズのクソゲー……じゃない、独特なゲームをやってる異色のVTuber。

 最近になって時々顔文字を使ったチャットを使う様になって、ようやくリスナーとコミュニケーションが解禁。

 そして一期生の低品質な初期モデルも仮改修――と思ったらまさかの人外マスコット枠。

 

「実は私も思ってました」「うちも」「私も~」

 

 3人の同意を得る。やっぱりアタシ以外も思ってたのね。

 

「最初会った時から、というか事務所だと喋らない? のよね。いや寝る前は喋ってたかしら。

 何かその、事情とかあるのかなって。ほら、こういうのも聞いておかないとって会議で思ったわ。アタシも気を付けないとね……」

 

 雑談中に気が抜けて言っちゃいそうなのは正直心配。今日だって、中の人の年齢を前提に企画を考えていた。南條さんの指摘がなかったら全く気付かなかったわ。

 

 だからちゃんと確認しないとなのよね。自分のことでいっぱいで、今までちゃんと聞いてこなかったのが間違いなのよ。……初期の事務所が何も注意してこなかったのも、あるかもだけど。

 

「配信中に喋らないのは主に身バレ対策です。あまり声を作るのが得意ではないので……。事務所で喋らないのは――

 

 ――南條さんが、裏のやりとりでも普段の配信通りに振舞うように言っていたからです」

 

 あ、そうなの。

 

 なんか、拍子抜けだわ。アタシたちVNIVEARTHライバーは、普段のライバー同士のメッセージでも配信のキャラでやると良いとアドバイスを受けている。

 こうすることで、雑談配信中に裏であった出来事を話す時にボロを出すことが減るのだとか。確かにそうだし、これも身バレ対策なのよね。

 

 それを律義に守って、配信のキャラを事務所内でも……。不憫と言うか、真面目と言うか。

 

 うちのライバーは変だけど、中の子はみんないい子なのよね。

 

 残すはあと1人だけ。今だに事務所に現れていない、1人のライバーを思い浮かべた。

 

   *

 

 友達とカラオケに来ることはたまにある。けど当たり前だけどVNIVEARTHの先輩方と一緒に来るのは初めてだ。

 

 この中ではうちが最も後輩。焼きそばパンを買って来いと言われたら買ってくるくらいの意気込みでいないと。

 もちろん、お前の金でと言われたら南條さんに報告案件だけど。

 

 最初はやっぱりみんな緊張して声が出ていなかったけど、1時間もすれば普通にカラオケを楽しみ始めた。人前で歌うって抵抗あるし、喉も準備ができていないのでカラオケに来るといつもこんな感じ。

 

 そんな中で、ふと萬屋先輩が切り出した。

 

「ね、アタシ気づいちゃったのよ。遠藤……遠藤さんのこと」

 

 さっきまでの雑談のトーンとは違う、真剣な声と顔。ちゃんと聞かないと。

 

 遠藤先輩。二期生の男性ライバー。社員も兼任しているという、VNIVEARTH内でも配信に詳しい人。

 VNIVEARTHの配信マニュアルのセオリーを一番実行している人で、なおかつアドリブで暴走しているように見せながらもちゃんと配信をコントロールするすごい先輩だ。

 

 そして謎の多い先輩でもある。このオフコラボでもまだ一度も顔を見せていない。

 

「この前南條さんに言われたのよ。遠藤は今、修行中で漁船にいるって」

 

「なんですかそれ」

 

 せるり先輩が、冷ややかにつっこむように呟いた。可愛い。うちも口を合わせておこう。

 

「冗談ですかね……」

 

「でもね、これが本当だったら、事務所に来ないのも納得できるのよ……。遠藤は漁船にいる。それってつまり――

 

 ――VNIVEARTHの資金を出稼ぎに行ってるんじゃないかしら……?」

 

 た、確かに……。

 

 社長の株だけが収入源っていうのもおかしいと思った。遠藤先輩が別口で稼いでいると言われれば腑に落ちる。

 

 し、神海先輩が俯いて、震えている……? もしかして、泣いてる……!?

 え! 冗談じゃなくて、本当のことなんですか……!?

 

「でね、アタシ聞いたのよ。遠藤……遠藤さん、金曜の大喜利大会には来るらしいわ。どんな人なのかしらね……」

 

 それは一大ニュースだ。

 

 謎に隠された、ライバーの中の人。情報屋であるうちのキャラとしては触れるのが当然だし、リスナーも気になると思う。南條さんに、扱ってもいい話題か確認をしないと。

 

 そして。

 

 遠藤さん。遠藤さんもまた――

 

 

 ――うちのおにぃになるかもしれない人だ。

 

 

 さりげなく『おにぃ』と呼んでみて、押し通せないか試してみるという、うちの野望。

 

 末っ子作戦、頑張るぞ……! 

 

【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】四期生のデビューにともなって、二次投票の受付を開始します!! 現在公式Tvvltterにて公開されている画像は、制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)

  • 萬屋ぺすと
  • 佐土原恭子
  • 神海まりも
  • 詩星せるり
  • 遠藤
  • 黒宮院みやみ
  • 拳藤正義
  • 波羅劾ざくろ
  • 伊能凛
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