「それではご視聴いただいたリスナーの皆様、予定を大幅に超えた80分間の視聴ありがとうございました!
……終わった? 終わったな? これで俺はもう司会者ではなくなった! はっはっは!! 俺の名前はみなしごエンドレス! VNIVEARTHの『王』になる男だ!!!」
:今日やけにテンション高いね
:やばめのクスリでもやったのか?
:遠藤だしこんなもんでしょ
:いやー今日のこいつはおかしいよ
第3回大喜利クイズ配信の終了を宣言した俺に対して、今日のお前おかしいよのコメントが投げかけられている。
そこまでじゃないだろ……。コラボ配信とかは割とこのキャラで
だからこそ、雑談枠のキャラの方が定着していたりするのか?
「今日の大喜利はこれで終わるかもしれねぇが、俺は止まらねぇからよ……。その先に『俺たち』はいるぞ!!」
:なんだw
:団長!
:もっと配信延長しろ
:お前死ぬの?
:なにこれ最終回?
:ヴニ解散すんのか?w
「終わりとはそれすなわち、同時に始まりでもある――。
お前ら準備はいいか!?
VNIVEARTH24時間配信を、始めるぞ!!!」
:おお
:そうだった
:や゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!(みゃみ並感)
:↑そんなに叫んでなかった
:今から24時間!?
「じゃあアンタたち。アタシたちは打ち上げの天ぷらパーティーをやるから……」
:えっ
:ぺす……?
:置いてかないで;;
:やだやだ
:もちろん配信は……
「配信……? これからみんなで大喜利の打ち上げをするのに、配信なんて――
――するに決まってるじゃない!!」
:ッシャオラアアアアアア!!!
:キターー!!
:こいつら食ってばっかだなw
:先週は寿司で、今週は天ぷら……?
:スシ! テンプラ!
:スキヤキのフラグが立ったな
:来週はスキヤキ確定!!
萬屋ぺすとのリスナーを弄ぶ前振り芸に、コメントも大盛り上がりだ。感染者を中心に、こういうときのノリの良さが形成された今のVNIVEARTHは強い。
配信の絵面的としてもコメントはとにかく多いのは言わずもがな。
同時視聴数は大手の箱に大きく劣るかもしれないが、リスナー自身も面白いことを言おうとして粒揃いのコメントがいくつも流れていく状況というのは、特に切り抜きになった時に大人気配信と比べても負けない満足感を与えることができる。
「ちょっと大喜利も長引いちゃったし、そうね……20分後! そのくらいしたら別の枠で始まるから、公式チャンネルのアイコンをクリックして新しいライブ配信の枠で待ってなさい!」
「……あ、萬屋先輩! えっとなになに。この配信を切った直後から枠はもう始まるみたいです! 特にイベントはありませんが、20分の休憩の様子もリスナーのみなさんと過ごせます!」
「休憩も配信……? ア、アタシたち配信者にはプライバシーも、ないのね……。くっ、なんて恐ろしい職業!」
:草
:そんなじゃないだろw
:茶番ww
「まぁまぁ~? お料理の準備とか、私たちがビニール袋を、がさがさ♡ してるところが聞こえるだけですけどね~」
「うちもお手伝いします。なんでも言ってください!」
『食べます。どんどん作ってください。٩('ω')و』
「というわけでアンタたち! 今日の打ち上げは天ぷらとそうめんよ! 配信やTvvltterでも予告した通り、アンタたちもそうめんを用意すればアタシたちと一緒に食事ができるわ!
予定時間から作り始めるから、この20分の間に買ってくるのも良いかもね!」
:もう準備はできている。
:ざくろ今なんでもって……
:マジかコンビニ行ってくる
:高いからスーパーにしておけw
:スーパーで天ぷら買ってきた俺の大勝利
:まりも作る気なくて草
:食事ASMR!?
:素麺ずぞぞぞぞぞwwwww
……コメントのノリが良すぎて切りどころが難しくなってるな。この枠で話してるだけで20分経ちそう。説明は済んだし強引に切って枠を変えるか。
「配信切るぞー。続きはそっちの枠でやってくれぇ。リンク貼ったからみんな移動するぞー」
:はーい
:わーい
:乗り込めー
:イクゾー
神海まりも:イクゾー! ٩('ω')و デッデッデデデデッ カーン! デデデデッ
:ww
:!?
:カーンが入っている。+114514点
:最近やっと味のしてきた女
:元からまりもは面白かった定期
*
待機時間中も勝手にコメント同士で盛り上がっている中で、俺もまた配信画面に24時間配信のタイムスケジュールを貼ったりして段取りを行う。
24時間配信と言えど、女性陣の大半は少なくとも2時くらいには眠る予定だ。そこからは神海まりもの無言ゲーム枠や、男性陣で繋ぐ予定だ。
今日のために予定を開けているリスナーだって、ぶっ通しで起きるのも厳しいだろう。深夜と朝方は割と見なくても損をしないような配信で埋めることになる。
……もしもVNIVEARTHを見ていてくれる子供がいたとして、夜中もずっと起きたままなのは体力的によろしくない。いくら夏休みとはいえ、だ。
……。
「お疲れー! さー天ぷらよ天ぷらぁ! しかも揚げたて。まさかVTuberになってタコパならぬ……えっと? テンパ……テンプラパ! ライバーで集まって天ぷらパをすることになるだなんてねぇ。1月2月の配信中のアタシは夢にも思わなかったわ……」
「萬屋先輩……。タコパもいつか、やりましょうね……!」
:ぺす;;
:よかったね
:一期生の苦労が
:またそれかよw
:このおばさんずっとそれやってるよね
結局、萬屋ぺすとは休むこともなくほとんどコメントを読みながら雑談をしてしまった。
リスナーもコメント同士で推しが誰だのと喧嘩をするよりもよっぽど充実した時間になっただろうし、こういう付き合いの良さから来る身近さが、彼女を熱心に応援するファンを生み出しているのだろう。
年齢と東京在住とOLっぽいということが雑談中も明け透けになっているのも、身バレの観点ではズタボロだが、うまくリスナー層を取り込む親近感を生む要素となっているのだろう。
「ざくろちゃ~ん、そっちのお皿もらってもいいですかぁ~?」
「はい黒宮院先輩! ……うちも切るの手伝いますか?」
「まりもさん、この海老は生食用じゃないからやめた方がいいわ」
大喜利が終わったのでピンマイクを回収し、今は置きマイクで配信を行っている。程よく他のライバーの声もBGMとしてマイクに乗ることで生活感が演出されている。
――ああ、なんて平和なのだろう。
定刻になり、リスナーたちと並行してそうめんを茹でていく。この瞬間、配信を見ながら一緒にそうめんを茹でる人間が、日本にどれだけいるだろうか。
配信者として、俺自身が電波に乗り全世界の人間が見ることのできるサイトで配信をするだなどと、あの未来では想像も付かなかった。
病室のベッドの上で、配信用のLive2Dモデルを作った時期があった。しかしそれは俺の物ではなかった。
配信をするとして、それは俺ではなく……。
「ん! あ、これうち好きです! 大葉! 大葉の天ぷら! リ、リスナーの皆さん、これ! 大葉の天ぷらうちこれ好きです! さくさくで、すっきりしてて! 皆さんおいしいですよこれ!」
急に騒ぎ出した波羅劾ざくろが、マイクに向かって一生懸命話しかけていた。汗マークでも見えそうな、弾んだ声。活気にあふれた目だが、語彙力は死んでいる。
:いいなぁ……
:幼女化が止まらんw
:おいちいねえざくちゃん
:飯テロ
:揚げたてとか裏山
:えー、こちらスーパーの天ぷらはしんなりしてます……
天ぷらを食べようと決まった時に『揚げ物はちょっと……』みたいなことを言っていた波羅劾ざくろだったが、しかし今日のは新品の油を使い、重くならないように軽く揚げたものを、出来立てで振舞っている。
スーパーの総菜コーナーにあるものとは、根柢にある条件が違うのだ。
「みなさまぁ~、舞茸が揚がりましたよぉ~♡」
ぱたぱたぱた。スリッパの音と共に近づいてきて、皿がテーブルに置かれる。そして、さくりと口に含む音。とどめとばかりに少し誇張したライバーの感想リアクション。
「ん~! 舞茸のこの、きのこ! って感じの風味と、塩が合うわぁ……」
「お茄子さんも美味しいです。んふふー。こっちはめんつゆが合いますね……。味変できていいですよね、試したくなっちゃいますっ。七味とか調味料もなんかいっぱいありますよ」
これらが、22時になろうとする時間のリスナーのもとに届く。
:頼むから食わせてくれ……
:へへ、こいつはみゃみ。俺の嫁だ。
:お茄子さん?
:清楚モードのせるりだぞ
神海まりも:エビうめぇ! ・;’.,(゚Д゚ꐦ) エビうめぇ! ・;’.,(゚Д゚ꐦ)
:夕飯はもう食ったのに;;
蓮根も茄子も喜んで食べていたし、椎茸や舞茸などのラインナップも含めて他ライバーからも大好評だった。
「黒宮院みやみ。黒宮院みやみも落ち着いて食べた方がいい。代わろう」
「エンド様……♡ いえいえ、お手伝いしてもらってますし、大丈夫ですよぉ……♡」
「いや黒宮院みやみも配信の方に参加した方がいいだろ。安心しろ、ちゃんとマスクとビニール手袋を付けて揚げるから」
「じゃ、じゃあ~……私の天ぷら♡ 作ってくださいね♡」
:ん?
:は!?
:お前ら一緒にいるのか!?
:草
:配信で言ってただろw
:許せねーよな……
:ついったでも言ってたお
何を今更。事務所に集まるとは何度か告知しているのに、やっぱりライブ配信になると騒ぐ人が出てくる。まあ、そういうものなのだ。
こういった場面で、見てないリスナーのせいで済ませるのではなく丁寧に対処するのが大事。
「はっはっは。安心しろ。俺に至ってはサングラスもつけている。完全防備だ」
「そうよアンタたち、聞いてよ! 遠藤ってばアロハシャツと短パンにサングラスで事務所に来てるのよ! それで配信中、全然集中できなくって……」
:!?
:草
:何それは……
:遠藤wwwwwwwww
:オフコラボとかふざけんな
「まあ平気だって。
飯食ったら男共は別の建物へ直行よ。徹夜でゲームするから。そうだよな正義くん!? ちゃんと食べてるか!?」
「はい食べてます! めっちゃ美味いっすこれマジで。お店のより美味いっすよ!
夜中は遠藤先輩と社長とオレの3人でゲームします。男子会っす。朝まで寝ねっす!!」
:楽しそうね
:こいつらエンジョイしてんな
:騙されるなどうせ裏ではパコってんだぞ
:24時間ずっと配信してて、お盆休みもう終わってんだぞそんな暇ねーよ
:社長のゲーム配信とかレアだな
:ハズレアでは?
:だが俺はレアだぜ
お、良いコメントあった。そっかお盆休み終わってるからそういう疑惑を薄められるのか。
俺はスマホを取り出していつものサクラ用のアカウントでコメントする。
:お盆休み終わってるから時間ねーわな
同調の空気が少しでもできれば御の字。まあ本格的に批判コメントが溢れるようなら俺も食事をやめてモデレーターとしてBAN祭りをすればいいか……。
と思ってたら社長がモデレーター画面を開いた。お前……。ただしコメントの流れに瞬きをした後、食事に戻った。お前さぁ……。
すると見かねた神海まりもが片手間程度に適当な処理をしていく。食べながらだけど、それでいてBANと規制をちゃんと区別しているようで一括で豚箱にぶち込んだりはしていない。
お前……!
じゃあ俺は揚げ物に取り掛かろう。ちゃんとビニール手袋を付けてゆっくり揚げていく。
そこで配信映えにと俺の中のエンターテインメント心が囁いた。マイクの方を向き、わざとらしく大きめな声で言う。
「へっへっへ~。料理の番を俺に任せたのが運の尽き。普通にやっても面白くねぇ、なんかあるもん適当に揚げてやるぜ!」
:おいなんか言ってるぞ
:大丈夫か?
:遠藤w
:自由人がよ
:みんなの胃もエンドってな
「大変ですみなさん! 遠藤先輩が冷蔵庫漁ってはります!」
「アタシたち、どうなっちゃうの~~~!? あ、れんこんいただくわね」
「揚げ物の油をそうめんでさっと洗い流す。このちょっと用意されてるそうめんが、嬉しいですね……っ! 刻みネギと揚げ玉もありますよ」
「揚げ玉……天かすのことね。今わたしたちが食べている天ぷらを作っているときに生まれたものだわ」
『産地直送の天カス来た! ٩('ω')و』
:余裕そうで草
:適当すぎだろww
:産地直送の天カスwwwww
:クソワロタ
:確かにそうだけどさぁw
:俺も恭子から生まれたい
料理経験は全くないわけじゃない。あの未来を含めて俺は一人暮らしをそこそこしているし、作ることに楽しみを覚えなかったので習熟していないが、
まあ、黒宮院みやみに比べてしまえば当然俺なんか初心者ではあるんだけど。なんか古布のリサイクルとかしてるみたいだし。
仕事中の俺は常にスーツでいるので、同じようなワイシャツを何枚も持っている。数枚をほぼ毎日着回しているため劣化が早く、特にこのオフコラボに際して新品を買い、古いものを捨てるつもりでいた。
俺の自宅を確認したとき、黒宮院みやみは捨てる予定で避けておいた俺のワイシャツを見つけて、古布に使っていいか聞いてきたのだ。
本当にする人いるんだ……、やっても新聞紙だと思ってた。感心しつつ普通に承諾。
俺の服が食器に触れることには抵抗があるけど、拭った後に洗剤で洗うんだろうし、役に立つなら良いだろう。
今日は古布、使ってなさそうだけど。
そんな料理初心者な俺の判断で、黒宮院みやみが買ってきていた野菜を勝手に物色する。
とりあえずいくつかを手に取ってから黒宮院みやみへと近づく。本当に無断で使うわけにもいかないので確認のためだ。配信に乗らないように小さな声で、耳元へ呟く。
「これ使っていいですか?」
「はひゅぅん……♡」
多分了承を得たので、マイクに聞こえるように声を出す。
「ピーマン行けるかーこれ。一口サイズと、細く切ったやつで揚げてみるかな! レタスも揚げよう。水気が多いから気を付ければいいだろ! 長ネギも揚げるぜヒャッハー!」
「遠藤先輩、こっちのニンジンとかどうですか!? つかオレもやりますよ!」
「……っ!? エンド、ボクも手伝おう」
なんか来た。ちょうどいいしそういう展開にしよう。
「男料理のターン……か。俺たちでVNIVEARTHの女性陣に男力を見せてやろう! 女性陣は今のうちにくつろいで、俺たちを奴隷の如く酷使するがいい!」
:草
:男料理いいね
:卑屈なのかわからんw
:今日の遠藤やっぱおかしいよ
「お、ブロッコリーの余りもあるなぁ! これも揚げよう」
「エンド、このジャガイモなんかどうだい?」
「芋は処理が多いので今日は駄目」
「エンド……」
こうして男3人によって、ピーマン、レタス、長ネギ、ニンジン、ブロッコリーの天ぷらが揚がった。
まあちゃんとスマホ片手に検索して選んだし、あまり見ないだけで合わないことはないのだろう。本当に変なものを食べさせるつもりはない。揚げ時間とかも平気だったはずだ。感想はと言うと……、
「「「「意外と美味しい!!」」」」
*
1時間以上夕食で騒いで、全員がちょっと食べ過ぎて血糖値は急上昇。上昇負荷が俺たちを襲う。
眠いし24時間配信は中止にするか? と冗談を言いながら、男女に別れて食休みの雑談をする。どちらも別の枠で配信をするので、リスナーは好きな方を見ればいい。
「いやぁ~、美味かったです。野菜って揚げればなんでもいけるもんすね!」
「元も子もないことを言えば塩と麺つゆの味だからね。ブロッコリーの食感やばかったけど」
「遠藤先輩の食べたやつはばらばらになった失敗作ですよね。でもあれだって野菜揚げ玉と思えば美味しかったっすよ!」
「なるほど、……って、食べてる時に言え!」
:思ったより男子会のノリだったw
:遠藤と拳藤仲良いのね
:遠×拳
:ケンエンの仲、な
:意味逆ww
:社長喋んねぇな
視聴数は9割以上あっちに吸われているが、冷やかし程度に覗いてコメントだけ打って向こうに戻る人もいて賑やかさは少しある。
:ケンエンの仲・エンゲージリング
:男子も成長したね!
:正義くん何歳?
:みんな若いよね
……なんかコメント欄が、いつもより平和――平和というか、なんだろう、雰囲気が違う。
殺伐さがない、というか、そうか、これはあれか。男性リスナーが女性陣の方に集まってるから、男性ライバーを見る女性リスナーの比率が高いのだ。
男性リスナーも女性ライバーしかいない空間では優しい言葉が多いし、この時代はまだまだ男女で棲み分けた方が
今はまだ活動の基礎作りに努めて、男女だからこそやれるような企画はコロナ禍でリスナー層の方が拡大してから仕掛けるべきだな……。
「社長……、社長はどの天ぷらが好きでした? オレはやっぱエビですけど」
「ピーマンだ」
「意外っすね!」
「ああ」
「へへ……」
「……」
「……」
「……」
「そ、そういやエビのぬいぐるみありますよね、事務所に!」
「……」
:社長……;;
:お話してあげて!
:凛くんはエンドとしか喋らないよ。解釈違い。
そういうキャラだと思ってるリスナーもいる。というか本当に優しいな。
「あー、あれは神海まりもからの差し入れ。事務所が殺風景だからって、ゲーセンでとったやつをクッション代わりに寄贈してくれて」
コメントが止まる。女性の名前を出すと不穏になるの、リスナーの本質は男女で変わらないんだなぁと思う。差別は良くない男も女も同じなのだ。
叩くコメントが出てこないのは人数が少ないからまだ秩序が崩壊していないだけで、SNSや掲示板だと女性ライバーを悪く言う女性リスナーっぽいアカウントも見かける。
「へー、ゲーセンっすか……ゲーム。そろそろ、やりますか?」
「そうだね。社長、準備はいいですか?」
「ああ、エンド。待ちわびたさ」
:しゃべった!
:喋れてえらい!
:何するの?
しかし少しの誤算。これから行う俺の企画した配信は、男性ウケしか考えていないものだったのだ。
メインで草を生やしてくれるリスナーは今頃、女性陣の配信にいるのだろう。ガールズトークという名の雑談か、始まっていれば納涼ホラゲ配信でキャーキャーしているを
夏企画に向けて5月後半から許諾を考慮して扱うゲームを吟味していたのだけど、結局のところはインディーズ系の無難なものを使用することにした。
肝心な内容だけど、あまり怖くはない。ガチで怖くてもどうせリアクションが演技かどうかで議論になるんだし、ならばむしろそんなに怖くないものをわざとらしく怖がってキャッキャする方がストレートに可愛いとの判断だ。
悲鳴も音量を間違えれば不快になり得る要素だし。
1~2時間程度で済むボリュームがいいのもあって……、まあ、その、何よりも。
――ガチで怖いと、見ている人の身体に障るからというのもある。
そこまで優先すべきではない判断基準だ。ただの職権乱用とも言うのかもしれない。
俺の個人的独断というか願望はともかく。
許諾というのはまだ世間的に重要視されていないが、この事務所にとっては違っていた。
VNIVEARTHは不祥事の無い公正な運営をしている印象を与えるために、運営方針としてできるだけ許諾の取れるゲームをすることにしている。まあこれも俺の独断だけど。
特に今回のような公式企画となれば、無許可のゲーム配信は基本的にしないつもりだ。
最初は男女それぞれでshabovv corrlborをガチプレイとエンジョイプレイでやるのを考えたのだけれど、あのタイトルはsvvitch版の移植によって日本最高峰のゲーム会社のお膝元に行ってしまわれたので断念。去年だったらフリー版を配信に使用できたと思う。
そんな2019年のこのご時世に、許諾に拘ってしまった俺が男3人でやろうとしたゲームとは――
――カチ、カチカチカチ、カチカチ。
――フォォオン……。
――ウィィィイイイン、ウィィィィイイン……。
――ガシャ! ジャキン!
――ウイィィィィィィイン……。
――パンパカパーン、パパパパパパパパーッ、パパパパーパー、パパパパーパパパパーパーパパパパパーパー……ダーダッ……ダダッ……。
……。
:え、何?
:音だけ
:これwww
少し気づいたリスナーもいる。ここでコメントのツッコミがほとんど来ないのは少し寂しいけど、仕方ないこのまま行くかぁと無難に進めようと思った時。
:お前マジかwwww
:なっつ
:ウィィィィィン(迫真)
:これは、PZPの音!?
急にコメントが増える。確認して見ると、女性陣の配信にこっちの様子をコメントしたリスナーがいたらしく、一部が覗きに来たらしい。
ありがたい。これで無事に出オチを消化できる。
そう、このゲームは――
――某モンスターをハンターする超有名ゲームである。
2ndGだ。
:いいのか?
:許可取れたの?
:いや音質的に直撮りだしいつもの裏技でしょ
:ウィーンw ガガガww
「もちろん取れる、わけがない。
なのでカードゲームの対戦と同じように、画面を一切映さずにゲームをするだけの配信だ! 皆には悪いけど、俺たちがゲームで遊ぶ様子を聴いていてくれ。できるだけ伝わるように実況するから」
正に出オチ。またVNIVEARTHが変なことをやってるぞという字面のインパクトだけに特化した一発ネタだ。
ここから先は、男3人がゲームで盛り上がる様子だけがなんとなく伝わってくるだけという、男子校のノリというか、修学旅行の男子部屋のノリだけで貫き通すというのが、VNIVEARTH24時間配信での男性陣の配信内容だ。
「まあこれには意図があって。24時間配信ってことは明日の夜まで続くんだよ。ずっと起きてるなんて大変でしょ?
タイムスケジュールにも書いたけど、夜中は女性陣は普通に寝て、その間は男3人で時間を繋ぐ。内容は俺らが全員最初から初めて、初プレイの社長を育成する配信だから、みんなは遠慮なく寝て欲しい」
:おお
:リスナーへの配慮
:メシテロの配慮はしません
:手抜きの言い訳では?
:遠藤の口調が普段に戻ってきたな
無理に見る必要はない、重要でもないただの配信だ。コメントがあれば読むし、これはこれで趣があるかもな、そんな程度のもの。
「まず紹介しよう。俺の本体は赤。正義くんが青で、社長が赤と黒のやつ」
「オレのは私物ですね。2ndGはやってたんで、しまってあったのを持ってきました。遠藤先輩もですよね。なわけで経験者2人です!」
「社長がやったことないと言うので、本体とソフトは中古屋で買ってきました。2ndGは税込み110円なんだけど、本体は――。この社長、わざわざ限定カラー選びやがって」
「エンドが同じ色を駄目だと言ったんだ。ボクは同じ赤にしたかったのに、全員違う色にするのだと。ならボクは赤と黒の、この本体にする……!」
:社長……
:草
:┌(┌^o^)┐?
:エンゲージリングやね
:つか遠藤は緑じゃないんか
:拳藤が赤だろ普通ww
「拳藤正義が赤……? 確かに……。正義くん、交換しようか」
「待ってくれエンド!!!」
:草wwwww
:必死w
:シャッチョw
「じゃあまずは村の訓練所に行こう。ほら社長、そこで武器を決めます。ちなみにテストプレイとかはしてないから、ぶっつけで明日の夜までにどこまで社長が行けるかをみんなも予想してね」
「エンドはどの武器だい?」
「俺は大剣です」
「ならボクも大剣だ」
「じゃあ双剣に変えます」
「エンド!?」
「同じ武器だと立ち回りの幅が狭まるんですよ。正義くんはどれ?」
「あ、すいませんオレも双剣で……」
「なら狩猟笛かガンナーにしようかな。火縄銃が火を吹く」
:普通にゲームしてる……
:火縄銃とか
:学生の夏休みかよw
:拳藤は学生設定
:ホモガキ
:楽しそうでいいね
もの珍しさで冷やかしに覗きに来ていた男性リスナーは女性陣の方に戻り、コメントはすぐに減っていく。2窓すると宣言する人もいたけど、まあ少数派である。
――夜は更けていく。
ほどほどの時間でライバーとリスナーが満足して解散となった女性陣の配信枠は一度終了し、それでも暇だから付き合っていいぞという男性リスナーがこちらへなだれ込む。
「社長! 遠藤先輩、社長のHPが危ないです! もう2落ちですよ!」
「助けてくれエンド……」
「ちょっと待って。こっちは重要なシーンなんだ」
『上手に焼けましたー!』
「肉焼いてんじゃないすか! あっ、社長!!!」
:草
:┌(┌;^o^)┐ タスケテクレ エンド…
:あるあるww
:肉>社長
不慣れゆえに死に続ける社長を、介護する俺と拳藤正義。
一発芸のために、殺される社長。
執拗に鹿を切りつける社長。
でかい蚊にずっと麻痺ループを決められる社長。
怪鳥を相手に2度もクエスト失敗する俺たち。
男3人は、ゲーム画面なしに昼前までモンスターを狩り続けた――。
その甲斐あってなのか、VNIVEARTHにはとある変化が訪れた。
「ああ、そうっす、そうですそうです、そこで緊急回避。上手いじゃないっすか社長!」
「そうだろう。ボクも学習した。ここからは任せてくれ、拳藤正義。エンドもどうだい? まだ死んでいないぞ。見違えただろう?」
……あの社長が、俺以外と会話をしている。
「いやー……社長も、話してみると普通っすよね。オレはもっと厳格な人かと。なんで普段は喋らないんですか?」
小休憩中、俺が席を離れている間に拳藤正義が切り出した質問だった。普通ではないし、厳格そうでもないだろ……。
その場にいなくとも、俺は音量把握のために配信音声をイヤホンで確認している。聞こえているぞ。
対するこの男、伊能凛の答えは俺の想像を凌駕する。
「フフ。ボクの喋らない理由か。そんなもの――
――エンドに嫌われたくないから
に決まっている。ボクが喋るとなぜだか燃えてしまうからね。炎上のことさ。
エンドはこの箱を大事にしている。なら、所属ライバーに迷惑が掛かればボクはエンドに嫌われてしまうだろう?」
……。
それは、所属ライバーを蔑ろにする、リスナーへのノンデリ発言が原因だろうに。俺に嫌われたくないだとか、その理屈ならリスナーに気を使ってくれ……。
社長が謎に喋らない理由には、そんなオチがあった。
*
一方で。女性陣はまず萬屋ぺすとの朝活ルーティン解説配信から始まり、リスナーと共に健康的な朝を迎える。続いて黒宮院みやみの朝ごはんの支度を配信。
これらの利き手役やお手伝い役として補佐する詩星せるりと波羅劾ざくろ。
男性陣と並行して夜中まで3DSでモンハンを無画面配信していた神海まりもは爆睡中。
佐土原恭子は帰った。
3DSは、話題作りにたまたま持ってきていた拳藤正義に借りたらしい。
配信画面にはLive2Dモデルとコメントのみ。多少のコメント返しや討伐報告はメモ帳テキストで行われていたが、無言でゲーム画面なし。マイクが拾うゲーム音しかなくて逆に著作権不味い気がするけど、音質悪いからギリセーフか……?
消されたらごめんな。
ちなみに進行度で言えば男3人衆よりも進んでいた。
この日の午前中は各々の普段通りの配信を順番に行っていった。時には枠主以外が背景で掛け合う声を載せてわちゃわちゃ感を出したり、いっそ乱入して貰って突発的なコラボにしたり。
企画の準備で事務所に向かうと、佐土原恭子はいつのまにか事務所に戻ってきていて驚いた。
そして黒宮院みやみの服装が私服用の簡易な黒い着物になっていて、まるでライバーのコスプレに見えた徹夜明けの俺は夢を見ているのかと困惑した。
昼過ぎには、リスナーに見せてもいいと判断した企画を公開収録としてそのまま決行。
うんまい棒全部食べてみた。
1つの味につき、小さくカットした1切れずつを食べていく。そして最後に一番好きな推しフレーバーをプレゼンする企画だ。
詩星せるりと波羅劾ざくろが『全種類はちょっと……』という反応だったので、少し考えなおしてこういった大食い系は男性陣で行い、女性陣は気になったものだけを摘み、そのままプレゼンにも参加する形式に。
編集して後日投稿するぞと宣伝をして終了。
16時ごろになると、俺は南條マネージャーとして手土産を持って事務所を訪問した。
「みんな~! マネージャーさんがスイカ持ってきてくれたわよ~」
ドタドタ元気そうな足音と、元気そうな声。萬屋ぺすとだ。
それ用に向いた包丁がなく、四苦八苦して切り分けられたスイカをライバー全員で食べている中で、思い出したように彼女が呟く。
「あれ、遠藤は? さっきまでいたわよね。ちょっと探してくるわ」
まずい。
その遠藤とは俺のことだ。しかし今の俺は南條マネージャー。俺は1人しかいないため、その2人は同じ場に現れることができない。
拳藤正義を見る。俺は左手を自分の首裏に添えてから、2回頷く。
緊急時のハンドサインだった。気付いた拳藤正義が立ち上がり「オレ呼んでくるっすよ」と引き受ける。
そこに俺も同伴。急いで自宅に戻り、風呂場で着替えて髪形をセットして、事務所へ向かう。
「あら遠藤。マネージャーさんがスイカ持ってきてくれたのよ~。みんなでお礼を……あれ、マネージャーさんは?」
「むむ……。度々姿を消すマネージャー。妙ですね……」
詩星せるりまで話題に参加してしまう。まずいぞ。ここから波羅劾ざくろも追加されるんだ。この事務所の会話の発展はこの順が定番だ。
許してくれ。
その時、グループLIINEへのメッセージ通知でスマホが振動する。
『南條さんは夜の準備でしょたぶん ('ω') シランケド』
「あー、そうよね。頑張ってくれてるのよね、本当に……。VNIVEARTHにはお世話になってばかりだわ」
神海まりもの発言が、偶然俺の援護となる。
よくわからないが、素知らぬ顔でスイカをスプーンで上品に食べている彼女へ心の中で感謝を告げた。
今度アイスを買うときはハー〇ンダッツでもいいからな……。
*
夜は全員で夕食のカレーを作って、24時間配信は終わる。
最後だからとちゃんと全員が料理に参加することにしたけど、これがなんとも修学旅行の夜のような空気があった。
全員で食べて配信は終了。
こうしてVNIVEARTH24時間配信は幕を閉じるのだが、どこか漂う少ししんみりした悲しげな空気。そこで俺はマネージャーとして告げる。
「実はここに花火セットがあります。外でしませんか?」
そんな子供みたいな、と小さく笑ったのは萬屋ぺすと。笑いながら、さも当然のように外へ行く準備をする。
全員で外に出て、線香花火を手に持つ。
「夏ね」
「夏ですね」
「もう、終わりちゃうのね」
「……あと1週間で、9月ですか」
「月曜日からまた仕事よ」
「私もですよ」
年長者が並び、子供を眺めるかのように線香花火に興じるライバー達を眺める。
「また来年も、全員で集まりたいわね……!」
月と線香花火と、少しの街灯が照らすこの場所には9人のライバーがいる。ここには9人分の、笑顔があった。
VNIVEARTHライバーが集まった、充実した1日。平和な夏の夜。その終わり。
だからどうしても、俺は考えてしまった。
その光景を――
――見せたかった人が、いたことを。
【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】四期生のデビューにともなって、二次投票の受付を開始します!! 現在公式Tvvltterにて公開されている画像は、制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)
-
萬屋ぺすと
-
佐土原恭子
-
神海まりも
-
詩星せるり
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遠藤
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黒宮院みやみ
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拳藤正義
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波羅劾ざくろ
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伊能凛