過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。   作:匿名

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 前回79話につきまして、時間がなくて省略した部分を大幅に加筆しています。時間に余裕があったら読んでみてね。
(あんまりこういう後から加筆はできるだけ無いようにしますので、何卒ご容赦ください)
(地の文の修正、出題の追加、点数の調整があっただけで内容は変わらないので、読まなくても問題はありません)


#080 病気の子供のために

 20時。いつものVNIVEARTHの企画の時間になると、公式チャンネルの配信枠では動画の再生が始まった。

 

 それは設立してから8ヵ月、これまでのVNIVEARTHの歴史。

 

 どこか荘厳で静かな音楽を背景に、ライバー全員の配信から切り取られた1秒程度の場面が、次々と、矢継ぎ早に再生されていく。

 

 軌跡。あるいは、奇跡。

 

 俺たちの積み重ねてきた、足跡だ――。

 

「ただいまから、VNIVEARTH主催。第1回。全国VNIVEARTHライバー野球選手権大会の、開会式を始めます」

 

:おお

:草

:甲子園かこれ

:今の動画野球と関係ねぇwww

:また遠藤が司会かよ

 

「選手が、入場します」

 

 機械的な抑揚を意識した俺のアナウンスを受けて、入場曲がながれる。たーらったらったたー。それは詩星せるりの歌唱だった。そしてライバーの立ち絵が順番に画面右から現れ左に消えていく。

 

 萬屋(よろずや)ぺすと。佐土原(さどはら)恭子(きょうこ)。神海(しんかい)まりものまりも。詩星(うたいぼし)せるり。遠藤(えんどう)。黒宮院(こっきゅういん)みやみ。拳藤(けんどう)正義(せいぎ)。波羅劾(ハラアバキ)ざくろ。伊能(いのう)凛(りん)。

 

 立ち絵に合わせて1人ずつ名前を呼び、簡単なテロップを出す。もちろん、全員漏れなく総じて『初出場』の表記だ。

 

:茶番ww

:せるりかわええな!

:高校生に謝れw

:第一回ならそら初出場やろ

:司会をしてるお前は誰なんだ

:分身してんのか草

 

「大会会長。伊能凛、VNIVEARTH社長が開催の挨拶をします」

 

「VNIVEARTH社長、伊能凛だ。会長じゃなくて社長だ。企画はボクの親友であり頼れる右腕であるエンドがやってくれた。ボクは何もしていない」

 

:はー?

:終わった!?

:クソ社長

:社長の話なんか長いよりいいよ

:はよゲームしろ

 

「優勝旗は、ありません」

 

:はー??

:終わった

:クソ社員

 

「萬屋ぺすとVNIVEARTHライバー代表から、お祝いの言葉をいただきます」

 

「ア、アンタたち! こんばんは! 今回の企画で使わせていただくゲームは、なんと有志のVNIVEARTHリスナーが集まって作られました! この場を借りてお礼を申し上げます!

 

 ――ありがとうね!」

 

:ぺす;;

:作った!?

:有能リスナー

:頑張った

:俺らがやりました

 

「選手宣誓を行います。二期生代表、詩星せるり」

 

「宣誓! 私たちVNIVEARTHライバーは社内コンプライアンスを則り、健全で楽しい配信をします! 見てくれてるみんな、楽しんでいって……ね!

 

 VNIVEARTH二期生、詩星せるり! ぺこり」

 

:うおおお!

:なんか効いた

:かわいい

:せるりちゃーん!

:これは清楚

:清楚だけど冗談もわかってるアイドル

:もしかしてせるりって可愛いのか?

 

 変なことを真面目にやっているという、VNIVEARTHによく見られる光景。茶番であるということが前提でありながらも、お堅い空気を醸し出す中で、急に出てきた茶目っ気にリスナーがギャップによるときめきを受けていた。

 

 ……演説の内容まで実物を参考にしてしまうと、それはリスペクトにかけると叩かれてしまうだろう。という判断によりよくある選手宣誓で無難に済ませたのだけれど、それが意外な反響を生む。

 

「選手退場――は省略して、この辺で大会開始! 始球式とかもないぞ! 各自ゲームの準備をしろー!!」

 

「「「「「わー!!」」」」」

 

:あれ?

:急に保育園になった?

:おーい

 

 あんまり長くやりすぎるとオチをつけにくくなるので、ここで全てをぶち壊す。

 

 画面から立ち絵を消して、打ち合わせ通りにセッティングをしていく。

 

 場を持たせるためにトークで繋ぐのだが、ここでリスナーに馴染みのない男が語りを始める。

 

「と、というわけで! 始まりました、VNIVEARTH甲子園! 司会はオレ、拳藤正義が努めます!」

 

「そして司会は私(わたくし)、みなしごウロボロスが担当します」

 

「だ、誰っスか!?」

 

:誰!?

:草

:お前は遠藤だ

:気に入ったんだそれ

神海まりも:私が名付けました (˙꒳˙)

:そういう配役なのか

 

「ちなみに萬屋ぺすとチャンネルで、今から女性陣の解説実況枠を始めます。こちらに向こうの声は入りますが、あちらに男性陣の声は基本入らないので、野郎なんかいらねーよ、美少女のキャッキャウフフだけが見ていたい、という人はそちらへ移動してください」

 

 VNIVEARTH甲子園。メジャーな野球ゲームは許諾の関係で箱企画に使用しない方針でいるVNIVEARTHが、ならばと企画したのが自作ゲームを使用するという荒業。

 それもファンメイド文化を推進するという思惑によって計画されたもので、俺の手製によるサンプルをリスナーによる自作ゲームとして配信内で紹介し、技術の限界という体でソースを一般公開して他リスナーに託すという始まりだった。

 

 上手くいくかは運頼み。最悪ある程度の進捗は俺だけで捨てアカウントいくつかで行い参加者を待つ……という見通しでいたが、プログラムに覚えのある感染者を中心に予想以上の発展を見せた。

 まぁ、誰でも参加できる開発企画だったはずが、有能な者を選別して引き抜き専用チャットに移行してしまったのは予想の斜め上だったんだけど。

 

 まだ完成とは言えず配信中に補足をしていくが、こうして無事に8月末に間に合わせたのだった。

 

 形式はこうだ。全員がそれぞれ『萬屋ぺすとのホームランダービー!』を乱雑にプレイしていく。

 一度に並行するのではなく、半分くらいがゲームを行い、そしてもう半分がその様子を実況解説するという、無法のわちゃわちゃ具合。

 

 参考元になぞらえてノルマをクリアすれば難易度アップで全5ステージあるけど、どうせ神海まりもなんかは爆速で終わらせてしまうのは目に見えている。そこで、1ステージ終わったら休止という形で配信の終盤まで繋いでいく。

 

「あ! お! よし! ――待たせたわね! VNIVEARTH一期生、萬屋ぺすとよ!

 こっちのチャンネルでは、女子会、ガールズ野球をやっていくわ! こっちには男子会の声は入らないから、同時視聴するのもアリかもね!」

 

 副窓を案内に含める萬屋ぺすと。これ台本にないんだよね……。俺は男女の住み分け、この時代のVTuberリスナーに配慮してゾーニングを意識しているんだけど、どうにも彼女は男も見ていってねと言いたがるのだ。

 

 彼女からは、箱全体を、VNIVEARTHを大きくしようとしてくれているのを、感じている。

 いつだったか、夜遅くに彼女に打ち明けられたことを思い出す。自分の邪魔になるかもしれない新人を、良く思っていなかったこと。

 

 そんな萬屋ぺすとが、全員で活動していくことを、今では心から楽しんでくれている――。

 

 あの未来で、リスナー達とメンバー限定配信に籠っていたという彼女のイメージは、もうどこにもない。

 

「準備が整ったみたいっす。これより試合を開始します!」

 

「ううーーーーーーー!!」

 

:!?

:誰これ

:サイレンかw

:これはせるりちゃんの声!

:うーうーせるりん可愛いね♡

 

「うーーーーーーー!!」

「うぅーーん♡」

「うーーーーーーーー! うー!」

 

「うー」

『(」'ω')」うー! (/'ω')/にゃー!』

 

:いや多いわw

:全員でやるんかいw

:かわいい

:這いよってる混沌いたね

 

「えー、そろそろそのうーうー言うのをやめなさい」

 

:邪魔すんな遠藤

:つか女性側にも声入ってんだけど

:副窓してるツンデレいない?

 

 確かに。コメントで気づかされる。女性側に声が入っていることをこちらへ即座にコメントしてくるリスナー。言われてみれば、そういうことだ。

 

「まだ前振りだから。もうそっちからは消えるよ、邪魔したね。でもツンデレかぁ。皆、こっちも見てくれてるんだ?」

 

:はぁ?

:ふざけたこと言うな

:両方見てるよ!

:お前らコメントするなw

:ツンデレが釣れているねぇ

:ここは釣りの名所

 

 念のためイヤホンで確認するけど、向こうからちゃんと俺の声が消えた。打ち合わせ通りだ。

 

「じゃあやっていくぞお前ら! まずは……まあ今回の主役、萬屋ぺすとの画面から行こう。正義くん、ラグない? おっけー?」

 

「はい! 大丈夫です! たぶん!」

 

「エンド、ボクも混ぜてくれないか……?」

 

:うわ

:なんかいる

 

「社長はゲーム!」

 

「……待ってくれエンド、男がこの配信に3人いる。キミは拳藤正義と実況をして、ボクだけゲームというのは、仲間外れじゃないかい?」

 

:なんか声が近い

:同じマイクで配信してない?

 

「えー……はい、俺と社長は事務所にいます。社長こっちこないでください、自分のパソコンでやってくださいよ」

 

「いいじゃないかエンド、ボクとキミの仲だ。どうせボクがゲームをしようがしまいが、リスナーの数は変わらない。それよりほら、萬屋ぺすとの萬屋ぺすとのホームランダービーが始まった」

 

「萬屋言いすぎだろ。……わかりましたよ、社長は自由行動。流れでなぁなぁに行きましょう。では実況の拳藤さん、よろしくお願いします」

 

 

萬屋ぺすとの

 

ホームランダービー!

 

 

 萬屋ぺすとの配信画面には、元ネタに酷似したタイトルロゴが大きく表示されている。

 

 右にバットを構える萬屋ぺすと、左にグローブを手にした詩星せるり。オレンジと水色、本家とは違う配色だがバランスの良い並びだ。

 

:おおお!?

:グラフィックが進化してる!

:これ製品だろ

:売れるw

 

 萬屋ぺすとの配信で使用された段階ではラフに留まっていたイラスト部分が、今ではちゃんと完成されている。この1枚絵クラスになると俺がリスナーを装って用意した、絵柄を元ネタ風にして描いたものだが、他の小さな素材はリスナーの提供を積極的に取り入れている。

 

 絵心のあるリスナーが暴走したことについては、また後程。

 

「はいッ! スタートを押して、ステージを選択しました! ゲームが始まります。これが始球式みたいなものですよね?」

 

 そうですね。俺は頷きながら画面を見守る。

 

 拳藤正義はキャラクターの個性として格闘技の話を雑談に取り上げることがある。同時視聴数は多くないが、リスナーとテレビをリアルタイムで同時視聴しながら、彼が実況するという配信も何度か行っていた。

 

 その延長としての実況役としての抜擢。俺ばかりが司会で目立っていることへ解決策であり、今後は彼の活躍の機会も増やしていこうと思っている。

 配信を盛り上げるために滅茶苦茶やる司会進行は、俺の実践でいくらかデータになったはずだ。良かったところがあれば、悪かったところも当然ある。手本にしてくれと言うには俺では分不相応だが、なんとなくの指標にはなるはず。

 

「えーと……アンタたち見てなさい、遊び方説明が未実装だから、アタシがやってみせるわね! 配信で最初のステージだけやったんだけど、まあこの通り簡単。

 せるりちゃんがボールを投げるから、それをタイミングよくクリック!」

 

『ストライク』

 

「……失敗すると、こうなるわ!」

 

:ぺす……;;

:うん

:まずはね

:ぺす俺恥ずかしいよ

:失敗した例だから

:このへっぴり腰がすげぇいいのよ

 

 空振りをした萬屋ぺすとのゲーム内グラフィックは、意識して運動音痴に見えるように描いている。リスナーからのイメージではほぼ満場一致。これに苦言を呈するコメントがほぼないあたり、萬屋ぺすとのキャラクターは深く浸透している。

 

「み、見てなさい! でっかいの打って、みせるんだか……ら!」

 

『ホームラン

 登録者 +300人』

 

:おお

:すごいぞ

:ナイスぺっす!!

:かっこいい!

 

「フフフ! どうよ、アタシにかかればこんなものね!」

 

「おおーっと一方で神海選手、もう第1ステージクリアです! 神海選手には全体のクリアが進むまで待ってもらいます。さすがですね、神海選手。実況の遠藤先輩?」

 

「ええ、ゲームをやりなれています。それに彼女は萬屋ぺすと選手が7月に行ったときにも試作版をプレイしていて、その時も初見で即攻略していました。

 最初のステージなど余裕綽々といったところ。かすかにしゃくしゃく音がしていますね。これは神海まりも選手が茎わかめを食べている音です」

 

:つよい

:これ食ってる音だったのか!?

神海まりも:うめー ('ω')

:余裕綽々茎わかめしゃくしゃくwww

:ASMRじゃん!

:ぺすがんばえー!

 

 女性陣の実況は順調だろうかと、そちらへ意識を向ける。

 俺の切り抜きではあたかも男女が一緒に実況しているように編集する予定だけど、リスナー的にはどっちがいいのだろう。来年にはコロナ禍の巣籠りで抵抗が薄れているのか、あるいはもっと様子を見た方が良いのか。

 

 突き詰めれば、いつになっても男女コラボを嫌がるリスナーは絶対にいなくならないので、どこで良しとするかは判断が難しい。

 

 男性ライバーを関わるからこそ、見えてくる女性ライバーの一面、という可能性が秘められている。

 これは少年雑誌の恋愛漫画において、ヒロイン全員が主人公を好きになるのと同じような効果だったりする。恋をするからこそ女性は可愛い。だから恋をさせるのだ。

 しかし男を増やしてもなぁ……というジレンマと、読者の自己投影するのは主人公だから、そんな兼ね合いでハーレム作品となるのだ。

 

 こういうメカニズムをリスナーに説明したところで、なら男女コラボしていいよとはならないのである。

 男は男同士で恋愛をすべき。女は女同士で恋愛をすべき。5年経っても、これが安牌だ。

 

「ふぬぬ……たーっ!」

 

『ヒット

 登録者 +20人』

 

「萬屋先輩が打ちました! これでノルマ達成! 次のステージに進めますね!」

 

「あっと、そうは行きません、ざくろちゃん。このゲームはいじわるで、ヒットは無効なんです!」

 

「ホームランじゃないと、カウントして貰えないんですよねぇ……えい♡」

 

 実況解説に混ざりながら打って、ホームランを決める黒宮院みやみ。当たり前のように実況席の概念を超越するな。

 

「エンド、そろそろボクらも行こうか」

 

「俺も同伴なのが当たり前かのように言わないで欲しいんですが……、正義くん、実況任せていいかな。操作説明だけしてくる」

 

「任せてください! おっと萬屋選手、これでノルマクリア! ほぼ同時、少し後から始めた黒宮院選手もクリア確定です!」

 

 その後は拳藤正義をゲームに向かわせ、俺がゲームをしながら実況解説。ちょっかいをかけてくる伊能凛に雑対処をして、全員が最初のステージをクリアする。

 

「無事に突破!! 第2ステージへ突入します! ピッチャーは……なんと黒宮院みやみだァ!」

 

「和服で投球を……? 彼女は野球を舐めているのかもしれませんね」

 

「がんばりますよぉ~♡ 見ててくださいね、エンド様♡」

 

:え

:フルボイス!?

 

「こっちに話しかけてくるな黒宮院みやみ! そっちの配信に俺の声乗ってないだろ!」

 

:草

:おもしれー女

:みゃみ……

:そこまでしてイチャつくな

 

「フフン! この調子でドンドン行くわよ! ――って何よこれ!?」

 

『ストライク』

 

 投げられたボールに驚く萬屋ぺすと。お約束のように晒されるへっぴり腰にはリスナーも満足だろう。

 

:!!?

:変化球かw

:もう?

:全5ステージならまあそうか

 

「よ、萬屋選手早速空振り! カウントはワンストライク、残り20球です。しかしさっきの球は何だったのでしょう、ボールの周りにハートマークが見えましたが」

 

「これは彼女の持ち球、変化球ですね。『ラブラブボール』。ハートマークでボールが絶妙に隠れる、いやらしい魔球です。何だアレは!? また幻術なのか!? 彼女には幻術の才能があったようです」

 

:幻術w

:また幻術なのか!?

:何だアレは!?

:いやらしいボール……?

:いやらしい女

:間違ってないw

 

 まあ、見えにくいだけで軌道はストレートと変わらない。ちょっと変な消える魔球だ。技術の関係で速度のばらつきが少ないので慣れればすぐに打うことができる。

 どこぞの藻類なんか、もうバカスカホームランを飛ばすようになっていた。

 

「社長もようやくコツを掴めてきたところです。オレも指の準備運動を……お。あ~、いいっすね社長。実はゲーム得意っすよね、やってないだけで」

 

「やる機会がなかったからね。ボクもエンドと同じように、慣れればそれなりさ」

 

『ストライク』

 

「速度が変わるのか……投げ方に特徴は、確認する余裕がないな。どうしたものか」

 

「モンハンじゃないので予備動作とかないと思いますよ。ははは!」

 

 俺のターン。黒宮院みやみが投げる。

 

「エンド様への愛♡ 届けっ!」

 

:アテレコすんなw

:お前だけボイス付きかよ

:アプデしてボイス付けてくれ!

 

『ホームラン

 登録者 +1500人』

 

 俺は無言のまま、ハートマークにまみれたボールを場外へ吹き飛ばした。

 

:場外で草

:ハートなんかいらねぇよ! パカーン

:そんな奴捨てて、みゃみは俺らと一緒にいようね

 

「はぁん……♡ 阿吽(あぅん♡)の呼吸♡ みやみが投げて、エンド様が打つ♡ 息ぴったりの、おしどり夫婦ですねっ♡」

 

「無敵かこいつ? どっちかというと夫婦はピッチャーとキャッチャーだろ普通」

 

:確かにw

:大喜利点やるよww

:強い女

:次はお前も解答側になれよな

:みゃみ……;;

 

 伊能凛が辛うじてクリアし、続く3人目。

 

 イメージカラーは緑色。マウンドには、俺にとって見慣れた俺の姿があった。

 

「え!? もう遠藤先輩なんですか!? オレはラスボスかと思ってましたよ!」

 

「スーツで投球を……? 彼は野球を舐めているのかもしれませんね」

 

:お前じゃいw

:お前や!

:さっきも見たツッコミw

:まーた天丼する

 

「ふふふ~♡ 似た者夫婦♡」

 

「誰か助けてくれ……」

 

:誰も助けないよw

:なっさけねぇ

:頼むそこを代われ遠藤

:いつか刺されるからなお前

 

 嘲笑と怨嗟が渦巻くプロレスのコメント欄。

 

 しかし救世主はいた。それは青い鳥のごとく、気づかないほどに身近な、すぐそこにいたのだ――

 

「――エンド、ボクが助けよう。黒宮院みやみ、聞こえているんだろう?」

 

「……」

 

「黒宮院みやみ」

 

「よ~し、エンド様のボール、受け止めますよぉ♡」

 

:無視w

:向こうに男の音声は乗ってませんよ

:当然の反応だよなぁ

 

 黒宮院みやみの画面では、ステージ選択ボタンにマウスカーソルが乗って正に押そうとするところ。しかし次の瞬間、彼女はその手を止めることとなる。

 

「――勝負だ。

 

 どちらがエンドと心を通わせ、通じ合い、早くこのステージをクリアするのか。早く、そして多く打った方が、よりエンドを理解している者だ。そうだろう? 黒宮院みやみ。そしてエンド」

 

「……わかりました。その勝負お受けしましょう。エンド様と通じ合っているのは、この私です……!」

 

「あの社長」

 

「なんだいエンド。ボクは負けない。エンドを賭けた戦いだ、負けるわけがない。ボクは勝ってキミを手に入れる」

 

「駄目だこいつ」

 

 拳藤正義に限らず、他のライバーにも声をかけている成長は褒めるべきなのか。しかし内容は俺の取り合い。そんな――いや、黒宮院みやみと伊能凛だったら、伊能凛と仲良くした方がリスナーは喜ぶぞ。

 

 ……。

 

 え、俺は伊能凛を応援するべきなのか?

 

:おおおおお!!!

:いっけー社長!

:勝ってエンドと夢の国に行くぞ!

:社長が遠藤を倒して、みゃみを開放するんだ!!

 

 ピッチャーマウンドに立つみなしごエンドレスとかいうわけわからん名前の男。彼の投げるはボールは、とにかく早い。そして稀に、急に遅い球を投げてくる。

 

 緩急による錯覚を利用した、シンプルに小賢しい投球。

 俺をピッチャー役にすると開発チャットで決まった時に、自分自身のこととなると俺は急にアイデアを出せなくなったのだが、俺以外は何も迷うことなく『せこいことしそう』と書き込んでいき仕様は決まったのだ。

 

 で。社長は黒宮院みやみに負けた。

 

 

「えー続きまして4人目のピッチャーですが、運営から操作案内があります! 遠藤先輩、お願いします!」

 

「はい。選手の皆様、事前に送ったサブフォルダーの方を起動してください。

 リスナーの方々にも説明をしますと、4人目は細かい調整や素材のアップデートが遅くまで行われた結果、元のゲームに組み込む時間がなかったとのことです。別枠で起動し直せばいいだろうということで話がまとまったところ、それをいいことに今日の昼まで更新が行われていました」

 

:やば

:なんだそれ

:4人目誰だよww

:ヘビーリスナーがいる? ざくろか!

:ざくろだな!

 

 リスナーの期待を背負って現れた、4人目のピッチャー。それは誰も予想していなかった、意識外からの刺客。

 

 でかい。でかい。ピンク。

 

 そう、まさかの佐土原恭子である!

 

:なぜww

:待って完成度たっかw

:野生のプロ来たーー!!

:動きヌルヌルすぎる

:ぬるぬるの恭子?

:エッッ!!

 

 何を思ったか、大変ひどく痛く佐土原恭子のビジュアルとキャラを気に入ってしまったイラストレーターがおり、1人で彼女の素材を大量に制作してきたのだ。

 

 佐土原恭子の新デザインが発表され、SNSでキャラデザを務める通称『みなちゃん』が性癖の伝道師だと小さな話題になったとき。

 どうやら偶発的にそのイラストレーターの目に入ったことでファンアートが数枚描かれ、そこへゲーム作成で素材が欲しかった開発の1人が声をかけたという経緯を踏まえ、そして佐土原恭子だけにやたらにぬるぬる動くピッチャーのアニメーションが用意されたのだった。

 

:すっご

:えちちちちち

:あの、胸の動きがですね、非常に良いです

:投げる前からめちゃくちゃ動くやんw

 

 使用する変化球はカーブ。4人目にしては捻りのない変化球とコメントもその点は肩透かしと感じているが、素材の豪華さから4ステージ目に昇格したという事情がある。本来は2人目だ。

 

 ……あと言いにくいが、カーブが曲線という理由での球種が決まっていたりする。

 

 名前は『キョーコボール』。もっと卑猥な名前の案がいくつもあったが、運営にチクったやつがいたことにして警告を入れた。ボールの時点でもう卑猥と言ったらキリがない。

 

『ストライク』

 

「くっ、うっ、なんで曲がるのよ~! 手加減してよ、恭子ちゃ~ん」

 

「11(イレブン)ストライク! 萬屋選手、残念ですが、もうこの挑戦ではクリアは不可能かと……。中断ボタンがないので、残りを練習に使うか、ブラウザを再起動するかのどちらかです!」

 

「ああ……っ! 惜しい、ヒット! ぺすと先輩、もうちょってで打てます! 頑張ってください!」

「30球で15球ホームランって厳しくないですか……? うちもちょっと難しいかもです」

 

:ぺす;;

:これ無理じゃね?

:今までストレートだったしな

:ちょっと難しい? 煽りかな?

 

 

 ――そして。

 

「萬屋選手、ここでリタイア! 第3ステージで脱落した社長と2人、屍を乗り越えた先に待つのは誰なのか。最終ステージに突入します!!

 え、遠藤先輩。ラスボスは誰なんですか!?」

 

「正直予想ができています。」

 

 最後のマウンド。第5ステージ、VNIVEARTH最強のピッチャーとして立ちはだかるのが、このライバー。

 

 緑の悪魔

 

 

 神海まりもッ!!

 

 

 マウンドに立つのは、やや黄緑がかった白い髪の少女。しかし動くのは頭の上の黄緑の球体。本体と噂される藻だけが動き、そこからボールが投げられる。

 

 ――山なりに2回、急に上下の変化をする魔球。

 

 

 その名を『M(マリモ)ボール』。

 

 俺が好き放題にリクエストを出したこのゲーム開発の中でも、特に強くプレゼンをして実装された某ドラ〇ースのオマージュ、W(ホワイト)ボールの対となる魔球である。

 

 

   *

 

 クリアしたのは神海まりも本人だけだった、というオチで終了したVNIVEARTH甲子園。

 

 サイレンの声真似で幕を閉じた後、俺は予定通りに個人配信を始めた。

 

「さー、夏休みの宿題を終わらせる配信、やっていくぞー。皆はもう夏休みの宿題、終わった?」

 

:ああん?

:ないです

:俺も夏休み欲しいんだけどなー

:学校行きたい

:お前は?

 

 夏。

 

 俺の記憶にある夏。俺にとっての夏。

 

 夏というものを思い返してみて、俺はこう答える。

 

「俺は……まだ、終わってないかな」

 

:?

:おいw

 

「明日からもう9月だね。まあ俺は社会人だから、今日も明日も仕事。なんにも変わらない日常がここにはある」

 

:明日は日曜やで

:お前休みないの?

:ブラック企業……

:休んで!

:大変だなw

 

「あー大変だよ。忙しい忙しい」

 

:じゃあなんで配信してんのw

 

 む。俺がふざけて返した一件から、度々いじろうとするやつがいるこの質問。まあリスナーとのじゃれあいだと思って、誘いに乗ろう。

 

「そんなの決まってる。世界平和のためよ」

 

:絶対嘘www

:世界平和 キリッ

 

 前にもやったように、冗談のような口調で返す。

 

 そして。

 

 ふと。

 

 なんとなく。

 

 俺は言わなくていいことを、つい、言ってみたくなった。

 

 あの日。あの夏を、あの忘れもしない夏を、色褪せることのない病室の夏を、思い返して。

 

 

「じゃあそうだね、俺が配信している理由は――

 

 

 

 

 ――病気の子供のために、だよ」

 

 

 

 

 

【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】四期生のデビューにともなって、二次投票の受付を開始します!! 現在公式Tvvltterにて公開されている画像は、制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)

  • 萬屋ぺすと
  • 佐土原恭子
  • 神海まりも
  • 詩星せるり
  • 遠藤
  • 黒宮院みやみ
  • 拳藤正義
  • 波羅劾ざくろ
  • 伊能凛
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胡蝶の夢、或いは不労所得の夢(作者:nyasu)(オリジナル:現代/日常)

気付いたらTSタイムリープした主人公。▼なお、凡人だからそう簡単に楽は出来ない模様。▼書きたいもの書いてたら数日で日間ランキング載ってて、驚いた。▼誤字報告機能を使ってくれる読者のおかげなので感謝感謝。▼【挿絵表示】▼書籍化のお話等がありましたら、趣味前提で書いてることや副業禁止規定によりお断りさせて頂きますこと、ご留意ください。


総合評価:24617/評価:8.22/連載:194話/更新日時:2026年10月25日(日) 18:42 小説情報

女性向けアイドル育成ゲームでどうやって曇らせればいいんだよッッ!(作者:人生変化論)(オリジナル:ファンタジー/コメディ)

曇らせが好きだ。▼ので、異世界に転生した今、最高の曇らせシュチュエーションを求めようと思う。▼……これが女性向けアイドル育成ゲームの世界じゃなけりゃなァ!!殺すぞ!▼しかも俺がアイドルかよ!どうやって曇らせればいいんだこんなん!▼※なお、原作はアイドル育成の皮を被った鬱ゲーだった模様。


総合評価:4161/評価:8.42/連載:9話/更新日時:2026年08月18日(火) 12:00 小説情報

【書籍化】異世界転生周回プレイもの(作者:にーしち)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

主人公「なぜ俺が選ばれたんですか?」▼女神様「貴方には素養があります。私の願いを叶えるのに必要不可欠な素養が」▼主人公「それは......?」▼女神様「貴方がどんなゲームも100%達成トロコンしないと納得できず千回だろうと一万回だろうと周回して全てを遊び倒す究極クソ廃人だからです」▼主人公「なるほど!」▼※カクヨムでも連載中です▼※2026年7月20日、オー…


総合評価:32043/評価:9.19/連載:36話/更新日時:2026年09月10日(木) 19:00 小説情報


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