人気投票の結果発表をするというこのコラボ。配信枠の大半を占めていたのは、リスナーたちも見ていた配信における、ライバー本人たちからの感想だった。
話し手と聴き手が共に盛り上がることのできる内容だ。そのオフコラボ中の裏話といった必見の内容まで聞けるのだから、リスナーからの需要は高いだろう。
「ぺすと先輩がケーキを買ってきてくれたんですっ! それを食べながら全員で24時間配信の打ち合わせをしましたよね!」
「ショートケーキとチョコケーキと、モンブラン。萬屋先輩が『ケーキドラフト会議するわよ~』ってみなさん集めはりまして」
「あー……アタシもなんかその、オフコラボで浮かれちゃってて。なんか恥ずかしいわね」
「24時間配信の会議なのに、ケーキドラフト会議になっちゃいましたねぇ♡」
「あ、みやみちゃん上手い!」
「ケーキも美味い、美味しかったですよ」
「フフ、また買ってくるわね。ケーキと言えば、指名が被った時にまりもちゃんがジャンケンしたかったみたいでね。アタシたちはすぐ譲り合って終わっちゃったから、ちょっと残念そうな顔してたわ」
:なにそれ面白そう
:そんなことが
:なんで配信しなかったんだ
:配信しろよ
「ふふふ~♡ 皆さま見たかったって言ってくれてますよぉ」
「打ち合わせですからね……。ごめんなさい! 録音とかはないんです!」
「うちのデータにもありません……」
「その代わり、アタシたちで雑談枠とかを使って話すから、我慢してちょうだい!」
濃い1ヵ月であったからこそ、今後しばらくは話のネタに困れば振り返り配信で埋めるという手段をとることができる。
もちろんというか、語る全てが事実と言う訳ではない。
あまりにもそのままにしてしまうと身バレに繋がる可能性のあることは伏せられるように調整するし、例えばこのケーキの下りで言えば、実際のこの会議は24時間配信の打ち合わせではなく集合期間の方針決めだ。
オフコラボの集合期間がリスナーに周知されているものより長い以上、多少の脚色は必要なのだ。ボロを出すことがないように、俺が気づいた範囲のものは事前に全体チャットで注意書きを掲示している。
「でね、みんなでアイスを買いに行ったんだけどね。事務所の奢りだーって言われたら、まりもちゃんが真っ先にハーゲンダッツを持ってきて……」
:草
:クソガキまりもん
:自分の配信以外ではおもしれー女
……うん? ちょっと待って萬屋ぺすとさん。リスナーに話したかったのだろうと伝わってくるそのうきうきで出すその話題。ちょっとまずいかもしれない。
:それいつ?
視聴者が多くなれば、疑問に思うリスナーはいるものだ。大喜利をやった金曜日の夜から土曜の夜の全員集合カレー作りまで、リスナーはこちらの動向を把握している。
そのアイスを買いに行ったというのはおそらく金曜日より前、リスナーの知らない集合期間にあたる。つか
「あら~、大喜利の直前にあった買い出しでしょうか。スーパーにコンビニに、皆さん何度も行ってましたからねぇ。私が来るの遅くて参加できなかったやつかもですねぇ。私も行きたかったですよぉ♡」
「え……、ああ、そうだったかも!」
おお。ありがとう黒宮院みやみ。萬屋ぺすとも察した気がする。上手いリカバリーだ。
「うちらコンビニ行きすぎでしたよね。事務所が奢ってくれるからって」
「そうなのよ~。お夕飯の材料費や、おやつ代なんかはこれで買ってって出してくれてて。打ち上げに焼肉行きましょうかって言われて、逆に恐れ多くて断っちゃったわ」
「スケジュールの都合もありましたからね……。配信が終わった翌日、日曜日の午前中にはもう帰らないとでしたから」
「う~。事務所さんはお菓子とかもいっぱい用意してくれはってて、焼き肉まで食べてたら太ってしまうとこでした」
波羅劾ざくろがちょっとめそめそした声で言うと、一同が笑う。
:wwww
:食事代全支給で焼肉まで!?
:雑談で聞いたけど移動費も事務所だろ
:いい事務所だ
:どんだけ金あんのw
:社長の株やべーな
なんか微妙にボロ出してそうな会話だけど、萬屋ぺすとには注意しないといけないか? いや、俺が隠し事が前提のスケジュールを組み過ぎていることを疑問視するべきか。
雑談をしながら全てを守るのは難しいことだ。俺はVNIVEARTHのためならばと言って、嘘を吐くことに慣れすぎている。彼女たちにそれを強要してはいけない、か……。
「あ、もうお時間ですね……。楽しい8月でしたし、振り返るだけでもあっという間」
「そうね……良い夏だったわ。また来年もやりたいわね!」
:またやろう!
:やって欲しい!
:遠藤、やれ
ライバーからも、リスナーからも。惜しむ声や次回を望む声が出るのならば、本望だ。こちらも頑張れるというもの。
夏の振り返りについては、あとは各自の雑談枠で。その時はコラボもするかもね、と期待を煽りつつ切り上げる。
「では皆さん、そろそろお別れの時間です……!」
「あ! 待ってーせるりちゃん。……フフフ。最後にちょっとしたサプライズがあるのよ! ざくろちゃん、おねがーい!」
「はーい! 任されましたぁー!」
:何?
:サプライズ!?
:マッテー
配信予定の時間も残すところ数分。最後の最後に、萬屋ぺすとの合図によって画面に貼り出されたのは、1枚のイラストだった。
:!?
:おおおおおおおおおおお!!!!!!!
:なにその、エッ!
:マジのサプライズ来た!
それは、VNIVEARTHの女性陣6名が集合した姿を描いた、夏をテーマにした水着の集合絵。
キャラの大きさや並びは人気投票の結果に準じた扱いとなっていて、投票企画が完全な茶番でないことをリスナーに示すためのものでもある。
1週間ほど前、ライバー達が帰宅してタスクが減ったことで空いた時間を有効活用しようと思い、その時点での投票数から順位の目星をつけて描き始めたのだった。
せっかくの夏だというのに、VNIVEARTHの特色とはいえ俺の無駄に凝ったLive2Dの作業工程数のせいで夏らしい新衣装も用意することができない。
それを補うために作成した、俺から
*
夏を振り返る話題に花を咲かせ、楽しそうに語った4人の女性ライバーたち。
人気投票の結果発表という催しのついでに行われた夏の感想会は、配信終了後も公式Tvvltterでイラストを投稿することで話題が尽きなかった。
萬屋ぺすと。
詩星せるり。
黒宮院みやみ。
波羅劾ざくろ。
イラストの主役である、VNIVEARTH四天王とリスナーに呼ばれ始めたこの4人。
オレンジ、
普段の清純なアイドル衣装や着物から一転して、唐突にお出しされた水着姿。これには1名のへそピも注目される。
少しおまけ感覚で、一歩引いて描かれた佐土原恭子と神海まりもにも反響があった。
言わずもがな、誰よりも大きく存在感のある佐土原恭子。上も下も太く、とりあえず腹部の肉質も他のキャラには無い塗りをほんのり取り入れた。たぶん
水着デザインも、彼女の物だけは某死神代行漫画の水着を少し参考にして、言うほど布面積はきわどくないけどそのやけに扇情的にしている紐は何? という仕上がりにした。
そして横に並ぶ神海まりもも、人間部分にビキニを着せている。隣と比べて何もない無の胸部は、水着姿の2人を並べてはいけない禁忌の比較に昇華させている。
俺の遊び心によって上の本体まりも部分にも水着を着せたのだが、これに草を生やす者や、じゃあ普段はこいつ裸なのかと議論を呼びリプ欄や引用は大盛況だった。
四天王を含めた、VNIVEARTHライバーの女性陣6人を描いたイラスト。
――まあ、後はおまけというか、夏を成し遂げてテンションが上がっていた俺の悪ノリによって、更にもう1枚のイラストが用意されていた。
女性陣の振り返り配信が盛り上がったことを受け、急遽企画されたのが、男性陣3人のコラボ雑談。
基本的にはアーカイブや切り抜きを垂れ流し、雑にコメントをしていくだけの配信。
この時代の男性ライバーの需要はまだ高が知れていると俺は重要視していないのだけど、物好きな人間はいるもので、3人による音声のみの狩りにおける死亡回数をカウントする切り抜きが投稿されていた。
「ははは! 社長死に過ぎですって!」
「この場面は覚えているよ。エンドが高台からボクに肥やし玉を投げていた時だ」
:何してんだwww
:マジで馬鹿w
:修学旅行の男部屋なんだわw
拳藤正義はリモート参加。もっとも、彼は初期の配信でリスナーに聞かれ東京在住と答えてしまっているので、今後は事務所に呼んで普通に男性3人オフコラボを開いてもいいかもしれない。
(せめてもの誤魔化しとして、公式プロフィールには下北沢に在住としている。深い意味はない)
この男3人の集まり。
リスナーも面白いことを考えるもので、女性陣4人が四天王と呼ばれるのであれば、3人いる俺を含めたVNIVEARTHライバー男子にも呼び名を付けたがる。
VNIVEARTHを代表する女性陣4人を、四天王。
となれば。
――三馬鹿。
これこそが、俺たちVNIVEARTH男性ライバーの二つ名だった。
……そう。
女性陣も含めて、ネタまみれ、悪ふざけ全開の呼称である。
つかこれあの未来と考えたやつ同じだろ。掲示板での表記形式が全く同じなんだよ。……あの未来では、滅びゆくVNIVEARTHを見届けていたリスナーがいて、この世界でもおそらくその人物はVNIVEARTHを見てくれている。
もしもそれが、VNIVEARTHという箱を純粋に楽しんでくれているのだとしたら。あの未来より、ずっと長く、この箱の未来を見せていけるのかもしれない。
まあ、もっとも。このインターネットには反転アンチというものが存在するので、どこかで試聴をやめてしまう可能性は大いにあるのだけれど。
「――ねぇ、エンド。遠藤と拳藤、2人だけずるくないかい? ボクも伊藤に改名を――エンド? エンド、どうしたんだい?」
「え、ああ、いえ。すいません、コメント欄を見ていました。俺たちはこんなに多くの人に見て貰えているんだなって思って」
:何言ってんの
:見てやってるぞ
:しみじみ
:もっと俺らを大事にしろよ
「じゃあ……ちょっと早いけど、
:え
:なに
「サプライズだ」
:嫌な予感
:察したww
サプライズ。数日前に同じ言葉を女性陣から、具体的には萬屋ぺすとから聞いただろうリスナーたち。160もの人数が見ていれば、勘付く者もあらわれる――。
1枚のイラストが配信画面に貼り付けられる。
そこにはVNIVEARTHの男性ライバー3人が水着姿で描かれていた。
:いらねぇwwww
:ヴォエ!
:助かる
:エンドお前ww
:え、嬉しい!
:社長のは何なのw
:凛くんの腹筋!
:エンドと正義に比べて社長貧弱なの解釈一致w
……あれ。
思ったより好意的なコメントが多いぞ。女性陣と比べたら描き込みも完成度も劣る1枚。悪ノリによるおまけなのだからと時間をかけていない無難なサーフパンツ、トランクス型の海パンに上着がどうかというものだ。
まず拳藤正義。学生キャラらしい服としてパーカーを上から羽織り、ジッパーを大きく下げて胸筋が目立つようにした。この中では一番気合を入れて描いている。
敢えてなにも羽織っていない社長。海パンの他には、いつもの社員証だけだというツッコミどころ。
そして俺は、上からアロハシャツを羽織り、おまけに星型のサングラスを額に装着しているといういつものボケ倒し。
男性リスナーによる、なんでそんなもの用意したんだよw でコメント欄が埋まるかのを想定していたのだけど、なんか普通に感謝されているぞ……?
:これで生きていける
:♡
:感謝!
:なにこのコメ欄
:ホモばっかw
:いや女じゃね?
:こんなに女性リスナーいたのかよ
黒宮院みやみ:壁紙にします!!
お前もいるのかよ。
というわけで、ここまでが夏のリザルト。
登録者数で言えば、俺が初期のLive2Dのバズと自演切り抜きで得た数値を、司会をしていたことや、認めたくないがエンゲージリングのカプやらで少しずつ伸ばして現在3500人。
この時代における中堅下位の箱の、男性ライバーの数値としては破格だ。大事にして、箱のために活かしていきたい。
対して時世の過酷さが反映されているのが拳藤正義。570程度だけど、ここは盛って600とする。
いないはずはないだろう、箱全員のチャンネルに登録している数を入れてもこれだと少なく感じてしまう。
トップの波羅劾ざくろの10分の1。俺の提案で属性過多となっている彼女と比較すると、配信の特色も10分の1くらいな気がするし、彼にも何か役職を与えるべきか……。
本人の目標ややる気にもよってくるので、それは話し合って決めよう。
コロナ禍の客数の増加と、これから男三馬鹿としてわちゃわちゃしていく中で増えるのも見込めるが、いかんせん中堅以下の男性ライバーへの知識が豊富ではない。あの未来における彼の登録者数ならもう越えているが……。要検討だ。
そして社長。この男は本当に残念で、社長自らがVTuberとして実名でデビュー! ということでバズり、初心者と呼ぶには棒読みではないし無駄に良い声なのもあってか初期で1000人に到達――が、発言の度に減らし一時期は800ほどまで下降。
エンゲージリングとギリギリ最近の持ち直しもあって900台に戻したところだ。
これでも拳藤正義より多い登録者数のあたり、奇行によって面白おかしくする方がリスナーは付きやすい傾向にはあるのだ。俺が拳藤正義に奇行をしろとは勧めにくいので、どう活用したものか。
以上。VNIVEARTH四天王に対する、VNIVEARTH三馬鹿である。
ついでに補足をすると、佐土原恭子が仮改修モデルの実装と、それを見てファンアートを量産してくれたイラストレーターのおかげで登録者数800人に激増した。元は200人いなかったくらい。
配信の治安が悪化して苦情が届いている。マジですまん。対処法として紹介した「あらあら」の適当な受け流しも、キャラクター属性としてコメントを加速させている。
神海まりもは600人ほどだ。喋らないVTuberという意味不明な配信をする彼女だけどやはり女性というだけで箱推しは登録してくれるようになったし、最近は大喜利でおもしれー女と認識されてきたのと、メモ帳で会話することでリスナーは確実に増えた。
そして、配信内容に関して彼女から少し相談を受けている。思案中であり、模索中、練習中でもあるので、それが実施されてどうなるかは未知数。
佐土原恭子と神海まりも。
一期生のマイペース2人組だが、この2人に関しても、某掲示板ではついでとして完全に悪ふざけの呼び名が考えられていた。
まず膨大に挙げられていた候補たち。
御三家、三英傑、三銃士、三つ巴、三連星、三幻神。トリコロール、トリニティ、サザンドラ、トライフォース。
なぜ、2人なのに3人向けの呼称が? しかも男性3人よりまともで格好良いものばかり。
その疑問への答えは、暫定的に結論とされた次の名前に込められていた。
O³(オゾン)
2人が並んだ時、神海まりものまりもと、佐土原恭子のが2つ並ぶから、Oが3つだね、と。
最低な名前である。
とまあ、夏。
8月。やたら原因不明の上機嫌が続く黒宮院みやみと、帰りの新幹線でもどこか厳しい目を向けてきた詩星せるり。あと『鬼』と呟いてきた波羅劾ざくろとか。気になることが少し残っているけれど。
この夏を通して俺たちが得たものは、大きかった――。
*
はひゅぅん……♡
スマホの壁紙に設定したエンド様のイラストを見て幸せな溜息を吐く。隠し撮り写真はこんな風に表立った使い方ができなかったけど、これならどこでも使うことができる。
普段のLive2Dのスクショや公式立ち絵を流用するのではない、新たな壁紙のバリエーションだ。
「えへへへへ……♡」
この夏で私が得たものは、とても大きかった……♡
使い古したシャツが数枚と、あとまあ、しれっと拝借したごにょごにょ1枚。
シャツの1枚は寝間着に使用している。自分で着るということは、嫌でも洗うことになってしまうので匂いは消えてしまうが、亜紀人さんが着ていたという事実は消えない。
パジャマに彼シャツ……♡
憧れていたことが実現してしまった。配信合宿から帰宅してもうずっと、毎日が幸せだ。
合鍵を返すのを忘れてしまっていたけど、これはわざとじゃない。でも、返しに行く名目で会いに行く口実になる。よくやりました、みやみ。
そして装着したヘッドホンから流れる、編集音声。
亜紀人さんの滞在する部屋の方にスマホを置いてきて、録音する作戦は失敗。配信中のマイクへ向けた声とは大きく違って、使用用音声に加工することは難しかった。
みやみの亜紀人さん音声プロジェクトは、失敗。
……かと思われたのですがぁ♡
24時間コラボの翌日! 日曜日! あれはせるりちゃんを見送りに行く前のことでした。
ソファにもたれ、眠ってしまっている亜紀人さんの姿が……!
私はスマホのスピーカー部分を押さえて、何度もシャッターを切った。やった、亜紀人さんの寝顔! 向きを変えて何度も♡
オンラインでのやりとりで得た写真と同じでスマホ壁紙とかには使えないけど、これは最高の収穫……♡
──そこで、みやみは閃いてしまいました。
カメラモードを終了して録音アプリを起動。亜紀人さんの口元に近づける。
……そうなんです! 寝息! これで添い寝ボイスの素材が揃ったんです!!
パジャマに安眠音声。この2つが充実したことで、みやみの睡眠の質は大きく向上しました……♡
*
配信合宿が終わって。
私はミナちゃんに報告するはずだったレポートを、どうしようかと迷っていた。
南條さん、怪しいけどみんなの事ちゃんと見てくれるみたいだしちゃんと仕事してたよ。という内容を送るつもりが、最後の最後でとある懸念事項が出てきてしまったのだ。
今は、少し待って、とだけ送って保留にして貰っている。
本当にどうしよう。あの時、写真を撮ろうか迷ったけど、勝手に撮るのはよくないと思って止めてしまった。少し後悔している。あの写真があれば、決定的な証拠になったのに。
そう、あれは私が事務所から帰る直前のこと――
――そこには、ソファに偉そうにふんぞり返って座る南條さんと、そこへ通話用のスマホを持たされているみやみさんの姿があった。
は、はべらせてる……。
*
この夏を経て、私が得たもの。
何事にも因果応報というものは存在する。
食べて、寝て、ゲームして。そんな自堕落を送ったものには、相応の罰が与えられる――。
「3
神海まりも。日和って胸も揉めず。夏の敗北者である。
……楽しかったけどね。
あちゃー……。