過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。   作:匿名

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#009 詩星せるり

【初配信】初めまして(>ᴗ<#)、詩星せるりです!【VNIVEARTH】

 

 青空を背景に、可愛らしいファンシーなタッチで描かれた風船がいくつも画面下から現れて、上へと消えていく。風船に印字された『#』は、私のマーク。

 私の配信用にミナちゃんが用意してくれた、オリジナルのBGMが付いたシンプルなループアニメーションだ。

 

:本格的じゃん

:準備がいい

 

 初めての配信。弐コ弐コ動画でも歌ってみた動画を投稿するだけで生配信をしたことはなかったので、これが私の人生で初めての配信だ。

 ミュートを解除しようとした手が少し震えているのを、もう片方の手で握りしめる。

 

 ──通知音。スマホに映るのはLIIVEのメッセージ。

 

『初配信、頑張ってね! ファン1号の私が応援してるよ!!』

 

 大丈夫だ。私にはミナちゃんが付いてる。

 

「配信に来てくれたみんな、はじれらりて……」

 

 ……あっ。

 

:噛んだ

:あ

:かわいいね

 

「配信に来てくれたみんな、初めまして。詩星せるりです。(うた)(ほし)と書いて、詩星(うたいぼし)と読みます」

 

:なかったことにした

:丁寧だね

:何もなかった、いいね?

 

「名前の通り、歌うことが大好きです。いつか世界中のみんなに私の歌を聴いて欲しいな」

 

:噛んでません

:失礼噛みました

:かみまみた

 

「~っ! いいじゃないですかぁ、ちょっとくらい噛んだって。意地悪なこと言わないでくださいよぉ。んみぃ~~……」

 

:かわいい

:かわいい

 

 これぞミナちゃんが私に教えてくれた配信の心得。『ミスする女の子は可愛い』。なんか失敗したら不貞腐れながら唸っておけ。

 

 ……噛んだのも戦略なんだ。ミナちゃんにはそう言おう。

 

 うん。ミナちゃんは言ってた。『完璧じゃない女の子は可愛い』。

 

:歌を歌うの?

 

「はい。そうなんです。歌うのが大好きです。これから配信でみんなとおしゃべりしながら歌の動画を投稿しますが、みんなは聴いてくれますか?」

 

:聞く!

:聴いてやるよ

 

「ありがとうございます! ふふふっ。頑張って歌いますよ!」

 

 コメントも返事をくれてる。掴みはオッケー! ってやつだ。

 視聴者を味方にしていくのが基本的な配信の進め方だ。ミナちゃんが言ってた。

 

 そうして無難な自己紹介をゆっくり進めていく。

 ここでの自己紹介自体はそこまで重要じゃなくて、私の発言に対して視聴者がするコメントを拾って膨らませるのが基本だ。

 生配信は、配信者と視聴者で作る。

 リアルタイムの体験が思い出となり、心に残る。視聴者が少ない最初の内だから徹底できる、強力な武器。

 

「空色が好きなんです。

 ……はい、そうです。空色は青色です。英語でなんて言うか知ってますか?

 ……あっすごい。もう知ってるコメントがありますね。

 ふふふっ。

 そうです、答えはセルリアンブルー! 私『詩星せるり』の由来、セルリアンブルー! 詩星せるりです」

 

 あとはとにかく笑っておけ。

 配信の心得、『笑顔の女の子は可愛い』。

 

:立ち絵すごいね。めっちゃ動く

:デザイン良い

:それ思ってた

:ママ誰?

 

 トークを続けていくにつれ、Live2Dモデルを気にするコメントが増えて来た。

 自己紹介もそろそろ終わるし、ここで触れていこうかな。

 

 配信の心得、『あえて即答せずに焦らすのもアリ』。コメントを覚えておいて、同じ内容のものが増えたタイミングで札を切れ。ここ!

 

「わかっちゃいますか? 私、すごい動くんです。ウインクもできますよ!

 配信するために友達がおしゃれにおめかししてくれたんです。だから、私のママは……え、ママなの……?」

 

:どうした?

:ん?

 

 ここで私は、気づいてしまった。

 

「私、友達にお勧めされて配信をすることにしたんです。この身体も、その子がこの姿をくれて、応援するからねって、頑張ってねって」

 

:友達!?

:プロのイラストレーターが友達にいると

:良い友達だね

 

「そうなんです! すっごく良い子で、私の歌を好きって言ってくれて、今の私があるのはその子のおかげで、大切で、大好きな友達で──

 ──私のママってこと!? 私、ミナちゃんの……娘になっちゃったぁ……!!

 

:おや、なんか様子が……

 

「すっごい子なんです! 誰にも見向きもされてなかった私に声をかけてくれて、この姿をくれて、歌を褒めてくれて、声も好きだよって言ってくれて、歌の編集も、動画作るのも手伝ってくれて、配信する練習も付き合ってくれて、歌い方についてもいっぱい調べて特訓考えてくれて、最初の待機動画もその子がくれたんです!」

 

:【朗報】VNIVEARTH二期生、個性がやばい

:正体現したね

:その友達もやばくね?

:百合……百合……

 

「あっごめんなさい。そっかママかぁ。今度からママって呼ぼう……」

 

:あら~

:百合はまだガンに効かないがそのうち効くようになる

 

「ママ見てる……? 私、頑張れてるかな……?」

 

:見てるか~?

:せるりなら俺の隣のスマホの中で配信してるよ

:娘さんをください

:この配信面白いコメント多すぎだろwww

 

 それからコメントを読みながら話していると、いつの間にか20分が経過していた。

 私まだ自己紹介とミナちゃんの話しかしてないんだけど……?

 

 初配信は30分が目安だ。VNIVEARTH一期生は1人30分で余裕をもって時間内に収めていた。公式Tvvltterのアナウンスもそう告知してしまっている。

 初配信ではファンネームやTvvltterの投稿タグを決めるのがお約束だという。残り10分、いや、予定を考えると5分で決めなくちゃいけない。

 

「あっ! みんなごめんね、もう時間がない。次の人もいるし、早くファンネームとか決めないと……!」

 

 慌ててそう切り出すと、

 

『ゆっくりでいいよ。なんなら1時間使って平気! リスナーさんと仲良く話そう!』

 

 ミナちゃんからLIIVEメッセージ。

 見てくれてる……!

 

「い、今ミッちゃ……んんっ。友達、えっと、ママからLIIVEが来て、1時間まで使っちゃっていいって!」

 

:ちゃんと友達も見てます

:友達運営なの??

:運営より友達優先です

:別にいいでしょ

:次の人って、ねえ……?

 

 私の次にデビュー配信をする人についてのコメントが一瞬だけ目についた。

 VNIVEARTH二期生は2人。もう1人は男性とだけ告知がされている。VNIVEARTHは一期生の3人が全員女性で、私で4人目。所属ライバーは5人で、その内の1人だけが男性となる。

 

 ただでさえ女性がメインとなり、男性が不利になる環境。

 同情の気持ちで胸が痛む気がしたけど、事前にミナちゃんからは気にしないでと言われている。

 

 ──せるりちゃんは優しいから気になっちゃうかもしれないけど、配信中は絶対に触れちゃ駄目。これは絶対、ね。デビューするその人も、それを知ってて覚悟してる。

 

 心配はいらないとだけ念押しされてる。

 だから、私は不穏なコメントを見えないふりをする。ミナちゃんが大丈夫だって言うんだから、大丈夫なんだ。

 

 ファンネームや投稿タグは、正直に言うと前もって決めている。

 私とミナちゃんで話し合って考えた。

 だけど、視聴者の人と話し合って決めることで、自分たちも一緒に話し合って決めた、っていう一体感を持たせるらしい。ミナちゃんが教えてくれた、配信の心得。

 

 話し合ってみた上で、自分たちの用意したものより良いものがあれば採用する。

 

 時間の目安がある中で考えたけど思いつきませんでしたじゃかっこつかないから、前もって用意するのは言われてみれば必要なんだけど、……配信って色々考えなきゃなんだなぁ。

 

 ファンネーム:せるりあん

 ファンマーク:#⃣♬

 ファンコメント:せるりんがる

 配信:#せるりらいぶ

 ファンアート:#せるりあーと

 

 最終的に決まったものを一覧にして掲示する。

 

:助かる

:親切

:ゲーム配信の時は#セルゲームにしろ

:準備良すぎ

 

「ママがリアルタイムで作ってくれました。ママも見てくれてます。ママ……えへへ」

 

:かわいい

:有能

 

 コメントで上がっていたものの中に予定のものがあれば問題なし、なければ今思いついたんだけど~という体で付け加える。そうして話し合った上で決めたものだから、仕込みとか疑う人はいない。

 ファンコメント(詩星せるりに見て欲しい事)なんかコメントに言われて追加したものだしね。

 

 本当にリアルタイムで追加して画像を送ってくれた。

 

 そして配信を開始してから50分が経過。

 締めに予定していた目玉とも言えるパートに入る。

 

「みんなのおかげで無事にファンネームもタグも決まりました。ご協力ありがとうございます!」

 

:ええんやで

:えっち絵は決めなくていいの?

:やめろwww

 

えっち絵……

 

:読むなww

:保存した

 

 ……セクハラコメントは、軽いものだったら小声で呟くと良いってミナちゃんが言ってた。『本当は言わせたくないけど、こういうものだと思って』とのこと。『恥じらう女の子は可愛い』。

 ラインを越えた酷いコメントはミナちゃんが見えないようにしてくれるらしいし、安心だ。ミナちゃん配信に付きっきりで大丈夫なのかな。

 

「ではこの配信は終わりにしますっ!」

 

:やだー

:まだ10分あるのに!

:変なコメントしたせいだ

:セクハラしたやつを56せ!

 

「意地悪言うからだもん。……では、エンディングいきます!」

 

:!?

:エンディングがある!?

 

 マイクを握り、深呼吸してみせる。

 配信用の置き方と距離ではない音質になる。それは歌うときの姿勢だ。

 

「んっ……んっんっ。よし」

 

:何が始まるんです?

:えっちASMR!?

:↑おいやめろ

 

 そして私は静かにミュートにして、音声ファイルを再生。

 

 有名ボカロ曲のカバーだ。

 ボカロ曲はカラオケ用のインスト音源が配布されていることがほとんどで、歌い手に歌われることで両方の知名度を上げることに繋がるから、使用を厳しく制限していることはあまりない。

 けれど、企業だと条件が異なる。営利目的と言う前提があるから、歌い手の時と同じ気分で歌うことは出来ない。

 

 ただしYovitube自体にJASRACとの包括契約があるため、()()()()()()()()()()()()()、基本はオッケー、らしい。ミナちゃんが言ってた。

 

 打ち込みによるギター・ベース・ドラム程度の簡易的なデジタル音源が流れ始める。

 

 この操作は絶対に配信に失敗しないようにミナちゃんと何度も練習をした。

 絶対に、絶対に再生ウィンドウなんか映してはいけない。

 

 そして、私が歌う声が再生される。残念ながら事前に用意したものだ。

 最初はずるなんじゃないかってミナちゃんに聞いたけど、自宅から生配信で歌うのは現実的に難しかった。親もいるし、緊張もする。

 今の私が自宅と変わらない環境で出せるベストの歌声だ。

 

 こればかりは、仕方ない。再生が終わったら、今歌いました、とでもいうようにふるまうけど、仕方がないのだ。

 将来的に生配信で歌える環境になったら、実現させよう。だから、今は我慢だ。

 

 ミュートであることを念入りに確認して、立ちあがり軽く体を動かして曲が終わるのを待つ。

 

 簡易的なものだけど、気持ちよく歌い、気持ちよく聞くには十分な音源。

 テンポよく、3曲の有名どころの1番だけをピックアップしたメドレー形式。5分間で再生が終わると、私はマイクを手に取り、ミュートを解除する。

 

「はぁ……ふぅ。どう、でしたか……?」

 

:良かった!

:可愛い

:カラオケは自作?

:上手!

 

「はい……! ママと私で作りました!」

 

:作った!?

:友人過労案件

:ママと!?近親!?

:おいやめろww

 

「あっ……ママと、作っちゃった……

 

:や め ろwwww

:やっぱこの子やばいわ

 

「じゃあ最後に、ママと私で作った、オリジナル曲です!」

 

 事前に用意した歌詞の画像を表示する。

 曲名は『星空色』。歌詞や曲のフレーズに私の案を取り入れて、ミナちゃんがメインで作った曲だ。

 ──私は演奏は出来ないから、これが限界でごめんね。

 ミナちゃんはそう言ってたけど。

 

 この曲は私の宝物だ。

 

 最低限の楽器数で構成された打ち込みのデジタル音源に、自宅で録音した私の歌声が乗る。

 

 いつかプロの人に依頼をして編曲して貰って、ライブ会場で実際に歌う。

 

 これが今の、私の夢だ。

 

 

   *

 

 曲が終わると、配信は終了となる。

 

 配信開始から1時間で完全に切れるまでの数分間、最初の待機画面が流れる。この短いループアニメーション時に流れているのは『星空色』のインストだ。

 

 それに気づいたコメント欄が反応を示している。

 

 詩星せるりの初配信は、大成功と言っていいだろう。

 トーク内容は想定外の方向に飛躍していたが、問題はない。

 Vtuberを見る男は基本的に女性同士の絡み、いわゆる百合が大好きだ。異論はあったとしても、大多数が認めない。

 この友人大好きっ娘という属性は好意的に映るだろう。相手が架空の人間であることを除けば

 

 惜しむらくは、視聴者数。

 VNIVEARTHという一期生が盛り上がっていない駆け出しの箱では、知名度も期待度もなく、これが限界だろう。

 

 自分の事かのように緊張した配信が終わり、俺は一度肩の力を抜く。そして──

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 他のコメントが勢いに乗ってくるまでは、俺が複数のアカウントを使って話題の起点となるコメントを送っていた。

 

 俺が予定していたよりもずっと早く、俺の自演コメントが必要なくなったあたり、詩星せるりというVtuberのポテンシャルの高さと、リスナーの質の良さがあったと思う。

 元々トークの弱かった詩星せるりの配信が、登録者20万まで登ることができたのはリスナーの力も関わってくる。

 

 詩星せるりのデビュー配信が終わったなら、次は俺のデビュー配信が始まる。

 

 ここからは、正念場だ。

 

 順調だった詩星せるりの配信だが、俺はminaとして絶対に反応してはいけない話題を()()伝えていた。

 

 1つ目は、このあとデビュー配信をする男性への誹謗中傷。

 2つ目は、配信に使用される素材の質を()()()()()()()()

 

『金かけすぎ』『プロに依頼したんだ』『運営のお気に入り』

 

 この、悪意から来る後者のコメントは早急に非表示化し、詩星せるりの目には極力入らないように努めた。

 いや、悪意ではないのかもしれない。

 好きを守ろうとする防衛。異なる視点からくる正義。

 

 これから俺の持てるすべての能力でVNIVEARTHをサポートするにあたって、一期生の低品質さとのギャップは、反感を生む。

 

 オリジナル曲に関しても、最初からプロに依頼する選択肢もあった。だが、さすがにそこまでしてしまうとラインを越えるだろう。

 初配信から完成されたオリジナル曲を投稿する底辺企業のVtuberがどこにいる。

 俺に演奏ができたらやっていたかもしれないが、実際できないのだから、mina(友人)が演奏もやってくれました、には済ませない。

 

 この正義と同居する悪意は、詩星せるりの初配信を邪魔する要素で、今後にも障害となりえる。

 

 だから。

 

 社長に言われたからではない。

 たまたまトークも練習していたからではない。

 

 男性ライバーへの反感。

 過剰なクオリティ向上への反感。

 

 俺はVNIVEARTHのために。この2つを潰すために、Vtuberになる。

 

 

 ──降りかかる悪意があるなら、俺が背負うと決めている。

 

【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】現在公式Tvvltterにてシルエット画像を公開中。4期生デビュー後に内容が明らかになりますが、これは制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)

  • 萬屋ぺすと
  • 佐土原恭子
  • 神海まりも
  • 詩星せるり
  • 遠藤
  • 黒宮院みやみ
  • 拳藤正義
  • 波羅劾ざくろ
  • 4期生の2人目
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