使徒との激闘を終えたシンジと初号機は、ゲージへと戻ってきた。
そこにはミサトやリツコ、マコトやマヤといった発令所の面々が待っていた。
皆、使徒を倒した”英雄”を待っているかのようだった。
プシュー
エヴァ初号機からエントリープラグが排出され、シンジが降りてきた。
最初に話しかけたのはミサトだ。
「本当にありがとうシンジくん。無事に帰ってきてくれて」
「いやぁ大変でした•••危ない場面が多々あって。ははは•••」
ミサトの問いかけにシンジが、ぎごちない笑いを浮かべながら話す。
それを見たミサトは罪悪感が湧き出てきた。シンジは危険な戦地にいなが自分は安全なところにいた事実に。
「ありがとうシンジくん•••そしてごめんなさい。あまりシンジくんの力になれなかった•••」
「そんなこと言わないでください。ミサトさんがあの時、『よけて!』って声をかけてくれたおかげで、こうしてミサトさんと話せているんです。あれがなかったらどうなっていたか。ありがとうございます•••」
「シンジくん•••」
シンジの言葉に泣きそうになるミサト。
しかしミサトにはシンジに告げなければならないことがあった。
これからも使徒が来ることを•••またシンジを戦地に送らなければならないことを。
「シンジくん。あなたに言わなければならないことがあるの•••」
「ん?何ですか?」
「実は今回が最後じゃないの。使徒はこれからも来ることが予想されているわ」
「•••」
ミサトから告げられたことに、シンジは黙って耳を傾ける。
「だからあなたにはまだエヴァに乗ってもらうことになるの。あなたをまた戦地に送らなければならないことになってしまうわ。自分たちは安全なところで見てるしかできないのに•••」
「ミサトさん•••」
「ミサト•••」
ミサトは半分泣きながらシンジに、『またエヴァに乗って使徒を倒して欲しい』ことを伝えると、シンジとリツコは心配そうに見つめる。
「最低よ私は。シンジくんを、あなたみたいな子供を戦地に送って死に行かせるような真似させて戦わせて、なのに私はただここで指示を出すだけ。酷い大人だわ。本当なら私が、私がこの手で•••使徒を•••使徒を•••!」
「それは違います!」
「!!」
ミサトの言葉を遮ってシンジが話し始めた。
「ミサトさん。あなたは勘違いしている」
「•••勘違い?」
「今回使徒を倒せたのはミサトさん、あなたが作戦を考えてくれたからです。ミサトさんは事前に使徒の行動を分析してくれてたんですよね。そのおかげで使徒の弱点や動きがわかったからコアを破壊できたんです」
「•••」
「それにさっきも言いましたけど、僕はミサトさんに命を救われました。あの時避けてって言われなければ、使徒の攻撃をまともに喰らって、生きて帰ってこれなかったと思います。ミサトさんが僕を救ってくれた。だからそんなに自分を責めないでください•••」
「シンジくん•••」
シンジの言葉にミサトは声が出ない。
「それに僕は皆さんと約束しましたから」
「約束?」
「えぇ。皆さんを守るって言う約束です」
「!!」
「僕は今後もエヴァに乗ります。だからミサトさん。一緒に使徒を倒しましょう。そして世界を救いましょう!僕はそのために呼ばれたんですから。もちろんリツコさんも、そして皆さんも一緒に」
「シンジくん!!」
(!!!)
ミサトはぎゅっとシンジを抱きしめた。
「うぐっ、ひぐっ、シンジくん、ありがとう•••本当にありがとう•••わたしも頑張る。シンジくんを守るために頑張るわ•••」
「ミサトさん•••ありがとうございます•••一緒にがんばりましょう。僕もがんばります」
ミサトはシンジをはなして、シンジと2人で笑い合った。
それを見ていた周りの人たちはと言うと•••
(シンジ君、何で健気な子なの•••!)
庇護欲が爆発していた。
そんな中、今度はリツコがシンジに話しかけてきた。
「シンジ君、私からも礼を言うわ。ありがとう。科学者としてのプライドに賭けて、私たち技術部も全力であなたをサポートすることを誓うわ!」
「はい!ありがとうございます!」
そう告げると、リツコは部下のマヤに指示を出す。
「マヤ、早速だけどフィードバック低減システムの精度を上げるわ。エヴァパイロットの負担を少しでも減らすのよ」
「了解です!」
「それとエヴァの兵装を増やしましょう。どんな使徒にも対応できるよう準備を進めましょう」
「はい!しかし現在進めている開発もありますし、どこまで実現できるか•••」
不安がよぎるマヤにリツコは告げた。
「大丈夫よマヤ。”科学に限界はないわ”。今すぐには無理でも、必ず実現させるのよ!」
「はい!センパイ!」(センパイかっこいい•••)
リツコとマヤの会話を聞いていたシンジ
(”科学に限界はない”か。やっぱりリツコさんはあの人の•••)
「ところでこの後はどうすればいいですか?」
「あぁそうね。シンジ君の体の状態を検査したいからついてきてくれるかしら」
「ちょっと待ってリツコ。その前に体についたL.C.Lを取らないと」
「あぁそうね。誰か案内してくれないかしら。
「俺が案内します」
そう立候補したのは青葉シゲル、NERVのメインオペレーターの1人だ。
「そう。わかったわ。シンジくん。青葉君に案内してもらって。終わったらリツコと迎えに行くから」
「わかりましたミサトさん。青葉さんよろしくお願いします」
「それじゃあシンジくん、こちらへ」
シンジはシゲルに連れられゲージを後にした。
————————————-
〔赤木リツコ執務室〕
(碇シンジ君。あの人の息子で初号機パイロット。内向的な性格。戦闘経験なんてあるはずない。それなのに、この動きは•••)
先の戦闘が終わり、シンジの検査も終わり現在深夜3時。
リツコは先ほどのエヴァ初号機と使徒との戦いの映像を何度も繰り返し見ていた。
やはりおかしい。戦闘が進むに連れ、使徒との戦いで頭がいっぱいになったため気付かなくなっていたが、ここまで華麗に動くエヴァを見たことがない。
しかも、何にも訓練を受けているわけではない。ましてや戦闘経験無しと保安部からの報告を受けている。にもかかわらず、リフトオフした直後から素早く走りドロップキック。その後も立て続けに使徒をボッコボコ。
何年も訓練を受けているセカンドチルドレンでさえ、ここまでエヴァを動かしたことはないはず。ましてやプラグスーツなしであのシンクロ率。説明がつかない。
極め付けはこれだ。
リツコの前にあるモニターは使徒に頭を掴まれた初号機が映っていた。
(あの時はメインモニターが映ってなかったけど、何度見ても間違いない。初号機の手のひらから爆発が起きている•••)
初号機が使徒に頭を掴まれた後、使徒の光の槍で攻撃を受けていたその後に起きた爆発。
この爆発が明らかにエヴァ初号機の手のひらの前で爆発が起きているのだ。
もちろん初号機の手のひらに火薬なんて仕込んでいない。開発責任者はリツコなのだから確実である。
(物理的にも化学的にもありえない、だけど映像が証明している•••)
リツコの疑問はまだ尽きない。
(コアの破壊だってそう。どんなにエヴァを華麗に操作できるからって手刀一発でコアを破壊できるの?使徒の弱点を?一発で?)
(使徒の自爆だって街に被害が全くなかった。ATフィールドで爆発の威力を全て防ぎ切ったって言うの?)
リツコは机の上に置いてあったシンジの写真を手に取る。
シンジが待っているIDと同じ学ラン姿のシンジだ。
(シンジ君、あなた何者なの?エヴァパイロットの時点で普通の中学生ではなくなっているけど、それだけじゃないわよね。もっと他にあるんじゃない?他の誰にも言っていない秘密が•••)
いつしかリツコの興味は先の戦闘や手のひらの爆発、コアの破壊のことよりもシンジ自身に向いていた。
(科学者のプライドに賭けてあなたの秘密を暴いて見せるわシンジ君。覚悟することね。私は諦めが悪いわよ。逃がさないわ、シンジ君。フフフフ•••)
マッドサイエンティスト赤木リツコ。シンジへの興味度臨界点突破。そして深夜テンション。
リツコはその後、どのようにしてシンジの秘密を暴くか寝ることを忘れて考えていた。
尋問、自白剤、解剖、etc
ちなみにリツコがそんなことを考えている間、ずっと不気味な笑い声を出していたらしく、近くを通った夜間のNERVスタッフが『お化けが出た!』と勘違いし、しばらくの間、NERV本部は夜中お化けが出るという都市伝説が回ってしまった。
——————————-
〔シンジの病室〕
「•••うわぁぁああ!」
使徒戦で疲れ、ぐっすり寝ていたシンジだったが何かを感じ急に飛び起きた。
「何だ?何だかモーレツに嫌な予感が•••」
よもやリツコがシンジの秘密を暴くべく本気を出そうとしていたことなど梅雨知らず。
「•••寝よ」
とりあえずシンジはもう一度寝た。
——————————-
〔翌朝〕
「発表は、シナリオB-22か•••またも事実は闇の中ね」
ミサトとリツコは状況確認の為、昨日使徒戦が行われていた場所に来ていた。
そこに設置されたテントの中で、防護服を着たミサトが、スポーツドリンクを片手にニュースを見てつぶやいた。
どこも事実を発表していない。完璧に隠蔽している。
「広報部は喜んでいたわよ、やっと仕事ができたって 」
「うちも御気楽なものよねぇ~」
「どうかしら、本当は、皆怖いんじゃないの?」
「あったりまえでしょ。実際使徒がやってきたんだから•••それとリツコ」
「ん?どうかした?」
「どうかしたも何も、あんた隈だらけじゃない!どうしたの?」
「あぁ、これはちょっと昨夜考え事してて•••」
「考え事って何よ」
「いゃぁ、まぁちょっとね」
「まさか徹夜で?!」
「徹夜で」
「呆れた。あんたも若くないんだから気をつけなさいよリツコ」
まさか14歳の少年のことを徹夜で考えていましたとは言えなかった。
あの夜リツコは結局徹夜でシンジの秘密をどう暴こうか考えていたのだが、朝日が登り始めた時に、こんなことしたら犯罪じゃないか、というような内容に自分でドン引き。所謂深夜テンションで考えてしまった昨晩の方法はすべて却下。
とりあえずシンジの秘密は日頃の会話の中でさぐることにした。最悪、執務室に呼んで会話(尋問)すればいい。
プルルルルルル•••
「はい。•••はいわかりました。ミサト、彼目覚めたみたいよ」
「容態は?」
「外傷無し。精神汚染も問題無し。元気いっぱいピンピンしてるって」
「へぇ〜あれだけの戦闘をやっといてピンピンしてるとはねー」
ミサトは、リツコからシンジの容態を聞いて一安心していた。
私たちを救ってくれた少年、何かあったらいたたまれない。
「とりあえずシンジくんのお見舞いに行ってくるわ」
「そう•••なら私も行くわ」
「リツコはダメよ!いつ使徒が来るかわからんないんだから、ちゃんと休んどきなさい」
「•••ミサト、あなたシンジ君を独り占めするつもりね?」
(っギク!)「や、やぁねぇリツコ•••なんのことかしら•••」
「とぼけても無駄よ。あなたの考えていることなんか大体わかるんだから」
「あははは•••」
「ったく、今日のところはあなたに譲るわ、行ってらっしゃい」
「あらそう?じゃあ行ってくるわね!」
スタタタタタ•••
「•••」 スッ
軽やかな足取りで見舞いに向かったミサトを見送ったリツコは、先ほどの電話と同時に送られてきた映像を確認し始めた。
その映像には病室にいるシンジが映っている。
(目が覚めた後は、”しばらく横になってじっとしていたけど”、今はストレッチしてるわね)
シンジの病室には隠しカメラがついている。シンジはエヴァのパイロット、NERVにとってはVIPである。その為保護や監視のためシンジのいるところにはカメラがついていた。
リツコは病室についている隠しカメラの映像を見ていたのだ。
(こうしてみると、ごく普通の中学生ね。シンジ君、あなたの秘密は何処にあるのかしらね)
こうしてリツコはシンジに対し科学者として興味が沸々と湧いてきていた。
それはいつしか、リツコのココロに絡みついて離さなかった鎖、碇ゲンドウや母親の赤木ナオコへの複雑な感情や思いから解き放たれることになるのだが、それはもう少し後の話。
リツコは時間の許す限りシンジの映像を観察していた。
——————
〔シンジの病室〕
ミサトが見舞いに出発し、リツコが映像を身始める30分ほど前•••
「•••知らない天井だ。そりゃそうか」
シンジは目覚めた。
(•••ん?•••あぁなんだ来てたのか)
辺りを見渡したシンジは、枕元に置いてある書類に気づく。
その書類を、シンジは真剣な眼差しで内容を確認する。
リツコが見ていた映像には、資料を確認する姿は無い。
ペラ•••ペラ•••ペラ•••
静かな病室に紙をめくる音だけが響く。
パサ••• シュ
「ふぅ、あーらよっと」
シュタ!
眺めていた書類を消し、ベッドから勢いよく立ち上がるとストレッチを始めた。
「いっちにーさんしー、いっちにーさんしー•••。ふぅ。体のダメージは大丈夫そうだな。ま、”僕たち”は寝てるだけである程度の怪我は回復するらな」
「あらシンジくん、だいぶ調子よさそうね」
「あぁミサトさん。おはようございます。おかげさまで大分動けますよ」
「おはよ、そいつは結構」
見舞いに来たミサトと軽い挨拶を済ませたシンジは、ミサトと共に退院手続きを済ませ病院を出る前に、病院に来てから気になっていたことをミサトに問いかけた。
「そういえば、初号機に乗る前に連れてこられた女の子もここに入院しているんですか?」
「女の子?」
「はい。あの青い髪の•••」
「あぁ!レイのことね」
「レイ?」
「そっ、綾波レイ。零号機専属パイロットでファーストチルドレン。零号機起動実験の事故で大怪我を負っちゃってね。彼女もここに入院しているわ」
「あやなみ•••レイ•••。病院を出る前にお見舞いに行ってもいいですか?」
「あら、気になるのぉ〜シンジくん!」
「えぇ、ちょっと気になることが」
「? そう•••」(あれ?茶化したのに反応無し?)
プシュー
「失礼しまーす」
「すぅー•••すぅー•••」
(よく寝てる)
綾波レイの病室に入ったシンジとミサトは、寝ているレイの姿を確認した。
シンジはレイの寝ているベッドの右側にしゃがむと•••
ギュッ
(あら、シンちゃんったら大胆!)
シンジはおもむろにレイの右手を握った。側から見たら恋人の無事を祈るようにしか見えない。
(シンジくんって、レイみたいな娘が好きなのかしらねぇ〜)
シンジはしばらくの間、レイの右手を握っていた。
パッ
「•••••んっ•••••」
やがてシンジがレイの右手を離した瞬間、レイの目が開いた。どうやら起きたようである。
「•••あなた•••だれ?•••たしかあのときゲージに•••」
「そうだよ。僕の名前は碇シンジ」
「いかり•••しんじ•••」
「レイ、この子は初号機専属パイロットの碇シンジくんよ。レイからしてみたら後輩にあたるわね」
「そうですねミサトさん。というわけで綾波さん。これからよろしくね」
「•••よろしく•••」
「怪我はどう?大丈夫?」
「•••うん。大丈夫•••」
「なんかあったらすぐに言うんだよ」
「•••」
「じゃ、僕たちは行くね。起こしちゃって悪かったね」
「•••いい•••」
(いかりしんじ、不思議な人。私のことを心配してくれた人。なぜ心配してくれたの?でも、嫌じゃない•••)
レイの病室を後にしたシンジとミサトは、外に出るためエレベーターを待っていた。
「しっかしシンちゃんったら、大胆ねー。いきなり女の子の手を握るなんて、しかも寝てる娘に!」
「!! そんなんじゃ無いですよ!本当に心配していたんです!」
「照れちゃって〜、このこの〜!」
「わっやめてください!」
(この人人のこう言うところ茶化すタイプの人か•••)
シンジがミサトにいじられていると、エレベーターが到着した。
(!!)
そのエレベーターには、入り口に立ち塞がる形で立つ碇ゲンドウが乗っていた。
「•••」
「•••」
碇親子は互いに睨み合って動かない。
(ふ、2人ともこわい•••)
ドン!
「「!!」」
「邪魔」
やがてシンジがゲンドウの腰あたりに、自分の肩をわざとぶつけながらエレベーターに乗り込んできた。
その光景を見たミサトも、申し訳なさそうにシンジと共にエレベーターに乗る。
ブーーーーーーン
「•••••••」
「•••••••」ジーーーー•••
(な、なんなのよこの状況•••)
かの碇親子と一緒にエレベーターに乗る羽目になってしまったミサトは生きる心地がしなかった。
どう言うわけかエレベーターに乗っている間、シンジは後ろからゲンドウのことを黙って睨みつけている。•••怖い顔で。
(•••なぜだ。なぜシンジが睨んでくるんだ•••)
ゲンドウにも意味がわからなかった。
チーーン
!スタタタタタ•••
程なくして、先にゲンドウの目的の階に到着すると、ゲンドウは心なしか逃げるように早足で去っていった。
「あぁ、行っちゃった•••」
「はぁぁぁあああ〜」
「? どうかしました?」
「あんたねぇー」
ミサトがかなり疲れた顔をしていることに、シンジはよく分からなかった。
—————————-
〔NERV本部〕
退院後、NERV本部に呼び出されたシンジとミサトはNERVに向かった。
そこで告げられたのは、シンジの今後の住まいのことだった。
それは•••
「えっ1人でですか!」
「そうだ」
NERVの仕官が告げたのは、シンジは1人で住むことになる、だった。
「彼の居住はこの先の第6ブロックになる。問題はなかろう」
「はい、わかりました」
「っ! ちょっとシンジくん、それでいいの?」
「? えぇ大丈夫ですよ。元々そのつもりでしたし」
シンジはさも当たり前かのようにしていた、というよりも1人で住みたかった。
だが、ミサトは納得していなかった。
使徒に対して華麗な戦闘を繰り出したとしても、まだ14歳の少年。
保護者は必要だろう。
それにシンジが1人で住んで、例えば戦時や他国の諜報部隊がシンジに接触して誘拐なんてされてしまった場合、どうするのか。
各パイロットの近くには保安部が待機しているが、保安部はあくまで各パイロットの監視、動向調査が目的。有事の際役に立つか分からない。自分が近くにいなければシンジを守れない。
さっき誓ったでは無いか。シンジを守ると。
ここでミサトは決心する。
「それじゃあ私と一緒に住みましょう!」
「ゑっ?」
「シンジくんにはまだ14才。保護者が必要な年齢だし、私と住めばシンジくんの身の安全を守れるし、今後の使徒戦に向けてコミュニケーションを向上させることだってできるわ!」
「いやっちょっと待ってくださいよ!」
「なに?何か問題あるの?シンジくん」
「いや問題というかですね」
「無いわよね、シンジくん」
「いやだから」
ズイ
「な • い • わ • よ • ね ?」
「•••無いです」
「じゃあ結構!早速リツコに連絡しなきゃ。もしもし〜リツコ〜」
(マジかよ•••ミサトさんと住むのかよぉ•••)
シンジはどうにかして1人で住みたかったが、なし崩し的にミサトと住むことになったしまった。
(まぁいっか。悪い人じゃなさそうだし)
シンジは割と楽観的だった。
————————
「ミサトさん、何処に行くんですか?この方角だと街から離れていると思うんですけど」
「良いところよっ」
ミサトの運転で到着したのは第3新東京市を見渡せる高台だった。
見渡した第3新東京市はほとんど平らな街だった。
「ふーん。なんだかさみしい街ですね」
「そろそろ時間だわ」
ミサトの言葉が合図になったかのように、地面のハッチが開き地面からビルが伸びてくる。
「おぉー! これはすごい!」
「これが使徒迎撃専用要塞都市•第3新東京市。私たちの街よ。そして•••」
「?」
「あなたが守った街•••」
「•••なんだかピンと来ないですね」
「えっ」
意外なことを言ったシンジにミサトは驚く。
シンジは続けて言葉を紡ぐ、
「僕はあくまでミサトさんやリツコさん達を守ることができたに過ぎません。正直、街まで意識していたかどうか•••」
なるほど。ピンときていなかったのはそういうことだったのか。
ミサトは改めてシンジに語りかける。
「いいのよシンジくん。あなたがどう考えていようと、この街を守ったことに変わりはないわ。誇りを持って。そして私たちを、この街を守ってくれてありがとう」
「はい•••ありがとうございます•••」
(僕が守ったのか、この街を。もっともっと頑張らなくちゃ)
シンジはより一層努力することを1人誓った。
—————————
その後、本日は退院明けということもあり、ミサト宅に行く途中でコンビニに立ち寄りレトルトを購入。
ミサト曰く、シンジ歓迎会を開くという。
しばらくして、ミサトの住んでいる所に到着。
第3新東京市の閑静な住宅街にある、コンフォート17というマンションの11階だ。
「さっついたわよシンジくん。実は私も引っ越してきたばっかりでね。さ、入って」
「それじゃあ、お邪魔します」
「ちょーーっと待った!」
「? なんですかミサトさん?」
「シンジくん?ここはあなたの家なのよ」
(はは、なるほど•••)「ただいま、ミサトさん」
「お帰りなさい!シンジくん」
——————————
「な、な、」
「な?」
「なんじやこりゃゃぁぁぁぁあああああーー!!!」
シンジはミサトの家に入って絶叫した。
「何よ急に叫んだらして」
「何ってミサトさん!何ですかこれは!!」
「何って何よ?」
「この散らかりっぷり!!」
「あぁ。ちょっち散らかってるだけじゃない」
「これの何処がちょっちなんだぁ!」
ミサトの部屋の中はめちゃめちゃ散らかっていた。
(ミサト曰く、ちょっち散らかっている)
床はゴミだらけ、テーブルは缶ビールやら酒瓶やらで散らかり放題。
「•••ご飯の前にまず掃除です」
「へっ?!いやぁ今日は疲れてるしまた明日•••」
「•••まずは掃除です」
「お腹が空いて力が出ない•••」
「•••まずは掃除です」
「あっそうだ!明日朝早いんだったわ!」
「うるさい!まずは掃除だ!動け!Hurry up!!」
「は、はいぃぃい!」
シンジの号令で地獄の掃除がスタート。
「はぁ、はぁ、やっと終わったぁ」
「全くどんだけ散らかせば気が済むんですかミサトさん」
「す、すみません」
掃除が始まってから終わるまで2時間かかった。
大きいサイズのゴミ袋20袋分のゴミが出た。ちなみに一番散らかっていたのはミサトの部屋である。
徹底的に掃除し、整理整頓もしたので、掃除前と比べかなり綺麗になった。
「これをキープしてくださいよミサトさん」
「はい、わかりましたぁ。さ、気を取り直して、パァ〜ッとやるわよ! カンパーイ!!」
(ホントにわかってるのかな、この人)
何はともあれシンジの歓迎会のスタート。
とは言っても、コンビニで買ったおかずやレトルトである。
ちなみにミサトは、350ml缶のビールを一気飲み。
「かぁぁあああ〜。やっぱ人生この時のために生きてるってもんよねぇー!」
「さいですか」
「何よシンジくん。辛気臭い顔ねぇ」
「部屋汚くて、帰って早々ビール飲んでいる人に引いてるだけですよ」
「なによぉ!減らず口をいうのはこの口かぁあー!」
「ひ、ひたいでふ。みはとはん」(い、痛いです。ミサトさん)
シンジの両ほっぺをつねっていたミサトだったが、シンジのほっぺから手を離すと、急に真面目な顔になった。
「? どうしたんですかミサトさん」
「ちょっちね。シンジくんに話しておこうかと思ってね」
「何をですか?」
「私の過去」
そういうとミサトは、ポツポツと話し始めた。
「セカンドインパクトって知ってる?」
「えぇ。確か南極で起きた大爆発で、当時の人口の約半分の人が亡くなったって•••」
「そう。実は私セカンドインパクトが起きた日、その南極にいてね」
「!!」
ミサトの告白に驚きを隠せないシンジ。
ミサトはそんなシンジを無視して話し続ける。
「私の父は研究者だったの。でも研究に没頭するばかりで家族を蔑ろにする人でね。いつも母は泣いていたの。そんな父のことを憎んでさえいたわ」
「•••」
「ある日父の研究で南極に行くことになったの。理由はよく分からないけど。そこで起きたの。セカンドインパクトが」
「そんな•••」
「父は命をかけて私を脱出ポッドに入れて助けてくれたの•••結局あの日、南極で生き残ったのは私だけ。父を含め他の人はみんな死んだわ」
「•••」
ミサトの壮絶な過去に言葉を失うシンジ。
それでもミサトの言葉は終わらない。
「後でわかったんだけどね、セカンドインパクトの原因が使徒であることがわかったの」
「!!」
「だから私は必死で努力したわ、父を殺した使徒を倒すために。使徒に復讐するために•••」
(あの時の感情はこういうことだったのか)
「今となっては父のことを愛していたのか憎んでいたのか分からない。でも私が今NERVにいる理由はこれ。使徒への復讐なの」
「そうだったんですか」
「できることなら私がエヴァに乗って使徒を倒したい。でも私じゃエヴァを操縦できない。だからあなた達パイロットに託すしかなかった。でも結局は、シンジくんやレイを自分の復讐の駒として使ってるに過ぎないって気づいたの•••本当に自分が嫌になるわ」
「ミサトさん•••」
「シンジくん。本当にごめんなさい•••本当にごめんなさい•••」
ミサトは泣きながら話し終え、俯いていた。
ギュ
(!!)
「シ、シンジくん?」
シンジはおもむろにミサトの両手を握った。
「ミサトさん、顔をあげてください」
「えっ」
そこにはシンジの優しい笑顔があった。
「ミサトさん、気に病む必要必要はありません」
「へ?」
「僕もわかります。大切なものを失った時の悲しみや復讐したいという気持ちは」
「大切なもの?」
「ミサトさんのお父様ですよ」
「へ?」
「ミサトさん、きっとあなたはお父様を愛していたんです」
「なんで•••そう思うの?」
「だって愛していなきゃ復讐したいなんて思わないですから」
「!!」
目から鱗だった。
確かにシンジのいう通りだ。復讐したいということはそれだけ父のことを大事に思っていたということである。
「だから大丈夫です。大切な人のために行動しようとしているんですから」
「なんで?あなたを駒のように扱おうとしたのよ!決して許されることではないわ!」
「だったら僕が許します。ミサトさんの思い、僕にも少し分けてください」
「シンジくん•••」
「昨日ゲージでもいいましたけど、一緒に使徒を倒しましょう!そして一緒に、ミサトさんのお父様への復讐を果たしましょう! だからもう自分を責めないでください•••」
「シンジくん!」
その言葉を皮切りに、ミサトは感情が決壊したかの如く泣きだした。
「うぐ、ヒグ、シンジくん•••ありがとう•••ありがとう!」
「ミサトさん。頑張りましょう、一緒に頑張りましょう」
(シンジくんありがとう。お父さん、私がんばるから•••)
シンジとミサトは決意を新たにした。
こうしてミサトのココロに絡みついていた鎖である、使徒への思いと父への複雑な感情がシンジの手によって解放された。
これはいずれミサトと、シンジをはじめとするチルドレン達の絆を強くするだけでなく、リツコや他のオペレーター、元恋人との絆を強固なものになるのだが、それはもう少し後の話。
ひとしきり泣いた後、再度ミサトが口を開いた。
「なんだか最近、シンジくんに泣かされたばかりね」
「あら、なんでヒドイ男」
「ふふ。でもありがとう」
「お礼なんていいですよ。まぁあとは•••」
「ん?」
「もう少しお掃除できるようになりましょうね」
「ガ、ガンバリマス•••」
「でもあまり復讐に囚われ過ぎないでくださいね。復讐だけしか見えなくなると他のことが蔑ろになってしまいますから」
「確かにそうね、程々にしなきゃ。でも他のことって?」
「そうですね。たとえば結婚とか」
「! へ!」
「ミサトさん、誰か恋人とかいないんですか?」
「! い、いないわよ!そんな人!」
「そうなんですか?」
「もう!何を言い出すのよ急に」
(シンジくんが変なこと言うから、アイツのこと思い出しちゃったじゃない!)
(ミサトさん。恋人じゃないけど、誰か好きな人はいるっぽいな。その人と結ばれればミサトさんも幸せになれるのかな? でもあまり押し付けるのはよくないけど。とにかくミサトさんにも幸せになってほしいな)
———————
食事の後、シンジはお風呂をいただき、あてがわれた部屋で布団を敷いて横になっていた。
(いやぁ濃い二日間だった。使徒を倒すのがこんなに大変だったとは•••でもエヴァ越しで魔法が使えるとは•••これはかなりの収穫だな。今後の使徒戦もやりやすくなる。でもあまり使いすぎると怪しまれるし•••)
シンジは第3新東京市に来てからの二日間を思い出していた。
使徒戦の観察、NERV到着、エヴァ搭乗、使徒戦•••
その中でもやはり使徒戦についてはかなり気を張っていたらしい。
(いやそもそも僕が魔法使いであることをバレちゃいけないって師匠に言われているし、気をつけないと)
だがシンジにはもっと気を張らなくてはならないことがあるらしい。
(よし!仲間に報告するために、ここ数ヶ月の状況を整理しなきゃ)
そしてシンジは、元々の住処にいる時から第3新東京市に来てからの数ヶ月間を思い出していた。
続く
使徒戦後のひととき。
次回はシンジの過去が少しだけ明かされます。
また、ここまでのシンジの行動についても。