IS 教師の一人が月村さん   作:ネコ削ぎ

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3話

 セシリアが教室に入った時、先に登校していたクラスメイト達が一つの話題について話し合っていた。彼女は自分の席に鞄を置いてから、教室の一画に集まって話をしている留学生組の中に加わった。

 IS学園はその性質上、外国人留学生を色々な国から多く受け入れている。一つのクラスに一人二人などというものではない。30人前後のクラスに、大概は10人前後配属される。場合によってはクラスの半分が留学生というケースも稀ではない。

 一年一組は12人の留学生がいる。彼女達は同じ留学生であったので結束力は強い。セシリアも11人とは仲が良い。それに反比例するかのように、日本人学生との仲は当たり障りない程度でしかない。よって、集まって談話する際、大きく二つのグループに分かれる。日本人学生グループと留学生グループだ。

 

「おはようございます、皆さん。何を話してますの?」

 

 セシリアが輪の外側から声をかける。彼女達はそれぞれセシリアに挨拶を返しながら、輪の中に迎い入れる。話に参加している人数は8人。残りの3人はまだ現れてはいない。おそらく、のんびりとしているのだろうと、セシリアは思った。

 

「二組に転校生が来るのよ」

「転校生ですか?」

 

 転校生という単語に、セシリアは思い当たることがあった。保健室を訪れた時に、遊姫が転校生について話していたからだ。

 

「セシリアの存在を危ぶんでの行動かもよ」

 

 そんなことを言うクラスメイトに、セシリアは違うと思った。自分の存在を危ぶんだのではなく、イギリスに先を越されたことに危機感を覚えたのであろう。第三世代型IS開発は世界に対して技術力の高さを見せつけることができる。イギリスは世界に対して一歩リードしている状況だ。だから、他国はそれに対抗しうるISを、開発しなければならない焦りがあるのだ。

 

「専用機持ちという訳ですわね」

「おそらくね。わざわざ時期をずらしての入学だから、ISの調整に手間取ったか、装着者の選定が思うように進まなかったってことかしら」

「専用機かぁ。いいな、私も専用機が欲しいなぁ」

「簡単に専用機は得られないよ。代表候補生になって、更に企業や国家に認められないと」

「その点、セシリアさんは恵まれています。代表候補生になって、すぐに専用機が与えられるのですから」

「わたくしの場合、専用機というか実験機の側面が強く出ていますわ。こちらでのデータを元に、より完成度の高いものを作るそうです」

「謙虚ね。まぁ、努力の賜物だから嫉妬したりしないわよ。どっかの誰かさんの場合とは違うから」

 

 そう言うと、セシリアを含めた全員が、真ん中の最前列に座っている一夏に視線を向けた。視線に含まれる感情はどれも憧れや尊敬からはほど遠いものである。彼女達は誰も、一夏が専用機を得たことに納得していないのだ。

 これ以上、見ていても意味はないだろうと、セシリアが視線を逸らすと、一人また一人と視線を外す。全員、お口直しと言わんばかりに、輪の中で新しい話題を提供しあう。

 暫く、話すことに夢中になっていたが、セシリアはふと、教室の入口を見た。意図のない気まぐれの行動ではあった。すると、両腕を組み片膝を立ててドアにもたれかかっている女子生徒を見ることができた。セシリアの知らない生徒であった。クラスメイトではないのは確かだ。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう楽に優勝を得られるなんて思わないでよね」

 

 小柄な体だが、強気な顔から活発さが容易に連想できる少女だ。

 周囲が少女の存在に疑問を抱いている中、一夏だけが明確な反応を見せる。

 

「鈴? お前、鈴か?」

 

 一夏の知り合いと聞いたセシリアは、そろりと箒を見た。

 織斑一夏の知り合いということは、篠ノ之さんのように肉体言語を標準語としている方なのでしょうか?

 竹刀で襲いかかってくる箒に、何かと頭を叩いてくる千冬。セシリアは、一夏の友人関係に多少の不安を覚えていた。お気の毒様としか言う他ない。

 

 

 

 

 授業開始前とは違い、授業中はほとんど静かであった。ある一つの音が響き渡ることを除いて。

 セシリアはさらさらとノートを取る。静かな教室に響く千冬の歩く音と、教科書を読み上げる声をBGMに耳を傾けながら、黙々とペンを走らせる。クラス全体によって作り上げられた沈黙。それは、セシリアにとって心地よいものであった。教室内の静けさが、最近入り浸っている保健室と、どことなく似ているからだ。余計な音が飛び交うことのない保健室と。

 だが、セシリアはこの沈黙が長く続かないと知っていた。

 

「篠ノ之、答えは?」

「は、はい!?」

 

 ああ、同じ展開ですわ。セシリアは頬杖をついて、前列窓側の席を見る。千冬の足音がしなくなったのは、彼女が箒の席の前で止まったからだ。分厚い教科書を閉じて、箒の頭より上に持っていることから、やりとりは形骸化しているのだろう。箒が何かを言葉にする前に、教科書をその頭へと振り下ろした。乾いた破裂音が教室内の雰囲気を壊す。

 

「集中しろと言ったはずだが」

 

 それだけを言って、千冬はまた生徒達の間を歩き始めた。

 セシリアは浸っていた雰囲気がまた壊されたことに、大きなため息を吐き出したい気分だった。先の事態は既に三回も起こったのだ。それも、同じ授業時間の間に。授業に集中したい生徒達からすればいい迷惑以外の何者でもなかった。

 迷惑は昼の休憩時間まで続いた。集中力を削がれ続けたセシリアは、文字列がほんの少しだけ均整の欠いたノートを閉じて、学食へと向かった。道中、保健室へと向かおうとした。エミリアがいるのなら一緒に食事でも、そう思ったのだが考えを取りやめて、まっすぐ学食へと歩を進めた。相手にされることはないだろうからだ。

 

「ままなりませんね」

 

 エミリアに近づくことがいまだにできない。遊姫によって彼女がいる場所を教えてもらったのはいいが、そこから先は何も展開していない。彼女の拒否拒絶オーラの前に、セシリアは一声かけることすらできない。

 何か良い手はないものか。頭の中で思考を重ねるが、まったくアイデアが浮かばない。これは、近々月村先生から助言をもらう必要がありそうですわ。

 セシリアはそう思うと、学食へと軽やかな足取りで向かった。遊姫に対して嫉妬も何も持ち合わせていないことに、むしろ頼りにしていることに気がつかないまま。

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