IS 教師の一人が月村さん   作:ネコ削ぎ

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7話

 何が起こったのか。

 セシリアが光を認識してから僅か2秒のことだった。フィールドを覆うように展開されたシールド・バリアーをビームが突き抜け、地面に突き刺さって焼いた。

 ビームによって障壁の一部に空いた穴が塞がるよりも早く、何かが穴を通り抜けてフィールドへと入り込んできた。

 

「何ですの!?」

 

 唐突に現れた物体に、セシリアは驚愕を顔に浮かべた。それほどまでに理解を超える物が視界に捉えたのだ。

 フィールド内では、一夏が状況を理解できずに武器を持った腕をダラリと下げていた。鈴は良からぬことになりうるのではと、ゆっくりと距離を置きはじめる。どちらも、侵入者から眼を離してはいない。正確には眼を離すことができずにいた。その異様なフォルムに。

 ソレは人型というにはあまりに異質な形をしていた。全長は2メートル以上あるだろう。平べったい円形状の頭部がある。そこには一対の眼はなく、モノアイが怪しく光を見せている。装甲は厚く、肥満体のようであった。両腕は大木のように太く身の丈よりも長い。身の丈先端には指に代わり、筒状の物が四つ突き出していた。真ん中には窪みがあり、そこには四つの筒よりも太い筒があった。

 おおよそ人が入っていないであろうソレは確かにISであった。ハイパー・センサーから送られてくる情報にセシリアも、一夏も、鈴もそれを理解した。それがISであることは理解したが、納得はできなかった。全身装甲のISが存在しないことはないということは知っている。だが、あの2メートル大のISを人が纏っているのか。その疑問が浮かび上がっていたのだ。

 フィールドの中では一夏と鈴と正体不明のISがいる。その三機の中で一番最初に反応を見せたのは侵入者であった。侵入者は自分よりも下に滞空している一夏達に向かって、それぞれの腕を突き出した。大木のような腕の先端から飛び出る四つの筒からビームが撃ち出される。

 四つの砲口から撃ち出されていくビーム。障壁を突き破ったビームに比べると、それは細くマシンガンのように連射される。連射性を優先したそれは威力がないのか、障壁に阻まれ消えていった。

 

「セシリア。ビームよ、ビーム! それも、セシリアのレーザーと比べられなさそうな威力よ!」

「確かに威力はあちらが上でしょう。ですが、あの連射ではエネルギーなどすぐに底を尽きてしまうはずですわ」

「でもぉ、そうだとしたらおかしいよぉ」

「配分、無視」

「エネルギーの配分を考えていらっしゃらない振る舞いですからね」

「燃費が非常に良いんじゃない、配分を考えないってことは?」

「それはおかしいですよ。配分を考えないってことは、燃費が非常に良いんじゃない? そうするべきですよ」

「あぁん、そうねぇ。マリちゃんの着眼点がおかしいと思うのよ」

「仕方ないよ。マリはアレなんだから。それよりも現状、生命の危機にあるのは仕方ないこと?」

「強力、ビーム、撃つ。当たれば、死」

「そぉねぇ、ルベリーちゃん。あの強力なビームがこぉっちに来たら、あたし達おしまいよ」

「ちょっと待ってよ。つまり、アレ? 二組のはともかくとして、あの不安な織斑がちょっとでもミスしたら、ビームが来るってことよね?」

「しわ寄せが全部こちらに来てしまいますね」

 

 留学生組が独特のテンションで騒ぐ。彼女達の周りでは、侵入者の存在に慌てふためいていた。席から立ち上がって、我先に出口へと殺到して渋滞を起こしていた。

 出口に群がる生徒達が全然減らない。そのことにセシリアは気がついた。起動したままのハイパー・センサーが出口付近で動きを止めた生徒達の「扉が開かない!?」という悲鳴を拾う。

 

「何が原因かは分かりませんが、どうやら出口が開かないようですわ」

「原因、不明?」

「そのようですわ」

「仕方ないね。逃げ場がないのならここに居た方が良い。無駄な体力を使わないですむから」

 

 変わらない口調であるが、全員が全員、ひやりとしたものを感じていた。堅牢な造りのアリーナが、自分達を閉じ込める檻となっている。観客席にいる全ての人間の殺生与奪権を、フィールドにいる者が握っているのだ。ふとした拍子に、強力なビームが自分達を焼くかもしれない。実際は焼かれているという事実を認識するよりも早く、蒸発してしまうことだろうが。

 観客席全体に恐怖が降りかかる中で、セシリアは立ち上がった。対抗しうる力を持った自分も何かしらの行動を起こさなければ。

 

「少し席を外しますわ」

 

 セシリアは友人達にそれだけを告げると、急いでその場を離れた。友人達は誰も、セシリアが逃げ出したとは思っていなかったし、冗談であったとしてもそれを口にしなかった。セシリアの言葉が力強いものであることを知ったからであり、冗談を言えるほどの余裕が微塵もなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セシリアが目的の人物、織斑千冬を見つけて駆け寄った時には、彼女は携帯電話を使用している最中だった。

 

「緊急事態につき、お前の戯言を容認することはできない。すぐに第二アリーナに来い。急げと言っているんだ。分かったな」

 

 普段のクールな姿からは想像もつかない。語気を荒げて携帯越しに向こう側の人物に命令していた。隣では、山田真耶がインカムを使って、フィールド内で戦闘を行っている一夏と鈴に向かって呼びかけていた。切羽詰った声音が、現状が如何に危険であるかをセシリアに再認識させる。

 

「織斑くん、凰さん! 無理に戦わずに撤退してください! 聞こえていますか! 通信回線を開いてください!」

 

 真耶の言葉から二人は教師の指示を聞き入れず、独断で戦闘を行っているようだ。例え、素直に教師の指示に従ったとしても、障壁に覆われたフィールドから抜け出すことはできないだろう。フィールドから出るために唯一の道であるゲートも重厚な四重層の扉によって塞がれている。

 もはや、敵を倒す以外の方法はない。セシリアはそう思った。同時に自分の力でそれをなすことはできないと、障壁を睨みつけた。

 ブルー・ティアーズの装備している武器ではどうあがいても障壁を突破することは叶わない。『ティアーズ』とレーザー・ライフルで一点に狙いを定めても破れはしないだろう。

 

「山田先生、織斑先生。どうにかして中に入ることはできませんか?」

 

 亀の甲より年の功。この2人が何かしらの抜け道を知っていることを願いながら、セシリアは問いかける。2人の様子から問いかけて無駄である確率は非常に高い。それでも、僅かな可能性にかける。

 

「無理ですよ。アリーナの全ての扉が動かないんですから。出ることも入ることもできません」

「それに、例えお前がフィールドに入れたとしても役にはたたん」

 

 千冬の直球的な物言いに、セシリアは吠えた。

 

「注意を分散させることはできますわ。そうすれば、敵に隙が生まれることも――」

「ふん、無駄に被害を増やすだけだ。奴らもお前も未熟なのだからな」

 

 セシリアの言葉を遮るようにして放たれた千冬の言葉。こちらを未熟と言ってのけるのなら、熟練者である千冬がすぐにでも事態を収めてみせろ。そう声を上げたいのを押さえて、セシリアは押し黙る。

 セシリアが反論しないことを見た千冬は、視線をフィールドの中へと向けて、一言呟いた。

 

「それに、もうすぐ援軍が到着するからな」

 

 その言葉はセシリアの耳にしっかりと聞こえた。同時に、観客席全体にハウリングと共に大音量が響き渡る。

 

「一夏ぁっ!」

 

 一夏の名前を叫ぶ声がアリーナの各場所に設置されたスピーカーから飛び出す。聞き覚えのある声だった。

 

「は?」

 

 セシリアは疑問の声を漏らす。

 

「今の声……篠ノ之さんですか!?」

「あの馬鹿。一体何をやっているんだ」

「はぁっ!?」

 

 真耶とセシリアは驚愕を、千冬は呆れの声をあげる。

 突然のことに観客席にいた生徒全員が止まる。恐怖心が払拭されたのだ。そして、フィールドで戦っている一夏と鈴に好機をもたらした。

 

「敵の動きが止まりましたわ」

 

 セシリアの視線の先には、ビームの乱射を中断して一点を見つめている侵入者。実況室のある場所を見ているのだ。

 セシリアも釣られるようにして実況室を見た。そこには肩で息をしている箒がいた。マイクを握り締め、大きく息を吸って言葉を吐きだした。

 

「男なら、男ならその程度の敵に勝てなくてなんとする!」

 

 ハウリング音を響かせてアリーナに広がる声が、敵の関心を引いたのだろう。腕を実況室に向ける。

 

「いけませんわ!」

 

 このままでは、箒が消し飛ばされる。阻止しなければ。セシリアは教師2人が近くにいることも構わずに、ISを展開する。

 実況室へと向かうセシリアがハイパー・センサーで敵の動きを確認すると、腕を突き出した体勢のまま止まっているのが目に入った。その後ろから一夏が零落白夜で斬りかかっているのも。

 エネルギーを無効化にする零落白夜はシールド・バリアーを切り裂いて、膨大なシールド・エネルギーを消費させる絶対防御を発動させる。そのはずであった。

 だが、敵は零落白夜を受けてなお行動停止することなく、逆に大木さながらに太い腕を振るって一夏を吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた一夏は、鈴にキャッチされると同時にエネルギーを失って、ISが待機状態に戻った。

 

「そんな、零落白夜を受けたというのに!?」

 

 このままでは、あの2人が殺されてしまう。セシリアは次の展開を想像して眼を閉じてしまう。

 その時、ハイパー・センサーが何かを察知した。その反応に、閉じていた眼を開いた。

 そして、彼女は風を見たのだ。

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