IS 教師の一人が月村さん   作:ネコ削ぎ

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何故か、ラウラが外道みたくなってしまいました。申し訳ございません。
では、どうぞ。


12話

 ワイヤー・ブレードに絡めとられたセシリアと鈴のISは、エネルギーがゼロになったことで待機状態なった。

 試合終了。勝者はラウラ・ボーデヴィッヒ、敗者は凰鈴音とセシリア・オルコットの即席ペア。それで全てが膜が下りるはずであった。

 ラウラがワイヤーを手繰り寄せる。先端にはいまだに拘束された2人がいた。ISの補助を失った体は急激にかかる力に悲鳴をあげる。

 無力化した2人を引き寄せたラウラは、それぞれの頭を掴みぶつけ合わせた。

 

「あぐっ!?」

「きゃあっ!?」

 

 2人の悲鳴を聞いたラウラは愉悦に口元を歪めて、更なる悲鳴を聞こうと腹部に拳を叩き込み始めた。

 拳が振るわれ、満足に悲鳴が聞ければ次は蹴りを入れる。

 観客席にも悲鳴があがる。

 シャルロットは唖然として、フィールドで行われるバイオレンスを見つめた。苦痛に表情を歪めるセシリアが眼の裏に焼き付く。障壁のせいで悲鳴は聞こえないが、耳に助けを求めるような叫びが聞こえてくる気がした。

 拳が振るわれる度、周囲から悲鳴が沸き起こる。

 それだけ。

 止めに入る人間は誰もいない。誰かが教師を呼びに行ったかもしれないが、現状で助けに入る者はいない。

 何度目か分からない悲鳴に正気を取り戻したシャルロットは、観客席の出入口へと走り出そうとする。

 

「止めろよ!」

 

 足を止めて振り返ったシャルロットが見たのは、IS『白式』を展開した一夏だった。

 もしかして、障壁を突破しようとしているのか。両手で『雪片弐型』を構えて、障壁目掛けて振り下ろした。

 無理だ。シャルロットはそう思ったが、『雪片弐型』の刀身を青白い光が包み込んだことで考えを改めた。一夏のISの唯一仕様能力『零落白夜』は刀身に触れたエネルギーを消滅させる能力。フィールドを覆う障壁も例外なく消滅させることができる。

 冷静でいられていない。シールドを切り裂いて、文字通り道を切り開いた一夏がフィールドへ飛び込むの見て、シャルロットはそう思った。

 ともかく、一番の近道ができた。一夏に遅れて、IS『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』を展開したシャルロットもそこを潜り抜けてフィールドの中に入り込んだ。

 

「ほう。弱い奴等ほど群れるとは聞くが、次は貴様等か」

 

 遠目に見たラウラのゾッとするような笑みは消え去り、冷徹な仮面が貼り付けられる。格下の獲物を見るよう眼だけが、シャルロットの唯一理解できたものだった。眼を逸らすことができず、呼吸がしづらい。蛇に睨まれた蛙、シャルロットの状況を簡単に表せることのできる言葉だ。

 

「2人を離せよ!」

 

 自分に向けられた視線だけで気後れしてしまったシャルロットを他所に、一夏が怒気を孕んだ声音を響かせる。聞いたことのない怒りの感情が込められた声に、シャルロットはようやくラウラの視線から開放され、深い呼吸ができた。

 自分よりも体格の大きい相手、それも男性の怒声を受けてもラウラの表情は一貫して変化を見せず、鼻で笑うだけだった。

 自分の方が圧倒的に有利。そう思っているからこその態度だろうか。手負いの状態でよくもできる。シャルロットは先ほどまでの自分の姿を打ち消して、アサルトライフルを構える。引き金に指はかけない。セシリアと鈴がワイヤー・ブレードで拘束されている状態であり、ラウラとの距離は手の届く位置にいる。下手に撃てば2人のどちらかに、もしくは二人に命中してしまう。針の穴に糸を通す以上の正確さと、それを損なわずに相手の反応を超える早撃ちができれば話は別であるが。

 

「コレを離す? いいだろう」

 

 すんなりと開放を認めるラウラ。その言葉に一夏の怒気が薄れる。シャルロットも素直に言葉を聞き入れたラウラに銃口を地面に向ける。

 急にどうして素直になったんだろう。警戒心を弱めたシャルロットは、次の瞬間には警戒心を一気に引き上げた。

 一夏の言葉に従い2人を開放しようと、ラウラは2人を拘束するワイヤーをそれぞれ掴んで、自身の体全体を回転させたのだ。

 

「な、何を……」

「離してやるから、受け取るがいい」

 

 回転に合わせて振り回された2人の体を、ラウラは投げ飛ばすようにして開放した。遠心力が加わったセシリアと鈴は互いに真逆の方向に勢いよく放り出された。

 

「シャルル! セシリアを頼む!」

 

 障壁目掛けて投げ飛ばされたセシリア。シャルロットは考える暇なく飛び出した。武器を放り出し。スピードを全開にしてセシリアを追いかける。

 

「セシリア!」

 

 セシリアの体を抱きとめたシャルロットは、障壁にぶつかる寸前に上昇。ゆっくりとスピードを落としてから着地をする。

 

「セシリア、大丈夫!?」

 

 腕の中に収まったセシリアに声をかけるが、眼を閉じた状態のまま反応はない。綺麗な顔は晴れ上がり、唇は切れて血が出ている。酷い有様だった。

 

「鈴! おい、鈴!」

 

 一夏の方も無事に鈴を受け止めることができたようで、安否の確認をしている。

 その後ろ姿に向けて、ラウラはレールカノンを発射しようとしていた。通常弾よりも早く強力な一撃が、ISのない鈴には文字通り必殺の一となるのは明らかである。ラウラはそれを知りながらもレールカノンを向けている。

 このままやらせれば確実に死者が出る。力の通っていないセシリアの体を片腕で抱きしめながら、マシンガンをコールして銃口をラウラに定める。

 

「一夏、下がって!」

 

 感情に身を任せている。必要以上の力を以て引き金を引く。感情を優先しすぎたのか、弾丸が発射するさいに起こる反動で銃身がぶれ、弾丸はばらばらに飛んでいく。命中率は低いと言わざるを得ない射撃だが、相手の気をそらして攻撃を中断させるには十分だ。

 凍えるような視線が、シャルロットに向けられる。

 

「邪魔をするか」

 

 びくりと一瞬体を震わせながらも、それを悟られまいとシャルロットは必死にその眼を見返す。

 

「邪魔するに決まっているよ。怪我じゃ済まないんだから」

「敗者などに構って何になる? 退かないソイツらが悪いのだろう?」

「目が節穴なのかな? この状態で退けると思う?」

「貴様こそ耳が悪いな。敗者の状態など構う必要など――」

 

 ゆらりと体の向きを変えた『シュヴァルツェア・レーゲン』の装甲からワイヤー・ブレードが飛び出す。

 

「ない!」

 

 スラスター光が閃き、ワイヤー・ブレードが捉え難い不規則な動きでシャルロットへと迫る。

 

「ラウラ!」

 

 ラウラの側面から一夏がブレードで斬りかかる。相手の名前を叫ぶ声には震えがあった。恐怖ではない。友達を傷つけられたことに対する、抑制しきれない怒りが喉を震わせていた。

 怒りの乗せられた刃は眼前まで迫る。されどラウラが手のひらを突き出すことで苦もなく止められた。相手の動きを強制的に止める『停止結界』の力だ。

 

「感情的で直線的、絵に書いたような愚図が、私とシュヴァルツェア・レーゲンの前によくも立つものだな」

 

 動けない一夏の腹部にラウラの蹴りが入る。自由のきかない体は踏ん張ることができなかったようで、大きく離された。

 

「次は貴様だ」

 

 ラウラは一夏に牽制の砲撃を行って足を止めると、シャルロットへと接近した。両腕のブレードが熱を帯びて赤く発光する。

 変則的な軌道を描いて異なる方向から牙を向く六つのワイヤー・ブレードと、正面から接近してくるラウラ。

 

「あ、当たれ!」

 

 片腕にセシリアを抱いたシャルロットはマシンガンを最接近してきているワイヤー・ブレードに向ける。攻撃を食い止める為に銃口から大量の弾丸が飛ぶが、シャルロット目掛けて飛んでくるワイヤー・ブレードは的とするには小さく、一発も掠りはしない。

 シャルロットが焦りとすぐ先の未来を想像してしまったことで手が震え、全く見当違いの方向にまで弾丸が飛び散り、射撃の精度とは呼べないものになっていた。

 当たらない、当てられない。

 恐怖に駆られたシャルロットは守るべき者がいるにも関わらず、眼を閉じて迫り来る攻撃を防ぐことを止めてしまった。セシリアを後ろにやれば助けられるだろうに、彼女は混乱してセシリアを片腕で抱きしめたまま、空いている方の腕で自分の顔を守った。

 金属音が六回、されど衝撃はいつまで経ってもやってこない。

 恐る恐る眼を空けたシャルロットが見たのはすぐ横を抜けていったワイヤー。先端のブレード部分はシャルロットの右斜め後ろに突き刺さった状態で動く気配を見せない。

 

「外れてくれた?」

 

 口ではそう言いながらも、頭では否定する。刃は確実にシャルロットを捉えていた。動かない獲物相手に外すはずがない。誰かが攻撃を逸したのだろうか。

 先ほど聞こえた音。ワイヤー・ブレードの数と同じだけの音。右に逸れた攻撃。

 シャルロットはもしやと思い、左方向に視線を走らせる。そちらから銃弾が狙い撃ったのなら、六回の音も右に逸れた刃も説明が付く。変則的かつ高速で動く小さな物体を狙い撃てることがほぼ不可能なことを除けばだが。

 だけど左方向を見たシャルロットは、それが可能であることを思い知らされた。

 視線の先には『ラファール・リヴァイヴ』を装着したエミリアがだらりと力なく下ろした手にアサルトライフルを持っていた。彼女の射抜くような鋭い視線はシャルロットへと注がれている。

 

「やれやれ。見境もなくやってくれる」

 

 知っている声に、シャルロットは正面を向く。そこにはスーツ姿でIS用のブレードを持っている千冬がいた。生身で、持ち上げられるはずのないブレードを両手で持つ千冬によって、止められたのであろうラウラはISを解除して引き下がっていた。

 どっちも人じゃない。シャルロットだけでなく、その光景を見ていた全員が切実にそう思った。

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