IS 教師の一人が月村さん   作:ネコ削ぎ

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3話

 気だるくてすぐにでも抜け出したい職員会議を終えた私は保健室へと戻っていく。

 おかしいことはすぐに気がついた。職員室から出た瞬間から感じる気配が一つ。隠すことない存在感を後ろから感じる。それがなんであるかなんて私の中には答えが出ている。

 

 

「エミリア、授業の準備はしなくていいの?」

 

 足を止めて後ろを振り返れば、エミリアがその当然のような顔で立ち止まっていた。

 私の記憶が正しければ、エミリアはIS科2年の一時間目の授業を受け持っているはずだ。あと5分もすれば授業が始まるというのに、彼女は授業を受け持つ教室とは反対の方向に歩いている。

 

「その前にコーヒーを一杯いただこうと思ってだな」

 

 遅れることにまったくの罪悪感を抱いていない素晴らしい笑顔を見せてくれる。

 私はニヤリと笑みを浮かべて歩き出した。本人がそれでいいと決めて行動したのなら構わないだろう。私はエミリアの保護者ではない。エミリアも誰かに何かを言われてでしか行動できない人ではない。

 

「残念だけどコーヒーはないよ。私はほうじ茶一辺倒の人間だからね」

 

 だけど、私は保健室でまったり過ごしたいものだからやんわりと拒絶の意志を見せる。

 私の言葉にエミリアは黙り込む。言葉の裏を読んで自分の行動に躊躇したのかと思ったが、彼女は私の眼前に何かを突き出してきた。

 

「熱湯とカップを貸してくれれば構わない」

 

 インスタントコーヒーの瓶をそのまま持ってくるかと私は苦笑して、エミリアを保健室へと招き入れた。

 私はポットが置いてある場所でほうじ茶を淹れる。そして愛用の椅子へと座って一息つく。その間にエミリアがコーヒーを淹れた。

 エミリアが授業前もしくは授業が既に開始されている時間に此処にいることはそう珍しいことではない。私が保健医としてIS学園に就職してから、エミリアが学び舎に教師として戻ってきた時から、彼女が保健室へと立ち寄ってだらりとするのは当たり前のものであった。若いにも関わらず周囲から一目置かれる千冬先輩の鉄拳制裁を受けようとも保健室に立ち寄るのをやめない。

 考えてみれば、エミリアはどうしてはるばるイギリスから日本のIS学園へ就職してきたのだろう。自国の方が勝手がいいはずなのに。日本に何かしらの魅力を感じたのだろうか?

 私が知っているエミリアの実力ならばIS関連の企業からは引く手数多な状態だったろう。わざわざそれらを蹴ってIS学園に就職したのだからよほどの理由だと思う。

 

「もう授業が始まるよ」

 

 時計を見て私は告げる。

 

「そうか。では行くとするか」

 

 エミリアはやれやれと言わんばかりの表情を見せて保健室から出て行く。

 ようやく厄介な押しかけ客が去ったと思い、私はほうじ茶のおかわりの為に立ち上がった。そこで気がついた。

 

「忘れ物だよ、エミリア」

 

 ポットの近くにインスタントコーヒーの瓶が置きっぱなしになっていたのだった。

 

「デスクの上にぶちまけてこようかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼休みの時間がやたらと長く感じられた。新学期なので学校全体がエンジンの温めにはいっているのだろう。保健室を訪問してくる生徒は誰もいなかった。度々エミリアが顔を出してきたがそれはカウントしない。

 お昼はいつも学食で済ませているので、今日も代わり映えもなく学食へと歩を進める。

 廊下を速すぎず遅すぎずの歩調で進んでいると、やけに賑わいを見せる女子生徒の集団がいた。

 何やら騒いでいる声がするので、私はその集団へと近づいていく。暴力沙汰に発展するようであるならば介入しなければならないからだ。大事になれば私の仕事が増えるし、止められる立場の私が何もしなかったなら問題になってしまう。

 面倒ごとにならないように。そう思いながら近づいてみれば、集団が言い争いをしているわけではなかった。

 女子生徒の集団は顔を寄せて小声で色々話し合っている。ヒソヒソ話しているつもりなのだろうが全部聞こえてしまっている。

 集団のすぐ後ろを同じ歩調で歩いて話に耳を傾ける。

 結果、彼女達の視線の先にヒソヒソ話をする話題が歩いていることが分かった。

 結果、話題の人物は世間的にも話題な人物であることが分かった。

 結果、話題の人物がそういえば知り合いの弟だったことを思い出した。

 私は女子生徒の集団の脇を縫って前へ前へと進んだ。

 集団を抜けると話題の人物が視界に映りこんだ。

 織斑一夏。千冬先輩の弟だ。

 テレビで報道された時と何も変わらない姿にちょっとがっかりだ。せっかく女の園へと飛び込んだのだから、髪を染めたりネックレス等の装飾品で着飾って高校生デビューをすればいいのに。

 喉を這い上がってきた言葉を口から出てくる直前で飲み込む。言ったところで意味をなすことはない。そもそも私はチャラチャラして軽薄そうな見た目を好んではいないのだから。

 歩調を段々と上げていく。一夏の背中が大きく見えてくる。

 ついに一夏の肩に手を乗せられる距離まで近づいてきた。

 私は何年か前に見た小さな背中が大きくなったことに成長を感じて、そのまま一夏の脇を抜けて学食へと向かった。一日は短く有限なので、私が今一番求めることをする。

 

「今日の気分はお魚だ。ピチピチ勝手気ままに跳ね回って大変だね、まったく」

「なるほど、今日は魚が含まれたものを食べるのか」

 

 神出鬼没と言うべきか、エミリアが隣を歩いていた。

 

「君は私の熱烈なストーカーだ。いつの間にか近くにいる」

「お前はすぐに飛んでいく。だからかいつの間にかお前を目で追っている」

「あらあらまあまあ。昔から私の動きを見てるんだからそんな癖がついちゃうんだよ」

「ビュンビュンと危なっかしく動き回って他人様にぶつかってくるから、私も自然とお前の動きに注意を払う。要は全部お前の責任だ」

「責任転嫁も甚だしいよ。自分のストーカーじみた癖をまるで人のせい」

 

 はたから見れば喧嘩しているように感じられる掛け合い。だけど、私達の顔には笑みがあった。私はケタケタと笑い、エミリアは控えめにクツクツと苦笑を浮かべた。

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