IS 教師の一人が月村さん   作:ネコ削ぎ

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15話

「2人がかりでやられっぱなしなどとは情けない。高々数年で代表候補生の質も落ちたものだ」

「いえ、言い訳がましいかもしれませんが、わたくしも鈴さんも代表候補生となって長いわけではありませんので」

「言い訳するな」

「言い訳って……事実を言ってんのよ」

「鈴さん、教師に向かってその口の聞き方は」

「構わない」

「あう!? ちょっと、構わないって言ったばかりじゃ……あだ!?」

「構わないというのは本当だ。ただし、容赦なく鉄拳制裁」

 

 一夏を置いて保健室に戻ってみると、相変わらずどんよりとした雰囲気で息が詰まりそう……という所からは脱していた。今までの暗さを払拭するかのように明るく、馬鹿みたいなやりとりをしている3人にホッとする。だけどエミリアさん。怪我人に鉄拳制裁という大義の下で暴力を振るうのはどうかと思うよ。

 暴力云々はともかくとして、私のいない合間にセシリアは目を覚ましたようだ。痛みで顔をしかめているが、エミリアや鈴と話す姿は元気そうだ。

 さてと、元気で明るい3人組は良しとしてだ。

 チラリと視線を逸らせば、いまだにパイプ椅子にだらりと力なく座って動く気のないシャルロットがいる。輪にも入らず独りでポツンとしている。

 一難去ってまた一難。私以外の誰かにお願いしたい状況だがあの3人に頼ることはできない。エミリアなど論外だ。シャルロットに対するエミリアの動向には気をつけておけと、千冬先輩に言われてしまったので、彼女にパスはどうあってもできない。パスして問題が起これば、私に罵倒やら拳が飛んでくる。セシリアと鈴は状態が状態なので、あまり物事を課すべきではない。

 

「シャルちゃん、暗い顔してどうした?」

 

 とどのつまり、私が行動を起こす以外の選択肢は存在しないというわけだ。

 

「あ、遊姫先生」

 

 声をかけた瞬間に出てきたのは怯えた小動物。今のシャルロットを表すことのできる言葉だ。

 

「あのね、ちょっと他の場所で、その……」

 

 今日は保健室が人気のようで不人気のようだ。

 素直に提案を聞き入れて、私はシャルロットと一緒に保健室を出て行く。再び背中に突き刺さる視線がちょっとだけ痛い。さっきの視線の持ち主とは違うようだがそれがどうした。その程度では止まらない。

 

「さてと、屋上にでも行こうか」

 

 陰気に取り憑かれたシャルロットの腕を掴んで強引に廊下を進んでいく。今がまだ部活動の時間でよかったよ。こんな場面を見られでもしたら闇討ちされるかもしれない。まぁ、闇討ちなんてくだらないことをしてくれる輩がいようものなら、私の蹴りを首に叩き込んで再起不能にしてあげよう。

 

 

 屋上と言えば何を連想するだろう。

 不良のレッテルを貼られた素敵な人達のたまり場?

 面倒だ、だりー、どうにも馴染めないんだよなー、などと言っている主人公じみた素敵な人達の物語開始時点での居場所?

 素敵な教師達が素敵な生徒達を危険に合わせないように立ち入り禁止にしている危険区域?

 どれも偏見に満ち満ちた模範解答だ。

 だけど、このIS学園ではそのような模範的な解答に則ったことはしていない。なんと屋上が生徒に解禁されているのだ。ま、全国各地を探せば屋上解禁って結構されているだろうから、結局模範解答の1つでしかないんだよな。おかしなことを考える。

 さて、その屋上であるが、ぐるりと周囲一帯を見渡してみると、多くが想像するような屋上の景色とは全く違う。

 踏みしめているのは欧州の観光名称にあるような石畳。勉強で疲れた眼をゆったり休ませてくれるのは芸術性を意識して配置された花壇に咲き誇る花々。それらの光景の中で体を休めることができるように置かれた円形テーブルと椅子。

 日本の良き屋上は何処に行ってしまったのだろうか。貯水タンクは何処に消えてしまったのだろうか。転落防止の錆び付いたフェンスは何処に落ちていったのだろう。

 分かりやすい西洋かぶれな小世界。足を踏み入れた私は一番近い円形テーブルの椅子に座った。

 私が椅子に座るのを見たシャルロットも私の向かい側の椅子に座る。

視線は一点、私を見てくる。しかし、口を開くことはなく黙ったままの状態を貫いているだけで、穏やかとは言い難い雰囲気の沈黙が続く。

 相談者であるシャルロットは、私が話を聞く態度を見せているにも関わらず黙りを決め込んでいる。 いつまでこうして待ちに待って過ごしていればいいものか。

 時折、意味ありげに視線を彷徨わせているシャルロット。気になるような行動には、話しかけてほしいという意図があるのだろう。話のきっかけを私に求めている。自分から言いたくない。相手が聞いてくれるのを待っている。

 だから、私は黙して語らずだ。相談事があるのならば切り出せばいい。相手が道を開いてくれるのを待つなんてことは止めてほしい。

 かといって、私も黙ったままでは話は始まらない。

 今日に限ってどうしてこうも頭を使わなくちゃいけないのだろうか。一夏の件といい、シャルロットの件といい、本来ならば担任である千冬先輩や真耶ちゃんが請け負うべきだ。カウンセラーを兼任していない保健の先生の仕事じゃない。

 しかし、一夏もシャルロットも私に相談してきた。相談された以上は出来うる範囲内で応えるのが教師の役割だ、無下にはしてはいけない。

 だけど、やはり私は今のシャルロットの態度に対して優しく問いかけてあげるつもりはない。

 

「あの……」

 

 ようやくシャルロットが口を開いた。既に部活動の時間も終盤に近づいており、風に晒された体が熱を失ってぶるりと震えそうだ。

 私は声を出さずに眼だけで言葉の続きを促す。

 だけど、シャルロットはそこで口を閉ざしてしまった。

 内心で呆れ返ってしまう。次にやってくるのは苛立ちだ。

 

「シャルル・デュノア」

 

 男装での名前を口にする。

 私は常日頃から彼女を「シャルちゃん」と呼んでいる。シャルロットにもシャルルにもなり得る呼び方を、シャルロットが好んでいると知ったからだ。

 だけど、もう甘やかすつもりはない。

 

「君はセシリアを助けてくれた」

 

 エミリアからの情報を使わせてもらおう。

 

「形だけだったようだけどね」

 

 嫌われてもいい。好かれるために手を伸ばした訳ではないのだから。

 

「残念だよ。私は君に対しての責任を途中で投げたりしていないのに」

 

 恩着せがましい言い方。でも事実であることには変わらない。

 

「君はセシリアを救おうと手を伸ばしてくれた、それは良いことだ。だけどその瞬間から生じた責任を君は途中で放り投げた」

 

 シャルロットからの反論は全くない。俯いて黙っている。

 

「セシリアを背中に隠す、覆いかぶさって守る。ダメージを覚悟しなければいけないけれど守る手段がなかった訳ではない」

 

 現場を見ていない私には、状況に対して幾つの手段があったかは判断できない。だけどエミリアが言うには匙を投げるにはまだ早い状況だったようだ。

 

「もしも、ここで君が話そうとした内容が、そのことに対する言い訳とかだったら止めて欲しいね」

 

 私の言葉にシャルロットの肩がびくんと跳ね上がる。

 それはないだろうと思っての冗談に近い言葉だったが、まさかの図星。私の方が狼狽えてしまった。

 

「……まぁ、そこは自分の行動を恥じて反省するように」

 

 冷静さを装っての言葉だったが若干震えてしまった。

 私はため息を吐き出す。狼狽えた心も吐き出して調子を取り戻す。

 

「さて、寒くなってきたから私は戻るよ」

 

 無責任な私が再始動。相談にならなかった相談タイムは終了した。シャルロットも何も言わないようなので構うまい。

 

「ああ、そうだ」

 

 屋上の出入口までたどり着いたところで私は引き返す。

 物言わぬシャルロットの前に、ポケットに突っ込んだままだった甘めの炭酸飲料を取り出して置く。

 

「糖分摂取でもしてゆっくり休みなね」

 

 

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