IS 教師の一人が月村さん   作:ネコ削ぎ

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18話

 シャルロットに迫るワイヤー・ブレードの群れ。撃ち落とすにはそれぞれの間隔が開いていて、切り刻まれる前に全てを狙撃するのは不可能である。シャルロットにはそれを捌く技術はない。

 

「させるか!」

 

 雄々しい声と共に一夏がシャルロットとラウラの正面を横切る。ワイヤー・ブレードの群れに横から接近して体を絡め取られた。

 

「弱者同士で馴れ合って!」

 

 シャルロットへの攻撃は届かなかったものの、一夏を捕らえたことに愉悦の笑みを浮かべたラウラはその哀れな獲物を手繰り寄せようとする。

 しかし、一夏も大人しく引き寄せられるような諦めを持ってはいない。スラスターを噴かして抵抗する。

 ワイヤーの先にいる一夏に気を取られているラウラをシャルロットは逃さない。上空から両手にマシンガンを構えて弾丸の雨あられを降らせる。撃ち出された弾丸はラウラに襲いかかる。

 気を取られた隙に浴びせられる弾丸に舌打ちをしたラウラは一夏への拘束を解いて回避行動に移る。

 

「逃がさないぜ!」

 

 しかし、ワイヤー・ブレードを1本だけ掴んだ一夏が、ラウラの逃げる方向に抗うようにワイヤーを引っ張って動きを阻害する。

 ラウラの『シュヴァルツェア・レーゲン』が持つワイヤー・ブレードは有線。ワイヤーで絡め取って相手の動きを封じることは、逆に自分の動きも封じることになる。そう考えた一夏はシャルロットにそのことを伝えて対策の1つとした。一夏がワイヤーにわざと拘束され、その隙にシャルロットがラウラを撃つ。もしくはシャルロットが拘束されている間に一夏がラウラを斬る。

 穴だらけの作戦であることは一夏もシャルロットも自覚していた。だけど、今目の前で作戦の有効性を目の当たりにした。

 おそらく二度目はない。それを分かっているからこそシャルロットは攻撃の手を緩めない。

 ラウラもいつまでも黙って攻撃を喰らっている訳はなく、一夏に接近してヒート・ブレードで斬りかかった。

 フレンドリー・ファイアを恐れて、シャルロットは攻撃をやめざるを得なかった。

 元々の技量差を互いに埋め合って戦っていたので、1対1に持ち込まれれば一夏が追い詰められているのは自明の理。シャルロットは急いでラウラへと向かう。1対1の状況をできるだけ避けなければならない。

 逸る気持ちのシャルロットは目の前に振り下ろされるブレードに止められる。

 

「貴様の相手はこの私だ」

 

 ブレードを両手に構えた箒が立ちふさがる。その瞳はシャルロットを射殺さんばかりの想いが滲み出ている。

 

「悪いけど、構っている暇なんてないよ」

 

 箒が踏み込むよりも早く動いたシャルロット。マシンガンを近接ブレードに変えての急接近に、箒はブレードを握る手に力を込めて敵を待つ。間合いに入り、シャルロットが武器を抜き放った一瞬を微動だにさせず神経を研ぎ澄まして狙う。

 剣道の心得がある箒はシャルロットを切り伏せるイメージを頭の中で明確に描く。

 

「やああ!」

 

 シャルロットはブレードを持った右腕を大きく振り上げた。ブレードの刀身が背中に隠れ、箒に見えるのは手首が見えるかどうかのところまでだった。左手にはマシンガンが握られたままだ。銃口は箒ではなく下に向けられ、今から射撃に移るには間に合わないことを箒にも理解できたのだろう。剣と剣での闘いならば箒に分がある。だからであろう、真剣な表情の中に優位さを疑わない自信が見え隠れしている。

 箒の鋭い眼が向けられるのはシャルロットの右腕の軌道だけだ。シャルロットは予想できた行動に内心で笑みを浮かべて、右腕を振り下ろす。

 

「なっ!?」

 

 箒の顔から真剣さは吹き飛び、代わりに驚愕の表情を浮かびあがってくる。何故なら、シャルロットの右手には何も握られていなかったからだ。何もなく、手刀だけが振り下ろされる。

 あったはずの得物の消滅。目の前で突如として起こったマジックに、箒は一瞬硬直してしまう。そこをシャルロットは左手にいつの間にか構えたブレードを突き出して吹き飛ばす。

 吹き飛んでいった箒を追撃。シャルロットの左手にあったブレードは瞬きをする間にマシンガンへとすり変わり、連続で弾丸を箒に浴びせる。

 吹き飛ばされ弾丸に嵐に飲まれた箒は、それでも手に持ったブレードを落とすことはなかった。何とか姿勢を直して、キッと視線をシャルロットに向けた箒は再び驚きの顔を見せる。

 

「ごめんね。今は篠ノ之さんに意識を傾けている暇はないんだ。一夏も僕もね!」

 

 眉間に突きつけられた散弾銃。箒の顔面に銃弾が一斉にぶちまけられる。

 

 

 

 

 

 

「篠ノ之は脱落したか」

 

 胸の前で腕を組んで、どっかりと座席に腰を下ろした千冬先輩はそれほどの関心もなく言った。別に箒が特別嫌われているようなことではない。受け持つ生徒の誰に対しても同じような態度を見せるのだ。例外的に身内である一夏に対しては、表面上は素っ気なく見せるが内心では褒めちぎっている気がする。気がするだけ。

 

「あっさりと負けてしまいましたね」

 

 担任が素っ気ない言い方をすれば、副担任である真耶もずいぶんとどうでもよさそうな口調だ。残酷だね、このコンビ。

 だけどまあ、2人がこのような冷たい反応をしてしまうのも致し方ない。専用機3機の中に1人だけポッと量産機がいて、こう言っては悪いが剣の実力はともかくとしてISでの実力も一番下である箒が脱落しないと誰が考える。私だって考えていないのだから誰も考えていないだろう。最初に脱落することは当たり前のこととして認識されている。

 例えば、箒があの3人に勝るとも劣らない実力を備えていたら、結果は違ったものになっていたかもしれない。量産機といっても別に弱いわけではない。第一世代はともかく第三世代相手なら十分に勝ちを拾うことはできる。専用機と量産機の差を視野に入れたとしてもだ。

 

「敵も味方も組み合わせも悪かったのだろう。剣の心得しかない篠ノ之に対して銃は相性が悪い。そこに最初から独りで戦うことしか考えていないボーデヴィッヒの動きだ。篠ノ之が残る可能性は限りなくゼロだという訳だ」

「タッグ戦なんですから、篠ノ之さんもボーデヴィッヒさんも頑なにならないでちゃんと歩み寄れば」

「無理だな」

「無理……といいますと?」

「篠ノ之もボーデヴィッヒも社交的な人間とはいえない。それでも篠ノ之はまだマシな方だが、ボーデヴィッヒは違う。あれは力だけに盲目的な社会不適合者だ」

「お前もだろ」

「その言葉をそっくり返してやろうか、エミリア。そして話を中断させるな」

「反応しなければいいだろ」

「そうだな、餓鬼の戯言にいちいち反応した私が悪いな。これからは大人らしく無視を決め込むとしよう」

「どこが大人らしいかの判断に困る宣言をしなくても」

 

 私がそう言うと真耶が無言で頷いてくれるが千冬先輩はどこ吹く風と聞き流した。どうやら私も千冬先輩の言う餓鬼のカテゴリーに入っているらしい。

 気にしなければ問題はないだろう、世の中は捉え方によって千差万別なんだから。

 

「ところで話は変わるけど、ボーデヴィッヒちゃんに詳しいような言い方をしている千冬先輩と彼女の関係は? ボーデヴィッヒちゃんの担任は千冬先輩じゃなくて語奈(かたりな)先生のはずだけど」

 

 先ほど、そうであると断定して言い切った千冬先輩が気になって、ボーデヴィッヒとの関係を問いかけてみた。別に深くまで知ろうとは思わない、浅い興味での質問なのでそこまでの答えは全く期待していない。

 千冬先輩は私の質問に苦い表情を見せたが、それはすぐさま内側へと引っ込んでいった。何か話し難い部分があると少しだけ興味を惹かれたのだが、私にも話したくない部分がないわけではないのでつつくことはしないでおこう。

 

「そうだな、アイツとは少し前にな」

「少し前?」

「私が1年間だけドイツで教官を務めることになって、そこで少しだけ気にかけた。それだけだ」

「それだけですか? そうしたら何でボーデヴィッヒさんが織斑くんに執着するかは分からないんですか?」

「他人の考えなんぞ知らん」

 

 あっさりと言ってのける千冬先輩に私は同意の言葉1つ口にして、いまだに戦いが繰り広げられているフィールドを見下ろす。箒が奮闘虚しく脱落して現在は2対1の戦いになってはいるが、それでも試合は均衡を保っている。しかし、時間が経つにつれて戦局は一夏とシャルロットに傾いてくる。

 力だけに盲目的になっている社会不適合者。なるほど間違っていない。個人でできる限界というものがあるのに、ボーデヴィッヒはそれを理解できていない。だから仲間を蔑ろにできる。

 此処からでははっきりと見ることはできないが、おそらくボーデヴィッヒの顔色は芳しくない。段々と追い詰められている。

 追い詰められるボーデヴィッヒ。追い詰めるシャルロット。柔らかな笑顔の上に確固たる意志を被せた顔を見ると恐怖に打ち勝つという台詞が浮かび上がってくる。今のシャルロットがそれを実践している。保健室で死に体となっていた姿からは想像できない。

 

「凄いよ、一夏くんもシャルちゃんも」

「遊姫ちゃんもそう思いますよね! 織斑くんもシャルルくんも上手な連携で一歩も引かずに戦っているんですから」

「アレではまだまだだ」

 

 副担任であるとはいえ、自分の受け持つ生徒が褒められたことに頬を赤らめて頷く真耶。

 それとは逆に辛口な評価を下す千冬先輩。

 実の弟が褒められたというのにずいぶんとドライな対応を見せてくれる。しかし、あくまで表面的なところでの話であって、内心で喜んでいるはずだ。恥ずかしがって中々素直に感情を表すことのできない人だからな。

 

「厳しいね」

「事実を述べたまでだ」

 

 いつまで素直じゃないのか。

 

「デュノアの方は多少評価しよう。アイツに怯えているだけかと思っていたが、恐怖を抑えこんで立ち向かっている。立ち止まっているだけのお前とは違うな」

 

 シャルロットの変化を利用してなんてことを言うんだ、この先輩。

 にへらっと笑って誤魔化そうとしたが、千冬先輩の鋭い視線がそれを許してはくれない。巫山戯たことを口にすれば叩かれてしまいそうだ。

 

「立ち止まっているつもりはないですよ。きちんと歩いてますよ」

 

 嘘を言っているつもりはこれっぽっちもない。立ち止まったのではなく、新しい道を開拓してそっちに進路変更しただけだ。

 

「どこがだ」

 

 千冬先輩はそう言って私から視線を外した。

 暫く千冬先輩の横顔を眺めた私は、今更になってにへらっと笑ってフィールドに視線を向けた。もう決着がつきそうだった。

 

 

 

 

 

 

 シャルロットはアサルトライフルの引き金を引く。マズルフラッシュが閃いた。撃ち出された弾丸は、『停止結界』で一夏を捉えていたラウラの肩で稼動しようとしているレールカノンの装甲に突き刺さる。

 小爆発が1つ。肩のレールカノンに命中した弾丸が原因だ。

 レールカノンの爆発によって集中力を欠いたラウラは『停止結界』を維持することができずに、何もすることもできずに一夏を取り逃がしてしまった。

 拘束から開放された一夏はラウラの右側面から斬りかかる。それに追従して反対方向からシャルロットがブレードで攻撃をする。

 真逆の方向からの攻撃にラウラは臆することなく防いでいく。その姿にシャルロットは改めて実力の差を感じた。だけど押しているのが自分達であり、押されているのはラウラであるというのが現実だ。

 何度もブレードを振るい突き出し、そして何度も防がれ受け流される。

 勝てる。

 防戦一方なラウラに、どこか心の中で油断を見せてしまったシャルロットは腹部に蹴りを受けて吹き飛ばされた。

 体勢を立て直したシャルロットは、勢いを取り戻したラウラに追い詰められ始めている一夏を視界に収めた。さっきまでの流れは崩れていた。

 

「一夏!」

 

 シャルロットはブレードの切っ先をラウラに向けて突撃する。

 愚直なまでに真っ直ぐの突撃に、ラウラは一夏を殴り飛ばして、シャルロットへと体を向ける。素人と嘲笑って、右の手のひらをかざすと『停止結界』を発動させた。

 避ける素振りも見せずに接近するシャルロットが『停止結界』に捕まるのは当然の結果だった。シャルロットにもそれぐらいは予想できる。だから彼女は手のひらが照準を定めるより一瞬早く4つの武器をコールして投げた。投げられたものは筒状の物体で、投げる力が弱かったのかラウラの居る位置から2メートル手前にばらばらに転がった。

 

「残念だったな。では、消え――」

 

 ろ、と続けようとしたラウラは、目の前に現れたものに言葉を奪われてしまった。

 地面に落ちた4つの筒から赤・青・緑・黄色の煙がもくもくと発生して、ゆらりゆらりと空へ登っていったのだ。

 ラウラがそれを発煙筒と認識した時には、煙に紛れてシャルロットの姿を見失っていた。対象を視認することで発動していた『停止結界』は、煙に視界を遮られることで効力を失ったのだ。

 

「うおおお!」

 

 地を震わせるかのような雄叫びと共に一夏がラウラに接近する。振り上げた『雪片弐型』の刀身が淡い光を放っている。一撃必殺の『零落白夜』による攻撃。試合が始まってから今の今まで姿を見ることのできなかった『零落白夜』に、ラウラは勝利を確信した笑みを浮かべた。

 発煙筒によって注意を逸したところに『零落白夜』での攻撃、一夏達にはもう後がないことを意味している。ここで決めなければ勝ちはもうない。

 焦って一撃を繰り出した一夏にラウラは『停止結界』を使う。

 

「なに!?」

 

 驚く一夏。ラウラは構わずにワイヤー・ブレードでズタズタにした。

 ラウラの攻撃を受けエネルギ-を失うと、『零落白夜』の光は消えてしまった。一夏達の持つ最大の攻撃は封じられてしまったのだ。

 

「私の勝ちだ」

 

 残ったのは旧世代の雑魚、それも手負いで『シュヴァルツェア・レーゲン』の相手にはなりえない。

 虫の息である一夏に止めを刺そうとしたラウラは、ハイパー・センサーが背後から接近する者を捉えた。シャルロットだ。手には何も持っていない。

 

「やああ!」

「来たか。『停止結界』の餌食になりに」

 

 一夏に背を向けたラウラ。急接近してくるシャルロットに右腕を突き出そうとした。

 だが、背後から右腕を掴まれ妨害される。

 

「させるかよ」

「死にぞこないが!」

 

 視線を向ければ、腕を掴んでいるのが一夏と分かった。

 一夏を振りほどいている暇はないが、まだ左手がある。急いで視線をシャルロットに戻すが、既に全てが遅かった。懐まで潜り込んだシャルロットの右手がラウラの左の手首を掴む。

 

「気がつかなかったのか?」

 

 シャルロットの左腕、盾と一部の装甲が弾け飛んだ。

 

「それとも忘れていたの?」

 

 装甲の下から凶悪な顔を覗かせる。

 

「俺達は」

「僕達は」

 

 パイルバンカーと呼ばれる無骨な兵器がラウラの腹部に叩き込まれる。

 

「2人で1組のチームなんだぜ!」

「2人で1組のチームなんだよ!」

 

 並みの武器を超える一撃が打ち込まれた。

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