IS 教師の一人が月村さん   作:ネコ削ぎ

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1話

 今日も一日平穏無事に過ぎ去ってくれれば最高だった。

 保健医らしく生徒が怪我してしまったり体調を崩してしまわないことを願って、いつものようにほうじ茶を飲みながらのんびりしている。やはり、誰も保健室を利用しないような状況が保健の先生としてはもっとも喜ばしい。決して働きたくないからで言っている訳ではない。何故なら保健室に常駐していることが既に仕事をしている証だからだ。

 最近は周りでふわふわと浮ついた生徒達が増えたような気がする。ちょっとした怪我で保健室を訪れているからきっと気のせいではないのだろう。

 何かあったのだろうか。そう思ってカレンダーを眺めながら考えてみると、もうすぐ臨海学校の時期になるのを思い出せた。保健室利用者の顔ぶれをよくよく思い返してみれば、大半が一年坊主達だった。女子のくせしてはしゃいで怪我するんだから坊主で十分だ。そこらで絆創膏でも買って張ってればいいんだよ。

 そうは毒づいても悲しいかな、私は保健室で仕事をする先生である訳なのだからよほど軽い怪我でなければ無下にすることはない。

 この怪我人続出する状況がもう3日4日ほど続くと思うと、面倒で面倒で仕方がない。

 臨海学校と言えば生徒達だけのものではない。そこには引率の教師達が関わってくるのが当たり前だ。そもそも学校と名前がついているので遊びに行くのではなくて学びに行くのだ。

 臨海学校は2泊3日で行われる。その内初日は自由時間で生徒も教師も羽目を外して海を満喫する。教師の方は最低限の羽目を持って海を楽しむ必要があるらしいのだけど、1回も引率したこともない私には全く分からない話だ。

 実を言うと、臨海学校に保健の先生が引率に加わるということは私の知る限りでは一度もなかった。何故なら向こうの宿に保健医的な役割を担うことのできる人物が存在しているので、学校側からわざわざ出す必要がないのだ。学校の方に専念してくださいということだ。

 幸いなことに、私は特に海に恋い焦がれるようなことはない。天気の良い日にそこらをのんびり散歩しているだけで十分ストレス発散になるから、海という特別な場所に行く必要を感じないのだ。

 エミリアにそんなことを言ったら「ふざけるな」と抱き着かれてしまったな。お前と一緒に海でキャッハウフフしたい私の純粋な想いを今年も一蹴するな、とかなんとか言われてしまった。去年も同じことを言われた気がするな。おかしい、確か学生時代に似たようなことを言ったときは「それも1つの考えだな」と私の考えを認めてくれたのに。

 まぁ、大体この時期になるとエミリアの保健室訪問の頻度が異常なまでに増える。とても邪魔なんだけど、それは言わないでおく。千冬先輩からできるだけ相手をしてやれと言われてしまったからだ。

 おや、珍しくエミリアに優しい。一見そう思うが、ちゃんと千冬先輩にも思惑ある。

 エミリア・カルケイドは2年前の臨海学校の時、引率の教師の1人でありながら行きたくないという理由で逃亡した前歴を持っている。行きたくない。その理由は間違いではない。だけども行きたくないの中には、私と一緒に海に行けないのなら行きたくないと、これでもかと言わんばかりに私情を挟んで逃げ出したのだ。臨海学校が終わった後、千冬先輩にボコボコにされておきながら、平然な顔をして保健室にやってきたのは印象に残っている。

 そんなお馬鹿なエミリアがちゃんと臨海学校に行けるよう、私が臨海学校までの間に彼女を構ってやれ。それが千冬先輩の考えだ。被害にあう私の心情を潔く無視してくれる。

 まぁ、エミリアの件は去年のことで慣れているのでもう慣れた。問題は今年になって加わってしまったもう1人の面倒事だ。

 

「遊姫先生ってついてこないんですか!?」

 

 シャルロット・デュノアという元偽装男子の女の子だ。

 ラウラ・ボーデヴィッヒの起こした一件の翌日に決心したシャルロットは女子生徒に戻った。

 教室の空気が一瞬にして氷ついた。真耶がそう感想をもらしていた。日本側の生徒は驚きと嘆き、そこから怒りへと変わっていった。私達を弄んで嘲笑っていたのかと、非難囂々だったらしい。一夏と一緒の部屋で過ごしたことも原因の一部だと思われる。

 留学生組も驚き嘆いたのだが、正午の時間にはシャルロットを笑って受け入れられるまでになったようだ。最近はセシリアやリセルと一緒にいるところをよく見かける。

 

「そうだよ。私はお留守番だから楽しんでおいで」

 

 友達と仲良くやっているシャルロットは何故か私の事を以上に好いていてくれるようで、「一緒に泳ごうね」と言ってきた。とてもいい笑顔だったから、実は引率しないんだよとは言い辛かった。まぁ、その場にいたエミリアがさらりと言ってのけてしまったので、私が言うことはなかったんだけどね。

 私が海に行かないことを知ったシャルロットは、それはそれは頭の中にあった計画がガラガラ音を立てて崩れ去ったようで、あからさまにがっくりと項垂れてしまった。

 

「一緒に水着を選ぼうと思ったのに」

 

 そうですかい。私としてはそのような事態にならなくて心底よかったと思っているよ。

 それから、シャルロットもエミリアの病気がうつったのか、やたらと保健室を訪れてくるようになってしまった。面倒人間が2人に増えてしまったことが残念だ。頭を思いっきり殴打すれば治る病気なのだろうか?

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