IS 教師の一人が月村さん   作:ネコ削ぎ

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3話

 見上げれば曇りのない青い空と自己主張の激しい太陽が1つ。良い天気と言っても何ら差支えのない天気だ。

 視線を上から水平に戻せば、海へと駆け込んでいく水着姿の女子生徒達が見える。そのどれもが日常以上のテンションを見せていた。学校ではなかなか見ることができないはしゃぎっぷりに、シャルロットも段々と気分が高揚していくのを感じた。

 この場に遊姫が居ればシャルロットにとっては満点なのだが、生憎求めている人物はこの臨海学校の引率教師ではないので何処を見ても見つけ出すことはできない。

 せめて遊姫が海に行けないことを残念がってくれれば、理由は分からないがシャルロットも少しは嬉しく思うのに、遊姫は特に残念に思う様子は見せずに、むしろ清々しい笑顔でシャルロットを送り出してくれた。シャルロットとしてはそこが気に入らない。

 過ぎたことは仕方がない。そう思うことにしたシャルロットは重い足取りで砂浜を歩く。

 ふと、周りを見渡してみると、やけに騒がしい軍団が砂浜で暴れていた。知っている顔がいないので、シャルロットは一組以外の誰かだろうと思った。

 立ち止まって知らない顔ぶれの中に誰か知っている顔はいないかと伺っていると、不貞腐れた顔をしているラウラ・ボーデヴィッヒがいた。とするならばあの集団は三組ということになる。

 

「ビーチアタック!」

「ビーチアタック!」

「ビーチアタック!」

 

 不機嫌さを隠さないラウラに向かって3人の女子が胸の前で両腕を十字に組んで飛びかかっていた。そして簡単にいなされていた。太陽光によって熱せられた砂浜に顔面から着地した女子達はあまりの熱さに悲鳴をあげていた。

 何をやっているんだろう。シャルロットが不思議そうに見ている間にも三組の女子達がラウラに襲い掛かっていた。ラウラの普段の態度から、三組でも仲良くやれていないのだろうと思ったが、よくよく見てみると三組の生徒達の顔に浮かんでいるのは笑顔だった。ラウラ本人がどう感じているのかシャルロットには分からないが、三組の生徒達がラウラにじゃれ付いていることだけは理解できた。

 暫くやり取りを見つめていると、後頭部に何かがぶつかってきた。それなりの速さでぶつかってきたようで、油断をしていたシャルロットは前のめりに倒れて灼熱の砂浜の洗礼を受けた。

 

「熱い!」

 

 あまりの熱さに急いで顔を上げると、目の前にビーチボールが音もなく着地する。犯人はビーチボールと思われた。

 シャルロットはビーチボールに手を伸ばすと、がばっと勢いよく立ち上がって背後を振り返る。体を反転させた勢いで、背後にいるであろう犯人に向けてビーチボールを投げつけた。感情に任せた一投なので、狙いもなければ正確さの欠片もない。そもそも相手が真後ろに居続けているかどうかの判断もできていなかった。

 力任せに投げたビーチボールは奇跡的にも真っ直ぐ飛んでいき、その先にいるリセルに向かっていった。

 相手を確認した瞬間にシャルロットはしまったと焦りってしまい、足を砂にとられて再び砂浜へと顔面ダイブしてしまった。

 

「熱いってば!」

 

 誰に対しての抗議なのかは判断しかねるが、シャルロットが声をあげて顔を上げた時、目の前で予想もしなかった事態が起こっていた。

 剛速球で向かってくるビーチボールをリセルがキャッチしたのだ。ただキャッチしたのではない。地を蹴って身長以上の高さまで飛び上がると空中でクルリと一回転。その回転の最中にボールをキャッチして、体全体の回転を加えて投げ返してきたのだ。その動作の全ては飛んでから地面に足を着けるまでに行われた。

 

「へぶっ!」

 

 投げたスピードを超えるスピードで返ってきたビーチボールがシャルロットの顔面に叩きつけられたのだった。投げなければよかったとシャルロットは後悔した。

 

「蝶のように舞ってぇ蜂のように刺し貫くのよ、シャルロットちゃん」

 

 ルベリーに助け起こされるシャルロットに対して、不敵な笑みを浮かべて胸を張る。

 

「いつもルベリーに文字通りおんぶに抱っこなリセルの姿に油断したよ」

「残念ねぇ。こうみえても、私良い動きをするんだからねぇ」

「体操の選手にでもなればいいんじゃないかな?」

「身長的に無理な話よ」

「ああ、そうなの」

「小さい、可愛い、お人形」

「ルベリーちゃんの身長が羨ましいわよねぇ」

「確かに、ルベリーって背が高いよね。何を食べたらそこまで大きくなれるの?」

「……夢」

「そういうのはいいから」

 

 真顔でボケたルベリーをバッサリと切り捨てたシャルロット。リセルの二度に渡るボール攻撃に痛めた鼻をさすっていた。

「ところで他のみんなは?」

 

 リセルとルベリーしかいないことに気が付いたシャルロットが周囲をきょろきょろとしながら問いかける。今のところ見える範囲にセシリア達はいない。

 

「分からない。気が付いたらぁ私達だけになっていたのよ」

「どこら辺まで一緒に居たのかは分かる?」

「バスから降りたところまでは一緒だったのよ」

「つまり最初から分からないんだね、その言い方からすると」

「そうとも言うわねぇ」

「物は言いようだね」

 

 シャルロットが呆れて視線を外すと、ちょうどラウラが三組の生徒に捕えられて海に投げ入れられるところだった。

 早くみんなが来ないかな。なんだかんだ言って広大な海を目の前にして、シャルロットも段々とエンジンがかかっていく。遊姫がいないとしても、他のみんながいるのだからそれで良いのかもしれない。

 遊びたい盛りの十代女子。海と自由時間の2つの魔力に当てられたシャルロットは、セシリア達が来るのを待てなくなってビーチボールを拾ってリセルに投げつけた。

 投げたボールはリセルにあっさりとキャッチされて投げ返された。ボールを顔面で受け止めたシャルロットが砂浜に倒れる。

 

「学習しましょうねぇ、シャルロットちゃん」

「りょ……了解しました」

 

 せっかく鼻の痛みがひいたというのに再度鼻を痛めてしまった。シャルロットは言葉では反省したようにみせて、隙を見てもう一度ビーチボールを投げつけることにした。その想いもルベリーがビーチボールを回収してしまったことによって儚く散っていった。

 

「何をやっているんですか。特にシャルロットさん」

 

 恨めし気にルベリーを睨み付けていると、ようやくセシリア達がやってきた。手にはビーチパラソルとぐるぐる巻きになったシートがあった。

 全員揃ったということもあり、早速海へと突撃していった。

 セシリアとリセルは貸し出されているビーチパラソルで日の光を遮って、砂浜の熱からも逃れるようにシートの上で寛いでいた。もはや気分は保護者だった。セシリアはともかく、リセルの方は母親に付き添う子供としか見られないだろうが。

 海にも入らずにいる2人から目の離せない子供みたいな認識をされていると気が付いてないシャルロット達はビーチボールを投げて遊んでいた。遊びだというのにボールの投げる強さは遊びの範疇から逸脱しているようにセシリアは思ったが、まぁ怪我はしないだろうと放っておくことにした。

 

「リセルさんは泳ぎに行かなくてよろしいのですか?」

 

 セシリアは隣で膝を抱えているリセルに話しかけた。

 

「泳ぐのは趣味じゃないのよぉねぇ」

 

 別に泳げない訳じゃないのよ、と言いながらリセルは笑った。ミシャがラグナクとサロメの首根っこを掴んで海に沈めていた。一歩間違えれば殺人事件へと発展しそうな状況にもセシリアもリセルもじゃれ付いているようにしか見えなかった。

 

「セシリアちゃんこそ、エミリア先生と一緒に居なくていいの?」

 

 その言葉にセシリアはうっと言葉を詰まらせた。さきほどのだらしなさすぎる光景が蘇ってきたのだ。

 

「時には離れることも必要なことですわ」

 

 セシリアはリセルからも海で遊んでいるシャルロットからも視線を外して溜息を吐き出した。

 

 

 

 

 

 今日は厄日なのかもしれない。

 座布団の上に正座をしながらシャルロットはそう思った。背中を丸めてうずくまって何か声にならない声をあげている。

 

「馬鹿ね、わさびを丸々口の中に放り込んじゃって、本当に馬鹿ね」

 

 隣で味噌汁を味わっていたミシャが、どうしようもない馬鹿をみるような顔でシャルロットの背中を撫でていた。背中を撫でたところでわさびのつんとした辛さが消えるはずもないのだが。

 時刻は夕食時。海で散々遊び倒した生徒は浴衣に着替えて目の前に並べられた海の幸に舌鼓を打っていた。ミシャの隣で悶えているシャルロットは別としてだ。

 シャルロットは刺身を味わう最中でわさびが乗っていることに気が付いたのだ。そして何時だったかに呼んだ雑誌か何かにわさびの美味しさについて熱く語っていたのを思い出した。そこで物は試しにと器用な箸使いでわさびの山を摘まんで口に含んだという訳だ。結果は目に涙を浮かべてうずくまる今の状況が全てを物語っている。

 

「何度も言ってあげるけどさ、馬鹿だね馬鹿だね」

 

 シャルロットは姿勢を正してミシャを睨み付けるが、反論するまでには回復していないので言われるがままだ。

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