昼食を終えた私は自分の城である保健室へと帰った。寄り道はせずに真っ直ぐと持ち場へと戻る。別に仕事熱心な訳ではなく、ただ椅子に座ってまったりとしたかったからだ。
それにしても、と思ってしまうのだ、久々に目撃した一夏は昔と違って何処か落ち着きを得ていたと思う。年相応の落ち着きと言うべきか。言い換えればそれ以外の変化を感じることはできなかったとも言える。はっきりと言えば成長をしていない。遠目から見た人間が断定していいことではないが、私は胸を張って言い切る。他人が他人を勝手に決めつけたりラベリングしたりするのは仕方がないことなのだから。
ラベリングと言えば、一体何処の誰が一夏に『ISを扱うことのできる唯一の男』とラベリングして、中身さえも相応のモノにしてしまったのだろう? 何の理由もなしにISが使えると分かった訳ではない。細工があってそれに引っかからなければ、ISを動かす機会に出会うことはないだろう。
例えば、他人の心情など知ったことないと好き勝手やって周りを翻弄する私のもうひとりの先輩が、おもしろ半分で友人の弟を操って切っ掛けを作ったのなら分からない話ではない。
理由は気になる。何故に一夏を特別へと昇格させたのか、織斑一夏を選んだのか、何を目的としているか、そもそも先輩の仕組んだことなのかを。
携帯電話を取り出してポンポンと空中へと打ち上げる。手首のスナップを加えて弾いて、床へと叩きつけないよう。
暫く携帯を弾いてからソレをキャッチしてポケットへと仕舞い込む。電話をかけることはいつでもできる。今は想像することだけを楽しもう。
「はてはてさてさて、午後からも来客がないと助かるんだよ」
生徒達が怪我なく学生生活を楽しんでほしい、私の平穏を維持してくれよ、と笑みを浮かべる。
自分本位な私はお茶で喉を潤して、午後からの時間を午前中以上に満喫するぞ、と決意する。
放課後の校舎。入学したての一年生にとって初めての授業は新鮮であり、また酷く疲れるものであった。特に一年一組に所属する生徒達は一層の疲労感を体全体から滲ませていた。
世界最強の肩書きを持つIS装着者の織斑千冬が担任を務める一組は、朝のSHRの時間から騒がしいことこの上なかった。ISを知り、憧れる者達にとって織斑千冬は一種のアイドルと言ってもいい。そのアイドルが自分達の担任だと知って、女子生徒達が大人しく受け入れることなどできるはずもなかった。
クラスの全員が黄色い声援で織斑千冬を歓迎したという訳ではない。喜び騒ぎ立てる生徒達が多数を占める中、特別な反応を見せずに、冷ややかな目線でクラスを見渡す少数の生徒達も存在した。
彼女達は日本以外からIS学園へと入学してきた留学生組だ。IS学園進学を希望する同郷の少女達との競争に勝ち、見事に政府公認で進学を認められたエリート集団。そんな彼女達からすれば織斑千冬の出現によって沸き起こった騒ぎは時間の無駄でしかなかった。
イギリスからやってきたセシリア・オルコットもまたこの状況を冷めた目で眺めていた。そのうち視線を騒ぎから逸らして窓の外へと移す。
自分に運がなかった。セシリアは鬱陶しそうにクラスを眺める織斑千冬を見て、心の中でため息を吐きだした。
どうしてあの方が自分の担任になってくれなかったのだろう。これでは何のために日本まで来たのか分からない。
織斑千冬の鶴の一声によって再開した自己紹介を適当に聞き流す。その間、セシリアは脳内に焼き付いた人物の鋭く冷徹な瞳を想っていた。
セシリアにISの世界へ踏み込む切っ掛けを与えたあの眼。今も萎えることのない憧れを抱かせる技術。それら全てが鮮明に再生される。
IS学園で少しでも憧れに近づく。物理的な距離も実力の差も全て埋めてみせる。
セシリアは教科書を取り出して睨みつける。
「そのためには真面目にコツコツですわ」
そして巡り来るチャンスをしっかりと掴むだけだ。