IS 教師の一人が月村さん   作:ネコ削ぎ

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12話

 臨海学校は2日目。一年生が帰ってくるまで後1日あるので、私はまだまだ楽ができる。

 だから、私は今日も保健室でまったりと過ごすことにする。愛用の椅子に座ってほうじ茶を飲んでいても、特に来訪者はいない。嬉しい限りだ。

 臨海学校の初日は海で自由に過ごした生徒達も、今日からは大変な授業だ。

 それに比べて私はのんびりと保健室待機だ。朝早くから怪我してくるお転婆な生徒はいないだろうから、安心してお茶を飲める。

 椅子の背もたれに背中を預けて溜息を吐き出す。昨日の楯無の提案をどうしようか。考える時間が欲しいと言った手前、納得できるような理由なく断ることはできない。さて、昨日眠るまでに色々と考えてみたが、中々どうしていい理由が浮かんでこない。

 一夏にものを教えることを拒否する理由はある。私の戦闘スタイルと一夏の戦闘スタイルの違いを持ち出せば断ることができる。相手がそれだけで納得してくれるような人物ならば、という条件がつくが。

 うん、楯無がそのような子供でも考えつくような理由で頷いてくれる訳がない。逆に巧みな計略で絡めとられそうだ。誰もが諦めてくれるような凄い理由を考えなければいけない。

 だけど、どんなに脳をフル稼働させてもそれらしい理由は浮かび上がらない。

 戦闘スタイルが違うというが、戦法の違う相手との戦闘はそれはそれで勉強になる。一夏の戦い方は瞬時加速を使ったものだから、私が教えられないことはない。このように逆に了承するための理由しか思いつくことができないのだから、私の頭は役に立っていないのだ。

 護衛に関して言えば、仕事に支障をきたすから絶対に無理。この1つあればいいよ。おそらく、楯無の本命は一夏の教師として私持ち出すことだから。

 楯無って面倒な子供だね。なまじ知識があり、責任感もあり、遊び心もあるからより一層面倒な子供だ。他人のことを、主に私のことを考えて行動してほしいよね。もしも、私のことを考えての結果がこれなら、もっと頑張って考えてねと言いたいよ。

 私の答えを聞く為に楯無は保健室を訪れるだろう。それが今日の何時になるかは約束していないから分からない。だから、私は立ち上がってこの場から逃げるべきだ。無責任な我が心は誰にも捕らわれることなく、自由へと逃避行するのだ。

 でも、それだと地獄の果てまで追っかけられそうだな。だったら意を決して迎え撃つべきか。

 そう思っているだけで、1時間が過ぎていることに気がついた。人は物事に没頭すると時間を見失ってしまうのだと、私はまた1つ賢くなったきがする。同時に1時間も費やしておいて何も答えは出てこなかった。

 幸いなことに、楯無はやってこなかった。

 代わりに、楯無ではない生徒がやってきた。見慣れない顔をしていたが、リボンの色が赤色なので三年生であることは分かった。

 留学生なのだろうか、白髪で目の色は赤かった。まるでウサギのような生徒だ。

 彼女は保健室に入ってきたと同時に、私のケータイが震えた。誰かからの電話のようだった。タイミングの悪いようで。

 

「悪いけど、擦りむいた程度の怪我なら、そこに消毒スプレーと絆創膏があるから何とかしておいてね」

 

 それだけ告げてケータイを開くと、ディスプレイには『篠ノ之束』と表示されていた。珍しい相手からの電話だ。本当に珍しい相手で、同時に厄介な相手だと思った。楯無の次は貴女ですかと言ってやりたい。

 まぁ、出ますけどね。

 

「もしもし」

 

 当たり障りのない言葉を投げかける。

 

「やっほー、ゆーちゃん。元気にしてた? 束さんは相も変わらず元気だよ」

「元気にしてますよ。ところで何で小声なんですか?」

 

 ケータイから聞こえてくる束先輩の声のトーンが少しだけ低かった。いつもの元気すぎるテンションからは想像できない小声なので、気になって聞いてみると「今、電車の中なので」と答えが返ってきた。雑音がしないから嘘であることは一目瞭然だった。束先輩が電車に乗ること事態想像できない。

 

「分かりました。そういう理由で納得してあげますよ」

「わー、ありがとう。さすが、ゆーちゃんだよ。ちーちゃんやえーちゃんの愛情表現過多組とは違ってほんのり優しい優しさだよね」

 

 千冬先輩もエミリアも別に愛情を以て接している訳ではないはずだ。束先輩の妄想に過ぎない。私も優しさから言った訳じゃない。

 

「そんな優しいゆーちゃんにプレゼントをプレゼント。もう既に届いているから受け取ったよね」

 

 束先輩は嬉しそうに、最高のプレゼントだからとしつこく言ってくる。

 束先輩が私にプレゼントを贈ってくる。確かにそのようなことを言っていたのを覚えている。IS学園に無人機ISが襲撃してきた時だったかに、そんなことを言っていたと脳が記憶していた。近々と言っていたのも覚えているが、どうやら束先輩の近々と私の近々は違うものらしい。

 

「受け取るも何も、まだ何も届いていませんが」

 

 事実、ここ数日何か届いたということはない。配送ミスか、束先輩が送ったと勘違いしているだけか。どのような理由にしろ、プレゼントなるものが届いていないことは間違いない。

 

「えぇ、おっかしいなぁ。ちゃんと指示出しておいたんだけど。ちょっと確認してみるね」

 

 ケータイ越しにあった束先輩の気配が消えた気がした。

 確認ってどこに確認するのだろうかとお茶に口をつけて、出入口に視線を移す。さきほどやってきた生徒が無言でケータイを耳に当てていた。同じタイミングで電話があったみたいだ。

 

「ゆーちゃん。やっぱりもう到着しているよ」

「到着ってさっきも言いましたが、何も届いていませんけど」

「届いてるよ。胸に手を当てて考えてみなよ。ほら、暖かい気持ちになったでしょ」

「用件が終わったのなら切って良いですか? ほら、私って仕事してますしね」

「えへへ。じゃあ、お揃いだね。私もちゃんと仕事をしているんだよ」

「……仕事しているんですか」

 

 仕事をしていると言った束先輩に驚いてしまった。束先輩の中には仕事をするという概念が存在しないものと思っていただけにこれは以外だった。趣味だけに生きる人だと思っていた。ちょっとだけ認識を改めなければならない。

 束先輩の言うプレゼントが届いていないし、仕事をしていると言うし。これ以上の長電話はお互いにとって意味のないものだろう。

 そう思った私は、ふと出入口の方を見ようとした。

 視界に何かが映り込んだ。ギラリと光る鋭いものが。

 

「は!?」

 

 反射的に床を蹴って後ろに逃げる。包丁などとは比べものにならない巨大な刃が喉を切り裂くかどうかのギリギリの位置を滑っていった。机の上に開かれたまま置かれたパソコンが綺麗に切断された。

 刃の持ち主は白髪赤目のウサギみたいな生徒だった。腕が機械の刃に変化している。

 ISの部分展開。それを理解した私は右足を突き出し、机の引き出しの出っ張った箇所につま先を引っかけた。そして力任せに足で引き出しを机から引っこ抜こうとした。引き出しの中に私のISが入っているからだ。

 だけど、私の行動は少しだけ遅かった。引き出しが机から完全に分離するよりも早く、机がもの凄いスピードで上へ飛んでいった。ISを展開した生徒が蹴り上げたのだ。

 轟音と天井の蛍光灯の割れる音が聞こえる。砕けた蛍光灯の破片があちこちに飛び散っている。中途半端に開いた引き出しの中身も空中で散ってしまった。

 引き出しの中には様々な物が入っていて、その中から指輪状の待機状態になっているISを見つけることはできなかった。目の前にいる生徒から目を離すこともできない状態でISを探し出すことなど命を捨てるようなものだなのだから。

 相手の動きを注意するしかない。私はエミリアと違って相手の細かな動きを認識することも、多少遅く見える訳でもない。

 無防備な姿を晒していることを理解すると、背筋がぞくりとしてきた。本能的に死を認めているのかもしれない。

 生徒が動き出した。一歩前に踏み出し足を振るう。

 普通の少女の蹴りであったならば、私は易々と防いで反撃することができた。だけど、相手はISを装備している。常人の蹴りとは程度が違い過ぎる。相手が必要に手加減してくれない限り、生身でどうにかなるものではない。

 私は生徒の蹴りを避けるために後先考えずに横に飛んだ。華麗に着地などできるはずもなく、ゴロゴロと床を転がって、生徒の射程圏外から逃げ出した。

 だが、IS相手にそんな逃げ方など意味はなかった。

 腹部に鋭い痛みが走り、体が後ろに引っ張られた。背中から硬い物に激突して、一瞬だけ呼吸が止まる。頑丈な体じゃなかったらここで意識が飛んでいたかもしれない。

 次の攻撃が来る。瞬時に判断した私は素早く体を起こそうと床に手をつく。

 手のひらと床の間に何か物体があるのを感じた。その感触には覚えがあった。私の勘違いでなければツキが回ってきたということになる。

 私は私の手が記憶している感触を信じて、頭の中でイメージをした。最速の私というやつを。

 そして私は名前を呼んだ。イメージをよりよく鮮明にする為に。

 

「風撫!」

 

 深緑色の風が私を包み込んでいった。 

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