IS 教師の一人が月村さん   作:ネコ削ぎ

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12話

 くーちゃんが私の視界から消える。並のISには追いつくことなどかなわない加速で右に飛んでいった。

 視界から消えたくーちゃんを目で追うことはしない。

 何処から攻撃してくるか?

 私には分かる。ちょっと考えればすぐに答えが出てくる。マニュアル通りに相手が動くとすれば、敵にとって一番反応が遅れてしまう背後から攻撃を仕掛けてくるだろう。もし、この未来予想があっているとしたら私のやることは1つだ。

 

「はいっ!」

 

 体を捻って背後目がけて蹴りを放つ。振るわれた脚部ブレードが、腕を振り上げた状態のくーちゃんの脇腹を捉える。

 

「っ!?」

 

 くーちゃんの小さな体躯が吹き飛ぶ。耳に空気の漏れるような音が聞こえた気がした。

 蹴り飛ばされて遠くに飛んでいったくーちゃんを追う。深追いは禁物であるが、どちらも近接戦闘しかできないので深追いするしかない。

 私の接近に気がついたくーちゃんが一気に急上昇して逃れようとするので、私はその背中を追いかける。

 ISの性能差があるので、私がくーちゃんに追いつくことはできない。だけど、相手を見失うということもない。

 前の私は目で追いかけることもできなかった。中途半端にISから遠ざかっていたために、いつの間にか衰えていたのだ。

 だから、夏休みから今の今まで訓練に明け暮れてかつての私を取り戻していた。その成果は良好で、ようやく同じ土俵で戦えていると感じられた。

 くーちゃんが反転、急加速で私へと接近してくる。

 正面からの接近はやたらと速く感じるが、だからどうしたと言わんばかりにくーちゃんの振るった右腕を左足で防いだ。

 

「不便だね」

 

 私はくーちゃんの頭を鷲掴んで引き寄せる。引き寄せた顔面に膝蹴りを叩き込んだ。シールド・バリアーによって肉体へのダメージはないが心理的なダメージを負い、相手は冷静さを欠く。

 それでも負けじとくーちゃんが腕を振るって私を吹き飛ばす。

 距離が離れたのは一瞬。互いに接近して足と腕をぶつけ合う。

 私の足が振るわれるとくーちゃんの腕がそれを防ぐが、防ぎきれずに防御が崩れる。私の並以上の脚力の前にくーちゃんは着実にダメージを受けていた。

 前回とは立場が逆転していた。

 

「何で!? 前の時とは違います!」

 

 私に押されていることに焦りを浮かべるくーちゃん。瞬間的に集中が途切れて私の蹴りが直撃する。こんな私が言うのもなんだけど、まだまだ未熟だね。

 

「今日の試合は勝つ。私はこう見えても言ったことには責任を持つ方だからね。例え性能差で負けていようと勝つと言った以上勝つ」

「そんな宣言をしたところで、お母様に調整されたこの体とISの前では無駄です。すぐにでも形勢逆転します」

「お母様お母様ね。乳飲み子が身の丈に合わないことを平気で口にしないことだよ」

 

 くーちゃんの突き出した腕が私の鼻先を狙ってきたのだが、首を左に傾げることで命中を掠りに返る。

 私の振るった足がくーちゃんの頭を捉えるが、あと一歩というところで避けられた。だけど、くーちゃんの目が瞬間的に揺らいだのを見て、もしかしたら命中することと同等の心理的ダメージを与えられたと思う。

 

「まだ、舐めないことです!」

 

 動揺をねじ伏せて向かってくるくーちゃん。その姿がつい健気に見えてしまい、私は戦闘中だというのに笑顔を浮かべてしまった。

 

「舐めてはないから安心しな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遊姫がくーちゃんと戦闘をする少し前。

 遊姫と別れてすぐ、エミリアはケータイの着信が誰からのものかとディスプレイを確認していた。ディスプレイに表示される番号は少なくともエミリアの知る番号ではなかった。元々知る番号が両手で数えられるほどしかないので確かだった。

 正直な話、知らない番号の電話など出たくはなかったのでエミリアはケータイを暫く放っておくことにした。

 着信音は5分ほど鳴り続けていたが、エミリアの頑なな態度に降参したのか着信音が鳴り止んだ。少々粘ったようだが、エミリアの敵ではなかった。

 だが、エミリアが適当な所で時間を潰そうかと考えていると、その思考を邪魔するかのようにケータイが再び鳴り出した。番号は先ほどのものと同じだった。

 こちらは出たくないというのに空気も読まずに再度電話をかけてくるかと、エミリアはケータイを睨みつけたがそんなことでは着信音が止まる訳もなかった。

 おそらく、エミリアが無視を続けていたとしても、相手はエミリアが電話に出るまでかけてくるに違いない。そう思ったエミリアはケータイの電源を落とそうか、それともこの戦いに終止符を打つ為にこちらから打って出るかを考えた。

 無視か応じるか。エミリアとしては前者が魅力的であった。しかし、電源を落として対処したところで根本的な解決にはならないだろうと、エミリアは泣く泣く電話に出ることに決めた。出てすぐに終わればいいだろう。

 

「もしもし」

 

 ケータイを耳に当てて声をかける。

 

「やっほー、えーちゃ……」

 

 ケータイから不愉快な声が聞こえてきたのでエミリアはすぐさま通話を切った。気のせいでなければ、あの声はどうしようもない駄目人間のものだった気がする。

 出なければよかった。そう思っていると再三の着信音が鳴り響く。やはり番号に変わりはなかった。

 諦めて電話に出ると「酷いよ、えーちゃん」なんて声が聞こえてくる。それはこちらの台詞だと言いたかった。

 

「何の用だ、博士」

 

 相手は一応指名手配を受けている篠ノ之束という最高峰の研究者だ。そんな有名人から電話を受けたとばれると色々と嫌なので、エミリアは固有名詞を口にしないことにした。名前を呼ぶのが億劫であったことと、実はそこまでの仲でないことも要因の1つではあるが、それは言わなくてもいいだろう。

 

「えへ、えーちゃんの声がききたくなっちゃって」

「切る」

「おっと待った待ったー。今切ったら損するよ」

「じゃあ、あと5秒したら切るから、その間にこの電話で伝えたいを全て言え」

「それは無理だよねー」

 

 ふっふっふ、と誇らしげに笑う束にエミリアは冗談抜きで通話を切りたくなってきた。

 

「さて、えーちゃん。とりあえず、第六アリーナに向かってみようか」

 

 束の指示にエミリアは何かあると思い、反論の言葉なく素直に歩を進め始めた。

 

「さてと、道中退屈だろうから、束さんのスペシャルなおとぎ話でもしてあげようかな。よかったね、えーちゃん。特別なんだよー」

「いらない」

「もう。そんなこと言わないの。えーちゃんはツンデレさんなんだから」

 

 エミリアは何度もケータイの電源を落とそうとしたが、今こそ本気で電源を切りたいと思った。

 

「じゃあ、昔話を1つ。むかーしむかしのことでした」

 

 束が電話越しに昔話を語り始めた。エミリアは桃太郎なのか浦島太郎なのか、それとも別の話をするのか想像することにした。あまり日本の昔話は知らないので桃太郎にしておくことにした。

 だけど、エミリアの冗談めいた想像を否定するかのように、束は喜々として昔話を紡ぎ出した。

 

「IS学園の感覚で言えば夏休みかな? まぁ、そのころにね、天才な束さんのところにどんぶらこどんぶらこと一本の電話が来ました」

 

 むかしむかしのことではなく、ほんのむかしの話だとエミリアは思った。もしかしたら天才という輩は時間感覚も一般人とはかけ離れているのかもしれない。

 

「あれれ? 天才美少女な束さんは誰からの電話だろうと思って電話に出てみると、電話の向こう側からゆーちゃんの声が聞こえてくるではありませんか」

 

 夏休み中に遊姫が束に電話をしたなどということはエミリアは聞いていなかった。どうでもいいが、話の土台は桃太郎らしかった。

 

「話を聞いてみると……面倒くさくなったから普通に話すね。まぁ、ゆーちゃんからラブコールが届いたんだよ。嬉しかったから間髪入れずに出てみたらさ、なんかくーちゃんに負けたのが悔しいから再戦したいって内容だったんだよね。えへへ、ゆーちゃんも分からず屋さんだよね。再戦したところでくーちゃんには勝てないのに。だけどね、優しい束さんはそんな酷いこと言わないようにお口にチャックしてあげたんだ」

 

 偉いでしょ、と自画自賛している束。エミリアは遊姫が若干敬遠し続けたISの訓練をしていた理由を知ることができた。

 

「ゆーちゃんが戦いたいと言うのなら、私は喜んでその申し出を受けるんだよ。でね、今年のIS学園はいっくんのせいなのか何なのか分からないけど、毎回イベントの時に何かあるから、それに則ってみようと今日にしてみたんだよ」

 

 今日という言葉にエミリアは、遊姫が来客があるから保健室に寄らないでほしいと言った意味が分かった。邪魔をされたくない。遊姫は一対一での決着を望み、横槍が入ることを良しとしていないのだろう。それが例え自身の命が脅かされようとしてもだ。

 そうは思ったが、エミリアは不安に掻き立てられることはなかった。束は勝てないと言っていたが、エミリアはきっと遊姫が勝つと信じていた。有言実行、言葉に責任を持つ。遊姫はそういう人物だ。再戦を望んだのなら、勝つという強い意志を持っているのだ。負ける訳がない。

 エミリアは何も知らないのだな、と束を鼻で笑った。

 もちろん、人の機微に疎い束がエミリアの態度の意味を理解することも関心を寄せることもなかった。

 

「なんて喋っている間に第六アリーナに到着したみたいだね」

 

 束の言った通り、エミリアの目の前には第六アリーナの入口が見えていた。フィールドに出るよう促されたので、エミリアは何かあると感じながらも素直にフィールドへと出た。

 第四アリーナ以外は使われていないので、観客席には人の影は全く見えなかった。

 代わりに見えたのは、エミリアがフィールドに足を踏み入れた瞬間に風景から浮かび上がってきた人型だった。

 

「ビックリした? ビックリしたかな、えーちゃん?」

 

 ケータイの向こうで悪戯が成功したかのように弾んだ声を出す束に、エミリアは何も応えずに人型を見た。

 人型は4機。フィールドの端に佇んで四方からエミリアを取り囲んでいる。

 

「前回送り込んだゴーレムⅠの発展型。ゴーレムⅡだよ」

 

 束がゴーレムⅡと呼称した人型は、クラス対抗戦で現れたISをスマートにした見た目をしていて、シルエットも女性をイメージした曲線を描いている。見る限りゴーレムⅡには2つのタイプがあるようだった。ゴーレムⅠと同じように両腕がビーム砲となっている砲撃戦闘用ものと、両腕をブレードに換装した近接戦闘用の2つ。

 

「じゃあ、えーちゃん。ゆーちゃんの試合が終わるまでの間、精一杯足止めしてあげるよ。戦闘実験を兼ねてね」

 

 ブツっと通話が途切れるとゴーレムⅡがゆっくりと動き出した。

 それを見たエミリアはズボンのポケットから淡い黄色の指輪を取り出す。

 

「承諾なしに実験などするな」

 

 エミリアの体を装甲が包み込んでいった。

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