IS 教師の一人が月村さん   作:ネコ削ぎ

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1話

 長い長い入院が終わり松葉杖生活が始まった。

 テレビとかでよく大変そうな歩行を見せているけど、実際にやってみるとこれまた大変で最初の一週間は苦労と疲労の連続だった。

 やっぱり自分の足で歩くことのできる喜びは何事にも代え難いのかもしれない。でも、私は束先輩の提案を蹴ったから、今になって足の不自由に泣くことはない。

 それに以外にも私には助けてくれる人が多いみたいだし。エミリアとかエミリアとかエミリアとか。というか、他の人の助けをエミリアが全て蹴飛ばしてくれるから、私を手助けてしてくれるのは実質彼女一人だけ。

 得難い親友からの甲斐甲斐しい気遣いに笑いたくなる。仕事に対しては片手間でするみたいにテキトーだけど、こういう時は本当に優しいから嬉しいな。少し甘えてしまう。

 

「母様。ご飯食べましょう」

 

 そして唐突に娘ができてしまった。なんていうか他人様が見れば「あら、そっくりな親子」と言われてしまうほどに顔のパーツというパーツがそっくりな娘で、束先輩が言っていた私のクローンということになる。

 うん、本人に許可なくクローンを作ってしまう倫理観のなさが先輩らしい。褒めてはいないけどね。

 困ったことに、あの日病院にやってきた少女は私に何の断りもなく娘ポジションに落ち着いてしまったんだ。勝手に落ち着かれた私は怒っていいのやら泣いていいのやらも分からずに、だらだらと親子やっているというわけ。

 

「はいはい。急がなくても朝ご飯は逃げないよ」

 

 松葉杖でカツカツとテーブルにつく。私が座ろうとすると少女が椅子を引いて座りやすくしてくれる。ちょっとせっかちな子だけど中々気が利く良い子だから、どうしても頭を撫でてしまう。髪がサラサラして触り心地がいいな。

 

「じゃあ食べようか。ちゃんと残さず食べるんだよ、姫麗」

「言われなくても残さず食べます」

 

 ニコッと笑って箸を持つ姫麗。

 月村姫麗(きれい)。それがこの子の名前だ。

 名付けには大層悩んでしまった。名前をつけることがこれほど難しいと経験してみると、世の中の生みの親というものは悩ましい時期を一度や二度も体験するのかと感心してしまう。私の名前も母や父が悩みに悩んで考えてくれたのかも。

 とは言いつつも、私一人でこの子の人生を決めかねない名前を考えるのは難しかったから、実家に電話して母にこっちに来てもらって助けてもらった。

 母は嬉しそうに私にべったりとしながらも命名に関してはそれなりに真剣に考えてくれた。そして、少女に姫麗という名前を与えてくれた。

 わざわざ姫という字をつけたのは、私の名前とのつながりを付けるためだと母は言っていた。お腹を痛めて産んだ子供ではないけど、それでも私の子供になることには違いないから、せめて名前だけでも強いつながりを作った方がいい、という母なりの優しさだった。

 それ以来、この子は姫麗だ。ぎこちない箸使いご飯を食べる姿は可愛くてまたまた頭を撫でてあげたくなる。

 

「どーしたですか?」

「いいや。なんでもないよ」

 

 ぱくぱくもぐもぐとご飯を頬張る姫麗がキョトンとするのがおかしくて笑みがこぼれてくる。

 あどけないのに、言葉遣いがちょっとだけ大人びている感じがちぐはぐ。自分のクローン相手に可愛いだの良い子だの思うのは自画自賛のナルシストになるのかもしれないけど、可愛いものは可愛いし、良い子だと思ったから良い子だ。それで構わないじゃないか。

 可愛いは正義。真実かもしれない。

 朝食を食べ終わると、私は着替えてIS学園へと向かう支度をする。姫麗も姫麗で着替えて外に出る準備をしている。

 行き先は同じだ。

 松葉杖でえっちらほっちらと歩いて、すぐそこのIS学園へと入り保健室の開業準備を始める。

 準備といっても生徒たちの受け入れ準備くらいだ。

 仕事場では松葉杖はあまり使わない。疲れるから。家の中はどこでも休憩できるから松葉杖でもいいんだけど、学園内は休憩できるタイミングが少ないからいざという時に困る。

 なので、仕事中は車椅子を利用する。というかエミリアから車椅子を使うようにせがまれてしまった。

 

「さて、どこへ行こうか?」

 

 車椅子を押してくれているエミリアが耳元で囁いてくる。普通にしてくれないかな。ぞわぞわして落ち着かないんだけど。

 

「職員室に決まってるよ。朝礼があるからね」

「朝礼なんて必要ない。私には遊姫が居てくれるだけで十分だからな」

「職員室に行こうね」

 

 放っておけば絶対に職員室じゃないところに行きそうだから釘を刺しておこう。最近っは特にエミリアの暴走が酷い気がして親友としてある程度心配している。心配の度合いを変えても暴走に質は変わらないから、それくらいがちょうどいい。

 背後を振り返れば不満がある、と言いたげなエミリアと視線が重なった。

 

「運命だな」

 

 安っぽい運命だな、と首を振って「この程度で運命はないよ」と否定しておいた。もうちょっと珍しい展開の時に言うべきことだよね。

 まぁ、エミリアの戯言は今に始まったことじゃないから構わないけどね、と私は車椅子の上で大人した。

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