IS 教師の一人が月村さん   作:ネコ削ぎ

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4話

 エミリア・カルケイドの誤算は受け入れられなかったことだ。

 今のエミリアは手負いの獣だ。パーソナルスペースに入り込んだ哀れな獲物は誰彼構わず彼女の悪質な不法投棄物を見るような目を向けられる。機嫌が悪ければ心臓に悪い視線を向けるのが彼女の流儀だ。たまったものではない。

 エミリアは苛立っている。彼女自身も自覚できるほどに感情が独りデッドヒートしていた。

 あの餓鬼豚。イチャイチャと。

 舌打ちを一つ。タイミング悪く横を通り過ぎた生徒が肩をビクリとさせたが、それはエミリアの知るところではなかった。どんなリアクションを返されても知らないが。

 遊姫のクローンだか何だか知らない。だが、クローンの身分で遊姫とああも羨ましい触れ合いをしているとは、焼き切っても飽きたらなたい。

 怒れるエミリアに声をかけられるものはいない。触らぬ神に祟りなし。そんな長生きの秘訣を皆が実践しているのだ。

 それにしても、とエミリアはここ数日の出来事を思い返す。

 遊姫の元に姫麗というクローンな子供がやってきてからというものの、エミリアは常にその子供に好かれるように手を打ってきた。お菓子で釣ったり、絵本で釣ったり、一緒に遊ぼうと釣ったりと。

 全ては遊姫とエミリア自身のためだった。子供という外堀を埋めることにより遊姫との仲を深め、最後の一線までもを超えてしまうおうという、本人にとっては繊細かつ大胆な作戦は午前中の内に失敗してしまっていた。邪な想いを上手く隠して近づいたつもりではあったが、子供というのは大人以上に敏感な部分があり、その敏感さによってエミリアの毒々しい紫色の感情はバレてしまったのだが、そんなことは本人の理解できることではない。

 エミリアにとってはやたらとイラつかせるガキ。それで十分だ。敵と見なすには十分どころか十二分。後は遊姫の心を再び自分に向かせるような戦いを演じればよい。

 新参者が気にいられているのは最初だけだ。

 遊姫の内心についてまったく知らないエミリアはこれより勝ち目のない試合へと赴くのだった。不毛の一言で尽きる。

 

「それで……呼び出すなよ」

 

 不満、とエミリアの顔には書かれていた。見慣れた物だと織斑千冬が溜息を吐きだすのも、エミリアには見慣れたものである。職場で長いこと顔を突き合わせていれば見慣れのオンパレードでマンネリだな、と不満顔のままエミリアはそっぽを向いた。

 

「再三の呼び出しを無視するんじゃない」

「知らん。要件はなんだ?」

「お前の捕えた奴についてだ。口を割らないから困っている」

「困っているじゃない。私の預かり知らぬところだ」

 

 容赦なく切る。厄介な拾い物をした自覚はあったが、そこまで周囲を困らせるほどの悪質な拾い物だとは思わなかった。

 ふむ、と顎に手を当てて考えるふりをするエミリア。思考回路は低回転すらしていない。

 

「本当に殺すか」

「お前のは冗談にならないからやめろ」

 

 冗談ではない、とエミリアは内心で反論するが、決して表だっての口答えはしない。この手の反論をすれば間違いなく千冬のナックルが炸裂すると過去の経験が警報を鳴らしているのだ。怯えているのではない。殴られる屈辱に耐えられないのだ。

 

「あのクソガキウサギタバ公め。本人とおんなじで捻くれてやがるな」

 

 本人がいないことを良いことにボロクソと誹謗中傷を浴びせにかかるエミリア。元を正せば篠ノ之束が全ての元凶である。遊姫が再び片足を失ったのも、娘を気取る変なのが付きまとうようになったのも、エミリアがこんな薄暗い地価でひそひそとしているのも、全てが全て神羅万象が束のせいだ。

 

「ふん。あまり本人の前で言ってやるな。相手は子供だからな。泣いてしまうかもしれない。へそを曲げられるとやまないもんだぞ。子供というのは」

 

 まるで知っているとばかりに不敵に笑う千冬に、エミリアが笑いそうになるのを抑える。クツクツと多少の嘲笑がこぼれ響く。

 

「ブラコンの枯れ果て女が子供を語るとは滑稽だ。男作って出直して来い」

 

 言ったが早い。エミリアは知覚する間もなくそこらの鋼鉄の壁に顔面を叩きつけられて痛い思いをする刑に処されてしまった。鼻頭を抑えて蹲る姿は口は禍の元、という日本のことわざを身体を張って実証してくれていた。立ち直るのに三分を要した。

 

「痛いから帰る。遊姫に治療してもらおう」

 

 怪我を理由に逃げ出そうとするエミリアだったが、襟首を千冬に掴まれて断念。怪我の治療で遊姫と触れ合おうとする計画は数秒で水泡と化した。淡い夢はかくも儚いか、と詩人な気分にさせられた。

 

「いいから行くぞ」

 

 襟首を引っ張られて逃げること叶わずエミリアは目的地へと向かうことになった。襟首が痛んだら請求しようと考えながらも、大人しく引っ張られることにしていた。

 

「着いたぞ」

 

 言うのが合図。エミリアは再び知覚する暇もなく今度は地面へと叩きつけられた。よっぽど先ほどの言葉がダメージを与えたようだ。精神的な攻撃に対して物理的に攻めてくる手腕に、エミリアはもう一度心無い一言で怒りを煽ってみようかと本気で考えてしまった。いざとなったらISで逃げれば解決する話でもある。

 

「騒がしいです」

 

 エミリアが立ち上がって伸びをしていると声をかけられる。存分に身体を伸ばしたエミリアが声のした方を向くと、そこにはミニマムで赤目で白髪な束が拘束されていた。

 

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