謎が謎を呼ぶ。全ての事象には原因が存在し、その原因の先には必ずしも真実が眠っている。かつて科学で片付けられることで済んだことが超常現象だった頃から、原因と真実があったが時代の科学者たちが次々にと真実を突き止めて科学の判を押していった。
しかし、今回の件に関しては科学者の力を以てしても真実の追求は難しい。そして、この場にいる者たちは科学者のかの字も分からないようなド素人であるために、知識を総動員したところで真実は追及できない。
だがしかし、エミリアにとってはそんなことどうでも良かった。彼女にとって目の前の判断材料に成り得る存在などただの幸せ計画をぶち壊してくれた不届きなウサギでしかなかった。
せっかくの学園祭という大きな祭りでの遊姫との想い出作りを妨げられただけでなく、その遊姫を傷つけられ、さらに気がついたら訳の分からない遊姫クローンまでもが引っ付いてきて。
これで怒るな、という方がエミリアにとっては無理だ。何故なら、彼女にとっては遊姫と空間を共有することが何よりも幸せだから。唯一の幸せを奪われているのだから。もう、爆発寸前である。
だが爆発してはマズい。歯を食いしばってでも耐えなければならない。
遊姫があのガキを可愛がっている以上は大きく手は出せない。嫌われたくないし。
エミリアは無言で牢屋へと歩みを進める。牢屋の中にいるのは赤目に白髪の束風な子供だ。腕に拘束具を付けられ転がされている姿は虐待の図であり、そこにエミリアが格子を蹴りつけるものだから、より一層の虐待の図を展開してしまっている。最近になって並々以上に子供嫌いになった彼女にはどうでもいい話ではあるが。
ガシャン、ガシャンとリズムよく格子を蹴る。つま先が痛くなっても気にならない。それを超える怒りが痛みを打ち消してくれているからだ。今のエミリアは無敵だ。
壊れろ鉄格子。粉々に砕けてしまえばその中にいる自称天才のクローンをストレス発散を主軸とした尋問でボコボコにしてやる、とエミリアの眼が語っていた。よく喋る眼である。よく喋るからこそ、彼女の考えているバイオレンスに生徒たちが怯えるのだ。
「やめないか」
襟首を掴まれ牢屋から引き離されるエミリア。引っ張られる時に数秒首が締まったようで咳き込む。相変わらずの馬鹿力め、とエミリアは数分前の出来事と合わせて悪態をついた。
「馬鹿が。馬鹿みたいに馬鹿力過ぎる」
「もう一度地面と触れ合うか? 手伝ってやろう」
「馬鹿力と脳筋のコンビネーションはやめろ」
「よし分かった。いますぐにでも地面と仲良くできるようにしてやる」
「ふざけてないで、やることやれ。私は遊姫と触れ合いたくてしょうがない」
最初にふざけたのはエミリアであるのだが、そんなこと知ったことではない。自分の都合が何よりも優先されるということだ。
「……くー。そろそろ教えてもらおうか。キサマの主人である束の目的を」
どうしようもないほど沸点が低くてすぐに手が出る先輩を持つと大変だな。原因の一端であるはずのエミリアは腕を組んで溜息を吐きだした。視線の先で行われる尋問というには稚拙な問いかけをしている千冬の後ろ姿をぼんやりと眺める。
適当に腕か足でもへし折ればいいのに、と拷問の方に思考をシフトさせる。
くーちゃんと呼ばれる少女が今も生きて捕まっているのはエミリアの気まぐれだ。
学園祭の時に、遊姫に敗れた挙句に束から解雇通知に等しい扱いを受けたくーちゃんをエミリアは生かした。
最初は殺すつもりだった。撃ち殺して、二度と遊姫にちょっかいをかけられないようにするつもりだった。
しかし、エミリアはその時考えたのだ。
このアリーナには試合を記録しておくためのカメラが備え付けられている。くーちゃんを撃ち殺せば間違いなく記録が残ってしまうだろう。エミリアは機械に強いほうではないからデータの消去方法なんて分からないもんだから、絶対に証拠隠滅はできない。
さて困った、と頭を悩ませたエミリアはとりあえずくーちゃんを生かすことにした。拘束するため接近した時に、憂さ晴らし程度に右腕をへし折ってやった。さすがにそこまでは撮られても判別つくまいと考えての事だ。
一応、遊姫にはくーちゃんを殺したことを伝えたが、実際は学園の秘密の場所で拘束中ということだ。学園がちょっかいをかけてくる束を捕えるきっかけになってくれればな、と思ってはいるが、きっと無駄だろうな。
その通りで学園側は大した成果を上げられていないのが現状。エミリアは尋問に付き合わされることにげんなりとしていた。あの時に事故を装って殺しておけばよかった、と思ってしまうくらいにはげんなりとしていた。
「絶対に教えません」
だろうな、とエミリアは思う。この子供が捨てられたのは単純だ。情報を持っていないから。だから捨ててもデータを取られる心配がない。束みたいな社会不適合者に情を基盤とした考え方ができるわけがないのだ。全くの無駄骨。骨折り損だ。
「お前は見捨てられた。必要ないと切り捨てられたというのに義理を果たす必要なんてないだろ」
普通ならそうだろうけど、普通じゃないならそうじゃない。武士道は忠義を尽くすと決めた主人が不利になることは絶対にしないと聞くからな。たとえ捨てられても貫き通すのが美学なんだろう。コイツが武士かどうかなんて知らないけど。
でも、とエミリアは小さな可能性について思いをはせる。
もしも情報を持っているのだとすれば、コイツと接するのは無駄じゃないな。我慢強いコイツをどう陥落させるかが面倒だがな。
無駄と一蹴して放置するか、もしかしてにかけて無駄を積み重ねてみるか。
無駄な考えだな、とエミリアは溜息と共に結論を吐きだす。
束みたいなチビと接するのは脳みそが腐りそうで嫌だな。
エミリアは目の前のやり取りに飽きてその場を立ち去った。目指す先は最高の癒しスポットであり、現状は最大の邪魔者の控えている保健室だ。
もしも、あのクローンガキを上手く引きはがせる情報なら、付き合ってやってもいいけどな。