IS 教師の一人が月村さん   作:ネコ削ぎ

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7話

 努力は嘘をつかない。スポーツでありがちな台詞だ。

 確かに嘘はつかないだろう。なにせ、鍛え努力した成果は肉体そのものや立ち振舞いに表れるから、努力の分だけ強くはなれる。

 しかし、たまに努力は嘘をつかないなんて嘘だ、なんて言う人がいる。

 血の滲む様な鍛練を積んだのに勝てなかった、優勝できなかったなんて喚いちゃう人がいてしまうんだけど、私からしてみれば何を言っているのって話だ。

 努力をして実力をつけるのと、誰かに勝ったり優勝したりするのは別。努力は全員がしているのだから、自分の行ってきた努力が全てにおいて優先されるなんて馬鹿げた与太話なんてあり得ない。

 だから、努力を嘘つき呼ばわりすることなんてできないものだね。

 偉そうに言うけど、私だって昔は努力は嘘をつかないなんて嘘だって思ってた時もある。でもそんなのは八つ当たりだって気がついてからは努力に対して疑心暗鬼に駆られることはなくなった。

 

「遊姫先生。ボクが優勝したらご褒美をください。そうしたらもっと努力できます」

 

 優勝するために努力する。悪いとは言わないけどね。なんていうか動機の不純さが凄い気がする。

 溜息を吐きだしたくなる。だけど、親しいとは言えど生徒の前であるから自重する。昨今の社会情勢において教師と生徒の関係は絶対的な上下ではなくなってきているために、ちょっとしたことで教師が崖に追い詰められることだって少なくない。聞けば、一般の学校では教師の立場の下落が著しいようだ。

 目の前でキラキラした目をするシャルロット。不純な目をしている。まぁ、高校生にもなって純粋なままというのは考え物だからいいけど。

 

「努力をするのは良いことだけど、ちょっと理由を変えてみてはどうでしょうか?」

「遊姫先生に褒められたいので努力したいと思います」

「ごめんね。現国の教師ほどモノを知らないから、さっきと何も変わってないように感じるよ」

「より想いが増してます」

「どうして出し惜しみしてたのかを問いかけたくなる返答をありがとね」

 

 保健室の中で行われる不毛な会話。芽吹くことない腐りきった種を地面に撒く行為に消費するのはきっと体力だけだ。

 好かれていることに喜べばいいのかな、と苦笑いを浮かべる。段々と手に負えなくなったらどうしようか。

 

「まぁ、もうすぐキャノンボールファストだからね。無理して怪我するような真似だけは控えなよ。元男子だったと言えど怪我するのは良くないからね」

「元男子じゃなくて、元々女子だから! アレは男装していただけですから」

「はてはてさてさて。時計を見て分かると思うけど、もうちょっとで授業の時間になるからね。この話はひとまずおしまい。授業に向かおうか」

 

 壁掛け時計を指し示して。両手を打ち鳴らして会話を強制終了。これ以上は学業に差支えてしまう。私としては生徒にはきちんと授業を受けて欲しい。それと、授業時間なのに怪我も体調不良でもないというのに保健室に入り浸られても困る。保健室はあくまで怪我や体調不良の人の為にある場所だ。健常者が平然と居てもらっては他の人の迷惑だ。

 

「今日は嫌です」

 

 さて、と車椅子を動かした私の背後に回り込んで車椅子の支配権を奪ったシャルロットは言う。拗ねたように頬を膨らませる姿がちょっと年齢よりも幼くて可愛いかな。

 

「嫌じゃないよ」

 

 急に反抗されてどうしていいのか困った。冗談で言ったにしては口調が冗談っぽくない。

 

「ボクが優勝したらご褒美ください。それを約束してくれないと授業に行きません」

 

 駄々っ子言うか。面倒なことになってきたな。エミリアがやってくれば確実にシャルロットはボコボコにされてしまう。そうすれば私が治療をしなければいけない。いいや、治療することに関してはいいんだけど、やはり怪我はしないに限る訳だからこのままじゃよろしくはない。

 

「ご褒美の内容で考えるよ。出来ることのない約束はしない主義だからね」

 

 でっかい約束を破った過去があるからといって自分の信念を曲げる訳にはいかない。信念は曲げないが故に信念である、とね。とは言っても人命を左右する場面においては信念を優先するほどの堅物ではないかな。

 

「……一週間ボクだけを優先してほしいです」

「オッケー、却下。そんなの聞いてあげられないよ」

「六日間なら」

「いきなり刻み始めるのがセコイよね」

「せ、セコくないです!」

「刻んでも駄目だよ。こう見えても私は社会人としてやるべきことがあるからね」

 

 だから早く教室に戻りなさい、と催促すればシャルロットは渋々といった感じで保健室を後にした。

 それで今日はおしまい。

 と思って仕事しようとノートパソコンを起動させると、ちょうどのタイミングで学校散策に出かけていた姫麗が帰ってきた。どうしてかふくれっ面だった。

 

「母様。私、不貞腐れてます。構ってください」

 

 よくは分からないけど正直な娘の姿に、私はケラケラと笑って手招くをする。まぁ、子供なんて分からないくらいがちょうどいいのかもしれない。

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