IS 教師の一人が月村さん   作:ネコ削ぎ

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17話

 疲労が判断と反応を鈍らせる。

 ISの試合というものは所謂スポーツの領域での凌ぎ合い。厳格なルールの下に行われる闘いでしかなく、確かに精神に強く負担のかかるものではあるが、それは命を賭けた闘いに比べると劣る。

 危機的な状況における生き残る意志は強力な力になるが、その分の負担もまた増大していく。

 セシリア・オルコットの誤算はまさしくそれだった。自身の消耗具合を正しく測ることができなかったことによって生まれる判断と反応の鈍り。闘いにあっては致命的だ。

 闘いの熱が体内の血液を蒸発させたことによる血液不足。それが足を引っ張っている。そんあ荒唐無稽な言い訳をしたくなったのだが、セシリアの冷静な部分が自身の消耗を認めている。

 

「セシリア。このままじゃ負ける」

 

 シャルロットの声にも疲労が滲んでいる。やはり、命の駆け引きのに慣れていないからか。スポーツ形式の試合だけでしか闘い慣れしていない身には辛い。

 

「分かっていますわ。ですが、覆すほどのものがありません」

 

 セシリアのISは実験的要素が大きい。第三世代兵装の開発とそのデータ収集のための機体。武装も戦闘に適したものとは言い難く、継戦能力も高いわけではない。

 レーザー・ライフル、ショートブレード、自動攻撃端末『ティアーズ』の三種類だけ。それほど強力な武器もなく、ティアーズも操作する際は集中しなければならず使い勝手はよくない。

 バズーカの一つや二つあれば心強いのですが、今更そんなことを言っても後の祭りですわね。

 手詰まりな状況に舌打ちしたくなる。

 舌打ちに応えるように放たれたビームの光軸を慌てて回避する。よく聞き耳を立てていることに、敏感過ぎはしないかと悪態をつく。

 

「シャルロットさん。何かしらの手段がないようなら一時撤退しますわよ」

 

 さすがに引き際を考えなければジリ貧にジリ貧を重ねて押し負ける。逃げるという戦術に苦虫を噛み潰したよう顔をするが、セシリアにはプライドをかなぐり捨ててでも何とかしたい想いがあった。

 

「武器でもいいですし、仲間でもいいですし、とにかく現状を打破する一手が必要ですわ」

 

 シャルロットへと近づき、その肩に手を置いて促す。

 しかし、振り返ったシャルロットの瞳はまだ闘志の炎が燃え続けていた。その瞳に映るのは一手見つけたのかと信じたくなる自信と決意に溢れていた。

 

「セシリア。続けよう」

 

 力強い声。セシリアの中の下火になった熱意をも再加熱させるほどの力。

 

「ボクね。ただ遊姫先生に弟子入りをせがんでいたわけじゃないんだよ。弟子入りが熱意だけでなされるなんて甘いこと、よっぽどのことがなきゃあり得ない。だからね、自分なりに訓練していたんだよ。高速機動を。もちろん、ボクのISじゃあ、遊姫先生のような高速機動は不可能だけどね、わずかな時間なら高速機動できるようになったんだよ」

 

 ニッコリと人当りのよい笑みを見えるシャルロット。

 

「幸いなことにね。ISのエネルギーがけっこう残っている。これから高速機動で敵をかく乱しつつ削いでいく。だから、セシリアは狙撃をお願い」

 

 それだけ言うとシャルロットは飛び出した。

 高速機動に対して邪魔せずに狙撃なんて無茶な話を、とセシリアが思った瞬間にデータ受信。内容はシャルロットがこれから行う高速機動の軌跡だった。

 

「わたくしにエミリア先生ほどの腕前はありませんが……付き合って差し上げますわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですか。所詮は出来損ないのクローン。お母様によって相応しい強化を施された私に勝ることなどあり得ませんね」

 

 頭が痛い。頭痛によって頭部が異常なほど熱を持ち、姫麗は顔を歪めて必死に敵の姿を目で追った。しかし、先ほどまでと違い、敵の姿を捉えることはできない。

 

「どうしました? 追えませんか、手に負えませんか」

 

 うるさいです、そう叫びたかった。でも脳を叩く痛みに苛まれて声を荒げることもできない。

 纏風。篠ノ之束から送られたIS。

 まるで月村遊姫のような高速機動を披露し、まるでエミリア・カルケイドのように高速機動を捉える動体視力を付加し、まるで織斑千冬のような可視できない強烈な一撃を叩き込むIS。IS学園に留まらず、最強クラスのIS操縦者の強みだけを抽出し上手く混ぜ合わ造られた纏風。

 背部超高出力スラスター『遊姫』、改良型ハイパー・センサー『エミリア』、強力突貫ブースター『千冬』の三強を再現した兵器はまだ肉体的にも精神的にも未熟な姫麗を最強の一角に押し上げていたのだが、しかし多大な負担によって限界を迎えていた。

 身体は余すところなく疲れ切っていた。負荷によって疲労した瞳も、もはやハイパー・センサーの恩恵を受けることはできない。両手両足も力を入れることも不可能になってぶら下げたままだ。

 

「そのISがお母様のものかどうか。疑わしい話ではありますが、性能を見る限りだとお母様にしか作れないものでしょう。せっかくです、そのISも回収させていただきます」

 

 斬撃が一閃。背部のスラスターの一基が本体から離れて地面へと叩きつけられる。もがれた、と理解することが、既に敵に追いついていないことを示している。

 せめて、一撃でも打ち込めれば。

 思ってもどうにもならない。敵は嬲るように姫麗を掠めて飛んでいく。決定的な攻撃はせず、ギリギリ掠めて衝撃によって心身を追い詰めていこうというねちっこさをが見え隠れしている。

 母様のために来たのに。負けられないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勢いが消えた。

 途中から高速機動をやってのける二機の間に格差が出始めた。少しずつではあるが差が縮まり、ゆっくりと逆転していっている。横槍を入れて楯無を救出してくれた姫麗が段々と追い詰められている。顔にあった余裕が段々と険しくなっていることから間違いない。

 表情をみれば分かる。疲労している。隠そうと躍起になっていることがより疲労していることを顕著にしている。

 助けなければいけないわね。

 学園を守る生徒会長として、救ってもらった者として、何がなんでも救ってみせる。

 年上の威厳かもしれないけど、理由なんてどうでもいい。緊急事態につき変なプライドは置き去りにしていい。

 しかし、その前に邪魔になっている敵を倒さなければならない。

 立ち塞がるゴーレムⅢを前にして、楯無は三人にプライベート・チャンネルで呼びかける。

 

「さて、お姉さん一人じゃ厳しいから一夏くん、箒ちゃん、簪ちゃん。みんなに協力してほしいわ」

「分かりましたけど、どうするつもりです」

「それは聞く必要ないだろう。敵を倒す、それだけで十分だ」

「でも、どう倒すかが問題。敵は強いから」

「そう。ちょっと強いのよ。でも四人居ればどうとでもできるわ」

 

 楯無はすぐさま一つの戦術を三人に伝える。高等な戦術ではないが、故に即席のチームでも十分に扱える内容だ。

 通信は五分と立たずに遮断され、楯無が右腕を薙ぐように振ることで作戦が開始される。

 動き出したのは楯無と簪の姉妹。

 簪が二機のゴーレムⅢの周辺に大量のミサイルをばら撒く。敵に狙いを定めているわけではなく敵の退路を断つことを目的としたミサイル群。

 敵は回避行動を取りつつ、ビームを拡散させ迎撃する。

 ビームの着弾によって爆発するミサイルに混じって楯無が変則的な軌道で五体満足なゴーレムⅢに肉薄する。

 

「でぇい!!」

「はぁ!!」

 ミサイルと楯無に集中していた敵はひっそりと側面から迫っていた一夏と箒に襲撃される。

 狙いは右腕を失い、ビーム砲だけになったゴーレムⅢ。

 僚機が援護に向かおうとするが、楯無の蛇腹剣が右腕に絡みつき、反対の方向に投げ飛ばされる。そして飛ばされた敵にミサイルが迫り、ゴーレムⅢは爆発に飲み込まれる。

 

「任せた!!」

 

 何をとは言わなくてもいい。一夏と箒が隻腕をゴーレムⅢを巧みに翻弄するのを横目で確認して、楯無は即座に爆炎から抜け出したゴーレムⅢに斬りかかる。

 相手との距離が生まれれば、横から簪が荷電粒子砲で動きを遮り、もしも簪に目標を変えようとすれば背後から組みかかり引きはがす。

 芸術点は低いだろうが、今は見目を気にする余裕はない。

 ランスが左腕を穿ち、荷電粒子が頭部を焼き潰し、ミサイルに足踏みしたところを蛇腹剣が装甲を砕き、薙刀が右足を切断する。

 

「さよならぁ!!」

 

 ランスを胸に突き刺し、先端の砲口からありったけの弾丸を撃ち込む。爆音と破砕音が鼓膜をいっぱいに震わせ、薬莢が次々と吐き出され地面を叩く音が微かに聞こえてくる。

 最後の弾丸を吐きだし、ランスの先端には無理矢理掘削された胴体がぶら下がっていた。

 やったか。

 肺に溜まった熱しきった息を吐きだし、すぐさまもう一つの戦いに目を向ける。

 

「終わりだ!!」

「落ちろ!!」

 

 紅白がゴーレムⅢを前後から斬り込み、装甲を喰い破って破壊する。

 ゴーレムⅢは沈黙した。残りは、少女を嬲る敵だけだ。

 四人は目配せをすると、一斉に飛び立った。

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