式の展開1
「先生、問題を解く手が止まっています」
「……」
「わからないなら、素直に言えばいいじゃないですか」
「仮にも、先生だからね……そう簡単に諦める訳には」
「そうですか……」
「……」
「……」
「ケイちゃん……」
「だから!初めから頼ればよかったじゃないですか!」
「ごめん!」
「変な意地を張ろうとするからです」
「何かあれば聞いてくれれば答えますから」
「本当にありがとうございます!ケイちゃん大好き!」
「……はあ。変なこと言ってないで早く手を動かしますよ」
「それで、この問題ですよね」
問 次の式を計算せよ。
(x+y+z)2 - (x-y-z)2 + (x-y+z)2 - (x+y-z)2
「先生、ノートを数列で埋め尽く遊びはやめてください」
「遊び……?」
「力任せにすべて展開するのをやめろと言っているんです!」
「言ってないよね?」
「ああ!もう!揚げ足取ってる暇あったら黙って聞いててください!」
「この式をよく見てください。各項の中に似たような文字……共通のパーツが隠れています。これらをまとめて処理してください」
第1項:{x + (y+z)}2
第2項:{x - (y+z)}2
第3項:{x - (y-z)}2
第4項:{x + (y-z)}2
「ここで、A = y+z 、 B = y-z と置換します。これにより、手間が大幅に軽減されます」
(x+A)2 - (x-A)2 + (x-B)2 - (x+B)2
「それぞれ展開をして、整理してください。さすがに先生でも (x+A)2 - (x-A)2 = 4xA になることは計算できるはずです……大丈夫ですよね?」
「先生、和の平方と差の平方の差は、一次の項だけが残ります。理解しておいてください」
(x2 + 2xA + A2) - (x2 - 2xA + A2)= 4xA
(x2 - 2xB + B2) - (x2 + 2xB + B2)= -4xB
「最後に、A と B を元の形に戻して結合します」
4xA - 4xB = 4x(A - B)
「A - B を計算すると」
(y+z) - (y-z) = 2z
「なので、最終的な計算結果は」
4x × 2z = 8xz
A, 8xz
「……以上です。複雑に見える式も、共通パーツを見つければ、実際の計算量は最小限で済みます。」
「この手の考え方が身に付けば、様々な計算を楽に片付けられるようになります」
「ほへー。為になるな~」
「先生、ペンを置くのはまだ早いです。忘れないうちに、もう一問解きましょう。……わからなかったら、また教えますから」
「やっぱケイちゃん大好き」
「うるさいです!!!!!」
「次の式はこれです。」
問 次の式を計算せよ。
(a+b-c)2 + (a-b+c)2 + (a-b-c)2 + (a+b+c)2
「……気づきましたか? すべての項に a が含まれてます。また、後半の b と c の符号だけが入れ替わっています。」
「先程のように、各項の中に共通のパーツををまとめて処理しましょう」
第1項:(a + (b-c))2
第2項:(a - (b-c))2
第3項:(a - (b+c))2
第4項:(a + (b+c))2
「ここで、X = b + c 、 Y = b - c と置換します。一問目と似たような動きですね」
{(a+X)2 + (a-X)2} + {(a+Y)2 + (a-Y)2}
「先生、和の平方と差の平方の和は、二乗の項だけが残ります。これも定石です」
(a+X)2 + (a-X)2
= 2(a2 + X2)
(a+Y)2 + (a-Y)2
= 2(a2 + Y2)
「よって、式全体は 2(2a2 + X2 + Y2)となります」
「X と Y を元の (b+c) と (b-c) に戻します」
2 { 2a2 + (b+c)2 + (b-c)2}
「ここも先程と同じで、 (b+c)2 + (b-c)2 = 2(b2 + c2)ですね」
2 { 2a2 + 2(b2 + c2) }
「最終的に括弧を外して計算完了です」
A, 4a2 + 4b2 + 4c2
「……以上です。先生。分かりましたか?」
「――うん!」
「……取りあえず、これからも教えますね」
一問目は奈良大2000年の類題です。