転生したら透明人間だったのでヤりたい放題する 作:TS貞操帯
「
30歳の誕生日、先日あった会社の大規模パーティーにも呼ばれず、俺を軽々追い抜かしていった部下からそんなことを言われた。
そんなこと、俺が一番よく知っている。
生まれは平凡な家庭だ。
父は公務員で母は専業主婦。昔ながらの亭主関白であり、日曜日は椅子から動かなかった。
長男として生まれた俺は、西本
後から知ったが、東名、という地名で両親は出逢ったからだそうだ。
そんな余談はさておき、幼いころから物静かな家庭で育ったことが要因なのか、一日も言葉を発しない日が多かった。
母は父の命令に頷き動き、父は目線とカタコトのような言葉だけで母を動かす。
そんな両親を見ていたからか、俺は言葉を話すのが遅かった。
精神的な問題だろうと医者は言っていたが、脳内ではお喋りさんだったことをよく覚えている。
ただ友達付き合いはそれでは成り立たない。
会話もせず、ニコニコするのも苦手だった俺は幼稚園ですぐ腫れもの扱いとなった。
小学生、中学生でも影が薄く、名前の通り、俺は透明人間のようだと揶揄された。
ただ幸い虐められることはなかった。しかし、誰からも構われないのも寂しいというものだ。
こんな自分が嫌で変わろうとしたことはある。
だが、三つ子の魂百まで。俺は、そう簡単には変われなかった。
そのまま退屈な人生を歩んだ。晩婚だったので両親とは早くに死別。最後の言葉は特になかった。
そんなこんなで会社に就職。淡々と事務仕事をこなす俺は重宝されたが、会社の飲み会や昇進にはてんで縁がなかった。
当然、恋人なんて出来たことはない。仲のいい友人は中学時代にいた鉄道の好きな田中くんくらいだ。
彼も今何をしているのかはわからない。
「……俺の人生って何のためにあったんだろうか」
30歳。男としてはまだまだかもしれないが、10代20代と何もなかった俺からすればもはや緩やかどころかこのまま転落の一途をたどるのは目に見えていた。
特に趣味というものはない。だがやはりモテたいという気持ちだけは沸々とどこかにあった。
キャバクラや風俗に行こうと思ったことある。実際キャバクラには何度かいったが、何回通っても誰も覚えてくれなかったので辞めた。風俗は、入り口でいつもUターンした。理由は、なんかドキドキ怖くて。
スーパーで缶ビールとショートケーキを購入した。
「ポイントカードありますか?」
これを聞かれるのは三十回目だ。いつも同じ。俺は持っていない。
いや、実際は持っているのだが、出しても気づかれないことが多くて面倒で辞めた。
「持っていません」
「ソッすか」
スーパーを出て缶ビールを開ける。
ごくごくと喉に炭酸が染みわたり、胃にストンと落ちて幸せを感じた。
「いっそのことマジで透明人間ならなあ……」
名前と境遇のせいか、何度も妄想したことがある。
透明人間ならしたいことが何でもできる。
コンビニでお金を払わなくていいだろうし、仕事だってしなくても大富豪の留守中に家でのんびりすればいい。いや、誰かいても息を殺していればいいだろう。
そして……あんなことやこんなことも。
なんて、こんな妄想しても意味はないが。
それこそ人助けだってできるだろうな。
歌舞伎町とか歩いていたら暴力事件も多いし、影の英雄、何てのも楽しいかもしれない。
「いっそのこと異世界で透明人間になりてーよ」
呟き。そんなことを言った数秒後。
俺は、トラックに撥ねられた。
「先輩、今なんかハネませんでしたか?」
「猫かなんかだろ」
と、最後に聞こえた…………。
――――
――――
――――
チチチチ。
鳥の声が聞こえて目を覚ます。
目に見えるのは青空と木々だ。風が可視化されるかのように柔らかく肌を撫でる。
キャンプ? え? なにこれ? え?
「ど、どこだここ!?」
ハッと起き上がって周りを見渡す。そこは、森だった。
いやほんと、そうとしかとらえようがない。
だが不思議だったのは、どこか日本とは思えなかったことだ。
木々の感じも見たことないし。不安になった俺は近づいて木の実のようなものをジッと見つめる。
「……なんだこれ」
ドラゴンの形の七色のフルーツだ。
こんなの
そこでハッとなる。まさか、異世界に転生……なんて。
「ありえないか。いやまて俺、トラックに撥ねられ――」
心臓の鼓動がとてつもなく早くなる。誰かに会いたくてその場から逃げるように走る。
怖い、怖い怖い。
ここはどこだ、誰か、誰か――。
「ギギギ?」
そのとき、ゴブリンがいた。
緑色の小型の人間。ちゃんと右手に棍棒を持っている。
作り物に見えなかったのは、なんかわからんが空気感だ。
俺は思わず足を止め、ゴブリンと視線を合わせた。
「……ギギ?」
だが、ゴブリンはまるで俺に気づいていないかのように首を傾げた。
それからあくびをし、そのままどこかへ行く。
なんだったんだあいつは……のんびり屋さんなのか?
不安と不思議な感覚に陥っていると、奥に小川が見えた。
喉の渇きにも気づき、ゴブリンに気づかれないように小走りで向かう。
「はあはあ……」
手で水を掬って飲む。冷たくて気持ちがいい。さっきまでビールを飲んでいたが、やはりこういったときは水が一番いい。
「……あれ」
小川に視線を戻すと、なんだか不思議だなと思った。
その理由に気づいたのは、小さな違和感だ。
やがてそれが大きくなり、俺の心臓はさらに鼓動した。
――俺が、映っていない。
「は? は?」
後ろの木々は見える。にもかかわらず、俺だけがまるで忽然といないようなのだ。
――『いっそのことマジで透明人間ならなあ……』
まさか、と思って近くに落ちている石を拾う。
そして小川を覗き込むと、なんと、石だけが明らかに浮いていたのだ。
「嘘だろ。おい、おい!?」
だが説明がつかなかった。木の棒にしても、枯葉をまき散らしても、俺だけが映っていないのだ。
まさか、本当に透明人間に……。
いや、ありえる。
そもそも、ここはなんだ。夢か?
不安と同時に妙な感覚に陥る。おそらくこれは好奇心だ。
もし、もし異世界で透明人間だったなら……色々できるんじゃないか。
今まで妄想していたことが、現実に……。
誰からも見られないのはつらいが、そんなの今までの経験と同じ。
……街とか、探して、みる、か?
「や、やめてえええええええええええええええええ」
そのとき、女性の叫び声が聞こえた。
テレビでしか聞いたことのない心からの叫びだ。もしかしてさっきのゴブリンか!? と思いながら急ぐと、そこはまさに修羅場だった。
聖女のような恰好をした女性が、男たちに襲われかけていたのだ。
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