本作は召喚されたのが日本ではなくスペインだったら?という感じの内容です。
綺麗なオレンジ色の夕日が、石畳に描かれたミロのモザイクをきらきらと照らし、ランブラス通りは今日も賑わいを見せていた。
パエリアの香ばしい匂い、ギターの軽快な音色が通りを歩く人の心を愉快にさせる。
「パパー!こっちこっち!」
「こらこら、そんなに慌てて走らないよ」
子ども連れの親子も広場で遊んだ帰りにも関わらず、心から楽しそうな笑みを浮かべていた。
バルセロナ市のシンボルであり、世界遺産でもあるサグラダ・ファミリアの前でも、観光客が写真を撮り、普段からここを通る人も夕日に照らされる雄大な建造物を見上げていた。
スペイン北西に位置し、「大聖堂のビーチ」と称されるアス・カテドライス・ビーチも普段と変わらない風景を描いている。
波の侵食によって造られた高さ30メートル以上の巨大な岩のアーチや洞窟が、まるで教会の円蓋のように見えることからその名がついたビーチは、観光客が巨大なアーチの間を歩いたり、洞窟の中を散策したり、地元の子どもたちが砂浜を駆け回って遊んでいる。
その時、至る所で異変が起き始めた。
「……あれっ?スマホが圏外?」
「電話切れちゃったんだけど………」
「本部へ、無線が………え?なんです?よく聞こえません。もう一度どうぞ」
「……ありゃ?潮見表だとまだ潮が上がってこないはずなんだが……」
「おーい主人、テレビがなんかおかしいぞ」
『速報で………衛星通信…途切れ……した。政府………が……確認を―――』
空が、わずかに揺れた。
夕日が消え、空はいつになく奇妙な色を帯び、街全体を一瞬照らした。
あらゆる電子機器の電源は消え、市民の混乱が最高になる。
「なっ、何が起きたんだ!?」
「画面が真っ黒になったぞ!」
「本部へ!今の光はなんだ!応答しろ、聞こえるか!」
市民が我先にと建物の中に逃げ込み始め、サイレンを鳴らした警察車両や治安警備隊が国の至る所を走り回る。
その時、町中で警報音が鳴り響き、警官の無線機に一斉に連絡が入った。
『本部から各局、BOEが更新され、憲法第116条 組織法4/1981*1が発令された。戒厳事態である第32条から第36条*2を適用する。これは訓練ではない。屋外にいる民間人を直ちに近くの建物に避難させろ。』
「………嘘だろ?今まで一度も発令されたことがないのに……」
「落ち着け新人。これから我々警察は軍の指揮下に入る。とりあえず民間人の避難だ!」
「りょ、了解!」
スペイン史上最大規模の混乱が始まった。
「ど、どういうことだ……?ここから先はフランスのはずだろ?………なんで海なんだよ」
治安警備隊員の一人が困惑した声を出す。
それもそのはずだった。
彼が乗っている巡視船艇はピレネー山脈のフランス側にいるのだ。
前に見えるのは高さ約3000mの崖である。
「国境に沿って綺麗になくなっているらしいぞ」
「……てことはフランスは消えたんですか?」
「ポルトガルもアンドラも消えたらしい……」
隊員は周りを見回す。
自分たちの他にも巡視船艇は何隻もおり、遠くには海軍のフリゲートも見える。
上空には先程から警察のヘリや航空宇宙軍の早期警戒機やF-18 ホーネットも飛んでいる。
「……ん?…了解。……応援要請が来たぞ。ピレネー山脈の麓から3kmの範囲を封鎖するらしい」
「わかりました!すぐに向かいましょう!」
「よしその息だ………お、おい!崩れるぞ!」
崖の一部が崩落した。
スペイン王国・首都マドリード
モンクロア宮殿、災害対策本部
「衛星からの信号ロスト!各省庁は情報の伝達を早めてくれ」
「116条 組織法4/1981発動から2時間経過。全国の逮捕者は17人増加で合計42名」
「ピレネー山脈で起きた崩落による津波に巡視船艇2隻が巻き込まれました!」
「バルセロナの一部で暴動が起きている!海兵隊からも応援を出してくれ!」
職員たちが室内を動き回り、机の上の電話は鳴り止むことを知らない。
かつてないほどの大混乱に対策マニュアルなどあるはずなく、適切な判断が出来ずにいた。
その時、扉が大きく開く。
「首相、フランスとポルトガルが消え、世界各国と連絡が取れなくなりました。現在、航空宇宙軍と海軍が周辺の捜索を開始していますがまだ何も得られていません」
「隣国が消えたのがよくわからないな。軍は動かせる部隊は全て動かせ!各地の被害状況を整理し、戒厳事態は3日延長する!」
スペイン王国首相のガルシア・アルカサールは部屋全体と見回すと
「全員、冷静を保て!明日の昼までには状況をまとめ、国民に公表する準備を行う!」
「「「はい!!」」」
「よし、その調子だ。……国防大臣、何か発見はあったか?」
「いえ、まだ何も確認出来ていません。ずっと前からロタ海軍基地の米海軍第6艦隊がうるさいぐらいです」
「アメリカ人には情報共有ぐらい行っておこう。外務省は?各国大使館と連絡は取れるか?」
「本国と連絡が取れなくなった瞬間に電話をかけ始めてきたんですよ。どこの大使館も自国の外務省と連絡が取れないって」
この状況に外務大臣は肩をすくめる。
ガルシアは各地で起きている被害報告が書かれた紙を見るとすぐさま次の指示を出した。
「とりあえず保健省に連絡して各地の病院の状況を聞こう。治安維持と同じく最優先で行ってくれ」
「わかりました」
補佐官が離れるとガルシアはスーツのポケットからスマホを取り出す。
異変が起きた時に落としてしまったスマホは画面が割れていたが幸い、問題なく使えた。
どうやらWi-Fiなどは問題ない様だが、海底ケーブルが切れたのか、海外のサイトが見れなくなっている。
「私が首相の時にこんなことになるなんてな………マルコス国防大臣か。どうかしたのかい?」
「先程、北に向かった早期警戒機から陸地を発見したと」
「北?北欧とかについたかい?」
「いえ……それが……」
マルコスはまだ納得のいっていない表情で言った。
「都市や船舶が確認できないんです」
「どういうことだ?」
「とにかく、国防省へお越しください!」
ガルシアが護衛に囲まれて宮殿の外に出ると、サイレンや爆発音が響く都市が待っていた。
十数分前
大西洋沖?上空3200m
「なぁ、船の一隻も見えないぞ?レーダー員、何か映ってるか?」
「……何も映っていません、機長」
レーダー員からの報告に指揮操縦士はため息を吐く。
隣にいる副操縦士も似た様な表情をしている。
『ウィスキー2-1、そろそろ帰投しても良いんじゃないか?』
彼らが操縦しているP-3M オライオンを護衛するEF-18Mのパイロットから無線が入ってきた。
「エコー1-1、数分だけ………待て、奥に見えるのは……陸地じゃないか!」
『おお!本当だ!』
「司令部へ、こちらウィスキー2-1。北に827km地点で陸地を確認した」
『了解、写真を撮ったら帰投せよ』
数分するとはっきりと陸地が確認でき、街のような場所も発見した。
「………俺たち、タイムスリップでもしたのか?」
地球とは全く違う建築物を見た全員が言葉を失う。
しかし次の瞬間、ボーっと街を眺めていた目が計器に引きつけられた。
『
「2時方向…………あれは、ドラゴン…?」
『ドッグファイトか?』
「攻撃許可は出ていない!写真撮って撒くぞ!」
この写真が、スペインに混乱を巻き起こした。
読んでくださりありがとうございます。
本作は『トリコロールの旗を掲げて』と交互に投稿していけるように心がけていきます。
そして、スペイン王室についてですが、原作の皇室同様にデリケートな問題になるので登場は控えさせていただきます。
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