かませ貴族に転生した?ごめん、俺はこのゲームを100万回やり込んでるから!鍛えた剣技で勇者をフルボッコにする   作:カザキ

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第1話 そのスキルは3万回は見た

「……聞こえているか? シャルロット家の次男坊。アリア様のような方が、魔力を持たない無能の婚約者だなんて、この世界の損失だと思わないか?」

 

 静寂を破るように、高圧的な声が訓練場に響く。

 目の前で抜かれたのは、装飾過多な剣。

 

 放たれる光の粒子に、周囲の新入生たちが

 

「おおっ……!」

 と息を呑む。

 

 得意げに唇の端を釣り上げるのはローラン。魔王を討ち果たすと伝えられる勇者に選ばれた少年だ。金髪をなびかせ、俺を指差す。

 

 彼は俺の大好きだったゲーム『ユアストーリー』の主人公である。

 

 本来ならこの学園で「かませ犬」の俺、レイン・シャルロットを叩きのめし、『聖剣』でもあるアリアを救い出す……というイベントの真っ最中である。

 

「聞こえているのか!」

 

「……ああ。聞こえているよ。少し声が大きいな」

 

 俺――レイン・シャルロットは、静かに溜息をついた。

 事の起こりは、入学式の直後だ。

 中庭で婚約者のアリアと歩いていた俺に、この勇者様が絡んできたのが始まりだ。

 

 大方、アリアに一目ぼれでもしたのだろう。

 

『魔力を持たない劣等生に、アリア様は相応しくない。僕が勝ったら婚約を破棄しろ。シンシア様の婚約者は今日から僕だ』

 

 ……あまりに聞き飽きた台詞だ。

 少なくとも1万回はこの展開だった。一言一句全く同じ。

 

 正直な話、婚約者をもっていくなら別にどうぞ、って感じなんだ。あとは若い者どうしてしっぽりと、年寄りはとんずらさせてもらおうかな、という心境である。

 

 とはいえ、本当にいなくなったら俺がアリアに大目玉を食らうし、ローランも俺をこの場から逃がす気はないだろう。

 

「しかし、改めて見たが実に覇気のない顔つきだな! 長男に才能が吸い取られた次男坊という噂は本当らしい」

 

 しかし、この高圧的な言いよう、というかシンプルにクズな言動。

 今回のローランは少し外れ(・・)かもしれない。

 

 

「ふはは、そのなまくらで、僕に勝てると思っているのか!」

 

 訓練用の鉄剣を構える俺を嘲笑する。俺は手入れもされていない鉄の棒をぶらりと下げた。

 

 

「勝てるかどうか、なんて考えたこともないな」

 

 勝敗を気にしていたのは、遥か過去だ。

 

 

「はっ! そうだろうとも! きみ如きが僕に勝てるわけがない!勇者の僕に!」

 

 ヒートアップするローランに聞こえないように俺は声を潜めて呟く。

 

「―――ああ、どうでもいい……」

 

 

 ローランが吠えながら踏み込んだ。

 

「聖剣技――『シャイニング・エッジ』ッ!」

 

 

 派手な光の粒子が舞い、観客席から悲鳴が上がる。

 

 速度、威力、判定。流石は主人公。それは本来悪しき存在から人々を守るための白亜の剣。その奔流が俺に叩き込まれんとする。

 

 普通なら、ここで俺の剣は砕け、俺は無様に地面を這いずることになる。

 

 だが。

 俺は―――。

 

 

(そのスキルは4万回は見た……)

 

 

「……右足の踏み込みが三センチ甘い。魔力の集束に0・5秒のラグ。剣を高く掲げる動作、見え見えだ」

 

 俺は、一歩だけ動いた。

 横に避けるのではない。剣の軌道の「内側」。ローランの懐へと潜り込む。

 

 ローランの目が見開かれる。

 光の刃が、俺のいたはずの空間を虚しく切り裂いた。

 

 

 

 ―――システム上の判定をミリ単位でズらす、フレーム回避。

 

 

 

 

 

「なっ――消え……っ!?」

 

「消えていない。……ここだよ」

 

 俺は鉄剣をローランの鳩尾に最短距離で置いた。

 ヤツの勢いはそのまま自分に帰ってくる。

 

 

 ドォォォォン!

 

「ガハッ……!?」

 

 勇者様が、情けない声を上げて地面を転がる。

 

 俺は追撃の手を緩めない。

 数えきれない程回繰り返した結果、脳細胞に染みついた技術が、思考を挟むより速く最適解を導き出す。

 

「立つのを急ぎすぎだ。まだ硬直が残ってるぞ」

 

 倒れ込み、体勢を立て直そうとするローランの手首を、鉄剣の腹で叩く。

 

 聖剣が手から滑り落ち、カランと虚しい音を立てた。ローランは折れた手を庇いながら、地面に這いつくばる。

 

 あまりにもあっけない幕切れかもしれない。

 血走った眼でローランが俺に尋ねる。

 

「な、なんだ、今の……何をしたんだ……!?」

 

「お前だって気が遠くなるほど練習すればできるようになる」

 

 

 周囲は水を打ったように静まり返っている。

 

 やがて、ざわめきが起こる。

 

「すげえ! レインの奴、ローランに勝っちまいやがった!」

「一体どうやって!」

「レインは魔力をもたないはずじゃなかったのか!」

「実際魔力は使っていないぜ!」

「うそだ! 何か秘密がある筈だ!」

 

 なぜ、魔力を持たない『かませ犬』の俺が、聖剣に選ばれた勇者を圧倒できるのか。観客席の連中は、ありもしない隠された魔力や禁忌の秘術を疑っているのだろう。

 

 だが、そんな大層なものは持ち合わせていない。

 

 ただ、俺は繰り返しただけだ。

 

 ―――VRRPG『ユアストーリー』、略してユアの世界を。

 

 ユアの世界観は古き良きファンタジーであり、世界を脅かす魔王と人間の戦いが描かれる。

 

 特徴として、高精度のAIを導入し、周回する度にNPCやマップ、ストーリーが変化することがあげられる。自分がどこの出身でどんな出自であるのかすら変化する。

 

 一度たりとも同じゲーム体験はない。

 

 ―――「これはあなただけの物語」とはユアのキャッチコピーだ。

 

 もっとも、ゲームの1週目は固定でローランを主人公としてプレイすることになり、皆同じゲーム体験をすることになるのだが。ユアの真価が発揮されるのは2週目以降だ。

 

 俺はこの世界に転生者として産まれおちた。

 

 元々、俺はただのゲーム好きのサラリーマンだった。

 それが何の因果がユアの世界に転生したのだ。

 

 

 それも一度ではない。

 

 

 今回で―――100万回目になる。

 

 100万。1が100万集まった数が100万。

 

 ある時は英雄として、ある時は裏切り者として。

 そして今回は、物語の序盤で退場する無能な悪役かませ貴族として。

 俺は、この世界を一〇〇万回生き抜いてきた。

 

 一〇〇万回、剣を振り。

 一〇〇万回、敵を斬り。

 一〇〇万回、この世界の結末を見届けた。

 

 魔法の才能? そんなものは必要ない。

 

 全スキルの予備動作、全フィールドの地形、全モンスターの思考パターン。

 それら全てを細胞に刻み込んだ俺にとって、『勇者』の剣技など、読み飽きた絵本をこれまたゆっくりと見せられているようなものだ。

 

 そんな俺の内心をしらずに、ローランは俯いている。その表情は金髪で見えない。

 

「……約束だ。負けた方は、二度とアリアに近づかない。……いいな、勇者様?」

 

 その言葉で、何かを思い出したかのように、ローランはがくりと項垂れた。もっとも、敵愾心が消えたわけではないことはその鋭い瞳を見れば分かる。

 

 

 踵を返すと、訓練場の入り口に、銀髪の少女――アリア・ヴェーダが立っていた。

 

「……まあ。お前が約束を守ろうがどうでもいいが……」

 

 俺は剣を放り投げ、興味を失ったように背を向けた。

 

 ああ、もうどうでもいい。

 

 

 訓練場の入り口でアリア嬢が本面の笑みで俺を待っていた。銀の髪に銀の瞳、容姿はまるでお伽の国の妖精のようだ。

 

「――素晴らしいわ、レイン! 流石は私の婚約者ね!」

 

「そう言って貰えると働いた価値はあったと思える」

 

「それにしても、いきなり貴方に決闘を挑むなんて――勇者さまは一体どうしたのかしたら」

 

「かませ貴族が麗しの君の横にいるのが気にいれなかったんだろう」

 

「今日じゃなくても……というか、かませ貴族?」

 

「俺のことだよ。魔力なしの能無しかませ貴族」

 

 アリアは口を尖らせた。

 

「貴方はまたそうやって。あまり卑下するのはよしなさい。貴方自身の価値だけじゃなく、周囲の人の品格を下げるわ」

 

 正論だった。ぐうの音の出ない正論に俺は弱い。別に強い人間も殆どいないだろうが。

 

「悪かったよ」

 

 にやりと、アリア。

 

「それにしても決闘を勝ち抜いた貴方には何か褒美が必要ね」

 

「いいよ、別に」

 

「あ、でも! アレはだめよ! とっておかなくちゃ! というか、こんな公共の場ではしなたないわ、レイン!」

 

「俺何も言ってないぞ」

 

「そうね………」

 

「では、握手をしてあげる。嬉しいでしょ!この私の握手よ!」

「嬉しいなぁーー」

 

 そう言いながらアリアは強引に俺と握手をした。

 

「今生における89回目の握手だ。嬉しいよ」

「数で握手の価値が決まるわけではないわ。大事なのは思いよ。ちなみに私はレインとの89回の握手全てにしっかいりと思いを乗せているわ!」

 

 シンシアは自信満々に言い切った。

 大事なのは思いーーか。良い言葉だ。

 

 しかし、思いだけではどうにもならないものもある。

 

 

 ふと、空を見上げる視界に鳥の群れが見えた。まるで得物を吟味するように、空を旋回し、ゆっくりとこちらに折りてくる。どこかで誰かが気付いた。

 

「この大きさ…魔力…魔族だ!!」

 

 

 

 

 人類の敵。魔族がアメリア学園を責めてきやがった。

 

 

 ―――なるほど。これはいい手だ。

 

 未来ある貴族の子弟がここには集まっている。まだ学生であり、本職の兵士程の戦闘力は有していない。

 

 何より今ここには勇者がいる。魔王を倒すことを宿命づけられた男が。

 

 このアメリア学園は人間界の心臓だ。

 ここを潰せば、そのほかの部分は機能不全に陥る。即ち死ぬ。

 

 魔族がそのような考えの元に行動したかは判断がつかんが、その作戦は慧眼というしかない。入学式と言う慌ただしく警備がどうしても緩む日を狙ったことも見事だろう。

 

 

 ――――とまあ俺は魔族をべた褒めしておいて。

 

 

 

 俺の元に降りてきた魔族を一刀両断したのだった。

 

 

 

「こいつの弱点判定は首の左側……まあどうでもいいか」

 

 

 悲鳴が上がり、勇者ローランすら痛めた腕を抱えて腰を抜かしている。

 そんな絶望の渦中で、俺は欠伸を噛み殺しながら、落ちていたなまくら刀を拾い上げた。訓練用の刀は先ほどの一戦で刃こぼれしてしまった。

 

 そんな俺の背後に、空から降り立った別に魔族が迫る。

 

「……ああ、どうでもいい」

 

 振り向きざまの一閃。

 誰もが「人類の天敵」と恐れる魔族が、言葉を発する暇もなく、左右に泣き別れた。

 

 

 空を見上げる。

 

 蠅虫を連想させた。そんな規模の魔族の群れがこのアメリア学園に卒倒しようとしている。一気に降りてこないのは、魔法のデメリットだろう。時空を一気に超えることができるが、その分魔力消費が激しく大人数は上空で魔道具に魔力を送り続けなければならない。俺も魔王ロールの時に使ったことがある。メリットもデメリットも大きい魔道具だった。

 

 

 それを眼前に収める。今度はかませ貴族として。

 このままでは、アメリア学園は落ちるだろう。

 

 それに対し俺は―――。

 

「ああ、どうでもいい………」

 

 心の底から呟いた。




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