【イナズマイレブン】shout out the ペンギン 作:NEW謝
薄い黄緑色の、ぼろっちい建物が見えてきた。
一階にはクリーニング屋があり、二階と三階が俺たちが生活する施設。
施設で暮らすのは、主に中学生くらいの人たち。
学校にいけない学生が親に入れられたり、そもそもその親が居なかったり……と、理由は様々だ。
これぞイナイレ!て感じの、重たさだな。
本当にイナイレのキャラが居たりするんだけども……。
まぁとにかく、俺にとっては後者だ。
一日五千円と噂の料金も、どうやら神が払ってくれるらしい。
転生する直前に会ったくらいの面識だが、至れり尽くせりの様だ。
──そうこう言っている内に施設の玄関にたどり着いた。
呼び鈴を鳴らして、スタッフさんが降りてくるのを待つ。
鍵が閉まっているのは、生徒が脱走するのを防ぐためだ。
別に凶暴だから脱走するとかではない。
いつ卒業できるかもわからず、プライベートな時間もほとんどない。
中には不安になって衝動的に逃げてしまう生徒もいるのだろう。
俺だって最初は不安で、脱走する夢を見たものだ。
まぁ、スタッフさんたちだって命を預かる以上、必死で探し出す。
……逃げたところで、半日で捕まるのがオチだ。
と、噂をすれば、例のスタッフさんが降りてきた。
「入れ、
「すいません、ありがとうございます久遠さん」
久遠さん……久遠道也さん。
スタッフさんの中でも珍しいネームドのキャラクター。
そう、イナズマイレブン3に登場するあの有名監督だ。
久遠さんは収納庫のカギを開け、扉がしまらないよう足を挟んでくれた。
俺は申し訳なく思いつつサッカーボールをしまう。
「知新、サッカーをやっていたのか」
「っすねー、けど全然下手ですよ。 今日もクロス上げようとして、宇宙開発したところでした」
「そうか」
久遠さんの鋭い目が、一瞬サッカーボールを捉える。
「はい」
……うーん。
気まずい、というか顔が怖い。
スカさないようになんとか言葉をひねり出そうにも、歯の隙間からしか言葉が出ない。
久遠さんの目は、サッカーに対して思うところがあるのだろう。
ただ、俺程度に理解できるものでは無い。
……そこから俺と久遠さんは無言のまま階段を上がった。
ついには細い廊下から共同スペースの光が見え始めた。
「手を洗え。 それから外出の事はあまり自慢しない様に」
「了解しました」
最後にご忠告をいただき、久遠さんとはここで別れる。
久遠さんは共用スペースにある小さいスタッフルームに入り、俺は厨房に入り石鹸で手を洗う。
取っ手にかかったタオルで手を拭いていると、厨房のゴミ箱に豆腐の袋が入っているのを見つける。
うちの施設は日曜日に決まって麻婆豆腐を食べるのだ。
この様子だと、どうやら他の調理係の生徒がすでに作り終えていたらしい。
「六時前……」
調理場から、共用スペースの時計を覗く。
まぁ作り終えるのも当たり前の時間だ。
いつも率先して調理してる分、今日サボってしまった事は許してほしい。
あと6時と言えば夕飯の時間と、早番のスタッフさん。
今日でいえば久遠さんが、用がなければもうすぐ帰る時間だ。
「お先に失礼します」
荷物をまとめた久遠さんが、共用スペースに居る生徒十人くらいに軽く頭を下げる。
その中には娘の久遠冬花の姿もあった。
冬花さんは一度本を読むのをやめて、父親といくらか言葉を交わす。
そして、すぐに小走りで厨房に入ってきた。
「あ、冬花さん、調理ありがとうございました」
「全然いいんです。 係もたくさんいますし日曜日は暇だから」
「本当にすいません。 あ、六時なので夕飯出しちゃいますね」
冬花さんは年下にも敬語を使う。
俺も月が浅いので似たようなものだが、スタッフさんには、人間関係を大切にしていると評価されている。
まぁ俺に親が居ない以上、そんなのなんの意味もないが……。
俺が木でできた少し重たいお盆をカウンターから運んでる間、冬花さんは厨房の窓から駐車場を覗いている。
駐車場では久遠さんの車が動き出すところだった。
原作でもこんなの知らないし、正直何を考えているのかは分からない。
ただ俺にとって、冬花さん絡みの関係は地雷でしかない。
今肉親の記憶を思い出してしまったら、どうなるのか分からないからな。
特に今日は円堂先輩に出会ったばかりだし。
極力近づかないのが吉だ。
────────
夕食を食べると、施設はフリータイムになる。
基本は一台だけあるテレビをみんなで見たり、グループによってはボードゲームや人狼、一人で本を読んでいる人たちもちらほら。
──しかし、今日は日曜日。
「オレはホラー映画がいいです!」
「いやホラーはまた、見られない人もいるとか言われるしさ。 ……アニメ映画の方がよくね?」
リモコンを持って言い合いをするのは、これまたネームドのキャラクターたち。
同い年の「ひろゆきくん(春から尾刈斗中)」と「しんさん(御影専農)」だ。
日曜の夜は、皆で映画を見るプログラム。
せまっくるしい施設の中でせっかくの娯楽をと、自分らの趣味を押し付け合っているようだ。
最終的に決めるのはスタッフさんなのだが……。
──けど俺の班は角に机があるので、わざわざ前に出て話し合いに参加したりはしない。
目の前でパイプ椅子に座る彼もそうだ。
手を頭の後ろで組んで、煩わしそうに目をつむっている。
「ああきおさんはどうですか? 好きなジャンルとかあります?」
「っち、俺か?」
あきおさんは周りを見渡して考える。
そして、隣のテーブルでスタッフさんが人狼に混ざっているのを見つけ、舌打ちをする。
「俺は、こいつらの見る映画なんか興味ねーよ」
「そうっすね」
歯の隙間からしゃべるのは今日で二度目だ。
まぁそりゃそうだ。
この人先週の映画の時間も、暗闇の中でずっと眠たそうにしていた。
そして、八時になった瞬間そっこうで荷物まとめて、三階の四人部屋に帰ってしまった。
……まだ映画の途中だったというのに。
「っしゃー、バイオハザードだぁああ!」
テレビの前からひろゆきくんの声がする。
どうやら今日はバイオハザードの映画を見ることになったらしい。
しんさんもバイオハザードならいいか、という反応だ。
生徒たちも自分の椅子を移動させて、映画を見る準備を始める。
中には学校の教材をもって、自習室にこもろうとする者もいる。
俺自身怖いのは苦手なんだが、バイオハザードなんて見て耐えられるだろうか……。
────────
「面白かった……」
二段ベットの上で、天井のシミを見つめながら呟く。
昔見たCMのイメージだろうか。
バイオハザードが、あんなにもアクションが豊富でかっこいい映画とは知らなかった。
そういえば昔、アイドルのバラエティ番組にアリスが出ていた気がする。
その時も空手がどうとか……。
気にしてないだけで、周りにはいろいろなことが転がっているものだ。
──今日も、本当にいろんなことを経験した。
「まさかあの円堂さんに出会えるなんて……」
この人と一緒に居たい。
円堂さんはそう思わせる魅力のある人だった。
……俺もイナズマイレブンに。
できるなら、その先のイナズマジャパンまで──付いて行きたいなあ。
とりあえず今日も頑張った。
おやすみなさい。