【イナズマイレブン】shout out the ペンギン 作:NEW謝
ようやく、イナズマイレブンの世界へ踏み出すところまで来ました。
踏み出す勇気──境界線の上で
五時半。
厨房で一人、共用の麦茶を作っていく。
空になったポットを丁寧に洗って、中に新しいパックと水道水を流し込む。
ジュースが無いことに慣れてしまえば、案外麦茶が一番おいしいのだ。
まだ俺以外に起きている生徒はいない。
もし目覚めたとしても、わざわざ明かりのない共用スペースまでは降りてはこないだろう。
今日とて、ホント一回か二回誰かが廊下のトイレに寄るくらいだ。
……だがしかし、俺はというと。
「あーあ、カピバラになりたい」
昨日テレビで見た温泉に入ったカピバラ。
おじさんみたいに畳んだタオルを頭に置き、観客など一切気にせずにリラックスしていた。
俺もああいう風に、生まれ変わったらカピバラになって、人目を気にせずゆっくりと生きたいものだ。
まぁともかく、ここ最近ずっと五時ごろに目が覚めてしまうのだ。
朝は体にエネルギーが有り余り、眠る頃には程よく疲れている。
施設に定められた、規律正しく健康的な生活のおかげだろう。
プラスでジョギングを繰り返しているせいで、膝がキリっと痛んだりもするが……。
時刻は六時。
厨房から麦茶を運ぶついでに、共用ルームの窓を覗く。
遠くの河川敷の方から、朝日が頭頂部を見せ始めていた。
その光景は神秘的ではあるものの、極めていつも通りの朝としか感じられない。
「これで、今日が特別な朝だなんてなぁ……」
実感がわいていないのだろうか、今日の入学式に特別な感情を抱けない。
しいて言えば人が多いのが苦手なくらい。
むしろ、さっさと終わって欲しいくらいに思っている。
小学校は親の都合で転校まみれ。
高校には在学していたが、転生直前にはすでに休学中だった。
「雷門中学……」
まさか唯一三年間通い通した中学校すら、二度目の入学を果たしてしまうとは。
俺の人生というのはどうも根性なしらしい。
小学生の時にサッカーを続けていれば、この世界でももう少し楽になったのかなぁ……。
「まぁ、いいか」
行くしかないし。
結果が悪かっただけで、前世でも俺は頑張っていたはずだ。
今回も学校に挑戦しなおすしかない……成長だ。
とりあえず落ち着いて、謎のプリンスの続きでも読んでようかな。
「はい、おはよう」
廊下の方から夜勤の会田さんの声がする。
皆が寝静まっているこの時間……。
会田さんが口にするのは挨拶程度のもの。
と、いう事は、珍しく五時前に誰か降りてきたのであろう。
コツコツとペンギンのように拙く、それでいて気配を感じさせない、怪奇現象みたいな足音が聞こえてくる。
「お、ちしんさんもう起きてんだ」
「あ、えっと、おはようございまㇲ」
足を引きずって歩くのは、いかにも寝起きという状態の「ひろゆきくん」。
ひろゆきくんはまだ目覚めきらない体を、椅子に全部預けるように座る。
これまた不思議なことに、ドシンっと音はしない。
「そうか、尾刈斗中も入学式ですもんね」
────────
施設に定められた朝のルーティンをいくつかこなした後、
遂に俺とひろゆきくんだけ施設から抜ける。
今日の早番は久遠さん。
特例として今日だけ、俺たちを車で学校まで送ってくれるらしい。
「まずはちしんの雷門中、その後ひろゆきの尾刈斗中へと向かう」
久遠さんに促され、俺は後部座席に乗り込んだ。
尾刈斗までの道が複雑らしく助手席にはひろゆきくんが座る。
嫉妬どうこうではないが、こういうイベントごとで特別な席に座れるのはやはりうらやましい。
普段施設じゃ、本を読むくらいしか楽しみがないしな。
まぁ今回は仕方がない、俺は親(神)が参列する設定になっている。
実際に来るわけではないが、親代わりとして施設にお金を払ってくれたりしてる人だ。
しかし、イナズマイレブン1、2をプレイすればなんとなく察しがついてしまう……。
幽谷博之
彼を尾刈斗から引き抜くのはほとんど定石だろう。
ゲームを周回した際、1ではスタメン2でも少なくともベンチには入れていたはずだ。
そんな彼のプロフィールに書いてあったのは、「霊感が強く、有名選手の霊から指導を受けている」みたいな感じだったと思う。
果たして霊感など普通に生きていて身に付くものだろうか。
俺みたいな転生者ならともかく、彼にとって「死」が身近なものだったのではないだろうか。
……俺も民俗学には多少興味がある。
幽谷がこの世界に意味づけをしていくのか、尾刈斗の知識をぜひ学ばせて頂くとしよう。
「行ってきます」
ひろゆきくんが二階の共用ルームに向かって軽く手を振っている。
窓からは何人かの生徒たちも「頑張れ!」と手を振り返していた。
……ああいう日常も、ちょっとだけ羨ましいな。
────────
一人。
足の裏がソワソワする。
周りの幸せそうな空気に、責められてる気になってしまう。
こんな場違いな人間が入学式に侵入してしまって、申し訳ないです。
本当なら、皆さんの十年くらい後に中学生になったクソガキなんです。
原作知識持って幸せな世界を荒そうとしてすみません……。
せっかくガイダンス以来の雷門に来たというのに、運動靴のつま先にしか目がいかない。
河川敷でついた土と汚れてない部分の境界線を観察しながら、頭の中から周りの人を追い出していく。
まぁ、都合よくサッカー部のキャラが近くにいる、なんてこともない。
彼らと同じクラスだったら……いや、逆に違うクラスだったら……。
とにかくさっさと覚悟を決めて、今年度のクラス分けを見るしかないだろう。
ただでさえ混雑していたというのに、クラス票の前は大渋滞だ。
流石私立のくせにマンモス校。
キャラが多すぎるせいで、ゲームに登場したモブキャラがいたとしても気づきようがない。
けど前の人たちも髪型が派手過ぎたり、体格がよすぎることはそんなにない。
お、丁度まえの普通そうな人たちが人だかりから抜けてくれた。
「えーっと、
一組から指差しで確認していくも、水城知新が全然見つからない。
途中一組には少林寺、五組に壁山・栗松の名前を見つけてしまった。
「六組に宍戸、水城はない」
すでにサッカー部一人は確定……。
サッカー部以外の人と仲良くできるだろうか。
これからの学校生活が余計不安になってきた。
そして残るクラスは七八九組。
もう原作キャラと同じクラスになることはないので、潔く苗字が「た」とか「は」で始まる辺りから指をさしていく。
七組……も違う、
「八は日武・伏木~水城・みやs……あった」
え~一年八組二六番・水城知新……爆誕!
流石に俺が異物過ぎて、クラスにも入れてもらえない……。
そんな目にあうことは避けられた。
「……もう、やるしかないよな」
のどに詰まった空気を、ごくりと飲み込んだ。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。
ようやく雷門まで足が伸びました。
ここまで来られたのも、読んでいただいているおかげです。
引き続きよろしくお願いします。