さーて、曇らせるぞォ(白目)
それから、丸一日が経った。天之国の復興はかなり進み、既にいつも通りの日常が戻りつつあった。
「いい眺めだろ。俺のおすすめスポットだ」
「おぉ………確かにいい眺めじゃ!」
仕事も粗方片付き、暇になったエニシは昨日からずっと気の沈んでいるネーティルをゴリ押しで城から引っ張り出し、三日前に妖狐狩りを決意したあの櫓の上へと連れてきていた。潮風が頬を撫で、活気の戻ってきた町並みを眺め、ネーティルは少しだけ明るい表情へと戻る。
「どうだ、ずっと部屋にいるより、こうしてた方がすっきりするだろ」
「………すまんな、心配をかけて」
「気にすんなって。言っただろ、お互い様だって」
「─────そうじゃな」
エニシの優しい言葉に、ネーティルは何処か寂しげな笑みを浮かべる。当のエニシもそれには気づいていたが、彼女に気を遣ってか、そこを訪ねることはしなかった。
お互い景色を眺めながら、しばし無言の時が過ぎる。そしてそれを破ったのは、ネーティルの静かな問いだった。
「………なぁ、エニシ。一つ聞いても良いかの?」
「お?どうした?」
「お主は、輪廻転生、というものを信じるかの………?」
どくん、とエニシの心臓が一段と脈打つ。縋るように絞り出された彼女の問いを聞き、エニシは2つの感覚を覚えた。
─────まず一つは、純粋な疑問。そのような事は今まで何も考えてこなかった為、急にそんな事を聞かれ、エニシは戸惑う。
─────もう一つは、謎の不快感。まるで、それについて考えることを阻まれているような、喉元まで出かかっているものが、何かに突っかかって出てこないような、何とも言えない気持ちがエニシの心を支配せんと広がっていく。
自分はどう答えるべきなのか、何を言うべきか、彼女になんと伝えるべきなのか。その答えを知っている筈であるのに、エニシにはそれが何なのかが分からない。まるで、自身の胸の中に手を突っ込まれ、かき回されるような気持ち悪さに、彼は冷や汗をかく。
「ネーティル………それ、は、どういう─────」
とうとうエニシは耐えきれず、ネーティルに質問の意図を尋ねる。
しかし、城下町から突然聞こえてきた爆発音に、質問は途中で遮られる。
「何じゃ!?」
見ると、町の外れから大きな炎が立ち昇り、辺りの町民が逃げ惑っている。そして、その中心にいるのは、二日前の夜、この町を襲った、武士を模した巨大な黒き機巧。
「あの時の奴か!?」
GG-040ガンゲット・ジェネラル。一度城下町を焼き滅ぼしかけたその機体が、僅か二日ほどの間隔で再び奇襲を敢行してきた。
しかし、冷徹に町を破壊し、人々を蹂躙せんと暴れていた前回とは違い、今回はまるで藻掻き苦しんでいるかのように、我武者羅に槍を振り回している。
「また性懲りもなく………ッ!行くぞネーティル、ガンゲットで迎え撃つ!!」
「言われなくとも分かっとる!」
二人はすぐに櫓から飛び降り、城の中庭に停めたガンゲット・ネーティルへと急いだ。
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町を破壊され、民が逃げ惑う光景を、1週間と経たずに2度も見ると誰が思っただろうか。
幸い、前回と比べて、エニシが最初から国にいた事と、ガンゲットにすぐ搭乗したことも相まって、町への被害は少なめの状態で、2機の交戦が始まった。
「おぉぉぉぉォォォォォォォォォッッッ!!!」
ガンゲット・ネーティルのビームソードと、ジェネラルの崩我雷槍の刃がぶつかり合い、辺りに火花を飛び散らせる。お互いのコンディションは良好、殆ど互角の鍔迫り合いがしばし続いた後、お互いにバックステップで後ろへ飛び退き、獲物を構えたまま睨み合う。
「こいつ………この間より強くなってるのか!?」
「敵もなりふり構ってる場合じゃないのじゃろうな。こちらも油断せずにゆくぞ。………それと、くれぐれも─────」
「一人で突っ走るな、だろ?分かってる。一緒に立ち向かってやろうぜ!!」
「………っ、あぁ、任せるのじゃ!」
(例え、別人同然であろうと、儂は、エニシとなら………!)
ガンゲット・ネーティルの瞳がより一層輝きを増し、出力がどんどん上昇してゆく。既にその出力は高演算発動ギリギリまで高められており、若干だが機体は仄かに緑色のオーラに包まれている。まるで、永い間共にあったかのように、二人のTエメラルドは同調し、その純度を高め合っていく。
『ふむ………やはり事前審査には限界があるか。となれば、この代理は用済みだ』
その瞬間、ジェネラルはもがき苦しむような挙動をしながら、機体の形を変えてゆく。各部の装甲がスライドし、より鋭いフォルムへと変わってゆく。雷のような一対のブレードアンテナは、裏側が上を向くようにスライドし、二対のアンテナとなる。そして、マスク部の装甲が溶けるように分割され、クラッシャーが展開される。
高演算─────それは、乗る者を死に至らしめるほどの力を与えるリミッター解除形態。まるで、死を受け入れるかのように、ジェネラルは躊躇いなくこの機能を発動した。
「高演算………っ!?あやつ、死ぬ気か!?」
「あれは、あの時の俺と同じ………いや、逆なのか─────ッ!?」
驚く間もなく、ジェネラルはガンゲット・ネーティルへと飛びかかり、槍先を喉元に突き刺そうと迫る。
「ッ、クソッ!!!」
エニシは
そして、エニシは左腕を目一杯後ろに引き─────
「だあぁぁぁぁァァァァァァァァァッッッ!!!」
─────装備していた双尾連盾の先端を、ジェネラルの頭部の真下、首関節部へ勢いよく突き刺した。
すぐ上にある頭部も、勢いをつけたことにより大きくひしゃげ、ジェネラルのカメラアイから光が消え、脱力したように崩れ落ちた。
「………え、えにし─────」
「悪い、嫌なもの見せたな」
エニシは、普段と変わらないはずの声で、ネーティルに話しかける。しかし、その声は僅かだが震え、悲しみが交じったものだった。自身が想い、慕う青年が、目の前で
(儂は、また………どれだけエニシに背負わせれば、気が済むのじゃ………っ!!)
ネーティルが自身の不甲斐なさに、血が滲むほどに両手を握り目に涙を浮かべる。
「………厄、災は………すぐ、そこまで………迫って、きている」
「………え」
不意に、接触回線で誰かの声が聞こえてくる。
低い男の声だ。
先ほどまで戦っていた、ジェネラルに乗る男の声。
そして、エニシのよく知っている声
「おや、じ………?」
「守りたい、モノを………守れ、むす、こ、よ………」
そして、エニシはモニター越しに見てしまった。
ひしゃげたジェネラルのコックピットハッチの隙間から、機械によって体を押しつぶされた父親の姿を。
「う、ァ…………ッ」
「ッッッッアアアァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!?!?」
エニシの叫びと共に、ガンゲット・ネーティルは突如、眩い光を放つ。
彼の悲しみを糧に、妖狐は顕現する
次回予告
第八章 妖狐蹂躙