枯れ井戸がある森へと駆け込んだエマさん達を追って、オレも森へと侵入。
「さて……あの子達は一体どこに……」
「カレン……!」
直後、背後からオレを呼ぶ声、振り向くとヒロさん達がオレを追って来たようだ。
「きゅ、急にどうしたんですか……?」
「森にエマさん達が入った」
「エマくん達が森に……
しかし、それはカレンくんとは関係ないんじゃないのかな?」
「まぁ関係はないね。
……ただ、ここらへんには落とし穴みたいになってる枯れ井戸があるんだ。
もしそれに落ちてたらと思って……」
以前キノコか果物でもないかと森を散策していた際に、枯れ井戸に落ちてしまった事がある。
その際は井戸のふちを掴みなんとか復帰した為、大事には至らなかったものの、流石に危ないと『落とし穴注意』と掘った即席の看板を作って注意を呼びかけていたのだ。
しかし看守に追いかけられて余裕のないエマさん達には、看板なんて意味がないはず。
「ふむ、枯れ井戸か……」
「お、落ちちゃったら大変です……」
「エマ、君と言うやつは……」
枯れ井戸に興味を示すレイアさん、三人を素直に心配するメルルさん、なぜかエマさんにブチギレてるヒロさんと反応は三者三様。
だがここに来てレイアさんが「なるほど……分かったよ」と前に出る。
「エマくん達が心配だ。
ここは二手に分かれて行動しようじゃないか!
カレンくんは私と一緒に来てくれるかな?」
「ま、待ってください……!」
オレに歩み寄り、芝居がかった風に膝をつき手を差し伸べるレイアさん。
まるでダンスに誘っているかのようだと頭の片隅で考えてると、メルルさんがオレと彼女との間に割って入った。
「ダメです……い、今のレイアさんとカレンさんを一緒には行動させるわけにはいきません……!」
「……なぜだい?
今は固まって行動するよりも、二手に分かれた方が効率がいい。
それにもしエマくん達が枯れ井戸に落ちてしまった場合、カレンくんとキミの魔法が有用になる。
ならばキミ達が一緒に行動するより、別れて行動した方がエマくんを発見した際に対処しやすいはずだ」
「そ、それなら私がレイアさんと行きます……!
カレンさんはヒロさんと一緒に行動してください!」
「……あぁ、その方がいいだろう。
悪いがレイア、君はメルルと行動してくれ」
「…………」
「あの〜、ちょっといいかい……?」
庇うように間に立ったメルルさんとヒロさんを見たレイアさんは目を細めるが、そんな彼女らにオレはおずおずと手を挙げる。
「……どこに枯れ井戸があったか覚えてるから、手分けする必要ないと言うかなんと言うか…………」
「「それを早く言え(言ってください)!!」」
「サーセンッ!!」
と言うことで結局、レイアさんの思惑を外れ集団で枯れ井戸を確認しに行ったオレ達。
これなら少なくともレイアさんもオレに手を出す事はないだろう。
仮に二人ごと始末しようとするならば、流石にぶっ飛ばすし最悪処刑覚悟で返り討ちにすればいい。
レイアさんとの距離感に注意しながらも足早に森を進むと、やがて看板と人が数人は入るくらいの大きさの穴が見えて来た。
「エマさん達〜、落ちてませんか〜?」
「あ、カレンちゃん!!」
「ナイスタイミングですわ!!」
うっかり足を滑らせないように井戸を覗くと、そこには壁にへばりつきなんとか登ろうとしているエマさんとハンナさんの姿が。
どうやら落ちはしたが怪我はしてなかったようだ。
「エマさん、大丈夫ですか!!」
「全く、人騒がせな……」
「ひ、ヒロちゃんにメルルちゃんもいるの……?
お、お願い! シェリーちゃんを助けて!!」
「シェリーさん?」
「井戸の中にあった枯れ木がお腹に刺さってしまったんですの!!
このままじゃ、シェリーさんが死んじまいますわ!!」
「なんだって!?」
「あっははは〜……ごめんなさい、ちょっと失敗しちゃいました……」
咄嗟にエマさん達の向こう側、枯れ井戸の底を覗くと、壁にもたれかかった腹に枯れ木がぶっ刺さったシェリーさんの姿。
…………。
「や、ヤベェ! ヤバいってこれ!!
え、これシェリーさん死ぬパターン!?
いやいやいやいや、序盤に死ぬような性格じゃない人がこんな所で死にかけてんじゃないよ!!」
「ど、どどど、どうしましょう……このままじゃシェリーさんが……
で、でもここからじゃ治療できませんし…………
うぅ……」
「二人とも落ち着くんだ!
まずはシェリーを井戸から救出しよう」
こう言った場面に遭遇した事がなくてテンパってしまったオレとメルルさんを叱りつけたヒロさんが、枯れ井戸を覗き込む。
「まずエマ! 大至急井戸から脱出して私達を手伝うんだ!
ハンナ、浮遊の魔法を持つ君は一度降りてシェリーを支えてくれ!!」
「そ、そう言われましても……わたくしの魔法では少ししか飛べませんわよ!!」
「飛べること自体に意味がある!
私を信じて降りて欲しい!!」
「……えぇい、どうなっても知りませんわよ!!」
ヤケクソ気味にそう叫びながら、壁から手を離して井戸の底へと飛び降りる。
……シェリーさん踏まないように気をつけろよ?
ハンナさんの行動にヒヤリとしていると、井戸の中の二人に指示を出したヒロさんは、今度はオレとメルルさんを見る。
「カレン、君の魔法で二人の救出を頼みたい!
メルル、君はいつでも治療できるようにここで待機を!」
「お、おう!」
「分かりました……!」
ヒロさんの指示を受け水晶の鎖を近場の木に巻きつけると、それを縄代わりに枯れ井戸に潜る。
それと同時、ヒロさんがジッとその様子を見ていたレイアさんを向いた。
「レイア、君には一番重要な事をしてもらいたい!」
「……一番重要?
私がこの場においてはカレンくんほど役に立たないと思うのだが……どうすればいいのかな?」
「配信でみんなを呼んでくれ!
シェリーを救出するにしても、メルルの治療の間の止血にしても、今は一人でも多くの人の力がいる。
囚人の中で
これは
「っ!!」
レイアさんは目を大きく見開くと、一度目を閉じる。
しばらく目を閉じていた彼女であったが、ヒロさんが急かそうとした次の瞬間にカッと目を見開いた。
「分かったよ! このリーダーである私に任せてくれたまえ!!」
既に枯れ井戸に潜ってしまい外の様子は見えないが、すっかり以前のような声色に戻ったレイアさん。
配信の準備を済ませたであろう、彼女は演技がかった口調で声を上げる。
「やぁキミ達、自由時間を楽しんでいるかな?
申し訳ないが緊急事態につき、君達の手を私たちに貸して欲しいんだ!!」
シェリーさんの元に辿り着いたオレであるが、彼女は枯れ木により地面と縫い付けられている状態。
だからと引き抜いたりしたらすぐに出血でお陀仏のため、ハンナさんと協力して枯れ木の切断を行っていると、突如井戸の中が暗くなった。
上を向くとかつてのような光を取り戻したレイアさんがスマホをこちらへ向けていたため、シェリーさんが見えるように狭い井戸の端へ避ける。
「シェリーくんが枯れ井戸に落ちて大怪我を負ってしまった。
……カレンくん、シェリーくんを助けられそうかい!?」
「木は切れたんだけど、地面が柔らかすぎて足場を作れない!!
だから鎖で引き上げるしかないんだが、今いるメンツだとだいぶ厳しいぞ!!」
足場がしっかりしていれば、以前のフクロウ狩りのように地面に足場を作れたんだが、こうも柔らかいと足場が傾いてシェリーさんが危険だ。
故に鎖で引き上げるしかないのだが、シェリーさんもなかなかの重症。メルルさんにもこっちに来てもらって、付きっきりで治療してもらう必要がありそうだ。
しかし、そうなるとシェリーさんと常に治癒魔法をかけ続けるメルルさんの二人を……いや、二人を支えるハンナさんの三人をまとめて引き上げる必要がある。
オレは三人が落ちたときに受け止める為にここに残ると考えると、エマさん、ヒロさん、レイアさんの三人がかりでシェリーさん達を引き上げる必要があるわけで…………。
「あ、これ無理ゲーだな。シェリーさん死んだわ。
中盤までは生き伸びそうなキャラしてた癖して最序盤で死ぬとかもう笑うしかねぇな。アハハハハッ!!」(錯乱)
「き、気を強く持ちやがれですわ!!」
もはや笑うしかないこの絶望的な状況。
しかし絶賛パニック状態のオレとは対称に、レイアさんは努めて冷静にいつも通り配信を続ける。
「今のを聞いたね? 一刻も早くキミ達の力が必要だ!
……しかし時間が時間だ、私達の元へ来たならば自由時間外の行動により懲罰房行きは避けられないだろう。
しかし今回は人の命がかかっている! 命を助ける為ならば、二日の自由の制限なんて安いものだと思わないかい?
さぁ、我こそはと思う勇者達よ! シェリーくん救出のため、この森の中へ集うんだ!!」
そこまで言って配信を切ったらしいレイアさんが井戸を覗き込む。
「私はこれからここへ来る人達を案内するために、森の入り口あたりで待機する!
カレン、キミも頑張って欲しい!!」
「お、おう!
……メルルさん、シェリーさんの血が止まらないから降りて来て!!」
「わ、分かりました!
で、でもどうやって降りたら……私、鎖では降りられませんし……」
「受け止めるから飛び降りて!
あ、シェリーさんの上には落ちるなよ!!」
「ふぇえ!?」
◇
その後、本当に飛び降りたメルルさんを受け止め、三人でなんとか応急処置を行いながら助けを待ち続けること数分。
とうとうシェリーさんは意識を失い、いよいよヤバいかもと思っていると、地上の方がなんだか騒がしくなってきた。
「みんな、待たせたね! 連れて来たよ!!」
「あ、レイアちゃん、みんな!
来てくれてありがとう!!」
「驚いた。まさか全員来るとは……」
「別に見捨てても良かったんだけど〜。
ザコがどうしてもって言うからさ〜」
「私も懲罰房行きは嫌だったのに、無理やり連れて来られちゃったのよねぇ……」
「だ、だってシェリーちゃんが危ないなら助けないとだし……!」
「いいからとっとと始めんぞ! 急がねぇと橘がヤベェんだろ!?」
どうやらレイアさんの配信を見ていた人達がこぞって駆けつけてくれたようだ。
話を聞く限り行くのを渋っていた人はミリアさんが呼びかけて連れて来たようだが、それでも彼女一人で全員を連れてくるなんて至難の業。
つまりここにいる大半はレイアさんの配信を見ていたと言う事なのだ。
「芸能人すげぇ……オレとかヒロさんとかが配信してもこうはならんだろうに……」
「感慨に浸ってる暇はねーですわよ!
カレンさん、早く鎖の準備を!!」
「っと、そうだな。悪い!」
ハンナさんに叱られ大急ぎで滑車を創造。
手早く鎖で作った輪に三人を巻きつけて合図を送ると、ゆっくりとであるが三人の足が地面から離れていく。
「今だハンナ、浮遊の魔法を使うんだ!!」
「! そう言うことだったんですわね!!
そ、それなら……わたくしの本気……見せてやりますわぁああああ!!」
地上からのヒロさんの指示にハンナさんが顔を真っ赤にしながら力みだす。
直後、重量が軽くなったのか、先程とは比べ物にならない速度で三人は上り出す。
なるほど……ハンナさんの魔法は浮遊、重力に逆らう能力。
引き上げられる状態で使えば、ハンナさんの分の重量は無効化できる上に、なんなら多少はシェリーさん達の重量を肩代わりできる。
ヒロさんが彼女に井戸底での待機を命じたのはその為だったか。
あんな絶体絶命な状況で良くそこまで考えついたものだと感心していると、井戸が明るくなった事に気がつく。
どうやら三人は無事脱出できたようだ。
「カレン、悪いがまずはシェリーを運ぶのが最優先だ!
申し訳ないが君は……」
「無問題! この程度なら自力で登れる!!」
こちとら軟禁生活で身体が鈍ってると判明してから、暇な時間にリハビリトレーニングをしていた。
それにシェリーさんがいないなら、不安定でも足場を作って上がって来れる。
「よっ……と。ふぅ……。
メルルさん、シェリーさんの容態は!?」
「だ、ダメです……木が抜けなくって…………!」
「オレに代わって。なんとか引っこ抜く!!」
「ダメだカレン!!」
メルルさんよりも力が強いオレが抜こうとシェリーさんの元へ向かうと、ヒロさんに止められる。
なんでも抜けるには抜けるらしいが、抜いたら確実に出血が酷くなる。
この怪我の状況を鑑みると、これ以上の出血は本当に危ないらしい。
「てことは刺さったまま血が回復するのを待つのか?」
「いや、木に細菌もあるだろうし、刺さったままでは病気になる可能性が高い。
だから抜いた方がいいんだが……」
「抜いたらシェリーさんは死んじゃいます……」
「……詰みじゃねぇか」
ここでの病気は死を意味していると言っても過言ではない。
しかしだからと言って無理に引き抜いて出血させたら、生還不可能になる可能性が極めて高いか。
ぶっちゃけこのままだと死ぬのだから一か八か引っこ抜いてみてもいいが、仮にそれでシェリーさんが死んだら、シェリーさんを殺した犯人として魔女裁判で吊られる可能性すらある。
みんながいるのだから、あの状況下では仕方なかったと言う展開になるかもしれないが、それが認められなかった場合は、抜いた人が生贄にされる可能性が高い。
「……可哀想だが、シェリーはここまでだろう。
これ以上下手な治療はせず、ここで眠らせてあげたほうがいいかもしれない」
「そんな……シェリーちゃんを見捨てるの!?
それは間違ってるよ!!」
「私だってこんな事は言いたくない……!
でも、これ以上はリスクが高い以上どうしようもないだろう!!
下手に生きながらえて、弱りながら死んでいく……そんなシェリーの気持ちも考えてやれ……!!」
心の底から悔しそうに叫ぶヒロさん。
彼女も助けてあげたいのだろう。
しかしこれ以上助かる見込みがないなら、下手に生きながらえさせて苦しませるよりも、いっそ安楽死させたほうがマシと結論づけてしまったようだ。
…………。
「……分かった。
そう言う事ならオレに任せとけ」
「っ!? カレンさん、あなたなにを……!!」
「シェリーさんを殺す」
悲しそうな表情をするヒロさんを尻目に、オレはシェリーさんに刺さった枯れ木を掴む。
それを見たハンナさん達が青い顔をするが、気にせず続ける。
「メルルさんが中途半端に治療してしまったから、この子はまだしばらくは生きると思う。
……そしてゆっくり衰弱死していくだろうね。
ヒロさんが思い描く様な結末は今のままじゃ迎えられない。……誰かが殺す必要があるんだ」
「カレン……その為に君は……処刑されるつもりなのか……!?」
「元々死にに来てるんだ。それが早くなっただけのこと。
メルルさん、オレが気を抜いたらすぐに治療を開始して。
シェリーさんが生還したならそれでよし。仮にダメならオレが全責任をとる」
「そんな……」
「ごめんね。せっかくオレを助けてくれようとしたのに、こんな事になっちゃって」
オレを助けようと頑張ってくれたのに、結局死ぬ結末になってしまうのは本当に申し訳ないが、誰か一人が生贄にならなければいけないなら、とっくに死ぬ覚悟を決めているオレが一番だろう。
大丈夫、救助の結果死なせたのであって、魔女として殺すわけじゃないんだ。
流石のゴクチョーもキツい処刑は勘弁してくれるだろう。
トレデキムの服毒死なんか楽そうでいいけど……ここ、トレデキムあるかなぁ……?
「待つんだカレンくん! その覚悟はまだ早計すぎる!!」
「……レイアさん?」
「まだシェリーくんが助かる方法はある!!
……アリサくんの協力が必要不可欠ではあるがね」
「は? ウチ……?」
枯れ木を引き抜こうとするオレの手を掴んで止めたレイアさん。
作があるとは言うがアリサさんの協力が必要不可欠?
彼女は一体なにを…………
「焼灼止血は知っているかな?」
「焼灼止血……確か傷口を焼く事で止血する方法だっけ?」
「っ!?」
「そう。シェリーくんの傷を焼くことで、出血を極めて最低限に抑え、生還できる可能性をあげられるはずだ!!」
そうか、アリサさんの魔法は発火。
出血さえどうにかなれば後はメルルさんの治療でなんとかなるんだ。その上傷口の細菌も焼く事で殺菌出来る。まさに一石二鳥。
問題も火もアリサさんの力さえ借りればどうとでもなる。
これならいける筈だ!!
……ただそれでも焼いたショックでシェリーさんが死ぬ可能性はゼロではないんだ。果たしてそれにアリサさんが承諾してくれるか?
そんな事を考えながらチラリと彼女を見ると、顔を真っ青にしてなんだか呼吸も荒げたアリサさんの姿。
「……ウチに……人を焼けって言うのかよ……?」
「すまない。しかしこれしか方法が……」
「ざっけんな! なんでウチがそんな事しねぇといけねぇんだよ!!」
「しかしこのままではシェリーくんが危ない。
頼む、分かってくれないだろうか……」
「し、知るかよ……! そいつの自業自得だろうが……!!
ウチは絶対やらねぇからな……!!」
……あぁ、これはダメそうですなぁ。
確かにこれではアリサさんが処刑されるリスクがある。
オレとアリサさんの二人で処置をしたなら、仮に死んでもオレが罪を持っていってやれるが、なんだかんだ真面目な彼女のことだ。責任感を感じて魔女化する可能性すらある。
「レイアさん、もういい」
「カレンくん……しかしこのままではキミが……!」
「アリサさんを見てみなよ。すっごい怖がってる。きっと魔法に関してトラウマでもあるんだろうね。
いつ誰が魔女になってもおかしくない状況下だ。今回の一件が彼女の破滅に繋がりかねない以上、無理に巻き込むべきじゃない。
…………それに、オレが消えたほうがレイアさんにとっても都合がいい……だろ?」
「そ、それは……!!」
オレを殺そうと企んでたんだ。
こう言ってしまえば彼女はもうなにも反論できない。
「ごめんアリサさん。無茶言って。
大丈夫、後はオレがなんとかする」
「氷上……」
「なーに、さっきマーゴさんの占いで審判が出たんだ。
悪い結果にはならないだろうさ!」
レイアさんの考えもボツと言うことで改めてシェリーさんに刺さった枯れ木を掴む。
……ごめんねシェリーさん。本当なら無理やりアリサさんに頑張ってもらった方がいいんだろうけど……仮に死んだらオレもキチンと責任取るから許してくれよ?
「ゆっくり引き抜く。メルルさん、治療を!!」
「うぅ……は、はい……!」
引き抜く力を強めると少しずつ枯れ木が動き出し傷口から血が溢れる。
それをボロボロと涙を流したメルルさんが治癒魔法をかけていく。
メルルさんの魔法もそこそこ強力で、引き抜いた端から傷は修復しているっぽいが、それでも出血はある。
このままでは致死量の血を流すのも時間の問題だろう。
「氷上……橘……あぁ、クソッ!!」
直後、手に灼熱感。
見るとアリサさんがシェリーさんの傷口を炎で炙っていた。
「なにやってんだ! とっとと終わらせるぞ……!!」
「……仮にシェリーさん生還したら、また鳥ステーキ焼いてやるよ!!」
「ウチが一番でっかいやつだからな……!!」
先ほどまでは血があまり出ないようにとゆっくり引き抜いていたが、アリサさんがやる気になったならもはや遠慮はいらない。
枯れ木を一気に引き抜いた直後、アリサさんがシェリーさんの傷口に指を入れて中を炎で炙る。
「か、カレンちゃん! アリサちゃん!!
お水汲んできたよ!!」
「ナイス、貸してエマさん!!」
レイアさんが焼灼止血を提案した頃には既に動いていたのだろう。
近くの水場へ行っていたエマさんから水を受け取ると、アリサさんが指を引き抜くと同時に水を浴びせて鎮火。
そして火も収まり出血が弱くなった隙に、メルルさんが本気の治癒魔法を使う事で徐々に傷口が修復していき…………。
「…………終わりました」
「……容態は?」
「呼吸は安定しています……。
まだ貧血の心配がありますが、少なくとも死ぬ事はないと思います……!!」
「や、やった……!
あ、ありがとうみんな……!!」
「本当に……助かりましたわ!!」
「ど、どういたしまして。
シェリーさん……助かってよかったです……」
「チッ、手間かけさせやがって……」
「そう言う割にはなんだか嬉しそうね、アリサちゃん♡」
「う、うっせぇ!!」
「本当、レイアの策がうまく行ってよかったよ。
…………ところで」
シェリーさんが無事だった事で胸を撫で下ろしていたヒロさんだったが、直後、彼女から冷気が発せられる。
「……エマ、ハンナ。
なぜ君たちは看守に追いかけられてたのか……教えてもらってもいいか?」
「え、えっと……それは……」
「まさかとは思うが……脱獄しようとバカな真似をして追いかけられた挙句、看板の注意書きを読み落とし、井戸に落ちた……なんて言わないよな?」
「「…………」」
「二人とも、ここに正座するんだ」
正座した二人から何故こうなったかを聞き出したヒロさん。
結果、今回のこのひと騒動、シェリーさんが牢屋敷の外壁を思いっきり殴ったのが原因だったようで…………
自業自得じゃねぇかふざけんな。
「助けなきゃよかったって思うオレは心が汚れてるんだなぁ……」
「だよな〜。コイツのせいであてぃしら懲罰房行き確定だし……。
もういっそここに埋めちゃわない? 全員共犯なら大丈夫だと思うんだよね〜」
『ゴクチョーの洗脳は任せておけ』
「元気になったらぜってぇぶん殴る…………」
「ちょ、ちょっとみんな!?
お、おじさんはそう言うの良くないと思うな〜……」
「ねぇねぇみんな〜、あっちから看守来てる〜」
シェリーさんが元気になったらどうしてやろうかと考えていると、看守が来てると言うノアちゃんの指先を見てみる。
そこには凄まじい勢いでこちらにやってくる看守とゴクチョーがおり……
「ハァ……みなさん、揃いも揃って監房にいないだなんて勘弁してください。
全員を懲罰房に入れるなんて前代未聞ですよ全く……」
「ヒロさんやヒロさんや、お迎えが来たようだから説教は一旦後にしませんと」
「……だな。まずは時間内に房に戻らなかった責任を取ろう」
結局、意識不明のシェリーさんとゴクチョーから彼女の看病を指名された保健委員のメルルさん以外は、全員懲罰房にぶち込まれました。
辛かったです。