そっくりさんノ牢屋敷生活   作:蒼天 極

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そっくりさんの魔法

「な……っ!?」

 

「おや……?」

 

 オレの喉元へと迫っていた鎌であったが、オレの首ギリギリでぴたりと止まる。

 オレの眼前にはガラスのように透明な壁が出現しており、それにより威力を殺されたのだ。

 

「こ、これは……?」

 

「オレの魔法。水晶を生み出す程度の能力なの。

 にしてもあっぶねぇ……。ギリギリ当たる直前で止まったけど、貫通してんじゃねえか。

 次はもう少し壁をぶ厚くしないと……」

 

 水晶精製、それがオレの魔法。

 文字通り水晶を生み出す能力だが、やろうと思えば今回のように壁やちょっとした小物などを自由に作れるから非常に重宝している。

 その上ダイヤモンドよりも硬く、液体のタールピッチよりも粘性が高いという規格外の性能を誇っている為、何を使ったとしても破損することはない。

 ……まぁ、流石に看守の鎌はダメだったっぽいけど、止められはしたしよしとしておこう。

 

「……そのまま動きを抑えていてくれ。

 悪は排除しなければ……」

 

「あ、ヒロさん! 動いちゃダメです!!」

 

 メルルさんの悲鳴のような声を聞きチラリと背後を見ると、横一文字に斬られた顔を押さえながらもなお火かき棒を構えて看守の元へ行こうとするヒロさん。

 

「ダメだよヒロちゃん! ヒロちゃん怪我してるんだよ!?」

 

「うるさい、魔女め!!

 私は悪を絶対に許さない! 絶対に……絶対にコイツは倒す!!」

 

「勘弁してくれ」

 

 ヒロさん。看守もブチギレてるのか水晶の壁をガンガン鎌でぶっ叩いてるんですよ。

 厚みの補強はしたからもう攻撃通らないとはいえ、心臓に悪いんだからちょっと大人しくしててくれ。

 

 こうなったら鎖でも作ってヒロさんを無理やり拘束した方がいいかと考えていたが、そんなヒロさんの方をレイアさんが掴んだ。

 

「ヒロくん、もうやめるんだ!」

 

「……邪魔をするつもりか」

 

「これ以上は見過ごすわけにはいかない」

 

「……」

 

 聞く耳を持たないヒロさんはレイアさんの手を振り払い、再び看守の元へ行こうと動くが何故か動きが止まった。

 まるで首を……いや目を固定されたようにレイアさんから視線を外せないらしい。

 

「これは……君の魔法か?」

 

 ヒロさんの問いにレイアさんは薄く微笑むだけ。

 これは魔法で間違いないな。恐らく一種の魅了……いや、相手の視線を固定する能力なのだろうか?

 

「この魔法、解除してくれないか?」

 

「キミが矛を納めてくれるなら、すぐにでも解除するよ」

 

「……別に君たちを狙っているわけじゃない」

 

「そうだとしても、私はキミを止める。

 キミも分かっているだろう? あのとき、カレンくんが動いてくれなければキミは死んでいた。

 彼女は命をかけてキミを助けたんだぞ」

 

「それは……」

 

「カレンくんは命懸けでキミを守ってくれたのに、キミは無謀にもまた看守に挑もうとしている……果たしてそれは、()()()()()()()()()()?」

 

「っ!!」

 

 先ほどから正しい正しくないと言っていたヒロさんには、今の一言は響いたらしい。

 大きく目を見開いたヒロさんは火かき棒から手を離すと、力が抜けたかのようにフラフラと膝をついた。

 

「……メルルくん、ヒロくんを治療してあげてくれないかな?」

 

「は、はい。すぐに治療します……!」

 

「ありがとう。

 それとカレンくん、キミが咄嗟に動いてなかったらヒロさんは死んでいた。

 感謝するよ」

 

「ノアさんに落書きされそうだった所をヒロさんが助けてくれたから、その借りを返しただけから気にしなくていいよ。

 ……それにしても」

 

 ヒロさんの問題が解決した為、改めて前を向くとそこには相も変わらず水晶の壁を殴りまくる看守の姿。

 ……いや、このままじゃ埒が明かないと回り込もうとしてやがる。やばいやばい。

 

「あのー、ゴクチョーさん。

 一体いつになったら看守は止まってくれるんですかね?」

 

「さぁ……? ヒロさんを殺すまでは止まらないんじゃないです?

 あなたは狙われてないでしょうし、逃げたらいかがでしょう?」

 

「っ……」

 

「そんな、ヒロちゃん……」

 

「く……」

 

 その言葉に悲痛な表情を浮かべる少女達。

 いくらヒロさんの自業自得とはいえ、同年代の少女を見捨てなければならないのだ。こんな顔になる気持ちは分かる。

 …………でも。

 

「ま、まぁしょうがないんじゃない?

 元はといえば看守ぶん殴ったアイツがわるいんだし──」

 

「こうなったら耐久レースといきますかね!

 オレの体力なら三日……いや、一週間は看守の動きを阻害できるし、看守が根負けするかオレの体力が切れてぶっ倒れるか勝負しようじゃねえか!!」

 

「……へ?」

 

「あー、そうしたいならしたらいいんじゃないです?

 私には関係ありませんし」

 

「え〜、そんな寂しいこと言わないでよゴクチョーちゃ〜ん。

 部下が頑張ってるんだから見届けてあげようよ〜」

 

「あら……」

 

 無情にも飛び去ろうとしていたフクロウの足と看守の首に遠隔で鎖を繋げてやった。

 ククク、これで看守とゴクチョーは運命共同体。どんなときでも一緒という素敵な関係の出来上がりだ。

 

「見ててくれるだけで構わないから。

 あ、でも話し相手してくれるなら嬉しいな〜」ニッコリ

 

「……やれやれ。これでは残業どころか休日返上になってしまいますねぇ。

 ……分かりました。今回はいきなりの状況で戸惑っていたということで、特別に大目に見ましょうかね」

 

 そう言ってゴクチョーが羽を広げると、看守の動きがピタリと静止。

 やがてゆっくりとゴクチョーの背後へと下がったのを確認すると、全ての水晶を消してゴクチョーを解放した。

 

 フッ、あのフクロウがとっとと終わらせたがっているのは分かっていたからな。

 このまま続ける方が面倒だと思わせれば、やめさせるのなんて簡単なのだよ。

 

「すごい……あ、ありがとうカレンちゃん。

 ヒロちゃんを助けてくれて……!」

 

「フッ、もっと褒めてくれたまえ」

 

「ハァ、普通は温情なんて出さないんですが……。まぁ、いいです。

 ──あ、あと何個もすみません。

 最後に、みなさんに最も大切なことを伝えておきます」

 

 大事なこと?

 

「魔女になりつつあるものは、抑え切れない殺意や妄想に憑かれてしまいます。

 面倒なことに、いずれ囚人間で殺人事件が起こるんですよ」

 

「殺人事件!!」

 

「ちょ、なに喜んでやがりますの!?

 サイコパス? あなたサイコパスなのかしら!?」

 

 なんとも不謹慎なシェリーさんに対して静かに距離をとる中、気にせずにゴクチョーは続ける。

 

「そうなんですよ……毎度の事なんですよね〜……。

 流石にそんな危険人物と一緒に生活できませんよねぇ。

 というわけで、殺人事件が起こり次第【魔女裁判】を開廷します」

 

 魔女裁判?

 

 詳しい話を聞くとなんて事はない。

 人狼ゲームと同じように、今いる14人のメンバーから一人を犯人として処刑するようだ。

 選べなかったら全員死刑らしいし、魔女になった少女はその後も人を殺し回るだろうから、しっかり犯人を割り出さなければならないだろう。

 

「それでは後の詳しい話は【魔女図鑑】をご覧下さい。

 では、私はこれにて……」

 

 そう言ってゴクチョーは羽ばたき通気口の中へと姿を消した。

 

 

 ◇

 

 

「みんな、聞いてくれ!」

 

 その後看守がゆっくりと部屋を後にしたのを確認したレイアさんが、みんなに聞こえるように声を上げる。

 

「私たちはどうやらここで共同生活を強いられる事になる。

 それがいつまで続くかは分からないが……今は大人しく従おう。

 知り合ったばかりではあるが、私はキミ達を守りたい」

 

「カレンさんに守ってもらった方がいいんじゃありません?」

 

「確かに、なんか強そうな魔法だったしな」

 

「シェリーさん、ココさん、シャラップ」

 

 正直今回は生きた心地はしなかった。なんならちびりそうだった。

 オレは聖人じゃないんでな。今回は恩があったから助けたけど、基本は見捨てるタイプだから大人しくレイアさんに守られてくれ。

 

「……話を進めるよ。

 先ほどのヒロくんのような振る舞いは全員に危険が及ぶかもしれない。

 今後は勝手な行動は謹んでもらいたい」

 

「……申し訳なかった。あのときは私もどうかしていた」

 

 素直に頭を下げたヒロさん。

 それを見たレイアさんは彼女にニコリと微笑む。

 

 それにしても割と深く看守に顔面を斬られたってのに、顔は血で汚れた程度で傷は完全に塞がってる。

 メルルさんの魔法すげぇ。

 

 その後もレイアさんは話を続ける。

 オレらのポケットにスマホが入っており、その中に魔女図鑑というアプリがある事。

 どうやら牢屋敷で生活する上でのルールブックのようなものらしい為、しっかり確認するようにとのこと。

 

「しっかり読み込んで、ルールを遵守して生活していこう」

 

「っ! ざっけんな!!」

 

 だが突如としてマスクをつけた不良少女、アリサさんがレイアさんに反発する。

 

「魔女とか囚人とか知るかよ!

 1秒だってこんな所には居たくねぇ。ウチはここを出るからな!!」

 

「反抗的な態度を見せたら、また看守に何をされるか分からないよ?」

 

「おめぇには関係ないだろ。ほっとけよ!!」

 

 アリサさんは舌打ちをしてラウンジを出て行ってしまった。

 何も反抗せんでええだろうに……いや、これが反抗期の悲しい性か……。

 

「出て行ってしまったか。仕方ない……。

 他のみんなはちゃんと協力してくれるだろう?」

 

「ボクも、嫌だ」

 

 そう言って前に出たのはなんとエマさん。

 性格的に長いものに巻かれるタイプだと思ったが、どうやら自分の意見をハッキリ言える子だったようだ。

 

「ヒロちゃんの綺麗な顔に傷をつけた、あいつらに従うなんて嫌だ!

 あいつらを絶対に許さない!!」

 

「なるほど、エマくんはどうやらヒロくんと顔見知りだったようだしね。

 しかし、仲が良さそうには見えなかったけど……?」

 

「……仲良しなものか。私はエマ、君の事が大嫌いだ。

 あの看守と同じくらいに……」

 

「ヒロちゃん……」

 

 そう言ってゆらりと立ち上がったヒロさん。

 そこそこの出血量だったし貧血にでも陥ったのだろうか? おぼつかない足取りでゆっくりとレイアさんの元へ歩み寄る。

 

「今回、君達に迷惑をかけてしまったのは事実だ。

 だからレイア、君に従うよ」

 

「ヒロくん……分かったよ。

 ……彼女はこう言っているが、考えを変える気はあるかな?」

 

「……それでもボクはあいつらを許せない!」

 

「……そうか、どうやら君達の関係は想像以上に複雑らしい。

 エマくんが従う気がないのは分かったよ。強制はしないし、ある意味仕方ないといえるだろう。

 ただ、今はなるべく穏便に済ませたい。危険分子と行動を共にする事はできないかな」

 

「はいはーい! なら、私もエマさんについていきますよぉ〜!

 面白そうな方につくのが、私の心情ですから!!」

 

 そう言って元気よく手を上げたのはシェリーさん。

 彼女はゴクチョー達が気に入らないとかではなく、純粋に好奇心に心を委ねているらしい。

 そしてそんなシェリーさんを機に、ハンナさんとメルルさんもエマさんの側へと移動する。

 

「わたくしもあなた側につきますわ!

 偉そうに仕切るヤツは嫌いなんですの!!」

 

「うぅ……エマさん……」

 

「……ハンナさんに関しては、完全にレイアさんの自業自得だね」

 

「あぁ、口は災いの元の意味を改めて実感したよ。

 ……ところでカレンくん、君はこちら側と判断していいのかな?

 こう言ってはなんだが、メルルくんはあちらにいるよ?」

 

「えぇ〜。双子なら一緒に行動した方が良くないですか〜?」

 

「あの……双子じゃないです……」

 

「オレは別に妹ウェルカムだZE☆

 ……こほん、さっきは我ながら大胆な行動をしたけど、表立ってルールを破りたいわけじゃないから。

 それにグループが分かれたからって話してはいけないって訳じゃないでしょ?」

 

 オレの言葉にそれはそうだと頷くレイアさん。

 メルルさんはエマさんに懐いたからあっちに行ったっぽい。ならオレもそれに倣って頼もしいレイアさんと行動を共にしても良いと思ったのだ。

 

 ……それに、どちらかと言うとオレはグレーゾーンを攻めたい派。

 ルールブックの裏をついたギリギリを攻めたいタイプ。故に真っ向から反発するっぽいエマさんとは相性が最悪なんだよ!

 

「あれれ〜? グループが二分割しちゃいましたね?」

 

「待て待てシェリーさん。アリサさんが別行動とったんでな。三分割だろ?」

 

「……あなた、どっちサイドですの?」

 

「……どうやらそのようだね。

 みんなで協力するに越した事はないけれど、意見が合わないなら仕方ない。

 私たちは一旦地下に戻るよ。ルールによれば、地下監房にしないといけない時間だ」

 

 そう言って踵を返したレイアさん。

 それを見たエマさん派閥以外の少女が彼女の後に続く中、ガクリとヒロさんが膝をつく。

 

「くっ……」

 

「大丈夫ヒロさん、肩貸そうか?」

 

「いや私がおぶるよ。リーダーだからね」

 

「……すまない。君達には本当に迷惑をかけるな」

 

 貧血気味で思うように動けないヒロさんをレイアさんと監房に送り届けてから、オレも自分の監房へと帰還したのだった。




 氷上カレン

 囚人番号:671
 魔法:水晶精製
 トラウマ:???
 誕生日:12月24日
 原罪:虚構の武芸者
 好きなこと:二度寝、料理
 嫌いなこと:嘘

水晶精製
 水晶を生み出す程度の能力。看守の攻撃を止められるレベルに丈夫なのが売り。
 また任意で消すこともでき、カレンと10メートル以上離れた水晶は勝手に消滅する。
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