「オレの親が君達を拉致った政府の高官だからさ」
「な……!?」
オレのカミングアウトに大きく目を見開く御三方。
いや、ナノカさんとヒロさんに関しては驚愕より怒りが先に来るのか、殺気で目を鋭くしている。
ナノカさん、お願いだから銃を手放してくれないかな。せめて説明くらいさせて?
「あ、誤解しないで欲しいんだけど、オレは君達の拉致には関わってないよ。なんならみんなと同じく拉致られた側だし。
ただオレに魔女因子があるって判明した後、親が色々と話してくれたんだよ。
魔法のこと、魔女のこと、なれ果てのこと、牢屋敷のこと……そしてオレがどんな末路を歩むことになるかすらね」
「……事前に牢屋敷の事を聞いていたのなら、抵抗する時間があった筈だ。
キミは逃げなかったのかな?」
「逃がしてくれる優しい親ならどれだけ良かったでしょう」
牢屋敷行きが確定してからは、ずっと政府監視下の施設での軟禁生活。遊びにはおろか室外への散歩すら出来なかった。
最もオレ自身、そもそも逃げ出すつもりはなかったのだが。
「……そう、つまりあなたは黒幕の関係者なのね」
「関係者は関係者だけどオレ自身親父に生贄に捧げられた身だし、そもそも牢屋敷を運営してる奴はまた別にいるから親父が黒幕って訳でもないし、オレ自身別に政府に従っているわけじゃないんだけど。
……だからいい加減銃を下ろしてくれないかな?」
オレはこの牢屋敷を人生最後の舞台にすると決めてはいるし、いつ死んでもいい様に覚悟はとっくに決めて来ている。
でも流石に開始早々くたばりたくはないのよ。
今まで軟禁生活で外に出られなかったんだから、せめて太陽の下を歩くだけの時間くらいは……いや、全滅直前まではいさせてくれ。
「やめるんだナノカくん。恐らく彼女の言っている事は本当だ。
カレンくんを撃ち殺した所で、彼女のお父さんへの復讐にはならない!」
水晶で銃口を塞いでやろうかと考えてると、ナノカさんを手で制してくれたレイアさん。
一生ついて行きます。
「そうかもね。でも彼女が牢屋敷側のスパイである可能性も否定できないわ」
「それは……」
「……恐らく、カレンは牢屋敷側人間ではないと思う。
仮に本当に彼女がスパイなら私は今頃死んでいる」
「でもそれは私達を信用させる為に敢えてやったのかもしれない」
「仮にそうだとしても、あの場で看守が不死身だと叫ぶ理由はなかっただろう?
あの場でのあの発言はスパイとバレる危険性がある。なにも言わずに助けていればよかったはずだ」
「…………」
レイアさんの静止を受けてもなお銃口を突きつけ続けたナノカさん。
だがここに来てまさかのヒロさんによる助け船のお陰で、ようやく照準がオレの額から外れた。
さっきまでこちらを睨んでたから助け船は期待してなかったけど、どうやらオレの話を信じてくれた様だ。ありがてぇ。
「……分かった。二人に免じて今は様子を見させてもらう。
でも、もし怪しい行動をとったその時は……」
「その時はその日がオレの命日になるだけだよ。
……あぁ、でも監視をするならこっちも条件を出させてもらうぜ?」
「……条件ですって?」
「どういうわけか氷上メルルさんって言う同じ苗字のそっくりさんがいるけど、あの子は正真正銘オレと……いや氷上家と無関係の女の子だ。
「……!」
オレは条件なんて出せる立場にはいない。
しかし現状一番よく話しているのは、同室で顔が似ていると言う話題があるメルルさん。
とばっちりで酷い目に遭うのは我慢ならないのだ。
「…… 誰かが犠牲に…………」
「……ナノカさん? お〜い、聞いてます〜」
「え、えぇ……大丈夫……。
分かったわ、氷上メルルに絶対に疑いをかけない」
何故か脳面の様に表情が抜け落ちた……いや、顔を青くしていたナノカさんが首を縦に振る。
良かった、顔が同じってだけで酷いことをするのを良しとする人では無かった様だ。
まぁ、それはそれとして……
「ナ、ナノカくん、顔青いけど大丈夫かい……?」
「急に具合悪くするんだもんな……。
もしかして料理になんかヤバいものがあった……?」
「……なに? だとすると毒味をした私の失態だ。本当に申し訳ない。
ラウンジを少し行ったところに医務室があった筈だ。あまり辛いなら休んできた方がいい」
「ごめんなさい。少し嫌な事を思い出しただけだから……。
もう大丈夫」
どうやら嫌な事を思い出してテンションが下がっていただけの様だ。
……ナノカさんが話してたのって主にオレだよな? オレってばいつの間に彼女のトラウマスイッチを踏み抜いてしまったのだろうか。
「慣れない環境なんだ。あまり無茶はしない様に。
……さて、ごちそうさま」
後でナノカさんに謝ろうと考えていると、ヒロさんが食事を終了した事に気がつく。
しまった。話に夢中になりすぎて食を進めてなかった。
他のグループも食事を完了させている人がいるのを見て、大急ぎで不味い料理を胃の中へと放り込んでいると、ヒロさんは席を立ち再びビュッフェカウンターへと向かう。
「ヒロくん、もう食べ終えたんじゃないのかい?」
「あぁ、これは私のじゃない。
城ケ崎ノアの分だ」
「あぁ、なるほど。優しいんだね」
どうやらヒロさんは来てない子のために料理を持って行ってあげるつもりの様だ。
……来てない子と言うと、懲罰房行きになったアリサさんには食事は出されるんだろうか?
牢屋敷があるこの島から本土まではかなり離れてるし、拉致られてからここに来るまでに少なくとも1日は要している筈だし、そう考えると今日食事を抜かれるのは相当キツイはずだ。
……別に心配してやる義理は無いけど、飢餓のストレスで魔女化されて暴れられても困るしな。
「おや、カレンくんも誰かに持っていくのかい?」
「アリサさんにね」
「アリサくんか……だが、懲罰房には鍵がかけられてるだろうし、勝手に鍵を開けたらキミも懲罰房に入れられるんじゃないかな?」
「レイアさん、いいこと教えたげる。
犯罪ってのはバレて初めて成立するものさ。
つまり、バレなければ犯罪じゃない」
「……もし今のをヒロくんが聞いていたら怒られてたよ?」
◇
「さってーと……確かここが懲罰房の筈だけど……」
その後、レイアさん達と別れると、スマホのマップ情報を元に懲罰房であろう箇所へとやって来た。
随分と重苦しい雰囲気の場所だ。それに覗き窓から拷問器具も見え隠れしてるし。
果たしてここで何人の少女達があの世へ旅立ったのやら……あまり想像したくないな。
「っとと、感傷に浸ってる場合じゃない。
看守が来る前にやる事やって、とっととずらかるか」
このたくさんの個室のどこにアリサさんがいるのかは分からないが、ここでアリサさんを呼ぶために大声を出したら看守が飛び込んでくるのは目に見えている。
と言うことで総当たりで覗き窓を確認してアリサさんを探す事にした。
「アリサさんはどこかしら〜っと……」
「クソが……だせ、ここから出せよ……!」
「およ?」
しばらく覗き窓を覗きまくっていると、丁度隣の房から声が聞こえた。
すぐに隣の部屋へ向かい覗き窓を開けてみると、予想通り、ここにアリサさんが磔にされていた。
「あ……? テメェ、さっきウチのこと見てた……」
「やっほ。様子を見に来たぜ」
「ハッ、ウチの事を笑いにでも来たのかよ」
「笑われたいの? よっしゃ任せとけ!
ひとっ走りここにみんなを呼んできてやるよ!
いや、このスマホ動画配信できるっぽいし、配信で晒した方が早いかな?」
「喧嘩売りに来やがったのかテメェ! ぶっ殺すぞ!!」
「冗談だよ」
先ほどのナノカさんとはまた違うギラギラした目で睨みつけられた。
さて、アリサさんは短気っぽいしあんまり怒らせたら、ここから解放された後にぶっ飛ばされる未来しか見えない。
とっとと要件を済ませてしまおう。
「腹減ってるかなと思って料理持って来たんだよ」
「……そうかよ。
持って来てもらってわりぃがいらねぇ。ウチは腹減ってねぇんだよ。
だからとっとと消えろ」
グゥウウウウ……
「…………」
「…………」
「あらあら、口ではそう言っていても身体は正直なようで」
「クソが!」
悔しそうに歯ぎしりするアリサさん。
「全く、正直に腹減ったって言っても別に笑わないのに……」
「うるせぇよ、ほっとけよ!」
「いやほっとけと言われてもな。
それにここで突っぱねられたら、ここに料理を持って来たのが徒労に終わるんだ。
この後飯が運ばれてくるって訳でもなさそうだし、食べられない事情がある訳でもねぇんだから、無理やりにでも口に突っ込むからな」
「しつけーな、オメェは!
……だがどっちにしたって無駄さ。なにせ肝心の扉に鍵がかかってんだからな。
鍵は看守の野郎が持ってるっぽいし、ここは開けられねぇよ」
そう言って嘲笑うかの様に、諦めたかの様に力無く笑うアリサさん。
……確かに鍵がかかってたら、料理を持っていく事は出来ねぇよなぁ。
あーあ、結局徒労に終わっちまったな。…………なーんてな。
「この程度の問題でオレが諦めると思っていたのか」
「あぁ……?」
「こっちには素敵な魔法があるのだよ」
そう言ってこれ見よがしに水晶で出来た鍵を見せつけてやる。
鍵を見て目を見開くアリサさんをよそに、それを鍵穴に突き刺す。
……無論、今適当に作った鍵で懲罰房の鍵が開くなんてご都合展開があるわけがない。
これではそもそも鍵穴に入らないが、鍵穴を元に鍵を変形させてこの扉に合う鍵を作っていく。
「…………」
「…………」
ガチャッ
「空いたぞ」
「マジかよ!?」
扉を開けて許可も取らずに部屋へと侵入。
このままアリサさんを磔刑台から解放すれば、彼女は晴れて自由の身となるがそんな事したらオレが看守にお死おきされるからな。
申し訳ないがこのまま磔の状態で食事してもらおう。
「クソまずかったけど、オレらも食ったしこのまま空腹よりはマシだろ。
ほら、食え。完食するまではここから出ていかんぞ」
「……あぁ、もう! 負けだ! ウチの負けだよ!!
オラ、とっとと食わせろ!!」
ようやく根負けしたのか、大きく口を開くアリサさん。
そんな彼女の口にドロドロの入ったスプーンを突っ込んでやると、途端に彼女は青い顔をした。
「ぐっ……まっず…………」
「あ、別に嫌がらせで不味い料理を持って来たわけじゃないぞ。
オレらに出された料理がこれだった」
「なんだよそれ、最悪じゃねぇか……」
嫌そうに顔を顰めながらもゆっくりと確実に食事を進めていくアリサさん。
そして僅か10分足らずで持って来たトレーは全部空になった。
「ふぅ……ごっそーさん」
「お粗末さまっと」
食べ終わったのならここにいる理由はない。
彼女の口についてしまった食べカスを拭いて食事を摂った証拠を隠滅すると、すぐさま部屋を出て鍵をかける。
「それじゃ、オレの目的も済んだしずらかりますわ。
あ、明日も来るから。来るなって言葉を受け付ける気は微塵もないので悪しからず」
「ハァ……分かったよ。
どうせなに言ってもお前は来るだろうし……」
看守に見つかる前にとっとと逃げようと覗き窓を閉めようとした直後、「おい!」とアリサさんに呼び止められた。
「……飯は不味かったけど、腹は膨れた。
……サンキュな」
「どう致しまして」
「……一つ、忠告しとく。
屋敷から遠くまで逃げると、監視のバケモンフクロウが大量に飛んでやがった。
そいつらに見つかった途端、看守が飛んできた」
「ほう、フクロウが大量に……」
「逃げた先に高い塀があったから燃やそうとしたら不思議な力でかき消されてな。
仕方ねぇからなんとか塀をよじ登ろうとしたんだが、バケモンフクロウに妨害されてこのザマさ。
脱出は難しいってこった。気をつけろ」
「ほうほう……塀をよじ登ったらフクロウが妨害……」
「あ? お前一体どうした?」
「おっと悪い。考えこんじまった。それじゃあ、オレは行くな。
また明日」
「あぁ……」
今度こそ覗き窓を閉めて懲罰房を後にする。
……やはり良いことはしておくもんだ。
まさかあんな素晴らしい情報を教えて貰えるだなんて……!
「こりゃわざわざ危険を冒してアリサさんに食事を持って行った甲斐があったってもんだ。
今日は夜も遅いし時間的にも無理だろうけど、明日が楽しみだぜ。
ヒャーハッハッハァ!!」
「うわっ、カレっちのやつ急に高笑い始めてキモいんですけど!!」
「うるさい、【黙れ】」