高笑いのしすぎでヒロさんに叱られるというアクシデントはあったものの、それからの自由時間は問題なく過ぎてゆき、無事、初日を生き延びる事は出来た。
そして二日目の朝食。
昨日の食事のメンバーに加え、新たにオレらのグループにやって来た子が一名。
「ねぇカレンちゃん。お洋服にお絵描きしていーい?」
「HAHAHAHA、小娘、蝋人形にしてやろうか?」
「こらこらカレンくん。
……それにしても、意外な組み合わせだね。
ヒロくんのような子は、自由奔放な子を嫌うと思っていた」
「自由な子こそルールを教え込まなければいけない。
今朝も落書きしようとしていた。カレンの服の事もあるし、徹底的なしつけ──いや、教育が必要だ」
「あまり言い換えになっていないね」
「むー」
城ケ崎ノアだ。
正直オレはこの子に苦手意識があったりする。
そりゃ服に落書きされる恐れがある子を好きになれって言う方が難しいだろうて。
ハァ、この自由人さは中学生の頃に何かと世話焼いてた同級生に似てるんだけどなぁ……。あの子の方がもう少し分別はあったぞ。
……組体操の時間に空気読まずにアリの行列眺めてるような奴だったけど。
昔の友人のことを思い出しながらノアさんを向くと、彼女はドロドロをぐねぐねと動かして遊んでいた。
これは彼女の魔法か……?
「ふんふんふ〜ん。ふんふんふ〜ん」
「ノア、食べ物で遊ぶんじゃない」
「けちー」
「……あなたの魔法は液体操作、なのね」
「そうだよー。のあの魔法はね、絵が勝手に動くの。
液体ならなんでも動かせるよ。
絵にしか出来ないんだけどね。ほら!」
そう言ってドロドロを見事な蛇のアートに作り変えてみせたノアさん。普通にすげぇ。
だがそんな彼女を咎めるように頭を低くしてレイアさんが口を開く。
「みんなが不思議な力……魔法の力を持っているのは予想がついているのだけれど、その情報を開示するのは良くないんじゃないかな?」
「ん? なんで?」
「私も蓮見レイアの意見に賛成だわ。あまり手の内を晒さない方が賢明。
この先起こることを考えれば、尚更」
「それはオレにブッ刺さりますなぁ……」
「いやいや、カレンくんは使わざるを得ない状況だったのだから仕方がないよ」
フォローこそ入れるが、それでも自らの魔法を明かす気はないレイアさん。
……まぁいいだろう。昨日ヒロさんを止めた件でレイアさんが視線を操作する魔法を持っていると当たりをつけることが出来た。
それにナノカさんも触れることがトリガーの情報収集の魔法を持っていると推測出来ている。
貴様らの手の内、我にはお見通しなのだよ! フハハハ!!
「……なによ。ニヤニヤ笑って?」
「べっつに〜」
……この中で唯一ヒロさんの魔法は知らないけど、レイアのように緊急事態でつい使ってしまう事も、ナノカさんみたくうっかり口を滑らせる事もなさそうだからな。
ま、いつかのときのお楽しみにしておこう。
「魔法見せたらダメ?
でものあ、お絵描きすると、ほとんど全部魔法になっちゃうんだよ?」
「約束しただろう。今日は君の為の場所を探す。
だからほら、さっさと食べるんだ。君が食べ終わるのを待っていてあげてる」
「は〜い。
おっでかけ〜♪ おっでかけ〜♪
おっ絵描き♪ おっ絵描き〜♪」
「食事中に歌うんじゃない」
「ふふ、随分仲良くなったんだね。
やはりヒロくんの行動力には感心するな」
「まるで姉妹みたいね」
「つか初めて会ったときから思ってたけど、ノアさんの精神年齢って実年齢の割には幼いよな〜。
これからはちゃん付けで呼んでいいかい?」
ノアさん……ノアちゃんの口を拭ってあげるヒロさんをみて、三人仲良くほっこりしていると、食べ終わるまでにもう少しかかると感じたらしいヒロさんが「あぁ、そうそう……」とレイアさんに視線を移す。
「レイア、この牢屋敷の少女達のリーダーであるキミに頼みたいことがある」
「ほう、リーダーであるこの私に!
いいよ、なんでも言ってみたまえ!!」
「私達のスマホにはチャット機能がついている。IDさえ交換すれば、今後自由に連絡をし合える。
そこでこの機能を有効活用するべく、この場で全員と繋がりたいのだが…………
あいにく、私はそんな事を頼める立場にはいない」
「そこで私の出番と言うわけだね。そう言う事なら任せてくれたまえ!
みんな、少し良いだろうか!!」
バッ! と席を立ち上がり芝居がかった様にみんなにIDの交換を頼むレイアさん。
そんな彼女を見たヒロさんはそれはもうニコニコと良い笑みを浮かべていた。
…………。
「……ヒロさんって結構強かだよねぇ」
「何のことだろうか?
しかし、私は良い友人に恵まれて幸せだよ」
「ヒロちゃん、嘘ついてる……」
「体のいい傀儡を見つけたと言う意味ですね、分かります」
「二階堂ヒロ……」
◇
少女達とアドレスを交換し、いつでもどこでもチャットや電話で会話できるようになった後、再び懲罰房を訪れてアリサさんに朝食を食べさせると、牢屋敷の外へと出て来た。
「…………」
……久しぶりの太陽。
政府監視下の施設に収監されてからは長いこと太陽の光はお預けだった。
このポカポカと暖かな陽気……LEDや蝋燭の火じゃ味わえない光……あぁ、本当に素晴らしい。
「あら、何をしてるのかしら。カレンちゃん?」
「日向ぼっこ。マーゴさんもやってみなよ。リフレッシュできるよ」
「それは素敵ね。
……でも私は良いわ。この後行きたいところがあるし、なにより日の光の浴び過ぎは毒だもの」
通りすがりのマーゴさんはそう言ってそそくさと、建物内へ戻ってしまった。
日の光の浴びな過ぎも毒なんだけどな。
「ふぅ……、このまま日向ぼっこするのも乙なもんだけど、今日の用事は出来る限りとっとと達成したいところだからな。
よし、さっさと向かうか」
まだ日の光と離れたくない為敢えて日向の眩しい道を通りながら、どんどんと屋敷から距離を離してゆく。
「お、いたいた」
牢屋敷から約一キロ離れたくらいだろうか?
オレの頭上に数匹のフクロウがバサバサと飛び回り始めた。
これが昨日アリサさんの言っていたバケモノフクロウか。
ガサガサ
「おや?」
草を掻き分けるような音が聞こえ、咄嗟に音のした方角を見ると看守がすごい勢いでこちらに迫って来ていた。
バケモノフクロウに見つかったら看守を呼ばれるって言われてたんだからそりゃそうだ。
さて、看守がオレを確保しようとこちらに迫っている訳だが、ここでオレがとった選択肢────
「…………」
『…………』
「…………」
『…………』
それは看守を無視して歩みを進めること。
牢屋敷の規則は一通り頭に叩き込んだが、自由時間は出入り可能なエリアでは自由に過ごすことができると書いてあった。
ではいったい何処までが出入り可能なエリアなのか?
答えは簡単、この先にある大きな壁までだ。
つまり今オレのいる所は許可されたエリア内であり、懲罰房にぶち込まれる理由は何処にもない。
その証拠に看守はオレのそばまで来たが、それ以上は何もしてこない。
大方、脱獄する可能性が高いからいつでも捕まえられるように至近距離で監視してるだけなのだろう。
「ジッとしてれば、これはこれで可愛げがあるんだけどな〜。
撫でてみていいかい?」
『…………』
「あ、流石にそれはダメなのね。ごめんごめん」
空に大量のフクロウ、真後ろに看守を控えながら更に歩みを進める。
そしてしばらく歩き続けてようやく屋敷を取り囲む巨大な壁へと辿り着いた。
おぉ、大きいとは聞いてたけどめっちゃ高ぇ……
20メートルくらいあるんじゃなかろうか。
……それにしても
「結構疲れた……。
長期間の軟禁生活でかなり体力が落ちてるな。
こりゃ日中ランニングとかした方が良さそうだ……」
「あれ、そこにいるのはカレンさんじゃないですか?」
「およ?」
声の主の方を向くと、そこにいたのはシェリーさん、ハンナさん、エマさんの三人組。
オレがつるんでいるレイアさん達とは別の派閥の子達だ。
「おぉ、奇遇だねぇ。今日はメルルさんとは一緒じゃないの?
あの子エマさんにベッタリだったけど……」
「メルルさんなら医務室の薬などを確かめると言ってましたね!」
「へぇ〜、ただでさえ治癒魔法も使えるのに、医務室にどんな薬があるって把握したら完全に保健委員だ。流石は我が妹!」
「え〜、昨日はメルルさんと初対面って言ってませんでした?」
「な、なぜバレた……!?
この私の渾身の偽証が……!!」
「この名探偵シェリーちゃんにはマルッとお見通しですよ〜」
「くぅううう……流石は名探偵シェリーちゃん、オレの負けだ……」
「えっへん!」
「って、なんで二人ともこんな状況でのんびり会話できるんですの!?
看守! 看守が後ろにスタンバってやがりますわ!!」
違う派閥とはいえオレとこの子達にはなんの因縁も隔たりもない。
なんならメルルさんと仲良いと言う事で、レイアさん派閥の中では一番和める自信がある。
と言う事でシェリーさんと話に花を咲かせていると、ハンナさんがそれはもうキレッキレのツッコミを入れてきた。
「あ、そうでした! どうして看守はカレンさんと一緒に?
あ、もしかしてカレンさんが黒幕……なんですか?」
「えぇ、そ、そうなの!?」
「そうだったらカッコいいんだけどねぇ。
牢屋敷から離れ過ぎたのか、巡回してたフクロウに見つかって看守が来ちゃったんだよ。
でもやましい事はしてないし捕まらないかなって思って逃げずに無視してたら、捕まえる事もせずに至近距離で監視するようになっちゃって」
「そ、そうだったんだ。
でも脱走行為をしなければ何もしてこないんだね」
「うん。オレの後ろをピヨピヨついてくるだけ。
意外と可愛いよ」
「確かに! こう見るとなんだからかわいく見えちゃいますね!
お手したら手を乗せてくれるでしょうか?」
「こ、これをかわいいと言えるなんて……
あなた方の胆力はどうなってやがりますの……?」
「あ、あはは……あ、そう言えばカレンちゃんはここに何しに来たの?」
乾いた笑みを浮かべていたエマさんがふとそんな事を聞いてきた。
……お話ししながら体力も回復できたし、そろそろ実行に移してもいいよな……。
「オレが何をしにここにしたのか……
それは見てのお楽しみさ!!」
「え? うわぁ!?」
壁の側までよるとジャンプをして足の裏に水晶の板を生成。
そしてそれを如意棒の如く伸ばす事で、みるみるうちにオレの身体は大きな壁を越え、大海原の絶景が視界いっぱいに広がった。
「ひょ〜、いい景色」
「ちょ、あなた看守の前で何してやがりますの〜!?」
「か、カレンちゃん! 看守が鎌で水晶の足場を叩いてるよ!!」
「え〜、脱獄しちゃうんですか〜? 私たちも連れてって下さいよ〜!」
「イテ、イテテ! ……脱獄はしないよ〜!」
これで後一歩前に踏み出したら、壁を越えて海水浴をする事が出来る。
それを阻止するかのように、バケモノフクロウは10数匹が束になってオレを突き落とそうと、オレの身体をついばんでくる。
イテテ……水晶で足を固定してなかったら今頃地面に真っ逆様だっただろうなぁ……。
「いつつ……さ〜て、いっちょやりますか!」
そう言いながら取り出しますは水晶で作った虫取り網ならぬ、鳥取り網!
網の部分は鎖で作ったから柔軟性も耐久性も一級品だ。
「一丁前に少女の監視してるフクロウどもめ!
どんなヤバい組織に仕えてようが所詮鳥は鳥!!
人間様に喰われる運命なのだよ!!」
オレがここに来た目的、それは食糧調達だ。
と言うのもこの牢屋敷の飯は不味い。とことんまでに不味い。
食とは人生を豊かにするものだと考えるオレにとっては、生きる為だけに摂る食事には我慢がならなかった。
と言う事で自力で食料を調達して、美味しく食べてやろうと思ったわけだ。
別に牢屋敷の規則に監視のフクロウを食べてはいけませんなんて聞いてなかったしな。
これを追求して来ても論破できる自信がある。
「欲を言えば海水から塩を作って味付けしたかったけど……
それは流石に規則違反だしな、キッチン探して調味料でも調達するか……」
「……あ、アイツはいったい何をしてやがるのかしら……?」
「フクロウを捕まえてますし、食べるつもりじゃないでしょうか。
牢屋敷にもご飯があるのに足りないんですかね?」
「鳥ステーキ……後でボクにも分けてもらおうかな……」
◇
その後、生け捕りにしたフクロウを持って看守から全力で逃走。
無事に逃げ切る事に成功したオレは、その日の夜再びアリサさんの懲罰房を訪れていた。
「……よっすアリサさ〜ん。晩御飯持って来たぜ!」
「おう。……あ? なんか今回ちょっといい匂いがするな」
「お、気づいた? 今日の夕飯は鳥ステーキだよ」
「なんだよ。ちゃんとした料理あるんじゃねぇか……。
ならもっと早く出しやがれってんだ」
舌打ちをしながらも鳥ステーキを噛み締めるアリサさん。
普段顔を顰めている彼女だが、ステーキを咀嚼する事でだんだん表情が和らいでいく。
やっぱ美味しい料理は偉大だな。
「うめぇ……ずっと不味い料理だったから特別美味く感じる」
「そりゃよかった。苦労して作った甲斐があった」
「ほんといつも悪りぃな……待て。
今作ったって言ったか?」
「イエス。鳥肉調達して牢屋敷のキッチンに忍び込んで調味料盗んでささっと。
流石に14人分も拵えるのは苦労したよ」
いや〜、それにしてもメルルさんがくれたハーブが臭み消しに役立つとは……メルルさんにはいい部位食べさせてやらないと。
「……なぁ、お前この鳥肉、昨日のバケモノフクロウとか言わねぇよな?」
「フッ、仇は取ったZE☆」
「…………」
なんとも言えない表情のアリサさんであった。
余談だが、翌日以降、どんなに壁の近くを歩いても、走り回っても、バケモノフクロウの姿を見る事は無くなった。
7匹しか捕まえてないのになぁぜなぁぜ?