そっくりさんノ牢屋敷生活   作:蒼天 極

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そっくりさんの終活

 悲報、魔女化しかかってたレイアさんがオレをターゲットに定めたっぽい。

 

「まさかレイアさんがオレを殺そうと考えるだなんて……オレってばそこまでレイアさんを怒らせるようなことしたかしら……?」

 

 あの場ではレイアさんに見つかる可能性がある為、少し離れた所に避難して、この牢屋敷での生活を振り返ってみる。

 

 ……うん、過去を振り返っても、レイアさんとは比較的良好な関係を築いているはずだ。

 その証拠に一緒によくご飯食べるし、自由時間に鉢合わせたら世間話をしたりもする。

 

 強いて彼女を困らせたとしたら、面倒くさい事をやるときに頼むぜリーダーとおだてて押し付けたり、足滑らせてパイ投げの如く料理を顔面にぶつけてしまったり、配信中に押しかけて中断させたり、ちょーっとやらかして看守に追いかけられてたときにうっかり巻き込んだりしたくらいだ。

 

 ……いや、オレ結構やらかしてんな。

 なんか殺される理由しか思いつかないのだが?

 

「あれ、カレンさんじゃないですか。

 どうしてここに? 医務室で休んでるんじゃ?」

 

「料理作りに」

 

「ちょ、こういう日くらい無茶せず休んでいいんですのよ!

 今日の所はわたくしが作りますから、レシピだけ教えて医務室に帰りやがれですわ!!」

 

 さて、こうなったらオレにできる事は五つだ。

 

 一つ、レイアさんが攻撃したのを見計らって返り討ちにする。

 二つ、みんなのいる前でレイアさんの殺害計画を暴露し吊し上げる。

 三つ、レイアさんは放置しつつも殺されないように上手く立ち回る。

 四つ、土下座して命乞いをする。

 五つ、なにもしない。潔く運命を受け入れる。

 

「うっわ〜、このレシピ結構複雑ですけどハンナさん出来るんですか?

 て言うかこれなんのレシピですか?」

 

「揚げないコロッケですわね、これくらいなら朝飯前ですわ。

 と言うかよく材料を揃えられましたわね…………」

 

「へぇ〜、お嬢様なのに料理できるんですね〜」

 

「お、お金持ちの間では自炊がトレンドなんですのよ……!!」

 

 まず一つ目だが、これは論外だ。

 オレはかーなーり強いからレイアさん程度なら返り討ちは余裕だが、死なない程度に痛めつけたとしても、魔女化が進んでいる以上なにをしてくるか分からない。

 最悪人質を取られる可能性もある。

 かと言って殺したらオレが処刑されちまう。

 

 次に二つ目、同じく論外。

 そもそも殺害を企てている証拠がない以上、オレの妄想として片付けられる可能性がある上に、仮に殺人未遂を証明出来たとしても、他の人に危険が及んでしまう。

 

「さ、カレンさんは早く医務室に戻って下さいまし。

 後でご飯持って行きますから」

 

「ふむ……」

 

「あれ? 反応ないですね?

 もしもーし、カレンさん聞こえますか〜……」

 

 次に三つ目、ありっちゃありだがなんか嫌だ。

 一人きりもしくはレイアさんと二人きりにならないようにする事を心掛けておけば、まず殺される事はないだろう。

 その上レイアさんは今回の一件が原因か、ノアちゃんをも狙っている。

 レイアさんがノアちゃんを殺して、魔女裁判でレイアさんを処刑できれば少なくともオレは安泰だ。

 ……だが、オレが助かる為にノアちゃん見殺しにするのはダメだろ。

 先にオレから狙うように立ち回らなければ…………。

 

 お次は四つ目、命乞いした瞬間に殺されるのがオチ。論外。

 

「ちょっとカレンさん! カレンさん!! 反応しやがれですわ!!」

 

「全く反応がありませんね。

 こうなれば担いで医務室に連れて行ってあげましょうか!」

 

「そ、そうですわね。もしかしたらまだ具合が悪いのかもしれないですし……。

 シェリーさん、任せましたわよ?」

 

「まっかせてくださーい!

 それじゃあ失礼して……あ」

 

「ゔっ!」

 

「このゴリラ女、落としやがりましたわ!!」

 

「手を滑らせちゃって……ごめんなさーい!!」

 

 となると残るは五つ目か。

 どの道助かる保証が少ないのなら、変な事なんてせずに普通に過ごして普通に死にたい。

 それによくよく考えてみればこれから魔女裁判が進んでいけば、どんどん他の子達も他人に対して警戒するようになるだろうし、生きてても面白くなくなるだろう。

 ならばまだ比較的穏やかな今舞台から降りた方が楽なのかもしれない。

 

 ……レイアさんへのヘイトが最低限オレに向くようにしながら、今のうちにやり残した事は全部終わらせて終わりの時に備えたほうが良さそうだな。

 

「……やるか〜、終活」

 

「こ、この人なんか自分の最期を悟ってやがりますわ!!

 しっかりしてくださいまし、傷はまだ浅いですわよ!!」

 

「ちょっと、お前らうるさいんですけど〜!

 あてぃし配信してんだから静かに…………」

 

「「あ」」

 

「……お嬢とゴリラ女がカレっち殺しやがったぁああああ!!」

 

「冤罪ですわぁああああああ!!」

 

「っ!? 冤罪ダメ絶対!!!!」

 

「うわっ、急に正気に戻るなですわ!!」

 

「今日のハンナさん元気いっぱいですね!!」

 

「お前はちょっと黙まりやがれくださいまし!!」

 

 

 ◇

 

 

「結論、他人がちゃんと作った飯は美味い」

 

 その後、シェリーさんに医務室に強制送還されたオレは、ハンナさん作の絶品コロッケに舌鼓をうちながら隣のベッドを見る。

 

『……ノア、貴様さっきなんでもわがはいの言う事聞くって言ったよな?』

 

「うん」

 

『ならノアの分のコロッケを貰おうか』

 

「え、それはヤダ!

 ノアも今日お腹空いてるもん!!」

 

『ビュッフェの食事を食べればいいだろう?

 それにわがはい、ノアのせいで医務室にいるのだがな?』

 

「うぅ……そうだけど……そうだけど〜……」

 

 少なからず罪悪感のあるノアちゃんは葛藤するような表情を浮かべるが、やがてそっぽを向いてコロッケを食べられないようにする。

 だがそれでニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべるアンアンさんは止まらない。

 

「ノア、【コロッケを寄越せ】」

 

「洗脳使うのは卑怯だよぉ〜……」

 

 アンアンさんの洗脳でコロッケを強奪されてしまったノアちゃんは涙目で彼女を睨んだ。

 …………。

 

「二人とも楽しそうだね〜。

 アンアンさんなんかノアちゃんのした事、気にしてると思ったけど」

 

『わがはいがいる事も少しは考えろとは思ったが、ノアも反省しているのでな。

 幸いわがはいは明日にはまた房に戻れるし、これくらいの罰が丁度いい』 

 

「あっはっは、確かに。

 悪い子にはメインディッシュは抜きが丁度いいや」

 

『そうだろう?』

 

「うぅ〜……」

 

 どうやらそこまで気にしていないらしいアンアンさん。

 同じ房という事でノアちゃんとはだいぶ仲良いみたいだし、反省してるならそれでよしという考えのようだ。

 てかアンアンさん、初対面の際は関わんじゃねぇオーラ全開だったのに、囚人の中ではかなり馴染んでる方なんだよなぁ。

 

 ……でもま、これなら大丈夫かな。

 

「アンアンさん、一個頼まれてくんない?」

 

『なんだ?』

 

 食事を終えてノアちゃんがオレ達の分の食器を返却しに行ったタイミングを狙い、アンアンさんに声をかける。

 

「もしアンアンさんがよかったらなんだけど、ノアちゃんを当分一人にしないであげて欲しいんだよね」

 

『それは構わないが、一体どうした?』

 

「ノアちゃん今回との一件でヒロさんと大喧嘩しちゃってさ。

 その上さっき医務室抜け出したとき、他のメンバーもノアちゃんの行動にいい顔してなかったから、下手したら孤立するかもって思ってね。

 仲良いアンアンさんが一緒にいてあげたらノアちゃんも寂しくはないだろうなって」

 

『それならカレンが一緒でもいいのでは?』

 

 一度スケッチブックを見せてきたアンアンさんだが、その途中思い出したかのような表情を浮かべた。

 

「アレルギーか」

 

「そそ。今回の一件で分かったけど、オレとノアちゃんかなり相性が悪いらしくって。何かの間違いでまた塗料がかかったら、今度こそ魔女裁判が開廷されるだろうし。

 それにオレアウトドア派だからインドア派のノアちゃんとは別の意味でも相性悪くって。

 オレも可能な限りあの子を気にかけるからどうか協力してくれよ」

 

 ノアちゃんの孤立を防ぐ為。これも理由の一つではあるが、本当の理由は別にある。

 それはノアちゃんを攻撃する隙がないとレイアさんに思わせる為だ。

 殺人事件は被害者が一人、もしくは加害者と二人きりのときに起こるもの。故にそこに第三者がいるならば殺人が起こる確率は下がるだろう。

 ……アンアンさんももやしっ子だから二人仲良く殺られる可能性もあるけど、どうでもいい人を巻き込むほどレイアさんもバカではないと信じよう。

 

「……分かった」

 

『またバカな事をしないように、わがはいが見張ってやろうではないか』

 

「ありがとう。素直に助かる」

 

 良かった。これでノアちゃんも当分は安全の筈だ。

 ノアちゃんに攻撃する隙がないなら、レイアさんの牙は必然的にオレに向くだろうし、その後のことは魔女裁判の結果を信じるとしよう。

 

 

 ◇

 

 

 その後囚人中でもお子ちゃまな二人は消灯時刻でもないと言うのに寝てしまい暇になった為、少し早いがオレも休もうと目を瞑っていた。

 

 ギィイイ……

 

 そろそろ夢の世界に旅立つその寸前、ドアの開く音が聞こえ意識がハッキリする。

 まだ消灯時刻でもないからな。誰かがお見舞いにでもきたのだろうか?

 薄く目を開けチラリと扉を向くと、暗がりでよく見えないがそこには一人の少女がいる。

 

 少女はオレらを見ると、足音が鳴らないように抜き足差し足でこちらへと距離を詰める。

 

 ……仮に来たのがエマさんやメルルさん、ヒロさんやハンナさん、ミリアさんならば寝ていると分かったならすぐに部屋を後にする筈。

 シェリーさんなら入ってくるかもしれないが、絶対うるさくするはず。少なくとも抜き足差し足で入ってはこない。

 そして他のメンバーはそもそもお見舞いには来ないはずだ。

 

 ……恐らくはレイアさんだろう。

 まさかこんなにも早く、アンアンさんもいると言うのに闇討ちしに来るとは思わなんだ。

 

 しかしまだオレ自身ちょっとやり残してる事がある上に、このままでは口封じにアンアンさんまで殺される可能性がある。

 ……流石にここで殺させてやるわけにはいかないな。こっちに来た瞬間に取り押さえてやる。

 

「……寝てるわね。

 なら起きる前にさっさと済ませてしまいましょう……」

 

 しかしオレの耳が感じ取ったのはレイアさんではない人の声。

 

 …………。

 

 少なくともレイアさんではないと言う事で、警戒はやめずとも寝たふりに専念。

 薄目で少女の様子を見守ると、ゆっくりこちらに歩み寄って…………なんと手を握ったではないか。

 

「包帯がまかれてる……? これじゃあ読み取れない……

 仕方ないわね……」

 

 少女はそう言ってゆっくりとオレの頬に触れて…………

 

「っ! こ、この記憶は──」

 

「ちょ、お前何しようとしてんねん!!」

 

「っ!? 氷上カレン、あなた起きてたの!?」

 

 貞操の危機を感じて飛び起きると、窓から差し込む月明かりでようやく侵入者の顔が見えた。

 そこにいたのは以前席の幅寄せしたり、オレに触れようとしたりと、セクハラの前科のある黒部ナノカさんで…………

 

「誰か! 誰か助けて!!

 痴女に犯されるぅうううううっ!!」

 

「ち、ちが……! 私はただ……」

 

「ひゃあ!? か、カレンちゃんどうしたの?」

 

「くっ!!」

 

 ナノカさんはノアちゃん達が気づくより早く逃げていきました。

 

 

 ◇

 

 

 先日はナノカさんの夜這い未遂があったものの、彼女の名誉の為に悪夢にうなされた事にしてうやむやにし、無事に翌日を迎えた。

 

 さて、無事に一夜明かす事ができたし、今日のうちにやり残しを終了させるとしますかね。

 と言ってもやる事は一つだからすぐに終わるだろう。

 

「メルルさん、なんか書くものない?」

 

「書くものですか?

 あ、それなら確かここに……」

 

 お見舞いに来てくれていたメルルさんに頼んでノートとペンをもらうと、早速これに書き込みを開始する。

 

 えっとチネリ米の作り方と……あぁ、あとチネリ米の生地からうどんとかも作れる事を書いておいて…………

 あとオバケフクロウの狩り方と看守の対処法とかも書いておこう。

 

「何を書いているんですか?」

 

「あぁ、今まで作ったアレンジ料理のレシピとかを書き残しておこうと思って。

 そしたらオレが今回みたいに動けなくなったり……最悪くたばったりしても食事事情はちょっとはマシになるでしょ?」

 

「そ、そんな悲しい事言わないでください。

 頑張って生き延びましょうよ……」

 

「大丈夫大丈夫、そんな簡単に死ぬ気はないから。

 ただレシピ帳とかあれば大変な時に他の人に手伝って貰えたりするでしょ」

 

「そ、それならまぁ……」と引き下がってくれたメルルさん。

 ……そんな簡単に死なないって、嘘をついてしまったな。恐らく数日以内……最悪今日死ぬかもしれないのに。

 

 嘘をついた事に若干の罪悪感を抱きつつも暫く手を動かし簡単なレシピ帳を書き上げると、医務室の普段メルルさんが使っている机の上に置いておく。

 スマホのチャットでレシピ帳を書いて医務室に置いた事を連絡しておけば、レシピ帳の存在を見落とす事がないだろう。

 

 …………牢屋敷の脱獄とかに関してはなんの助けにもならなかったけど、せめてこのレシピ帳が牢屋敷での生活水準を高めてくれると期待するよ。

 

「……カレンさん、どうしちゃったんですか?」

 

「どうしたってなにが?」

 

「こう言っちゃなんですが、普段後先のことをあまり考えないあなたが、いなくなった後のことを考えるなんて変だと思ったんです。

 まるで自分が死ぬのが分かってるみたいで……」

 

「おぉう……まさかあの大人しいメルルさんにすら問題児扱いされていたとは……

 でもま、流石は我が妹、嘘はつけないね」

 

「べ、別に問題児って言ったわけじゃ……あと妹じゃないですって……」

 

 あまりにあからさまに行動しすぎてしまったのだろうか。それとも普段一緒にいるからこそメルルさんにはなんとなく分かってしまうのだろうか。

 流石にこれでは誤魔化すのは難しいと言うことで、他言無用でと前置きをして昨日のことをレイアさんの名をぼかして正直に話すことにした。

 

「……誰がとは言わないけど、オレとノアちゃんを殺そうとしてる人がいる」

 

「え……」

 

(カレンさん……もしかして昨日のあの場にいたんですか……!?)

 

「……え、えっと……狙っている人がいると知ったって事は、殺そうって独り言を聞いたって事ですよね?

 ほ、他に誰かを見たり……そ、その……他の人の声を聞いたりとかは……?」

 

「? 特に見てもないし聞いてないけど……」

 

「ほっ……」

 

 何故か青い顔をしたり安心したような表情を浮かべたりと忙しいメルルさんに違和感を覚えつつも続ける。

 

「彼女の狙いが知れた以上抵抗はできるだろうけど、抵抗したらそれこそ他の人が危険に晒されるリスクがあるからな。だから潔く殺されてやろうと思ったんだよ」

 

「…………」

 

 素直に運命を受け入れたのが意外だったのか、大きく目を見開いたまま動かなくなったメルルさん。

 しかし暫く無言だった彼女は確かめるかのように問いかける。

 

「本気なんですか……?

 可哀想ですがノアさんを狙うように仕向けて、魔女裁判で犯人を証明できれば助かりますよ。

 それにあなたの魔法ならば、犯人を返り討ちにする事だって……」

 

「ノアちゃんを盾にしたらあの子が可哀想だし、少なくともオレは罪悪感で魔女化する自信がある。

 それにこの魔法で人を傷つけるってことは、もう極力したくないんだよ」

 

「でも、このままじゃ殺されてしまいますよ……?」

 

「罪悪感を抱えたままおめおめと生きのびるくらいなら、オレ自身がそうしたいと思ったことを正直にやって散った方がずっといい。

 自分の心に嘘をついてまで生き延びようとは思わない」

 

「……私には、分かりません」

 

「分からなくていいと思うよ。心の在り方は人それぞれなんだし。

 ……さて、オレが死ぬって知ったからにはもうちょっと付き合ってもらおうか?

 これで最後かも知れないし、話せるうちに話しておこうぜ」

 

「……はい」

 

 ……ノアちゃんは当分アンアンさんと一緒に行動するだろうから狙われる可能性は少ない筈。

 そして狙われるであろうオレもやり残しを終わらせて、いつでもこの人生に幕を下ろせる状態にした。

 

 ……さぁレイアさん、いつでもいいぞ。来るなら来い、オレは逃げも隠れもしない。

 ポロポロと涙を流し続けるメルルさんと会話しながら、これから訪れるであろう結末に覚悟を固めるのだった。

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