二度目の内戦は帝国を深く切り裂き、南部再構築も不完全に終わった。
そして今なお、帝国は分裂したままだ。
――歴史評論家 サセルボ・アーノルド
(『アトラス帝国近代史―いかにして南北戦争は起きたのか―』より抜粋)
「はぁー、マジでそれなぁー」
私、エリシア・ヴァルデンは本を読みながら大きくため息をついた。
この異世界に女の子として、生まれ変わってから15年が経った。
転生当初、私はかなり浮かれていた。
なんてったって異世界転生だ。喜ばない方がおかしいだろう。
もしかしたら勇者に選ばれるかもしれない。
それとも、魔王になっちゃったりして……
他にも、王族に生まれてカワイイメイドさんに囲まれた生活をしたり……
ぐへへ、よだれが止まらない……なんて思っていた。
だが――
「この国、問題だらけなんだよなぁ……」
私は本を持ったまま、ぐったりと背もたれに体重をかけて、手を頭の後ろで組んだ。
転生した喜びもつかの間、私はこの国の現状を知るたびに、頭を抱えていた。
何はともあれまずは、転生先の国家について話しておこう。
アトラス帝国――
アトラス大陸を統一し、近代化を成し遂げ、その余りある国力を外側へと向けつつある超大国。
国ガチャとしてはSSRと言える。
それ以上に……異種族たちがいる!
前世では
転生直後の私は本気で興奮した。
いやー、前世で
マジで異世界サイコー!!って思ったし、今世の目標も決めた。
そう、異種族百合ハーレムを築くと……!!
だが、その夢はあまりにも脆く砕け散った。
「クソっ、国内問題がデカすぎる…」
前世がただの一般人だった私にとって、政治のことは難しくてわからない。
でも、そんな私でも「この国ヤバくない?」と思う問題がゴロゴロある。
例えば――
とりあえず思いつくだけでもこんなところだ。
他にも問題は山積みだけど、語り始めると日が暮れるので、一旦置いておこう。
「どうしたものかなぁー」
このままじゃ、私の夢も叶えられない……
頭の後ろで手を組みながら、
前世では、自分の夢なんて持ったことなかったし、やりたいなんて無かった。
だからこそ――
今世では、今世こそは
そのためには、異種族に対する差別やらが最大の敵になる。
前世の私なら、そのまま諦めていただろう。
例えば――
仕方ない、頑張ったって意味はない、やったって無駄だ……って。
でも今の私にはチートがある!
そう、魔法チートが……!
チートを貰った記憶もないし、神様とも会ってないけど、神様ありがとう……!
でも――
「チートがあってもどうにかなるか、これ?」
ぶっちゃけ、チートがあってもどうにかなる自信がない。
社会問題なんて、力があってもどうしようもないし……
異種族百合ハーレムを作るためには、差別を無くすまではいかなくても、少しずつ減らしていくことが必須だ。
お嫁さんが差別されているのを黙って見ているわけにはいかない。
そのために、何が必要だろう?
そこらの一般人が平等を訴えたところで、迫害が消えるわけでもない。
この国を動かすには、やっぱり――
三大英雄。
帝国の建国者に匹敵するだけの力が欲しい。
もちろん、単純な力だけでなく、影響力とか人脈とかも色々が必要だ。
もしも、失敗して帝国で生きられなくなったら――
世界中を旅してやろう。
まぁ、失敗してもすぐに死ぬわけではなし、再起のチャンスもいくらでも回ってくるだろう。
やってやろうじゃないか。
一度死んだんだ。今世では自由に、自分のやりたいように生きよう。
そう決意して眠ろうとしたその時、コンコンと窓を叩く音が聞こえる。
たぶん、あいつだな……
一気にカーテンを開くとそこには、幼馴染のルーヴァ・ガランドがニコニコしながら立っていた。
月明かりが彼女の端正な顔立ちと獣人特有の耳としっぽを照らした。
いつものように、窓を開けてあげると静かに私の部屋に入り込んできた。
まったく、ちょっと文句を言ってやらないと……
「……あのさぁ、ルーヴァ?さすがに寝る直前に来るのはやめてくれない?」
ルーヴァの夜更けの訪問にケチをつける。
いやまぁ、来てくれるのはうれしいよ?
だが、真夜中に、それも両親がいるときに来られるのは困る。
「えぇー、だって明日だよ?アトラス魔法学院の下見。興奮しちゃって、眠れないんだよねー」
まぁ、確かにそうだ。
私も緊張でちゃんと眠れるとは思っていなかったし……
「まぁ、分かるけどさぁ、明日って早いじゃん?」
そう、そこが問題だ。
アトラス魔法学院のあるエステリーナ市まで、列車で片道で6時間もかかる。
明日5時に家を出るのだから、早く寝ないといけない。
「うーん、何とかなるでしょ」
のんきな幼馴染に呆れて、私はため息をついた。
「はぁー、まったく危機感がないんだから…」
そんなこんなでルーヴァを部屋に入れてから適当にお喋りをした。
内容は、エステリーナでの家をどうするか、明日の荷物の確認とかだ。
ひとまず、ホテルを取っているからそこで一週間は過ごせる。
問題は家をどうするかだ。
まず、前提としてアトラス魔法学院に寮はない。
生徒たちは各々で家を借りて、一人暮らしをする必要がある。
人族の私には、何ら問題はない。
学園と国からちゃんと家賃補助が出るからね。
でも、獣人のルーヴァは違う。
家賃補助なんて雀の涙程度だ。
そもそも、異種族に家を貸してくれる心優しい大家はほぼいない。
都市に住む獣人たちは、都市部のスラム街とかに住む”傾向”がある。
”傾向”なんて言ったけど、実際はほぼそこしか選択肢がない。
実際、ルーヴァの家はスラム街寄りの方にあるし……
だが、それは異種族だけの場合だ。
私のような人族と一緒であれば、普通の場所にだって住めるはずだ。
だから本当は、一緒にシェアハウスといきたかったが――
両親の反対が凄まじく、この話は立ち消えた。
でも一人暮らしをするのだから、そんなことは気にしなくてもいいだろう。
親の目も届かなくなるから、自由に過ごせるはずだ。
好き勝手させてもらおう。
そうこうしているうちに、さすがに寝ないと不味い時間になってきた。
すでに時計は12時を超えていた。
「ねぇ、ルーヴァ。続きは明日にしない?もう寝ないとヤバいって」
私の言葉で時計を見た彼女は焦ったように立ち上がった。
「ちょっ、もうこんな時間!?じゃあ、エリシアまた明日ね。絶対に寝坊しないでよ!」
彼女は急いで靴を持って窓を乗り越えて、屋根へと静かに移動した。
そして、二階から道路へと思いっきり、ジャンプして走り去っていった。
去り際、こちらを振り返ったルーヴァが微笑む。
深夜なので声は出さず、私は手を振って応えた。
ふぅー、思ったよりも話し込んじゃったな……
ルーヴァが去った後の部屋の静けさで少しだけ寂しくなるが、どうせ明日も会えるんだ。
そんなことを思いながら、ベッドに入り込み、毛布にもぞもぞと包まる。
もうかなり遅くになってしまったから、メチャクチャ眠たい。
程なくして、私はすぐに意識を手放して夢の世界へと入り込んだ。