TSしたので国救ってくる   作:コットさん

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第二話

諸州での近代化こそが、我々にとっての明白なる天命(マニフェスト・ディスティニー)である。

――三大英雄 クジョウ・カスミ


 ジリリリッ!

 うるさい目覚ましの音で目を覚ました。

 カーテンの隙間からこぼれる光をぼんやり眺めながら、ベッドから起き上がる。

 すこし耳をすませば、小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 そして、昨夜のようにカーテンを開いた。

 

 朝四時――

 まだ夜の余韻を引きずったような薄暗さの中、道端にはゴミ箱と電灯だけが静けさに取り残されていた。

 

 「……あー、もう朝か」

 

 ……もっと寝てたいなぁー。

 でも、今日はアトラス魔法学院のあるエステリーナに向かう日だ。

 急いでご飯を食べて、ルーヴァと合流しないと。

 ……忙しい一日になりそうだ。

 

 眠たい目を擦りながら、一階に降りていく。

 リビングに入ると料理をしている母さんと、新聞と睨めっこをしている父さんがいた。

 

 母さんは私が起きてきたことに気づいた瞬間、こちらに走ってきてハグをした。

 

 「エリシア、ちゃんと眠れた?体調は大丈夫?やっぱり、お母さんも付いて行く?」

 

 大丈夫だからと過保護な母さんを何とか落ち着かせて、父さんの向かいの席に座る。

 全く、子離れができないんだから…心配してくれるのは嬉しいんだけどね。

 

 「いただきます」

 

 軽く手を合わせる。

 この国では当たり前の習慣だが、元は三大英雄が広めた文化らしい。

 

 母さんが用意してくれたトーストとベーコンエッグをゆっくり食べる。

 眠気でぼんやりした頭でも、美味しいものはちゃんと美味しい。

 一口だけホットミルクを口に入れる。

 少しだけ冷たくなっていた体が、じんわりと温まる。

 

 ふと、父さんの方を見るとコーヒーを飲みながら、新聞と睨めっこを続けている。

 なんだか、嫌な予感がするなぁ…

 

 「父さん、どうかしたの?また嫌なニュースでもあった?」

 

 私の問いかけに父さんは難しい顔をして、コップをひとまず置いて話し始めた。

 

 「どうやらオストモ大森林で大規模な火災があったそうだ。それでエステリーナ鉄道に影響が出ているらしい。今日は完全に運行取りやめとのことだ」

 

 驚いて父さんから新聞を見せてもらうと、一面にオストモ大森林での火災が取り上げられていた。

 アトラス中央通信紙によると、オストモ大森林での大火災の鎮火の見込みはまだ無く、鉄道の運転再開は完全に未定であることが書かれていた。

 

 「…なんてこった!?」

 

 このままじゃ、エステリーナまで行けないと思ってたけど――

 よくよく考えたら、私、飛行魔法が使えるし、まぁ何とかなるでしょ。

 

 「……飛んでいけばいいか」

 

 私は椅子から立ちあがり、冷蔵庫から6本マナポーションを取り出した。

 ナテリシアン製薬のマークが刻まれた真っ赤な小瓶をリュックのポケットにしまった。

 

 「そういうわけで、私、ルーヴァと一緒に飛んでいくから」

 

 父さんがようやくコーヒーを飲み終え、トーストに手を伸ばしたころ――

 母さんの顔は引きつっていた。

 

 「飛ぶって……あの飛行魔法で?」

 

 「うん、あの飛行魔法」

 

 「だ、だめよ!ここからエステリーナまでどれくらい離れていると思ってるの!?」

 

 まぁ、母さんの言い分も分かる。

 だが、そこそこの間、鉄道は運休になるだろうし、向こうでの家を探さないといけない。

 

 「大丈夫だよ、母さん。私の飛行魔法の上手さは、知ってるでしょ?それにちゃんと休憩しながら行くし、マナポーションもちゃんと六本持ったから」

 

 私がいくら説明しても、母さんの顔から心配の色が消えることはなかった。

 けど、父さんが助け舟を出してくれた。

 

 「少し落ち着け、エシャロット(母さん)。エリシアの魔法の上手さはお前も知ってるだろ?……少なくとも、俺が知る限りじゃエリシア以上に安定して飛べる奴は……三大英雄とその弟子くらいだ」

 

 父さんの言葉に私も乗っかって、母さんを説得する。

 

 「そうそう、私なら何とかなるから大丈夫だよ」

 

 母さんは最後まで何か言いたそうだったが、さっさと準備を整える。

 リュックサックを背負い、キャリーケースを玄関まで運ぶ。

 

 うぅ、重たい……。

 普通ならこれを引きずって歩くところだけど――。

 私は軽く魔力を流し、キャリーケースをふわりと浮かせた。

 

 「じゃあ、行ってきます!」

 

 「ああ、行ってこい。ルーヴァとは……まぁ、ほどほどにな」

 

 私の言葉に、父さんはいつも通りの穏やかな声で答えてくれた。

 母さんは何か言いたそうにしてたけど、結局何も言えずに口を閉じた。

 

 不安そうな母さんを尻目に、私はルーヴァと待ち合わせをしていたエリュセン公園へと向かった。

 徐々に日が昇る中、私は太陽に向かって歩いて行った。

 まだ寝ぼけたままの街を抜けて。

 

 歩くこと十数分、普段と違ってほとんど人のいない道を歩いて、駅前のエリュセン公園に着いた。

 すでにそこには、コートを羽織った少女がいた。

 寒さなんて気にしていないかのように、獣人特有の耳としっぽをせわしなく揺らしている――ルーヴァだ。

 

 もしかして、結構前から待っててくれたのかな?

 

 「おはよう、ルーヴァ。もしかして待たせちゃった?」

 

 私の言葉にルーヴァの耳としっぽが嬉しそうに大きく揺れた。

 

 「ううん、ちょうどさっき来たところだよ!」

 

 胸をなでおろしながら、今朝の新聞で知ったことを話す。

 

 「ねぇ、ルーヴァ。エステリーナ鉄道が休みだって知ってる?」

 

 私の問いかけにルーヴァは、耳をピンと立ててびっくりした様子だ。

 

 「えっ、ほ、本当!?知らなかった…」

 

 驚いているルーヴァに、私は得意げに笑って見せる。

 

 「まぁ、でも問題ないから安心して。飛行魔法でルーヴァも連れていくから」

 

 その言葉にルーヴァはぽかんとした様子だった。

 

 「……へ?」

 

 だが、すぐにその意味を理解した。

 

 「…えぇっ!?ここからエステリーナまで飛んでいくの!?」

 

 そりゃ、そういう反応になっちゃうよね。

 驚いたルーヴァの顔もカワイイなぁ……

 

 まぁ、それはいいや。

 

 飛行魔法――

 アトラス帝国において、第二級高位魔法なんて仰々しく分類されている魔法だ。

 単に空に浮くだけならそこまで難しい魔法ではない。

 問題なのは、その”燃費”だ。

 

 常に重力に逆らい続ける以上、魔力の消費は凄まじい。

 そんな訳で、飛行魔法は第二級高位魔法に指定されている。

 

 でも――

 私は、その消費をほとんど気にしなくていい。

 

 なんてたって、私には魔力チートがある!

 

 「うん、ここから飛行魔法でエステリーナまで飛んで行く予定。ちょくちょく休憩は挟むけど、お昼までには着くと思うよ?」

 

 その言葉にルーヴァは首をぶんぶん横に振った。

 

 「む、無理!私が高いところがダメだって知ってるよね!?」

 

 あー、そう言えば、ルーヴァって高いところがダメだったな…

 でも、流石に鉄道の再開まで待つのは、ちょっと無理だしなぁ〜

 

 … 多少強引でも、連れて行くしかなさそうだ。

 

 ふぅー、と息を大きく吐き出して意識を集中させる。

 まず、反重力魔法を展開して…よし、問題ない。

 

 私が飛行魔法を準備しているのを見て、ルーヴァは顔を真っ青にしている。

 ルーヴァの耳はぺたりと伏せられ、顔色も真っ青だった。

 

 「ま、待って!ほんとに飛行魔法でいくの!?まだ、入学までにかなり時間があるから、鉄道が再開してからでもいいよね!?」

 

 そう言って駄々をこねるルーヴァの手を取って引き寄せ、そのままそっと抱き寄せる。

 逃げられないように腰へ腕を回した。

 

 「大丈夫、落としたりしないから安心して。目を閉じてていいよ。」

 

 「ちょっ、まっ」

 

 ルーヴァが何か言ったような気がしたけど――

 ごめん、少しだけ我慢して。

 そう心の中で謝りながら、飛行魔法を全開にした。

 次の瞬間、ふわりとした浮遊感が体を包む。

 その直後、一気に加速したことで地面が急速に離れた。

 すでに元いた公園が小さく見える。

 

 空中に上がれれば、後はこちらのものだ。

 三次元の世界を自由自在に行き来できる。

 

 「む、無理無理無理ぃっ!?エリシア、下ろして!」

 

 「ちょっ、こんな所で暴れないでよ!」

 

 あぁー、もう、ほんとに力が強いんだから…!

 私の腕の中で暴れるルーヴァを必死になだめながら、高度を維持する。

 

 暴れるルーヴァを落っことさないために、思いっきりルーヴァを抱きしめた。

 しばらくすると、服を掴む力が少しずつ弱まってきた。

 なんとか落ち着いてきたらしい。

 

 「ルーヴァ、落ち着いた?」

 

 私の問いかけにルーヴァは小さく頷く。

 

 「……まだ怖いけど、さっきよりは」

 

 腕の中のルーヴァが、涙目のままジト目でこちらを睨んできた。

 うぅっ、ちょっと強引すぎたかなぁ…

 

 ふと地上を見下ろすと、街はゆっくりと目を覚まし始めていた。

 すでに車が通りを行き交い、小さな人影がぽつぽつと歩いている。

 いつも街を南北に隔てている線路は、朝日に照らされて金色の糸のように輝いて見えた。

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