TSしたので国救ってくる   作:コットさん

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第三話

本法案では以下の三項目を正式に承認し、細部に関しては各項目にて詳述する。

1.帝国内のエルフ族のオストモ大森林への強制移住

2.エルフ族によって行われる広範な自治

3.治安維持などを目的とした帝国軍の進駐

(エルフ族特別自治法案――冒頭より抜粋)


 朝日に照らされた雲海の上を、私たちは飛んでいた。

 眼下には、目を覚まし始めた帝国の街並みがどこまでも広がっている。

 

 「うぅぅ……やっぱり高いぃ……」

 

 私にしがみつくルーヴァの声が震えた。

 

 「大丈夫だって、私の飛行魔法の上手さはルーヴァも知ってるでしょ」

 

 そう言ってルーヴァを宥めながら、広大な空を滑るように飛んでいく。

 時速にすれば百キロ前後だろうか。

 風景がゆっくりと後ろへ流れていく程度の、安定した速度だ。

 このくらいなら、野生のワイバーンと同じくらいの飛行速度だ……たぶん。

 

 そうこうしているうちに、私たちの下に広がる景色は大きく様変わりしていた。

 

 小さな地方都市の輪郭が遠ざかり、代わりに郊外の農地が広がっていく。

 畑の土が淡い朝日に照らされ、ところどころで水分を含んだ地面が光を反射していた。

 さらにその先――空気の色が、わずかに変わる。

 確か――地図上だとそろそろ見えてくるはずだ。

 

 水平線が突如として、緑一色に塗りつぶされたように感じた。

 ……初めてここに来たけど、大森林の名に恥じない風景だ。

 

 「ルーヴァ、オストモ大森林が見えてきたよ」

 

 少しだけ高さに慣れてきたルーヴァも、その視線を大森林へと向ける。

 

 「――ここがオストモ大森林…広いね」

 

 ルーヴァの言葉には、恐怖ではなくただの自然への畏怖の念が込められているように感じた。

 その声に、さっきまでの怯えはなかった。

 

 そのまま、ずっとオストモ大森林上空を飛んでいたが、魔力の残りが微妙だ。

 本当はこのままオストモ大森林を一気に抜けていきたいところだけど――

 

 さすがに魔力が持つか分からないなぁ…

 ちょうどいい平原もあるし、これから先も森が続くとなれば、安全に着地できるとも限らない。

 休憩と行きますか…

 

 「ルーヴァ。一旦、休憩するから降りるよ」

 

 その言葉にルーヴァが腕の中から心配げに見つめた。

 

 「エリシア、大丈夫?もしかして、魔力切れとか…?落っこちたりしない?」

 

 その言葉に首を横に振り、ただの休憩だよ、と笑って告げて高度を徐々に降ろしていく。

 オストモ大森林へ入り、しばらく進んだ先――

 おそらく、かつての植民の跡地であろう平原に着陸する。

 

 反重力魔法を弱めながら、空気抵抗と風魔法で速度を十分に落として――

 よし、着陸っ!

 

 私たちは周囲を木々に囲まれた平原に音もなく着陸した。

 

 「ルーヴァ、降ろすよ」

 

 そういって腕の中にいたルーヴァをそっと解放する。

 ルーヴァは地面に足がついた瞬間、安心したように大きく息を吸い込み、そして吐き出した。

 

 そんなルーヴァを横目に、井戸の残骸にリュックを置いて、ナテリシアン製薬の魔力ポーション1本をリュックから取り出した。

 そして、それを一気に飲み干す。

 ごくごく、ぷはー…うーん、独特な味。

 不味いわけじゃないけど、美味しいとも言えない。

 

 魔力が体の奥からゆっくりと満ちてくるのを感じながら、私は息をついた。

 魔力が戻るまで、ちょっと雑談でもするかな……

 

 にしても――

 

 「ねぇ、ルーヴァ。煙の臭いってする?新聞だと火事が起きたせいで、鉄道が止まったって書いてあったけど……」

 

 私の言葉にルーヴァも不思議そうに、匂いを嗅いでいた。

 

 「ううん、全く臭わないよ。もう消し止められたんじゃない?」

 

 うーん……新聞に載るくらい火災が、すぐに消し止められるかなぁ……

 でも、ルーヴァが匂わないって言うんなら、この近くで火事はないだろう。

 それに空を飛んできたんだし、煙があればすぐに分かるはずだ。

 

 あーだこーだ考えていたその時――

 魔力探知に何かが2つだけ反応した。

 それらは急速にこちらに接近してきていた。

 

 「ルーヴァ、近くに来て。何かがこっちに来てる」

 

 「言われなくても」

 

 おそらく、ルーヴァも音でその存在に気づいていたのだろう。

 ルーヴァはいつものように私の前に立ち、腰からナイフを取り出した。

 ――そういえば、魔物狩りに行くときも、ルーヴァは先頭に立ってくれたなぁ。

 

 そう思った矢先――

 向かいの木々の隙間から、誰かが走ってくるのが見えた。

 

 木々の間から飛び出してきたのは、銀髪のエルフの少女だった。

 必死すぎてこちらに気づいていないのか、全速力で走ってくる。

 まるで何かから追われているかのように。

 

 少女を追いかけていた正体が姿を現した。

 それは……よく森などで見かける、ただのヘビ型の魔物だ。

 

 無論、魔物だから体は大きいものの、強くはない。

 なんなら、あの魔物は臆病で人を襲うことなんてないはずだ。

 

 まぁ、このくらいの相手なら低級魔法で十分かな…

 

 「投石魔弾(ホーミングストーン)

 

 私が呪文を唱えると同時に、10発の石礫が生成された。

 次の瞬間――

 石礫が一斉にヘビへと向かって突き進んでいく。

 そして、全弾がヘビに命中した。

 数発が胴体に命中して、残りはすべて頭部へ叩き込まれる。

 

 その衝撃でヘビは大きく横に倒れたが、すぐに体勢を立て直してこちらに向き直った。

 

 殺さないように弱めた弾だったけど、さすがに弱めすぎたか。

 だが、こちらの魔法を警戒してか、先ほどまで追いかけてきたエルフの少女のことを忘れたかのように、私だけをじっと見つめた。

 

 張り詰めた空気の中、私は指先に魔力を込めて、いつでも魔法を打てるように身構える。

 その姿を見てか、ヘビはずるずると後ろに下がると、森の奥へ逃げ去っていった。

 

 ふぅ、逃げてくれてよかった。

 無駄な殺生はごめんだからね。

 

 そして、エルフの少女はルーヴァが保護してくれたみたいだ。

 エルフの少女は、ルーヴァの腕の中で泣きじゃくっている。

 ルーヴァもどうすればいいか、分からずにアセアセとしているみたい。

 

 「怖かったよね?大丈夫、ヘビはもう追い払ったから安心してね」

 

 私の言葉に、その少女はそっと後ろを振り向いて、私の方を見た。

 少女はヘビが退散したことに気が付いたようで、しゃくり上げる声が少しずつ小さくなっていく。

 

 「名前、聞いてもいい?」

 

 私はできるだけ穏やかに話しかける。

 だが、彼女は私の顔を見た瞬間、小さな悲鳴を上げて怯えたようにルーヴァの陰に隠れた。

 まるで、さっきのヘビよりも、私の方が怖いみたいに。

 

 …もしかして、人見知りなのかな。

 でも、ルーヴァのことはそこまで怖がってなさそうだし…

 

 その様子を見た、ルーヴァが私の代わりに名前を聞いてくれた。

 

 「怖がらせたならごめんね。無理に答えなくてもいいけど……名前、聞いてもいい?」

 

 ルーヴァはしゃがんで、目線の高さを少女に合わせた。

 少女は怯えながらも、ルーヴァの質問に頑張って答えた。

 

 「…フィリア・グレッティア…です」

 

 「フィリア、怪我はない?どうしてこんなところにいるのかな?」

 

 フィリアの体をよく見てみると、あちらこちらに小さな切り傷があった。

 

 「ルーヴァ、フィリアの両足と右腕…ぐらいかな。怪我してるから、治癒魔法使うよ」

 

 私の言葉に、フィリアは怯えたようにルーヴァの服を掴んだ。

 ただ傷を治してあげようとしているだけなのに…

 ……そんなに私が怖いのかな。

 

 「大丈夫だよ。あのお姉ちゃんはエリシアって言って、魔法がとても得意なんだ。すぐに傷もよくなるよ」

 

 その言葉を受けて、フィリアの肩から、少しだけ力が抜けたように見えた。

 …今しかないな。

 

 「大丈夫。痛くない魔法だから」

 

 そう言いながら、私はゆっくり手を伸ばす。

 少女はまだ不安そうだったが、逃げることなくその場に留まった。

 

 「急速治癒(ラピッド・キュア)

 

 魔法を発動すると同時に、フィリアの全身を淡い緑色の光が包む。

 そして、光が消えた時、彼女のあちこちにあった切り傷はすべて治っていた。

 

 「ヒュー、いつ見てもすごいねぇー。治癒魔法を使えるだけでもスゴイのに、高位魔法も使えるなんて」

 

 幼い時からルーヴァの傷を治していたけど、この世界だと治癒魔法を扱える者は一握りくらいだ。

 フィリアも治癒魔法に驚いたのか、体のあちこちを見たり、触ったりして傷が消えたことを確認している。

 

 「傷はあらかた直したけど、痛い場所はない?」

 

 私の言葉に、フィリアはおそるおそる頷いて答えてくれた。

 

 「…大丈夫。あなたは優しい人族なの?」

 

 「優しい人族…?ま、まぁ、たぶんそう?」

 

 フィリアの言葉に疑問を抱きながら、改めてその顔を見る。

 ていうか、よくよくフィリアの顔を見てみると、結構カワイイな…

 ピンと横に立った耳に、ルーヴァの金髪短髪と対照的な銀髪長髪――

 まさにエルフと言えばって感じだ。

 

 コホンっ、とルーヴァの咳払いで我に返り、恐る恐るルーヴァの方を振り返る。

 ルーヴァは耳を後ろに倒しながら、不機嫌そうにジッと私を見つめていた。

 

 ……フィリアのことを見すぎたかもしれない。

 と、とりあえず、この場を切り抜けないと…

 

 「そ、そうだ。フィリアの集落ってどこなの?この森には危険な魔物とかがいるから、早く集落に帰ったほうがいいよ。何なら送って行こうか?」

 

 その言葉に、ルーヴァも小さくため息をついた後、賛同してくれた。

 フィリアは少し迷ったみたいだが、私たちと一緒にエルフの集落まで帰ることに小さく頷いた。

 

 「集落まで案内するね……」

 

 フィリアはそう言ったけど――

 その表情はどこか暗く、どことなく帰りたくない雰囲気を醸していた。

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