ベル君の身長が203cmなのは間違っているだろうか?   作:長身キャラ大好き

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ベル・クラネル
14歳 203cm 104kg
背は高いし筋肉もつきやすいし体は丈夫という弩級のフィジカルギフテッド。十中八九両親が違う。まだまだ成長期で多分最終的には214cmくらいになる。
一人称は『俺』


EP1

 「はっ⋯⋯はっ⋯⋯」

 

 地下迷宮の第五階層。

 ダンジョンの苛烈さと悪辣さが片鱗を見せ始めるその階層で、少女は(つや)やかなブロンドヘアを柔らかく振り乱しながら走り続ける。

 何かに追われている訳ではない。寧ろ、あっちへこっちへと常に忙しい目は追跡者(チェイサー)のそれだった。

 

 (あのミノタウロス⋯⋯どこに行ったの)

 

 五叉路に突き当たって足を止める。周囲を見回して痕跡がないか探るが標的(ターゲット)は見当たらないので、今度は目を瞑って五感を研ぎ澄ます。

 

 (──いた!)

 

 腹の底に響くようなミノタウロスの咆哮。その残響がほわんほわんと(もや)が掛かった状態で彼女の耳に届いた。

 少女は音が聞こえてきた方角につま先を向け、旋風の如く駆け出す。

 耳をそばだてていた音がみるみる内に近付いていく。

 興奮したミノタウロスが暴れ狂っているのが察せられる荒々しい喧騒。そこにほんの少しだけ、若い男の雄叫びが混ざっていた。

 少女の中では一瞬だけ仲間の狼人(ウェアウルフ)の男が脳裏を過ったが、それにしては戦いが長引き過ぎていると(かぶり)を振り、偶然出くわしてしまった冒険者の物だと断定する。

 

 (急がないと大変な事に──!)

 

 地面を蹴り出す感覚が更に短くなる。

 間もなくして音の出処が間近に迫る。曲がり角を抜けた先にあったのは、この階層の中では広々としている袋小路。

 手前には少女の仲間である狼人(ウェアウルフ)が佇み、その先の広間では、自分達のターゲットであるミノタウロスと、それに引けを取らない巨躯をもつ白髪(はくはつ)の男が、互いの雄を懸けるべく対峙していた。

 

 (えっ⋯⋯)

 

 少女の鋭く研がれていた目が丸く見開かれた。空転しかけていた足に無意識のブレーキがかけられ、仲間の隣へと立ち止まる。

 彼女は一瞬、『どうしてこの狼人(なかま)はターゲットを討たないのか』と直情的に思ったが、ダンジョン内で他の冒険者の獲物を横取りするのはルール違反である事を考慮したのだと冷静に考え、別の言葉を投げかけた。

 

 「あの人は助けなくてもいいの?」

 「見りゃ分かるだろ、まだその時じゃねえ」

 

 前方では、男がミノタウロスの剛腕から放たれる殴打を躱し、血濡れの長剣で敵の胴体を袈裟懸けに斬りつける。

 一撃はモロに直撃。しかし彼の剣では相手の重厚な肉体には深い刀傷を負わせる事はできないようで、傷口からの出血は軽く噴き出す程度に留まる。すかさず返す刀で同じ軌跡を辿るが、それによる傷はたかが知れていた。

 だがミノタウロスは苦悶の声を上げて一歩後退り、それに対して男は果敢に追い打ちを仕掛け、今度はその巨腕に傷を付ける。

 いい加減にしろとばかりにモンスターは反撃の拳を振りかぶったが、男はその巨体に見合わぬ身のこなしで避けてみせた。そしてまた、振り出しに戻る。

 このようなやり取りは既に何度も繰り返しているのだろう、彼らの足元にはミノタウロスの物と思しき血痕がそこら中に散らばっていた。

 

 「⋯⋯酷い斬れ味」

 「ったく、これじゃあ埒があかねえぞ」

 

 当の本人もそろそろ業を煮やしたようで、相手の頭を叩き潰さんとばかりに雄叫びを上げて上段から斬り掛かった。

 クイッ。

 ミノタウロスは剣の角度に対して頭を傾けて、角で刃を受け止めた。

 甲高い金属音と、それに混じる破砕音──。

 

 (──っ!!)

 

 少女は何が起きたかを瞬時に察知し、腰に差している剣に手をかけて一目散に飛び出した。

 堅牢な角に敗れて真っ二つに折れる剣。それを眼前にして呆然とする男。

 対して、ミノタウロスは降り掛かる金属片が心地良いかのように口端を上げ、幾重にも刀傷を受けている体にエネルギーを充填するように肺を膨らませた。ギチチ──と剛腕に力が漲る。

 男はハッと我に返って相手の動向を察知するが、時既に遅し。岩を穿つような一撃が、彼を襲う。

 ミノタウロスとしては、その筈だった。

 

 「⋯⋯水を差してごめんなさい」

 

 せせらぎのように涼やかな声の直後、風切り音がミノタウロスの眼前を駆け抜ける。

 目の前の男に向かって突き出した腕に切り取り線のような直線の筋が走り、そこから先がずるりと崩れ落ちた。モンスターはもう片方の腕で慌ててそれを拾い上げようとするが、その時には首から先が既に斬り落とされているせいで目測が定まらず──ベチャッ。

 牛の生首が床に転げ落ち、胴体の切断面から血が噴き出すまでもなく、その巨体が灰へと変わる。

 魔石だけが、その場に残った。

 少女は剣に纏わりついた血液を地面に向けて振り払うと、熟れた(こなれた)手捌きで納刀する。ふと助けた男を見てみれば、彼は俯いて歯を食いしばり、折れた剣の柄を腕が震える程の力で握り締めている。

 少女は心の機微に対して疎いという自覚があったが、それでも彼の心情を推し量る事が出来た。静観を決め込んでいた狼人(ウェアウルフ)に至っては、その気性から人一倍感じ取る物があった。

 

 「あの──」

 

 少女から声を掛けられると、男は肩の力をふっと抜いて彼女の方へと振り向いた。

 静かに燃え続ける炎のような深紅を宿した瞳。ハッキリとしていて端正な輪郭だが、幼さが垣間見える容貌。口元には青髭の痕は一切見られず、肌は新雪のように瑞々しい。

 背丈や体躯が()()()()過ぎて語弊が生まれそうだが、彼の年齢は『少年』と言われる範疇だと推察できた。

 

 (若い⋯⋯)

 

 自分と大差ない歳だろうか、と少女が思っていると、彼は徐ろに(こうべ)を垂れた。

 

 「感謝します」

 

 喉仏の存在を感じる、(あで)やかで練れた声が閉鎖空間に短く残響する。

 少女は不思議と言葉に詰まり、それを見た狼人(ウェアウルフ)は面白くなさそうに鼻を鳴らし、視線を切った。相手からの返答を待たずに少年は(おもて)を上げると、手に持っている剣だったものを鞘に収めて踵を返す。

 狼人(ウェアウルフ)の横を通り過ぎようとした瞬間、男は「おい」と少年を呼び止めた。彼は一切動揺する素振りを見せないまま、狼人(ウェアウルフ)の方へと振り向く。

 

 「何でしょうか」

 「見ねえ顔だな、名前を教えろ」

 「⋯⋯ベル・クラネル」

 

 淡々とそう告げると少年は正面になおり、彼らの前から姿を消した。

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