ベル君の身長が203cmなのは間違っているだろうか? 作:長身キャラ大好き
ギルドへの冒険者の流入は時間帯によって大きく増減する。昼と夕方の中間に位置するこの時刻はその一つだ。
多くの冒険者が
そんな調子なので、たった今正面玄関をくぐった大柄のシルエットに受付を務めていたエイナ・チュールは目をぱちくりと、耳をぴくっと反応させた。
「あれっ、ベル君?こんな時間にどうしたの、普段は夕方までダンジョンにいるのに」
「少し訳がありまして、早めに切り上げてきました」
彼と出会って一週間程度になるエイナは普段よりも声色が落ち込んでいると鋭敏に勘付き、
「何があったの?」
「実は──」
●
「五階層でミノタウロスに襲われたあっ!?」
「ええ、そうなんです。途中までは問題無く戦えていたのですが、まさか剣が折れてしまうとは⋯⋯」
「剣が折れてしまうとは⋯⋯じゃなくて!そもそもなんでいきなり五階層に行ってるのって話!君はまだ冒険者になって半月も経ってない駆け出しなんだから、二階層とかで少しずつ強くなっていかないと駄目なんだよ!?」
「お言葉ですが、変わり映えのない経験を積み重ねても強くはなれないかと」
「うぐ⋯⋯君って子は⋯⋯」
ギルド内に幾つも設けられている相談用の個室、その一角でエイナが呻き声を上げて項垂れる。
テーブルを挟んで彼女の向かい側に座るベルは、歳上女性のそんな姿を見ても
ハーフエルフというだけあって恵まれた容姿を持っていると自負しているエイナは、そんな自分を前にしても厳然として構える彼を見て、やはり一筋縄ではいかない事を理解。居住まいを正した。
「⋯⋯はあっ。それで、君が此処に居るって事は誰かに助けて貰ったんだよね?」
「はい、アイズ・ヴァレンシュタインさんに」
「ゔぁ、ヴァレンシュタイン氏に!?確かロキ・ファミリアは遠征に行ってた筈だけど、その帰りに偶然って事かな⋯⋯」
「事情は良く分かりませんが、きっとそうかと」
「⋯⋯ヴァレンシュタイン氏が居なかったら今頃どうなってたか分かってる?君が生きてるのは本当に幸運なんだよ、もう少しそれを理解して欲しいな」
「自分なりに理解はしているつもりですが。いえ、それよりもアイズ・ヴァレンシュタインさんの事について教えて頂けませんか」
「え゛っ?」
「冒険者としての情報、それと特定の異性と付き合っているのかどうか。周知されている程度の事で構いませんので」
「はあ~っ⋯⋯」
実直過ぎる言動にエイナは深く項垂れた。
『そんな事を気にするくらいならこっちの感情を汲んでくれ』と嘆きたかったが、理性のある大人としてそれは
アイズ・ヴァレンシュタイン、ロキファミリアに所属する冒険者でLvは5、可憐な外見でありながらオラリオ随一とまで噂される剣の腕前を持つ事から、"剣姫"の異名で呼ばれる。特定の異性について聞いた事はないが、けれど。
エイナは悪戯心から密かに口端を上げ、続きを告げる。
「──けど、現実的に考えて厳しいと思うよ。ヴァレンシュタイン氏ともなれば男性からの人気は絶えないだろうし、根本的に他のファミリアの人と関係をもつのはタブーだからね。悪いこと言わないから、諦めた方が良いんじゃないかな」
眼鏡のレンズが窓から差し込む光を反射し、エイナをどことなく不敵な雰囲気にする。そんな舞台演出が無くともベルにとっては辛辣な言葉の連続だったが、本人は豪胆にも「ふっ」と一笑に付して。
「その程度で大人しく引き下がるようであれば、冒険者などやっていませんよ」
「うぅ⋯⋯」
頭が重くなるような言葉を前に、エイナは額に手を当てて目を背ける。
(彼の場合は見た目が良いから余計にタチが悪いんだよね⋯⋯)
現にエイナが他の冒険者と比べて彼に強く出られないのも、たった今ふと目を逸らしたのもそれが原因だった。
圧倒的な体躯に見合った豪傑っぷりを、恵まれた外見が根拠のない説得力を伴って後押ししてくるという不健全さである。
謹厳実直な仕事柄をモットーにする自分ですらこうなるのだから、もしもベルの担当アドバイザーが別の職員だったら──と、エイナは妙な想像を膨らませていた。
「ともかく教えて頂いて有難うございます、エイナさん」
「⋯⋯ベル君、君の恋路を邪魔する訳じゃないけど、やるべき事を
「ええ、分かっていますよ」
言いつつ、ベルは椅子から立ち上がって壁に立てかけていた鞘入りの大剣を背負う。
(こっちの話はまだ終わりじゃないんだけど、彼は聞いてくれないだろうしなあ⋯⋯)
ドアノブに手をかけるベルの後ろ姿を見て、エイナは密かに溜息を
"冒険者は冒険しちゃいけない"、担当した冒険者には必ず一度は言っているこの台詞を再び彼には突き付けたかったが、どうせ初めて言った時のように言い返されてしまうのだろう。"冒険しなければ強くはなれない"と。
このように豪語して制止できない人間は度々現れるが、その殆どは無謀へと身を投じて帰らぬ人となってきた。彼も
ガチャ──出ていく瞬間、彼は徐ろに振り返り、肩を落とすエイナに向かって言い放つ。
「大丈夫ですよ、貴女を悲しませるような事はしませんから」
「⋯⋯へっ!?」
素っ頓狂な声を上げる相手にベルは微笑すると、身を屈めて窮屈そうにドアを
その後エイナが机に突っ伏しながら上げた悶絶声は、防音性に優れた構造によって誰の耳にも入る事はなかった。
──魔石の換金によってベルが獲得した金額、二千ヴァリス。
●
オラリオ西部、メインストリートから少し外れた廃墟街の一角に佇む、殆ど朽ち果てている廃教会。そこに設けられている地下室へと続く階段を、その少年はぐっと身を屈めながら降りていく。
階段を下り終えた先は魔石灯によって暖かく照らされており、限られた空間の中に家具が所狭しと並べられているのが見える。ジメジメとしたカビ臭さと生活臭が同居した空気が近付くが、少年は嫌な顔一つせずにその先へと飛び込んだ。
「ただいま戻りました、神様」
「──っ!」
部屋の主である少女は咄嗟にそれまで読んでいた本を脇へ置くと、足の指で床をぐっと噛み、両手を広げて跳躍した。
「おっかえりーっ、ベル君!」
「──っ、と」
殆どタックルのような熱烈な出迎えだったが、ベルはその強靭な体幹をもって悠々と正面から受け止めてみせる。その二人の間に存在する歴然とした体躯の差から、
これこそがベルが所属するヘスティア・ファミリアの日常風景の一つだった。
●
「──普段よりも帰りが早いと思ったら、そういう事だったのか」
「ええ」
半裸の状態でベッドにうつ伏せになりながら、そんな自分へ馬乗りになって背中に指を這わせてくる少女──ヘスティアに、ベルは本日二度目の説明をする。
「強くなる為にいきなり二階層から五階層まで行くなんて、君はつくづく無鉄砲だよなあ。恐怖心とかないのかい?」
「勿論ありますが、恐怖を乗り越えてこそ男かと」
「それも君のお爺ちゃんの受け売りかい?」
「はい」
「だと思ったよ」
ヘスティアの脳裏に、初めての眷属としてベルを迎え入れた日の会話が過ぎる。
『因みに、君はどうして冒険者になろうと思ったんだい?』
『男に生まれたからには地上最強の英雄を目指せ、と子供の頃から言われてきましたので』
『はっ、へっ?地上最強っ?誰がそんな事を?』
『育ての親──祖父ですが』
『それでオラリオまで?』
『ええ』
一切の躊躇いもなく言ってのけるベルを見て、ヘスティアはそれ以上の言及を止めた。
彼にとって祖父の言葉は並大抵の物ではない、ベル・クラネルという人格を形成するうえで
(まあ、あの時はここまで徹底的な思考だとは思いもしなかったけど。子供の頃に聞いた言葉一つでこうなるなんて、ベル君って根はとんでもなく純粋だよなあ⋯⋯。育ての親とやらも大した事を吹き込んでくれたものだよ)
まあ、悪人になるよりは余程マシだけど──と、そこでようやく彼女の指の動きが止まった。すると人一倍大きな背中に刻まれた
「⋯⋯ん?」
「何か気になる事でも?」
「ああいや、いつになく【力】が伸びていたから少し驚いてしまってね。──ほら」
ベルがヘスティアから受け取った用紙には、【ステイタス】の内容が記載されていた。
ベル・クラネル
Lv.1
力:H 172→G 204
耐久:H 147→H 156
器用:I 93→I 96
敏捷:I 90→ I 98
魔力:I 0
《魔法》
【】
《スキル》
【】
「全部で
「ミノタウロスとやり合ったお陰で上質な
「やはり、格上と戦う事がステイタスを伸ばす上では重要だと」
「そうだけど、今度同じような事が起きたら流石に逃げてくれよ?君に死なれたら僕もショックだ」
「⋯⋯分かりました。ところでスキルの部分が掠れていますが、これは?」
「あぁ、ちょっと手元が狂ったんだ。いつも通り空欄だよ」
「そう、ですか」
(こんなスキル、教えられる訳がないだろう)
【
・早熟する。
・
・
・【力】には特に強い成長補正がかかるぞ!
(こんな変なスキル)教えられる訳がないだろう
『パワーフレーズ』からもじって『リアリス・パワーフレーゼ』なんてのも思い付きましたが、漢字表記が思い付かなかったので没にしました。